軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1290話 ビースリーの報酬

入浴と洗濯を済ませたライト。次は食事を摂ることにした。

食事といっても、この異空間では空腹感が全く起きないので、ガッツリ食事ではなくおやつタイムにすることにした。

疲れた時には甘い物!糖分補給でモチベーションを上げよう!という作戦?である。

ライトはアイテムリュックを開き、敷物も敷かずにそのまま各種スイーツを取り出す。

ここは透明の見えない地面しかないので、普通の土の地面のように直接座って汚れることなどないのだ。

アップルパイにシュークリーム、カスタードプリンに生クリームたっぷりのパンケーキ。飲み物はぬるぬるドリンク薄黄と紫を各一杯づつ。

飲み物以外は、どれもラウル特製の逸品スイーツである。

「ンーーー、やっぱラウルの作るおやつは最高に美味しーい!」

「あー……戦いで疲れた身体と脳に、甘い物が効くわぁー……」

左手でほっぺたを押さえながら、目を閉じ至福の表情で甘味に舌鼓を打つライト。

しばらくは嬉しそうにパクパクと食べていたのだが。何故かライトの顔が次第に曇っていく。

「ラウル……きっとラウルもすごく心配してるだろうな……」

「ううん、ラウルだけじゃなくてマキシ君やラーデも……俺の身を案じて心配してくれてるよな……」

「向こうに帰ったら、レオ兄やラウル達にすんげー怒られるだろうけど……早くカタポレンの森に帰りたいな……」

しょんぼりと目線を落としながら、もくもくとスイーツを食べ続けるライト。

今食べているスイーツ類は、全てラウルの手作りの品。

いつも食べ慣れている味だからこそ、ライトの脳裏にラウルの笑顔が浮かんでしまったのだ。

ラウル特製の美味しいおやつを食べながら、ちょっとだけホームシックになるライト。

だが、ここで落ち込んでいても何にもならない。この落ち込みを、サイサクス世界への帰還の原動力に変えるべく意識を切り替える。

「……ラウルの新しいスイーツを食べるためにも、絶対にここから生きて帰るんだ!」

「大丈夫、イベントはいつかは必ず終わるもの。このビースリーだって、二週間耐えればきっと出口が見つかる、はず」

「それまで頑張れるんだ、俺!気を確かに持って、皆のところに帰るんだ!」

しょんぼりとしていたライトの顔に、再び活気が戻っていく。

皆のもとに帰るという希望を胸に、闘志を燃やすライトだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

至福のスイーツタイムを終えて、皿やバスケットなどをアイテムリュックに仕舞い片付けるライト。

さて、次は何をしよう……と考え、ふととあることを思い出す。

「……あ、そうだ!さっき貰ったビースリーの報酬をチェックしないと!」

ライトが思い出したのは、ビースリーの一回目の戦闘にてコヨルシャウキを倒した時に出てきた報酬の宝箱のこと。

このサイサクス世界に生まれついてから初めての、BCOのバトル系イベントの報酬である。

ライトは早速マイページを開き、アイテム欄に仕舞い込んでいた報酬を取り出した。

一見するとそれは宝箱のような見た目をしていて、弥が上にも中身に対する期待が高まる。

高ぶる気持ちを落ち着かせるべく、ライトはすぅー、はぁー……と深呼吸を数回繰り返す。

するとその時、それまで空間に潜んでいて姿を消していたコヨルシャウキが、どこからともなく現れた。

『ヒカルよ、ようやく報酬を開けるのか?』

「はい!休憩の間に中身を見ておこうと思いまして!」

『そうかそうか。せっかくだから此方もその報酬を見てみたい。というか、こんな大事な開封の儀に、何故に此方を呼ばぬのだ』

「あ、すみません、そこまで気が回りませんでした」

『全く……気の効かぬ 男子(おのこ) はモテぬぞ?』

「ハイ、以後気をつけます……」

報酬チェックの同席を求めるコヨルシャウキに、ライトが快諾する。

そして報酬開封に際し、自分を呼ばなかったことに文句をつけるコヨルシャウキ。

言われてみれば、コヨルシャウキも自分が主催?するイベントの報酬は気になるだろうな、とライトも思う。

そうしたところで気の効かないライトに、コヨルシャウキは明らかにむくれている。

ビースリーボスのコヨルシャウキに『モテる男の条件』を指南され、反論の余地もないライトはがっくりと項垂れる。

そんなライトに、コヨルシャウキがワクテカ声で催促をする。

『さあ、ヒカルよ、早よう報酬を開けてみせよ』

「あ、はい!」

ライトは目の前にある宝箱に手を伸ばし、そっと蓋を開けた。

そして中から出てきた物は―――

「………………」

『ぬ? その丸いものは一体何ぞ?』

ライトが箱の中から取り出したのは、丸いヘルメット。

ビースリーイベント『昏き星海からの来訪者』でのみ得られる限定ファッション、スペーススーツシリーズの一つであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「『………………』」

