軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第126話 クレアの実力

「して、アルちゃんの居る場所はどこなんです?」

「あ、ああ、普段は氷の洞窟の近辺を縄張りにしてると言っていたが」

「氷の洞窟ですか。確かにそれは、洞窟内部ではなくその周辺までと言えどライト君一人で行かせられる場所ではないですねぇ」

クレアが護衛の行き先をレオニスに問う。

その行き先が氷の洞窟だということを知ると、クレアは納得するように頷いていた。

やはり氷の洞窟というのは、並みの冒険者程度では近寄ることすら敵わない危険な場所なのだろう。

「だろう?だが、ライトもどうしても今度の土曜日までにアルに会いに行かなきゃならん用事があるし、本来なら俺がついていければいいんだが、俺の方もどうしても都合がつかなくてな。ならば、俺の代わりにクレアに同行してもらえれば安心だと思った次第だ」

「分かりました。このクレア、クー太ちゃんとアルちゃんの夢のお見合い大作戦を大成功に導くためにも!レオニスさんからいただいたライト君の護衛依頼、身命を賭して粉骨砕身務めさせていただきます!」

先程高く掲げた拳を握りしめたまま、クレアはその愛らしいラベンダーカラーの瞳をキラッキラに輝かせながら、声高らかに宣言する。

今回レオニスがクレアに依頼したのは『銀碧狼に会いたいライトを、護衛しながら氷の洞窟まで連れて行く』というのが本来の目的である。だが、クレアの中では『クー太とアルの夢のお見合い大作戦』なるものが筆頭目的になっているようだ。

そもそもの話、クー太とアルの性別すら現時点では判明していないのだが。

でもまぁ、例えその目的がライトとクレアで微妙に異なっていたとしても『ライトがアルに会う』という本来の趣旨さえ達成できれば、何も問題はない。むしろ、護衛がそこまで張り切ってくれるなら、ライトの身の安全は確約されたも同然である。

だが、護衛される当のライトには、疑問というか若干の不安があった。

「ねぇ、レオ兄ちゃん……クレアさんって、冒険者ギルド職員ではあっても、冒険者じゃないでしょう?」

「ん?ああ、そうだが、それがどうかしたか?」

「どうかしたか?って……冒険者でもないか弱い女性のクレアさんに、カタポレンの森の中にある氷の洞窟まで護衛依頼なんてしちゃって、本当に大丈夫なの?もし万が一クレアさんに怪我でもさせちゃったら、ぼく申し訳なくて居た堪れないよ……」

「「………………」」

ライトはレオニスに少しだけ呆れながらも、その真意を問う。

ライトとしては、決してクレアが女性だからというだけで舐めたり侮ったりしている訳ではない。氷の洞窟周辺までの護衛という任務の危険性を考えて、純粋にクレアの身を心配しているのだ。

それは、ライトの口調や表情から、レオニスにもクレアにもちゃんと伝わっていた。

「……なぁ、クレア。うちのライトは本当に、本ッ当ーーーに良い子だよなぁ?」

「……ええ、本当に。さすがはグランさんのレミさんのお子さんです」

「クレアの心配する必要なんざ、これっぽっちもないってのになぁ。本当に優しくて心の清らかな素晴らしい子だ」

「ええ、本当に。とてもレオニスさんに育てられた子とは思えませんよねぇ、賢くて思い遣りもあって常識も備えていて」

レオニスとクレア、二人して優しい笑みを浮かべながらライトを眺めつつ讃えるも、口から出てくる言葉は何故か互いをザクザクと刺し合っている。

だがこれも、気心の知れた者同士ならではの日頃から交わされるお戯れ的な会話であり、その根底には互いに尊敬の念を抱いているからこそできるコミュニケーションでもあるのだ。

「ライト、クレアのことなら心配は要らないぞ。このクレアはな、冒険者ギルド職員という立場故に現役冒険者の正式な資格こそ持ってはいないが、その実力は聖銀級にも劣らないと聞く」

「もしこいつがギルド職員になっていなければ、今頃は金剛級冒険者にもなれていたかも、と言われるくらいなんだぞ?」

レオニスの口から、クレアの真の実力の一端を明かされたライトは、驚きつつも脳内でとあることを思い出していた。

『そういやこのクレア嬢、よくよく考えたらブレイブクライムオンラインでも臨時討伐任務対象になっていた、よなぁ……』

『あん時は確か、ラベンダー色に装飾された超巨大なハルバードを軽々と振り回して、ユーザーをバッタバッタと薙ぎ倒してたっけな……』

『うん、こりゃ心配無用だな!』

そう、このクレア嬢はヘッポコ鍛冶屋の破壊神イグニス同様イベントにて見事臨時討伐任務になり、まるでラスボスかの如くユーザーと戦う側にまでなるのだ。

しかもそれは一受付嬢としてではなく、ユーザーである勇者候補生達を鍛える教官という立場としても登場したりした。

いずれにしてもこのクレアという女性、冒険者ギルドの看板受付嬢というアイドル的な存在だけに留まらない、尋常ならざる強者である。

そしてそれはどうもブレイブクライムオンラインのみならず、こちらの世界でも当てはまるらしい。

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ?私如きか弱き凡人が、レオニスさんと肩を並べられるような冒険者になどなれる訳がないじゃないですかー」

