軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第125話 レオニスの秘策 その二

不敵な笑みを浮かべたレオニスは、話を続ける。

「おそらくアイテムバッグは、その性質から魔術師ギルドに回されて研究、解析されることになるはずだ」

「つまり、魔術師ギルドという専門機関で研究、解析させて、空間魔法陣を付与する仕組みをそいつらに理解させることにより、広く普及させるんだ。そうすりゃ俺達だけがアイテムバッグを作らされる危険もなくなる」

「そしていずれはその技術を施した汎用品が、世に広まるだろう。まぁ、そこに至るまでには数年はかかるだろうがな」

「……!!」

ライトはレオニスのその柔軟な考え方に、驚愕した。

確かに今はレオニス他ごく一部の少数しか使えない貴重な空間魔法だが、それと同じ効果を持つアイテムバッグとして誰でも使えるとなったら―――まず真っ先に権力者に目をつけられて、奪い合いやら脅迫やら確実に物騒なことになるだろう。

だが、いっそのことそれを研究機関を通じて世に広めてしまえば、諍いや争いの火種にならなくなるはずだ。

要するに、自分達だけで技術を囲い込んで独占しようとせずに広く公開することで、それを巡り起こるであろうトラブルを未然に防ぎ、更には世の発展にも大いに役立つのだ。

まさしく一石二鳥の策である。

「それを実現するためには、何としてもフェネセンがこのラグナロッツァにいるうちにアイテムバッグの実物を最低でもひとつ、作り上げておきたいんだ」

「何でかってーと、フェネセンに旅先のギルドで『天空島に遊びに行ったら、たまたま見つけた!』という体で提出してもらう予定だからなんだ」

「出処を天空島にしておけば、わざわざ確認に出向けるような場所でもないからより安全だし」

レオニスの言う通り、天空島という場所は並大抵の人間はおろか冒険者でも気軽に行けるような場所ではない。

それ故に、アイテムバッグの発見場所として他の冒険者が二匹目のドジョウを狙って押しかける危険性も防げる、という算段である。

「俺が見つけたということで提出するよりは、もともと風来坊で知れ渡るフェネセンを発見者にした方が何かと都合が良いんだ。あいつなら、あれこれと追求されたり詮索されにくいだろう、という目論見もあってな」

「そもそも俺は嘘をつくのが得意な方じゃないし、何よりフェネセンならあの口調でのらりくらりと追求を躱せるし」

「周囲も『あのフェネセンなら、多少おかしなことを言ってても致し方なし』と無理矢理納得してくれる気風が多分にある」

何やらフェネセンがものすごく理解し難い、一歩間違えれば狂人扱いされているような気もしてくる、なかなかに酷い言われようである。

だが、これまでのフェネセンのそうした普段の言動を逆手にとって、無用なツッコミや追求は極力避けてリスクを下げようという緻密な計画性も見え隠れする。

「だが、ライトも知っての通り、フェネセンの旅立ちの日は近い。残りの日数全部、寝起き以外全て研究に費して間に合うかどうかってところなんだ」

「容量の調整やら動力の維持理論、さらには簡単に改竄できないように肝心要の部分は徹底的に複雑な暗号化したりとか、何しろやらなきゃならんことが多過ぎてな」

「そんな中で、ここから氷の洞窟へ行くとなると……往復するだけで最短一日はかかる……」

「ぐおおおおッ、時間が、時間が足りねええええッ!!」

頭を抱えて仰け反りながら、絶叫するレオニス。

「それに、ライトの初の冒険の相棒は俺でありたいし……」

「他の奴にライトの大事な初めてを奪われる訳には……」

「しかし、御守を作ってフェネセンに渡したいというライトの気持ちも痛いほどよく分かるし、絶対に叶えてやりたい……ふんぐぬぬぬぬ……」

レオニスが何やらおかしなことをブツブツと呟いている。

聞く人によってはあらぬ誤解を生みまくること間違いなしの、とんでもなく壮絶に危険な独り言がダダ漏れ状態である。

だが、そんなことなどお構いなしのレオニス、ずっと眉を顰めて悩んでいる。しばらく苦悶の表情で天を仰ぎながら呻き続けた後、何やら妙案が閃いたのか突然、クワッ!と目を見開いた。

「……仕方ない。正直あまり気は進まんが、あいつに同行を依頼してみるか」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日の夕方。