長い長い沈黙が、宇宙を模した異空間の中に静かに横たわる。

しかし、ライトの耳には『チーーーン☆』という美しくも虚無に満ちたおりんの音色が鳴り響いた、ような気がする。

一方で、ライトの後ろで正座をしながらワクテカ顔で『報酬宝箱・開封の儀』を見守っていたコヨルシャウキ。

そわそわとした声でライトに尋ねる。

『ヒカルよ、此方にはその丸いものが一体何なのか、さっぱり分からぬのだが……それは良い物なのか?』

「……ぁー、えーとですね……これはBCOでは装備品ではなくてアバター、見た目だけを変える『ファッションアイテム』というものです」

『ほう、装備品ではないのか』

「はい。これはヘッド、頭用のファッションパーツなので、こんな感じになります」

ライトは報酬の宝箱から出てきた『スペーススーツ・ヘッド』を自分の頭にカポッ☆と被ってコヨルシャウキに見せた。

「『………………』」

巨大なまん丸の宇宙服ヘルメット。これを単体で被るのは、何ともアンバランスで不格好だ。

ぬーん……と唸りながら眺めていたコヨルシャウキも、それを指摘した。

『頭一つだけでは、何とも物足りぬのう。他にもそれに合わせた専用の服があるのだろう?』

「はい。頭以外だと、上半身の『ボディ』、下半身の『ボトム』、腕の『アーム』、靴の『シューズ』があるはずです」

『では、それらはこれから行う此方との対戦で入手できるのだな!』

「はい。でも……ファッションパーツって、今ここで報酬としてもらっても、正直困るんですよねぇ……」

『何!? 何故そのような酷いことを言うのだ!?』

せっかくの報酬をハズレ扱いされたコヨルシャウキ、ガビーン!顔になっている。

このファッションアイテムは、先程もライトが言っていたように、装備品ではない。ゲームのキャラクターのアバター、見た目だけを変更するアイテムだ。

実際の武具を装備するのとは別にファッションアイテムを装備できるページがあって、ユーザーはイベントや課金などで入手したファッションアイテムを自分のキャラクターに着せることができる。

BCOは基本的にRPGゲームだが、こうした着せ替え要素も取り入れることでファッション好きにもウケるゲーム作りをしていたのだ。

もちろんライト自身も、ファッション要素はあってもいいと思うし、実際に前世のBCOではそこそこ楽しんでいた。

だがしかし、今この場において本当にファッションアイテムが欲しいか?と問われれば、絶対に『否!』である。

何故ならこれは、装備品ではない。

そして、装備品ではないので、HPやMP増加、あるいは攻撃力アップや敏捷性アップなどのステータス補正も一切つかないのだ。

本当に強い武器防具なら、それを装備するライトのステータスも上がるので大歓迎だが、見た目だけ変えるコスプレアイテムをもらったところでどうにもならないのである。

実際ライトもコヨルシャウキに見せるために『スペーススーツ・ヘッド』を被ってみせたが、重量は殆どなく紙切れ一枚よりも軽い。ぶっちゃけホログラムのようなもので、実体はほぼ無いに等しい。

故にヘルメットのような防御力も全くなく、紙装甲にすらならない。

ファッションアイテムは、戦闘において無用の長物であった。

それらをコヨルシャウキに語って聞かせるライト。

一方のコヨルシャウキは、せっかくの報酬がハズレ扱いされて心底がっかりしているようだ。

『うぬぅ……此方が催すビースリーで、そのような役立たずな報酬が出るとは……慚愧に耐えぬ……』

あまりにもしょんぼりとしているコヨルシャウキ。

戦闘に役立つアイテムではないと知れば、その落ち込みようも当然である。

ズーーーン……と思いっきり落ち込む様子に、ライトが慌ててフォローに回る。

「あッ……で、でも!このファッション、ぼくは個人的には好きですよ!? 見た目が個性的で、とても面白いし!」

『しかし……戦闘においては、みてくれこそどうでもよいこと。そんなものを変えたとて、其方自身が強くなる訳ではないのであろう?』

「そ、それはそうなんですが……ていうか、そもそもこのサイサクス世界に宇宙ロケットなんてないですし……宇宙服なんて言っても、ぼく以外の誰も分かんないでしょうけど……」

