軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1249話 旧友との再会

「「「………………」」」

突如目の前に現れた洞窟、その入口の前でレオニス達は口をぽかーん……と開けたまま真上を見上げる。

入口の高さが30メートルはあろうかという大きさだったからだ。

「さっきまで、普通に他と同じ崖の壁に見えていたのに……」

「こんな大きな洞穴が隠されていたとは……」

「金鷲獅子が持つという認識阻害能力、これ程のものとは……」

その幅も20メートルはあり、巨大な入口の前で佇みながらただただ驚くレオニス達。皆口々に驚きの声を漏らす。

もしこの巨大な洞穴が認識阻害により隠蔽されていなければ、捜索開始後すぐに誰かしらの目に留まって見つけられていたはずだ。

それ程に大きな入口を完璧に隠し、見た目だけでなく万が一その手に触れても物質的な質感を伴っていたら、もはや人族では絶対に発見することなど不可能であろう。

想像以上に優れた金鷲獅子の認識阻害能力に、その場にいた全員が度肝を抜かれていた。

「……とりあえず、中に入るか」

「はい……皆鷲獅子から降りて歩くぞ!」

「「「はい!」」」

いち早く我に返ったレオニスが、中に入ることを提案する。

それに応じたアルフォンソが、相棒のサムの背から降りつつ他の鷲獅子騎士達にも下に降りて歩くよう指示を出した。

鷲獅子騎士達は団長の命令に従い、すぐに鷲獅子から降りた。

この洞穴に入れば、いつ何時金鷲獅子に会うか分からない。

もし金鷲獅子に会えた時に、鷲獅子に騎乗したままでは相手に失礼かつ無礼な印象を与えてしまう。

そうならないためにも、早々に全員鷲獅子から降りるようアルフォンソは指示を出したのだ。

そうしてレオニスを先頭に、洞穴の中に入っていく一行。

レオニスの後ろにはラーデを抱っこしたラウル、アルフォンソと続き、鷲獅子騎士達はそれぞれ相棒と横並びになって一列で歩いていく。

洞窟の中は壁や天井の至るところに光る苔が生えていて、ほんのりとした明かりが洞窟内を照らし出している。

これのおかげで、レオニス達がわざわざ光魔法を使う必要がないのは何気にありがたい。

そして洞窟の中に魔物の気配はない。

魔物除けの呪符の効果により出てこれないのか、あるいはもともとこのエリアに普通の鷲獅子や雑魚魔物達は入れないのか、どちらなのかは分からない。

レオニス達の歩く足音だけが、洞窟内に響き渡る。

周囲を警戒しながら、慎重な足取りで前に進むレオニス達。

道の分岐などもなく、ただひたすら真っ直ぐ進むこと約三分程経過した頃。

道は突如終わり、レオニス達の目の前にはさらに大きな空間が広がっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

広々とした空間が存在することに、またも驚愕を禁じ得ないレオニス達。

天井の高さは入口や先程までの道の倍以上はあり、幅や奥行きもかなりある。

それはまるで王の間のようだ。

レオニス達がキョロキョロと周囲を見回していると、ラーデがラウルの腕の中から抜け出して奥の方に飛んでいった。

「あ、おい、ラーデ!」

「シッ……何か見つけたようだ、ついていこう」

「ぉ、ぉぅ……」

一瞬ラーデを追いかけかけたラウルを、レオニスが腕で遮りながら小声で制す。

レオニスの言うように、ラーデは何かを目指して前に進んでいっているように見える。

ラウルも納得し、レオニス達はラーデの後をついていった。

ラーデが向かったのは、入口奥より少し左側。

入口真正面には10メートル程高い段差があり、そこはまるで金鷲獅子が寝そべりそうな玉座に見える。

だがそこに金鷲獅子の姿はない。

そしてラーデは玉座の段差が途切れて少し離れたたところにいた。

ぱっと見では、そこには何もない。

真っ先に探すならまず玉座っぽいところだろうと思うのだが、ラーデは玉座っぽい場所には目もくれない。

そしてラーデは再びその幼げな右腕を前に出し、壁に触れた。

「「「!!!!!」」」

それまでラーデの行動をじっと見守っていたレオニス達の目が、再び大きく見開かれる。

ラーデの触れた壁が、入口の時のように消え失せたのだ。

そしてその消え失せた壁の奥には大きな窪みがあり、そこには金鷲獅子が横たわっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ついに見つけた鷲獅子の王、金鷲獅子。