ライトがラグーン学園から帰宅してから、レオニスはライトを連れてディーノ村の冒険者ギルドに向かった。

「よう、クレア」

「あら、レオニスさんじゃないですか。こんにちは、お久しぶりですねぇ」

「ああ、クレアも変わらず元気そうで何よりだな」

「はい、おかげ様で日々恙無く過ごせてますよ。今日も多忙を極めておりましたが」

人っ子一人いない、閑散とした冒険者ギルドディーノ村出張所の中で、クレアの愛らしい声が響き渡る。

そうか、多忙というのは誰一人いないこの状況でも極められるものなんだな……いや、午前中とか昼とか15時くらいまでは本当に忙しかったのかもしれない。きっとそうだ、そうに違いない。

ライトは口にこそ出さないが、脳内会議にてそのように決定していた。

「いや、この時間でこの人のいなさで、どうやって多忙を極められるもんなの?」

「レオニスさんはご存知ないでしょうが、冒険者ギルドのお仕事というのは陰日向なく、常に冒険者さん達のために尽くしているものなんですよ?」

「ん、まぁな。それに関しちゃ、俺達冒険者はいつもギルドの世話になってるよな。そこは本当に感謝している。いつもありがとう」

「分かっていただければ何よりです。……で?本日のご用件は一体何でしょう?」

せっかくライトが口には出さずに腹の中に収めておいたのに、レオニスは歯に衣着せぬ物言いでダイレクトアタックを平気でかます。

本当にこのレオニスという男、キニシナイ!大魔神の申し子なのではなかろうか。

「ああ、それなんだがな。クレア、今度の土曜日は空いてるか?」

「いきなり何ですか。あらまぁ、もしかしてデートのお誘いですか?」

「俺がそんな素敵素晴らしいこと、できると思ってんのか?」

「無理ですね。如何に冒険者界きっての無敵を誇る最強のレオニスさんでも、できないことのひとつやふたつや十百千万くらいあって当然ですよねぇ」

「ぃゃ、いくら俺が不器用でもそこまでできんことだらけじゃねぇぞ……?」

「いずれにせよ、先程の発言は私の失言に間違いありません。無茶振りしてごめんなさい」

「お前の場合、謝罪するフリしながら相手の心をさらに抉ってくるよね……何なのそのエグい攻撃力」

ペコリと頭を下げながら素直に謝罪するクレアに、がっくりと項垂れるレオニス。

とてもじゃないが、妙齢の美男美女が面と向かってする会話とは到底思えないような言葉が飛び交う。

超絶イケメンのレオニスが、実は微妙に残念系男子だということは周知の事実だが。実はこのクレアという女性もまた、愛らしい容姿と眼鏡からくる知的な印象とは裏腹に微妙に中身が残念系女子だった。

「ん……まぁ、それはともかくだな。クレア、前にお前んとこのクー太と銀碧狼のアルを会わせたいって言ってたよな?」

「ええ、そんなこともありましたかね」

「実はライトがアルのところに用事があってな。絶対に、何が何でも今度の土曜日のうちにアルに会いに行きたいらしいんだ。だが、生憎その日はどうしても俺の都合がつかなくてな」

「で、私がレオニスさんの代わりにアルちゃんのいる場所にライト君を連れて行け、と?」

「そういうこと。話が早くて助かる」

さすがクレア、元祖何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディー!である。

基本的には察しが良くて頭のキレも素晴らしく、『一を聞いて十を知る』を実践できる、非常に仕事のできる実力派女子なのだ。

そう、中身が多少残念であったとしても、仕事面では非常に有能で常に完璧にこなす。それこそがクレアなのである。

「いや、もちろんクレアにだって都合はあるだろうし、その日は仕事や他の用事があってダメなようなら、他を当たるが」

「いえ、そのようなお気遣いは無用です。今度の土曜日でしたら、大丈夫ですよ」

「そうなのか?ギルド職員の当番表とか何も確認しなくていいのか?」

レオニスが珍しく気を遣って、クレアの都合を問う。

だが、レオニスの気遣いなどお構いなしにキリッ!とした顔つきで即答OKを出したクレア。

逆にレオニスが若干慌てながら、土曜日の当番を確認しなくていいのかを問い質す有り様だ。

「え?当番表なんて見なくても結構ですよ?例えその日に仕事が入っていようとも、有給休暇でも体調不良でも、何なら無断欠勤してでも!使える手は何でも使ってお休みします!」

「お、おう、そうか……」

「えぇえぇ。だいたいですね、考えてもみてください。うちの天使クー太ちゃんと銀碧狼界の天使アルちゃんの、夢の対面企画ですよ!?こんな素敵イベント、この私がむざむざ逃すはずがないでしょう!!」

「お、おう、そうか……」

天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに宣言するクレア。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

そのあまりの決意の固さに、ライトとレオニスは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。