軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1289話 束の間の平穏

ライトとコヨルシャウキの労使交渉?がまとまり、ようやく念願の長時間休憩を得たライト。

早速鼻歌交じりで着替え始める。

血塗れのマントや上着、ズボンなどは一旦横に置いておいて、ライトはまずアイテムリュックから巨大な桶を取り出す。

これは、ライトがいつもシルバースライムの入浴のために使っている木製の桶である。

そして水魔法で温かい水を生み出して、桶にたっぷりと湯を張る。簡易風呂の出来上がりだ。

他にもバスタオルや着替えを一通り先に出して、桶から少し離れたところに置いておく。

入浴の準備ができたところで、ライトはそれまで着ていた下着類を脱いで「キャッホーイ!」と叫びながら湯に飛び込んだ。

ザバーン!という豪快な音を立てながら、巨大桶の周囲に水飛沫が飛び散る。

この巨大桶は結構深さがあって、桶の中に座ったライトの胸元あたりまでお湯がある。

肩まで浸かろうと思ったら、半分寝そべるようにして湯に入らなければならないが、そこまでしなくても半身浴で十分である。

桶の中のお湯を両手で掬い、顔をちゃぷちゃぷと洗う。

それから腕や首、肩などもお湯とともに手で撫でていると、あっという間に桶の湯が赤黒く汚れていく。

自分の血やコヨルシャウキの返り血を散々浴びてドロドロなので、お湯がすぐに汚れてしまうのも当然である。

泥水の如き汚れっぷりに、ライトはため息をつきながら呟く。

「はぁー、一回遠心分離するか……ぃゃ、その前に頭も洗っておこうっと」

ライトはそう呟くと、お湯の中に頭を浸してジャバジャバと大雑把に濯ぎ、髪に付着した汚れを湯に落としていく。

ライトの頭や髪の毛にもコヨルシャウキの大量の返り血がついているので、お湯の汚れの度合いはますます酷くなっていった。

ザッと頭を洗った後、ライトは一旦桶の外に出てマイページを開き、【遠心分離】を発動させて桶の中のドロンドロンのお湯を全て分離にかけた。

普段ならさっさと汚れたお湯を捨てて、新しいお湯に張り替えるところなのだが。

ここはいつもいたサイサクス世界とは違う、ビースリー開催のための異空間。景色も宇宙空間と透明な見えない地面しかない世界で、そこら辺に適当にお湯を捨てる訳にはいかないのだ。

故に『お湯の汚れ成分だけを取り除いて、再び綺麗なお湯に戻してから浸かり直す!』という訳である。

ライトの持つ生産職スキル【遠心分離】によって、これまたあっという間にお湯の水分と汚れ成分がきっちり綺麗に分けられた。

ひとまずお湯を桶の中に戻し、ライトは再びお湯に浸かりながら今度は汚れ成分を【遠心分離】にかけていく。

ここでライトは『コヨルシャウキの血』と『それ以外の成分』を分離させたようだ。

コヨルシャウキの血はハイポーションの空瓶に吸い取り、その他の汚れは特に利用価値はなさそうなので後で捨てるために別の空瓶に吸い取っておく。

やるべきことを一通り済ませ、今度こそのんびりと湯に浸かるライト。

ふぅー……と一息つくと、それまでライトの作業をずっと黙って見ていたコヨルシャウキが話しかけてきた。

『何やらちょこまかと面妖なことをしておるのう……其方は一体、何をしておるのだ?』

「えーとですね、これは風呂といって、汚れた身体を綺麗にして清潔さを保つための行動ですね」

『身体の汚れをわざわざ水に浸けて落とさねばならんのか? そんなもん、雨が降った時にでも雨水とともに流せばよかろうに』

風呂に入るという習慣のないコヨルシャウキには、ライトの様々な行為が不思議に思えてならないようだ。

「えー、それだと雨が降るまで汚いまま待たなくちゃなんないじゃないですか。その間ずっと汚いままだと気持ち悪いし、衛生的にも良くないんですよ? 傷口からばい菌が入ったら、それだけでもっと体調悪くなっちゃうし」