『………………』

フォローに回ったはずのライトの、追い討ちにも等しい事実『サイサクス世界の人間は宇宙服なんて理解できない』という言葉に、今度はコヨルシャウキの耳に『チーーーン☆』という美しくも虚無に満ちたおりんの音色が鳴り響いた、ような気がする。

100メートルを超す巨体が、正座をしたまま身体をくの字に曲げてがっくりと項垂れている。

その姿があまりにも哀れになってきたライト。

あの死闘の末に掴んだ報酬がハズレで、一番泣きたいのはライトの方なのだが。

その無念を振り払うように、ブンブン!と頭を横に振る。

「コヨルシャウキさん!そんなにがっかりしないでください!次こそは、もっといいアイテムを引き当ててみせます!」

『……もしかしたら、次もその役立たずなファッションアイテムとやらかもしれんぞ?』

「それならそれで大歓迎です!ファッションアイテムは全部を揃えてこそですから!」

『………………』

「それに、ほら!報酬ならファッション以外にも、いろんなアイテムがあるはずなので!」

『………………』

コヨルシャウキを励まそうと懸命に言い募るライト。

先程まで敵同士として、血みどろの壮絶な死闘を繰り広げていたのに、何とも不思議な光景である。

それはコヨルシャウキも感じたようで、自分の膝の前で両手を広げながら力説するライトを見ているうちに、何とも言えない不思議な笑いが込み上げてきた。

『フフフ……世界唯一の勇者候補生は、実に雄弁だの』

「え!? そ、そんなことは……」

『まぁよい。報酬も良いものが出ればそれに越したことはないが、それ以上に大事なのは戦闘経験を積むことにある。此方も勇者候補生の糧となるべく、さらなる精進をせねばな』

「え!? そそそそんな、そこまで張り切らなくてもいいんですよ!?」

コヨルシャウキの精進宣言に、ライトは驚愕しつつ大慌てで止めようとする。

だが、時既にお寿司。ライトのコヨルシャウキへの励ましは、彼女の中でビースリーへの尽力というとんでもない方向に向かって効果を発揮してしまっていた。

『思慮深き勇者候補生よ、遠慮は要らぬ。此方の使命は勇者候補生を鍛え上げること。創造神から与えられし使命を全うすべく、此方は今まで以上に全力を尽くすと誓おう』

「ぃゃ、だから、あの、そこは適度にというか、何卒お手柔らかにですね……」

『ああ、此方は今から次の戦いが楽しみでならぬ。これ程心躍る戦いは、此方にとっても初めてやもしれぬ』

「……ぅぅぅぅ……」

藪を突ついて蛇を出してしまったライト、ハズレ報酬と知った時以上にがっくりと項垂れる。

コヨルシャウキのビースリーへの燃え盛る意欲。

それは、勇者候補生の育成という使命だけでなく『ヒカルを立派な勇者に育てたい』『ヒカルの経験値となって役に立ちたい』という思いに変わっていった。

『ヒカルよ、約束の時間まであとどれくらいだ?』

「ぁー、えーとですねぇ……今六時半少し前だから、あと五時間後ですかね……」

『ならばそれまで、しばし眠りにつくがよい。其方が万全の状態で戦いたいからな』

「分かりました、そうします……」

心なしかウキウキ声のコヨルシャウキに反して、ライトはズンドコ落ち込んでいる。

先程の初回のボスバトルだって、散々散々苦労したというのに。それ以上コヨルシャウキに張り切ってこられたら、ライトにとってはさらなる地獄が待ち構えているようにしか思えない。

しかし、ライトは決してサイサクス世界への帰還を諦めない。

コヨルシャウキに促されるままに、ライトはアイテムリュックから寝袋を取り出した。

寝袋のジッパーを開けて、もそもそと中に入り込むライト。

頭の横、右側に懐中時計を置いていつでも時間確認ができるようにしておく。

「じゃ、ぼくは少し寝ます。もし時間になっても起きなかったら、起こしてくださいねー」

『相分かった。しっかりと寝て休息を取るのだぞ』

「おやすみなさーい」

『おやすみ。良い夢を』

おやすみの挨拶を交わした直後、ライトはすぅ……すぅ……という寝息を立て始めた。

この異空間は寝食不要な世界と言えど、布団に潜って横になれば眠たくもなるというもの。

ましてやあれ程の死闘をやっとの思いで潜り抜けたのだ、身体も心も疲れきっていて当然である。

見た目に似つかわしくない猛者の、見た目に相応しいあどけない寝顔。

コヨルシャウキはライトの寝顔を見届けた後、満足そうにどこかに消えていった。