軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1248話 意外な発見場所

一方レオニスは、二時間近く経過しても誰も何も手がかりを得られないことに、内心で焦りを感じ始めていた。

「くッそー……こんなに探しても見つからんとは……」

予想以上に手こずり続けていることに、レオニスがその端正な顔を歪めつつ呻く。

レオニスもまた、この隠れようがないコルルカ高原では金鷲獅子もすぐに見つけられるだろう、と思っていたのだ。

だが実際には、未だに発見の狼煙はどこからも上がらないし、自分だってそれらしきものや痕跡一つすら見つけられていない。

レオニスも決して高を括っていた訳ではないが、それでもこれ程までに手こずるとも思っていなかった。

己の不甲斐なさに歯ぎしりするばかりである。

するとその時、はるか遠い空に緑色の一本の線が立っているのがレオニスの目に映った。

ようやく事態が動き出す合図に、レオニスは思わず目を見張る。

「!!!!!」

それは『目標物発見』を意味する狼煙。

今日は風もなく穏やかな天気なので、空に向かって一筋の緑色の煙が立ち上っている。

レオニスは今いる場所からかなり遠いそれを目指し、全速力で空を駆け出していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

程なくして緑の狼煙のもとに到着したレオニス。

そこは渓谷の底の方で、一見すると他の場所と何ら変わらない赤土のゴツゴツとした切り立った崖に挟まれている。

そして煙の根元には、ラウルの他に五組の鷲獅子騎士達が集まっていた。

その中には団長のアルフォンソもいる。

レオニスがラウルの前にふわり、と降り立ち皆に声をかけた。

「見つかったのか!?」

「レオニス卿、お疲れさま。我らも今しがたここに到着したばかりでな。鷲獅子騎士全員が揃ってから、改めて話し合おうということになっている」

「そうか、その方が何度も説明しなくていいよな。……で、見つけたのは誰だ? ラウルか?」

「ご名答。俺の魔力探知でここを見つけた」

アルフォンソの話に相槌を打ちつつ、発見者が誰かを問うレオニス。

レオニスの推察通り、ラウルが発見者として名乗りを上げた。

そんなラウルに、他の鷲獅子騎士達が周囲の切り立った崖を見回しながら呟く。

「ここら辺は、我らも上空から一度は目視したはずなんですが……」

「見ての通り何の変哲もない景色なので、通り過ぎてしまったんですよね」

「本当にここに、金鷲獅子がいるんですかね……?」

ここに集合した鷲獅子騎士達は、ラウルのことを疑ってかかっている訳ではないが、それでも訝しげに思っているようだ。

彼らはラウルとは今日が初対面で、魔力探知に長けていることを知らない。なので、ラウルが発見者であることが俄には信じられないのも無理はない。

ラウル自身もそれは理解できるので、鷲獅子騎士達に疑われても特にどうとは思わない。

涼し気な顔で聞き流しているラウルに代わり、レオニスがラウルを擁護する。

「皆にはまだラウルのことを詳しく紹介していなかったから、そう思うのも無理はないがな。こいつはただの人族じゃない、プーリアという妖精でな。こと魔力探知に関しては、人族の何倍も何十倍も優れているんだ」

