軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1285話 謎めいた二人の美女

モノクロの砂嵐のような画面から現れた、殷紅色のローブを着た若い女性と淡緑色の神官服を着たエルフ風の女性。

どちらも美女と言って差し支えない、非常に整った顔立ちをしている。

その二人の女性がレオニスの方を向き、無言でじっと見ていた。

エルフ風の女性はともかく、殷紅色のローブの若い女性の方からとんでもない魔力と得体の知れない悍ましさが漂ってくるのを、レオニスは敏感に察知していた。

それは、白銀の君の威圧やコヨルシャウキの圧とも異なる、底知れぬ恐怖。

見た目は小柄な若い女性なのに、その強大なオーラはあのコヨルシャウキですら赤子か幼児に思える程の強烈さだ。

圧倒的な存在感を醸し出す謎の女性が、レオニスを冷ややかな目で見つつ徐に口を開いた。

「…………君、誰? 埒内の者はここでは動けないはずだけど」

レオニスに向けて怪訝な顔で不機嫌そうに呟くのは、鮮緑と紅緋の渾沌魔女ヴァレリア。

そしてヴァレリアの真向かいにいる淡緑色の出で立ちのエルフ風女性は、転職神殿専属巫女のミーア。

レオニスのことを訝しがるヴァレリアに、ミーアがこっそりと耳打ちする。

『ヴァレリアさん……おそらくはこの方、ライトさんの保護者かと思われます』

「え、そなの?」

『はい……あの見目鮮やかな紅い出で立ちは、ライトさんから度々お聞きしていた『レオ兄ちゃん』なる人の特徴と一致しています』

「あー、そゆこと……ライト君の最も身近な人だから、ここのことも視えるようになっちゃったのか」

ミーアの助言に、ヴァレリアが渋い顔をしながらも納得している。

そして、この二人の会話は本当に極小のヒソヒソ声で話していたのだが。こういう場面でのレオニスの聴力を侮ってはいけない。

二人のヒソヒソ会話を全て聞き取ったレオニス、ヴァレリアの怪訝そうな顔に負けないくらいの険しい顔で二人を問い質す。

「あんたら……うちのライトのことをよく知っているようだが、一体どういう知り合いだ?」

「ゲッ、この距離であの話し声が聞こえるとか、マジ?」

『ライトさんによると、保護者の方はサイサクス大陸一の最強冒険者だそうですので……それくらいのことは、当然のようにできてもおかしくはありませんね』

「そっかー……まぁね、あのライト君の保護者ならさもありなん、だね……」

レオニスの地獄耳の凄まじさに、あのヴァレリアでさえもドン引きしている。

そんな二人の女性の様子に、レオニスは苛立ちを隠さない。

「つーか、あんたら、どうしてうちのライトのことを知っている? ……いや、それよりあんたら、さっきコヨルシャウキの名を口にしていたな。勇者候補生とか言ってる声も聞こえたぞ。あんたらは……一体何を、どこまで知っている?」

「『…………』」

レオニスの詰問に、ヴァレリアとミーアが黙り込む。

ミーアは転職神殿専属巫女なので、転職神殿や職業システム以外のことで何かを成すということはほとんどない。

故にこの場での発言権や主導権は必然的にヴァレリアにあり、ヴァレリアが三歩ほど前に進み出てレオニスの方に近寄った。

「私達がそれを答える前に、君の方こそ現時点で何をどこまで知っているか、是非ともお聞かせ願いたいもんだね。それによって、君に対して話せる範囲が変わってくる。君は勇者候補生というものについて、何を、どこまで知っている?」

「……勇者候補生なんてもんがこの世にいるってのは、今から二週間前……ラグナロッツァに現れたコヨルシャウキからの要求で、初めて知った。その勇者候補生というのが、まさかライトのことだったというのを知ったのは……つい四日前のことだ。それ以外のことは、何一つ知らない」

ヴァレリアからの問いに、レオニスはしばし考えた後正直に答える。

ここで下手に嘘をついたり黙秘すると、レオニスが本当に欲しい情報が得られないだろう、と判断したためだ。

レオニスの回答に、ヴァレリアが満足そうに口を開いた。

「ふむ……とりあえず嘘は言ってなさそうだね」

「当然だ。俺だって正直に答えたんだから、あんたらにも本当のことを話してもらうぞ?」

「もちろん。と言っても、話せる範囲内までだけどね。……さて、何をどこからどう話したもんか……」

レオニスが知らないこの世界の事実は、それこそ山のようにある。

なので、ヴァレリアは何をどこからどう話していくかを考え 倦(あぐ) ねているようだ。

そんなヴァレリアに対し、今度はレオニスの方から口を開いた。

「まず、あんたらは一体何者だ? あんたらは俺のことをライトから聞いて知っているようだが、俺はあんたらとは初対面で全く知らんというのは不公平だろう。軽く自己紹介でもしてくれると助かるんだがな?」

「あー、まぁねぇ、確かにそれは君の言う通りだねぇ。じゃあ私から答えよう。……あ、それより先に言っておくね。こっちの子はミーアっていうんだけど。この子は君が知りたいであろう質問に答えられる知識は、一切持ち合わせていないからね。君とのやり取りは、全て私一人が答えさせてもらうよ。いいね?」

「……それで構わん」

レオニスの言い分に納得したヴァレリアが、問答は全て自分のみで行うことを条件にしてきた。

もちろんレオニスもそれに応じ快諾する。レオニスが知りたいことを答えてくれるなら、どちらの口から語られようと全く問題ないからだ。

そしてヴァレリアは、レオニスの要求に応えて簡単な自己紹介を始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「私の名はヴァレリア。『鮮緑と紅緋の渾沌魔女』なんて大層な二つ名がついているが、まぁそんな大したもんじゃないよ。で、こっちの子はミーア。この神殿の専属巫女をしている」