「お前の自己評価って、悉く的外れの大ハズレだよね……真面目な話、もうちょい真剣に自分を見つめ直す旅にでも出た方がいいんじゃないかね?」

「レオニスさんこそ、こんなか弱い乙女をとっ捕まえて言う台詞じゃありませんよ。そんなだから、いつまで経っても女性にモテないんですぅー」

レオニスがクレアを揶揄するも、逆にクレアに痛いところを突かれるという反撃をもろに食らう。

「うぐっ……お、俺には既にライトという相棒がいて冒険者という天職もあるんだから、女にモテなくたっていいんだ!」

「レオニスさぁん……それって、何とかの遠吠えにしか聞こえませんよ?何だかレオニスさんのことが、ものすごーく可哀想に思えてきました。あまりにも残酷な真実を突きつけてしまってごめんなさい」

クレアがレオニスを憐れむような眼差しで見つめたかと思うと、やおらペコリと頭を下げた。

それを見たレオニス、顔を引き攣らせながら一瞬だけ怯むも果敢に抗議する。

「ええぃ、そんなところでそんな理由で謝るな!何でか余計に負けた気分になるじゃないか!」

「あらまぁ、私としたことが。的を射過ぎて木っ端微塵に粉砕してしまいましたか。全く以てレオニスさんには、大変申し訳ないことをしてしまいました。本当にごめんなさい」

「……なぁクレア。お前のその『謝るフリして相手の心を徹底的にへし折る 反撃技(カウンター) 』、本当に心にクるからやめて?」

再びペコリを頭を下げて本日三度目の謝罪をするクレアに対し、同じ頭を下げるのでも敗北という落胆故にがっくりと項垂れるレオニス。

本日の舌戦も、クレアの大勝利のようである。

というか、果たしてレオニスがクレアに舌戦で勝てる日は来るのだろうか?

「……まぁいい。じゃあクレア、今度の土曜日の件、頼めるか?」

「ええ、お任せください。この何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディーであるクレアが、ライト君の身の安全を万全に保証しましょう」

「頼もしいこと限りないな。そしたら報酬は何がいい?金で良ければ多めに支払うし、望みのアイテムとかあれば可能な限り対応するが」

「え?そんなもの要りませんよ?」

クレアはきょとんとしながら、さもそれが当然であるかの如くに無報酬でも良いと言い放つ。

「いや、さすがにそんな訳にはいかんだろう。氷の洞窟までの同行だぞ?」

「別に構いませんよ。だいたいですね、考えてもみてください。この依頼は、ライト君という私の癒やしの天使を護衛するだけでなく『可愛いは正義のドラゴン天使クー太ちゃんともふもふ銀碧狼天使アルちゃんが、運命の出逢いを果たす』という、それこそ天地開闢以来の超絶特大スペシャルイベントなんですよ?」

「……ハイ……」

「これを天使二体の間近、いえ、仲人たるライト君を含めて天使三体ですね。その天使達の交流を特等席で見られるという、私にとってはこれ以上ない夢のような役得ポジションなのです。だというのに、これで金銭まで取ったら逆に罰が当たるというものです」

「お、おう、そうか……」

熱弁を振るうクレアの真剣さに、たじろく他ないレオニス。

「……ああ、でも、そうですね。もし金銭以外で報酬をいただけるならば、レオニスさんにひとつお願いしたいことがありますかねぇ」

「ん?何だ?俺にできることなら何でも言ってくれ」

「それはですね…………」

そこの部分だけ急に、クレアはレオニスに近づきこしょこしょと耳打ちをする。

最初はそれをふむふむ、と聞いていたレオニスは、途中でクワッ!と目を見開き、即答した。

「……却下だ!!」

「ええー、何でも言ってくれってさっき言ったじゃないですかぁー」

「俺にできることなら、という条件付きだ!さっきのそれは俺にはできん!」

「レオニスさん、『男に二言はない』という言葉、ご存知ですか?」

「男以前に、人間にはできることとできんことが厳然としてある!俺にそれはできん!」

「レオニスさんのケチぃー」

クレアが口を尖らせて、頬を膨らませる。その仕草の何たる愛らしさよ。

見た目だけなら本当に愛らしい少女系なのに、中身はいろいろと混ざり過ぎていてギャップ云々どころのレベルではない。

「ああもう!さっきの以外で何か報酬欲しくなったら、また言ってくれ。さ、ライト、帰るぞ!」

「え、あ、ちょ、レオ兄ちゃん、待ってー」

レオニスは顔を赤らめながら、足早に冒険者ギルドから出ていこうとする。

ライトは慌ててレオニスを追いかけながらも、出入り口のところで振り返る。

「クレアさん、依頼を受けてくれてありがとうございます!土曜日の待ち合わせ時間とか、細かいことはまた明日の夕方ここに来てお話します!さようなら!」

「はい、分かりました。明日のお越しをお待ちしておりますぅー」

慌ててレオニスの後を追って出ていくライトの背を、クレアはいつもののんびりとした口調で軽く手を振りながら見送っていた。