「妖精、ですか……!?」

「ああ。冒険者ギルドにも正規登録している、サイサクス大陸初の妖精族の冒険者だ」

「「「…………」」」

レオニスの口から語られたラウルの正体に、その場にいた鷲獅子騎士達は全員絶句する。

彼らは鷲獅子騎士であって冒険者ではないので、冒険者界隈のことは熟知していない。知っててもせいぜい『レオニスは世界最強の金剛級冒険者』ということくらいだ。

しかしそんな彼らでも、妖精族の冒険者というのがサイサクス史上初の衝撃的な出来事だというのは分かるらしい。

というか、そもそもラグナロッツァに妖精族が住んでいたこと自体が驚きだ。

見た目はレオニスと大差ない背丈で、黒髪金眼の眉目秀麗な二十代半ばの青年にしか見えない。

そんなラウルが人族ではなく妖精族だというのだから、鷲獅子騎士達全員が固まるのも当然である。

しばらく呆気にとられていた鷲獅子騎士達。

そのうち皆はたと我に返り、ラウルを繁繁と見つめながら呟く。

「妖精、ですか……」

「とてもそうは見えませんが……レオニス卿がそう仰るなら、それは本当のことなんでしょうね」

「ラウル殿、貴殿を疑うようなことを言ってしまい、申し訳ございませんでした」

「「「申し訳ありませんでした!」」」

鷲獅子騎士の一人がラウルに頭を下げて謝罪したのをきっかけに、次々と他の鷲獅子騎士達もラウルに謝る。

他の者が言ったなら俄には信じ難いことも、その発言主がレオニスとなれば話は別だ。

レオニス程の人物がこの手の話で嘘をつく訳などないし、嘘をつくメリットもない。

ならばレオニスが言うように、彼らの目の前で涼し気な顔をしているこの男―――ラウルは正真正銘妖精族で、その特異な魔力探知能力でここを探し当てたのだ、ということを鷲獅子騎士達は心底理解した。