「神殿の巫女……? こんな打ち捨てられた山奥の神殿に、巫女が居る必要なんてあんのか?」

「もちろんあるさ。もっとも、この神殿は勇者候補生のためだけにあるものだから、勇者候補生以外の者には無用の長物だけどね」

「…………」

ヴァレリアの二人分の軽い自己紹介に、レオニスは頭の中をフル回転させて思考する。

この神殿は、勇者候補生のためだけにある、とヴァレリアは明言した。そしてこの二人は、ライトのことを『ライト君』と呼ぶくらいには見知った仲らしい。

つまり、ここに何度も通っていたであろうライトが勇者候補生だというのは、紛れもない事実であり―――覆しようのない真実であることを意味していた。

「……ライトが本当に勇者候補生だってのは、今のあんたの話で理解した」

「ン? 今のこの短いやり取りだけで理解しちゃったの? さすがはライト君の保護者をしているだけのことはあるねぇ」

「俺のことなんざどうでもいい。その『勇者候補生』ってのは一体何なんだ。コヨルシャウキにも直接聞いてはみたんだが、さっぱり意味が分からん」

ヴァレリアの褒め言葉など全く取り合わずに、レオニスは時間を惜しむように次の質問に移る。

せっかちなレオニスに、ヴァレリアは両手を水平にして肩を竦めてみせる。

「君、結構なせっかちさんだねぇ? ま、いいけどさ。で? 勇者候補生とは何ぞや、だっけ? コヨるんは何て説明してたんだい?」

「コヨるん…………ぁー、確か『創造神が必要とし、こよなく愛し、庇護する者のことを言う』というようなことを言っていた」

「ほう、実にコヨるんらしい言い方だね。その説明で概ね正しいし、それ以上に的確で分かりやすい表現は私にはできないよ」

「…………」

ヴァレリアの飄々とした言動に、レオニスの表情は一向に固いままだ。

この短いやり取りの中でも、レオニスはいくつかのことを瞬時に悟る。

まず、コヨルシャウキのことを『コヨるん』という愛称で呼ぶということは、このヴァレリアという女性はコヨルシャウキとも旧知の仲ということだ。

そしてレオニスが問うた『勇者候補生とは何か』という問題。

コヨルシャウキの説明で分からないのならば、お前には一生分からないことだから理解するのは諦めろ―――目の前にいる魔女を名乗る女は、そうレオニスに暗に言っているのだ。

それは実質上やんわりとした回答拒否だが、レオニスがそれに怒ったり文句を言うことはない。レオニスにとっては、勇者候補生の本質など二の次だからだ。

もちろんライトのことを指しているのだから、本音のところではもっとよく知ることができるならそれに越したことはない、とはレオニスも思う。

しかし、今重要なのはそこではない。最も優先すべきことは他にある。

「……まぁいい。ライトが勇者候補生だろうかそうでなかろうが、さしたる問題はない。ライトがライトであることに、何ら変わりはないからな」

「そりゃそうだ!君は本当に理解が早くて助かるよ!」

吐き捨てるように言い放つレオニスに、ヴァレリアがケラケラと笑う。

勇者候補生とは何ぞや、という問題を語るにあたり、聞く方のレオニスはともかく語る方のヴァレリアは慎重に言葉を選ばなければならない。

埒内の者に真実を語ったところで、その本質―――このサイサクス世界が別世界でゲームという遊戯の一つとして生まれた、などという一見荒唐無稽な事実を理解できるはずもないし、逆に埒内の者に完全に理解されてしまったら、それはそれで後々面倒なことになりかねないからだ。

ヴァレリアの方も、埒内の者であるはずのレオニスにこの転職神殿が見つかるのは完全に想定外のことだった。

故に、レオニスをどのようにしてあしらい、どうやってこの場を切り抜けるかを思案していた。

だが、そうした面倒なことを回避するためにあれこれ策を弄する前に、レオニスの方からさっさと理解することを放棄してくれたのだ。

ヴァレリアにしてみたら、これ程楽なことはあるまい。ヴァレリアが高笑いするのも当然である。

一方のレオニスは、そんなヴァレリアの思惑など知ったこっちゃない、とばかりにレオニスが早々に本題に切り込む。

「俺が一番知りたいのは、どうすればライトがこっちの世界に戻ってこれるかってことだ。俺にとってはそれが最も重要なんだからな」

「ぁー、それね……うん、それは私達も同じで、さっきまでその話をしていたところなんだよね……」

先程までケラケラと笑っていたヴァレリアが、レオニスの本題を聞いた途端に真面目な顔になる。

レオニスがヴァレリア達を認識する直前、砂嵐の中で途切れ途切れに聞こえてきた会話。どうやらそれは、ヴァレリアとミーアがどうやってライトをこのサイサクス世界に帰還させるかを話し合っていたところだったようだ。

「とりあえず、今から私がコヨるんのところに出向いて、早いとこライト君を解放するよう頼んではみるつもりなんだけど……コヨるんってクッソ真面目な性格してるから、ハイソウデスカ、と私の言うことをすんなりと聞いてくれるかどうかまでは、正直なところ分かんないんだよねぇ」

「……何? あんたなら、あの異空間の向こう側に行けるってのか? 俺が直接飛び込もうとしても、絶対に入れなかったあの宇宙空間に?」

「うん、行こうと思えばいつでも行けるよー。てゆか、私の知らないところで勝手にビースリーなんて物騒なもんをおっ始めたことについても、コヨるんには文句を言っておかなきゃなんないし」

「あんた、本当に一体何者なんだ……」

ヴァレリアが立てていた計画を聞いたレオニス。

その顔はみるみるうちに驚愕に満ちていった。