『人の子というのは、ほんに脆弱な生き物よのぅ』

「そりゃ仕方ないですよ。ぼく達人間は、神様でもなければ精霊でもないし」

再び湯の中でちゃぷちゃぷと身体を撫でながら、コヨルシャウキと話を続けるライト。

先程お湯を綺麗にしたばかりなのに、もうお湯がほんのりと汚れてきている。

一回二回湯に浸かったくらいでは、到底落としきれない汚れ。

ライトがこれまでしてきた戦いが、如何に血塗られた凄惨なものであるかを物語っていた。

湯に浸かって綺麗さっぱり、身体の疲れもある程度解れたところでライトは風呂から上がり、巨大桶とともに先に出しておいたバスタオルで身体や頭を拭い、私服に着替える。

その後ライトは、着替える前のドロドロの上着やズボンなどを入れて洗濯を始めた。

ライトはまだ浄化魔法を習得していないので、洗濯は自分の手でやらなけらばならないのだ。

「ぁー、こんなことならレオ兄に頼んで、さっさと浄化魔法も習得させてもらっておくべきだったなぁ……」

『何じゃ、その服もいちいち水で洗うのか?』

「そりゃそうですよ。こんなに汚れたままじゃ着れませんもん」

『そんなもん、浄化魔法を使えば良かろうに』

「ぼくはまだ浄化魔法を習得してないんですよ」

『浄化魔法は戦士ならば必須のものなのに、か?』

「だってぼく、まだ冒険者にもなれない子供ですもん」

巨大桶の中で、ジャブジャブと上着やズボンを揉み洗いするライト。

そんなライトを、コヨルシャウキは入浴時同様に不思議そうな顔で眺めている。

コヨルシャウキは神でありイベントボス。人族が生きていくための営みなど無縁なので、ライトの行動の逐一が物珍しくて仕方がないのだ。

するとここで、ライトがはたとした顔でコヨルシャウキに問うた。

「てゆか、コヨルシャウキさん、浄化魔法が使えるんですか?」

『当然。此方は銀河を司る女神、身だしなみには誰よりも気を遣うておる』

「………………」

エッヘン☆とばかりに身だしなみチェックの完璧さ?を誇るコヨルシャウキに、ライトが一瞬だけスーン……とした顔になる。

ビースリー終盤であれだけ血みどろのズタボロになっておいて、どの口が身だしなみ云々言うてんの?というライトの疑問は尤もなものである。

しかし、そこは紳士なライトのこと、決して口には出さない。

むしろライトは『コヨルシャウキは女神、つまりは女性。女性なら身だしなみやお洒落に気を配るのも当然だよね!』とすぐに思い直した。

そしてライトの頭の上にピコーン☆と電球が光る。

「コヨルシャウキさん!そしたら一つお願いがあるんですけど!」

『ン? 何ぞ?』

「コヨルシャウキさんの浄化魔法で、このマントと肘当てを綺麗にしてほしいんです!」

『???』

ライトの願いに、コヨルシャウキが小首を傾げている。

そんなコヨルシャウキに、ライトが後で押し洗いだけでもしておこうと思っていたマントと肘当てを手に持ち、高々と掲げて現物を見せた。

「これです!ぼくがビースリーで戦っていた時に着用していた装備品です!」

『……何故それを、此方が綺麗にしてやらねばならんのだ?』

「お願いします!これ、ぼくにとってとても大事なものなんです!」

『ほう、どういう理由で大事なのだ?』

懸命に訴えるライトに、コヨルシャウキが興味を示した。

今は休憩時間ということで、ライトもコヨルシャウキも普通に会話しているが。本来はビースリーというイベントで敵対する者同士であり、本気で殺し合う間柄だ。

そんな敵に向かって、懇願してでも綺麗な状態に直したい物とは一体何だろう?という興味が、コヨルシャウキの中に湧いたのだ。

「これは、レオ兄ちゃんがぼくにプレゼントしてくれたものなんです。付与魔法もたくさんつけてくれて、性能もすっごく良くて、ぼくがビースリーで戦うには絶対に必要な装備なんです。でも……こんなに汚れてボロボロになっちゃって……」

『………………』

しょんぼりとしながら説明するライトに、コヨルシャウキはしばし無言でライトを見つめている。

『その、プレゼントというのは何だ?』

「えーと、プレゼントというのは『贈り物』という意味です。例えるなら……そうですね、コヨルシャウキさんが着ているその黒いマントと同じようなものですかね?」

『此方のマントと同じ……』

プレゼントというものが何たるか、その概念が分からないコヨルシャウキが素直にライトに問い、ようやくその意味を知る。

コヨルシャウキが着ているマントは、BCOのグラフィック担当の絵師が描いたものだ。

ライトはそれを知っているが、コヨルシャウキにとってはちょっと意味合いが違う。

コヨルシャウキは、自身が創造神の被造物であることを知っている。つまり、自分が身につけているものも全て創造神から賜ったものである、という意識が彼女の中にあるのだ。

『此方のこのマントは、創造神から下賜された二つとない品。まさしく此方にとって掛け替えのないものじゃ。其方のマントや肘当ても、それに匹敵するくらい大事なものだというのか?』

「そうです。レオ兄ちゃんが、将来冒険者になるというぼくの夢を応援するために、用意してくれたんです」

『…………ならば、浄化してやらぬ訳にはいくまい』

「ッ!!!ありがとうございます!」

ライトのマントや肘当てを浄化することを了承したコヨルシャウキ。

その言葉を聞いたライトが、ガバッ!と頭を下げてコヨルシャウキに礼を言った。

『何、礼は要らぬ。其方が万全の状態でビースリーに挑むために必要な装備品なのだろう? ならば此方にとっても直しておく価値がある、と判断したまでのことだからな』

「それでも!ぼくにとってはすっごくありがたいし、とっても嬉しいです!本当に本当にありがとうございます!」

『……そう思うなら、次の此方との対戦も頑張るがよい。なるべく『戦闘不能状態』とやらにならぬよう、よくよく励め』

「はい!!」

プイッ!とそっぽを向きつつ、ゴニョゴニョと言い訳めいたことを呟くコヨルシャウキ。

銀河の女神様は、どうやら照れ隠しが苦手なようだ。

コヨルシャウキがしゃがみ込み、右手人差し指をライトのマントと肘当てに向けて浄化魔法をかけた。

ライトが両手に持っていたマントと肘当てがふわり、と宙に浮き、キラキラとした光る粒子に包まれたかと思うと、あっという間に赤黒い汚れが消えて本来の色合いに戻った。

ライトの目の前で起こった奇跡に、ライトの目は光る粒子にも負けないくらいにキラキラと輝く。

「うわぁ……こんなにすぐに綺麗になるなんて、すごーい……」

『この程度の浄化魔法など、ちょちょいのちょいー、ぞ』

「ありがとうございます!これでまたぼくも頑張れます!」

『その意気ぞ』

思った以上に大喜びしているライトのはしゃぎっぷりに、コヨルシャウキも黄色い瞳を細めながら眺めていた。