そんな鷲獅子騎士達に、ラウルは事も無げに返す。

「いや、そんなに謝る必要はない。俺とあんたらは、今日初めて顔を合わせた者同士だしな。俺のことを知らんのも当然だ」

「ありがとうございます」

「つーか、これはうちのご主人様の不手際だな。最初から俺のことを、そうやってちゃんと紹介してくれていれば良かったんだからよ」

「え? 俺のせいなの?」

ラウルに突如責任の所在を振られたレオニス。己の顔を指差しながら驚いている。

そんな話をしているうちに、他の鷲獅子騎士も続々とレオニス達のもとに集まってきた。

そして最後の一組が到着したところで、アルフォンソが一同の代表としてラウルに声をかけた。

「これで鷲獅子騎士団員全員到着したな。ラウル殿、お待たせしてしまい申し訳ない。ご説明願えるだろうか」

「承知した。俺の魔力探知で感知したのは、その崖の根元だ」

ラウルが指差した方向を、レオニス達他の者が一斉に見る。

そこは他の崖同様、特に何もない赤茶けた土があるだけだった。

…………

………………

……………………

時は少し遡り、ラウル達が魔力探知で金鷲獅子の捜査を始めてから約二時間後のこと。

ようやく初めてラウルの魔力探知に、これまでとは全く異なる者の魔力を感知した。

「あっちの方に何かあるな。ラーデ、行くぞ」

『ああ』

ラウルは己の魔力探知をもとに、異質な魔力がある方向にラーデとともに飛んでいく。

そうして辿り着いた場所は、木一つ生えていない崖の根元だった。

空からストッ、と降り立ったラウル。周囲を見回しながら呟く。

「確かにここら辺に、何かがあったのを感じたんだが……見たところ何もないな」

『…………』

キョロキョロと周囲を見回すラウルだったが、ラーデはとある一点をじっと見据えたまま動かない。

そんなラーデの異変に気づいたラウルが、ラーデに声をかけた。

「ラーデ、どうした。そっちの壁に何かあるのか?」

『ああ……ここまで来れば、矮小なる我にも分かる。金鷲獅子は、この崖の奥にいる』

「この奥に、か? ぱっと見は、何もなさそうだが……」

ラーデの言葉に、さらにキョロキョロと忙しなく周りを見るラウル。

だが次の瞬間、ラウルははたと止まってラーデの方に向いた。

「もしかして……ラーデがさっき言っていた、金鷲獅子の認識阻害能力ってやつか?」

『ああ。彼奴が得意な『かくれんぼ』というやつだ。ただし……矮小な我でさえも、こんな近くにまで来れば見破れる程に彼奴の力も弱まっているようだ』

「そうか……」

ラウルの問いかけに頷くラーデ。

その顔はとても険しく、目の前にそそり立つ崖の根元を見つめ続ける。

確かにラーデの言う通りで、本来なら今の弱体化したラーデでは金鷲獅子の認識阻害能力を見破ることなど絶対に不可能なはずだ。

だが、今のラーデですら看破できるということは、金鷲獅子の方もラーデに劣らぬくらいに弱体化していることの証左であった。

事態を深刻に捉えているラーデに、ラウルが励ますように声をかける。

「よし、そしたら早速ここで信号弾を打とう。何、うちのご主人様達が駆けつけてくれりゃ、そこに隠れているラーデの友達のことだってすぐに救い出してくれるさ」

『だといいのだが……』

それでも心配そうに言い淀むラーデに、ラウルはなおも言葉を重ねる。

「それにラーデ、お前も知ってるだろう? こないだの天空島の戦いで、邪皇竜メシェ・イラーザを倒してお前を救い出した者達の中に、うちのご主人様もいたことを」

『……ッ!!』

ラウルの言葉に、ラーデは目を大きく見開く。

先だっての天空島での激しい戦いを制した天空島勢。

邪皇竜メシェ・イラーザを直接倒したのは、闇の女王とクロエ、そして光の女王とグリンカムビの合体攻撃だった。

だがその一撃必殺の一手に至るまでに、たくさんの者達の協力とお膳立てがあった。

その中でも多大な貢献を成したのは、他ならぬレオニスである。

このことは、ラーデも後から話を聞いて知っていた。

それをラウルに指摘されたことで、ラーデはレオニスの偉大さを思い出したのだ。

『……そうだな。其方のご主人様ならば、きっと我が友をも救い出してくれることだろう』

「ああ。だから早いとこ、ご主人様達をここに呼ぼう」

ラーデが納得したところで、ラウルが早速空間魔法陣を開き捜索前に受け取っていた信号弾三つを取り出す。

「えーと、確か赤が危険で、青が安全で、緑が発見、だったよな? 緑は…………これか」

目標物発見を意味する緑の信号弾を見つけたラウル、赤と青を再び空間魔法陣に放り込み緑だけを右手に持つ。

そしてスイッチとなるところを探し、スイッチ箇所に親指を置きながら右手を真上に掲げた。

「よし、今から信号弾を打つぞ。三、二、一……」

ラウルは信号弾を上に上げたまま、カウントダウンを始めたラウル。

そしてゼロになるタイミングで、信号弾を打った。

……………………

………………

…………

「魔力探知でここを見つけたのは俺だが、ラーデもこの壁の奥に金鷲獅子がいると言っている」

「そうなんか。ラウルはあの壁を実際触ってみたか?」

「いや、まだだ」

ラウル達が指し示した壁を前に、レオニスがラウルに話を聞いている。

ここに金鷲獅子がいるとして、その後どうすれば金鷲獅子に会えるかを考えなければならない。

その後ラウルは、信号弾を打った後にレオニス達が到着するまでラーデから事前に聞いていた情報をレオニスに伝えた。

「ラーデの話によると、この壁は幻影ではなく物質的な実体も伴っているらしい。鷲獅子以外の者が触っても、本物の壁にしか感じないんだと」

「なら、この壁をハンマーなんかで崩せばいいのか?」

「いや、それもマズいらしい。それをすると、壁を作り出している金鷲獅子の魔力や体力をも削ってしまいかねんそうだ」

「ああ、それもそうか……」

目の前に物質的な壁として立ちはだかるならば、氷の洞窟の隠し部屋の時のようにハンマーで崩せばいいのかと思いきや、そう簡単な話ではないらしい。

確かにラウルの言う通りで、金鷲獅子が作り出していると思しき壁を無理矢理こじ開けるような真似をすれば、金鷲獅子の本体の方にも影響を及ぼす可能性は否めない。

ただでさえ異変が起きているであろう金鷲獅子の身に、多大な負担を強いるのはレオニス達も本意ではないし、むしろ悪手でしかない。

となると、他の手段を考えなければならない。

「そしたら、どうすりゃいいんだ?」

「ラーデが自分に任せろ、と言っていた」

「ラーデに、か?」

ラウルの言葉に、レオニスがラーデの方を見遣る。

ラーデは相変わらず崖の壁の一点を見据えていたが、その時だけレオニスとラウルの方に顔を向けてコクリ、と頷いた。

ラーデの並々ならぬ決意を感じたレオニス。改めてラーデに声をかけた。

「よし、そしたらラーデ、頼むぞ」

『うむ、任せよ』

ラーデに全てを託すと言い切ったレオニス。その言葉にラーデもまた力強く頷く。

そしてラーデがじっと見据えていた崖の壁の前に、ラーデがふよふよと飛んでいく。

徐にラーデがその短くも幼げな右手を前に出し、壁にそっと触れた。

その瞬間、レオニス達の前に洞窟のような大きな洞穴が現れた。