体長が20メートルくらいあり、鷲獅子騎士団の中でも最も体格の良いサムの四倍近く大きい。

折り畳んである大小一対の計四枚の翼もとても立派なもので、まさに王者の風格を全身にまとっている。

だがその身体には、レオニス達ですら一目見てすぐに分かる程の異変が起きていた。

まず、胴体の毛の色が全体的に黒ずんでいる。

そしてその黒ずみは特に翼に顕著に出ていて、翼の付け根ほど黒さを増している。

その名の由来である金色は、かろうじて手足と翼の先、それも極僅かしか残っていない。

立派な体躯からそれが金鷲獅子だと分かるが、色だけ見たらとても金鷲獅子とは思えない色をしていた。

地に伏せたまま、目を閉じ眠っているように見える金鷲獅子。

伝説で謳われる黄金色の鷲獅子の王の、あまりにも変わり果てた姿にレオニス達はただただ絶句する。

『これは……やはり穢れもしくはそれと同じ類いのものか』

レオニスは絶句しながらも、頭の中で冷静に金鷲獅子の現状分析をする。

金鷲獅子の衰弱ぶりは、かつてレオニスがライトとともに解決した炎の洞窟の異変によく似ている。

あの時の炎の女王も、身体中が罅割れるような有り様で息絶え絶えに横たわり、今にも絶命してしまいそうな状態だった。

ならば、その時のようにピース特製の浄化魔法呪符を使えば、金鷲獅子の衰弱の原因を取り除くことができるだろう―――レオニスはそう考えていた。

そして、金鷲獅子の無惨な姿に悲痛な空気が流れる中、ラーデが金鷲獅子の顔に近づき声をかけた。

『金の、久しいな』

『……ン……その、声は…………もしや、皇竜……か……?』

『ああ。皇竜メシェ・イラーデが、久々に友に会いに来たぞ』

『そうか……本当に……久しいの……』

静かな口調で語りかけるラーデの声に、金鷲獅子がほんの少しだけ顔を上げてラーデのいる方向を見遣る。

だが、瞼を開いたその目は虹彩が白濁していて、目もほとんど見えていないようだ。

『久しぶりに、来てくれた……友の顔を……見たいのだが……何分、この通り……身体の、調子が……悪くての……』

『無理せずとも良い。我の男前の顔なら、いつでも見せて進ぜる故に』

『フフフ……相変わらず、言いよる……』

目の見えない友に、ラーデは静かな声のままで軽口を叩く。

だがその声は、次第に震えを伴い詰まっていく。

『だから……早よう良くなれ。我の凛々しい尊顔を拝めば……其方の体調不良など、彼方に吹き飛ぼうぞ……』

『クックック……さすが、皇竜……竜の祖とは、 斯(かく) も……自信に……満ち足り……た…………者…………』

ラーデと会話をしていた金鷲獅子の声が、だんだんと小さくなっていく。

ただでさえ掠れて力無い声だったのが、今にもその生命の灯火とともに消え入りそうだ。

それまでじっとラーデ達を見守っていたレオニスが、堪らずラーデを後ろから抱きしめた。

「ラーデ、ここから先は俺達に任せろ」

『…………頼む…………どうか、我が友を…………救ってやってくれ…………』

「ああ、すぐに取りかかるから待ってろ。ラウル、お前も手伝え」

「了解」

レオニスは声を震わせるラーデをアルフォンソに渡し、すぐに空間魔法陣を開く。

そして今ある浄化魔法呪符『究極』約六十枚を全て取り出し、その半分をラウルに渡した。

「俺は上半分に呪符を置くから、お前は下半分をやれ。最初のうちは呪符がすぐに真っ黒になって使い物にならなくなるが、構わずどんどん置き続けろ。そして黒さが薄れたら、他の黒いところに移動して呪符を使い続けろ」

「了解。置くだけでいいんだな?」

「ああ、浄化魔法呪符は設置型だからな。破る必要はない」

浄化魔法呪符『究極』の使い方を、手短にラウルにレクチャーしていくレオニス。

そうしてレオニスとラウルは二手に分かれて浄化魔法呪符『究極』を使っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニスとラウルが呪符を使い始めて、五分程経過しただろうか。

あれ程黒ずんでいた金鷲獅子の身体の色が、徐々に黄金色の輝きを取り戻していった。

レオニスが言っていたように、最初のうちこそ浄化魔法呪符『究極』の効力は数秒も持たずに真っ黒になってしまっていたが、合わせて四十枚を過ぎた辺りから金鷲獅子の身体の色に輝きが出てきたのだ。

その様子を、鷲獅子騎士達は「おおお……」と感嘆しながらじっと見守っている。

しかし、呪符を使っているレオニスとラウルの顔はそれに反し、徐々に険しくなっていった。

それは、今のペースだとどう考えても呪符が足りないことに気づき始めたからだった。

レオニスは顔や頭から呪符を使い始め、その後うなじや肩、背中などに呪符を使っていた。

一方ラウルは、後ろ足や腰、お尻に背中などに呪符を使っていた。

そしてまずレオニスの呪符の手持ちが尽き、程なくしてラウルの手持ちの呪符も尽きた。

しかし、この時点ではまだ金鷲獅子の身体の黒ずみは完全に除去しきれていなかった。

呪符を使い切ったので、ひとまずラーデ達のいる場所に戻ったレオニスとラウル。

二人とも端正な顔を歪めて悔しそうに口を開く。

「とりあえず、今あるだけの浄化魔法呪符を使いきったんだが……金鷲獅子に巣食う穢れを完全には除去しきれなかった」

「呪符を使う前に比べたら、それでもだいぶマシにはなったと思うんだが……六十枚じゃ足りなかったようだ」

「「「…………」」」

二人の報告に、アルフォンソ達は何と言っていいものやら分からない。

レオニス達が今持てる力の全てを尽くし、金鷲獅子を救うために懸命に努力したことをアルフォンソ他鷲獅子騎士達全員が知っている。

しかし、完全には浄化しきれなかったという結果になってしまった。

それは、金鷲獅子の体格が想像以上に巨大だったこと、普段のレオニスなら百枚以上の浄化魔法呪符『究極』を常時持ち歩いているのに、折悪しく先だっての邪竜の島討滅戦で手持ちの呪符を使い切ってしまっていたこと等々、数々の要因が複雑に絡んでいた。

こればかりは誰が悪いというものではなく、ただただ本当にタイミングが悪かったとしか言いようがない。

悲痛な面持ちで沈み込むレオニスとラウル。

二人はラーデに向かって謝罪した。

「すまん、ラーデ……手持ちの呪符だけじゃすぐには浄化しきれなんだ」

「本当にすまん。だが……今すぐ魔術師ギルドに行って、また新しく浄化魔法呪符を買い足してくる。そうすれば、残りの穢れも祓えるはずだ!」

金鷲獅子を救うとラーデに約束したのに、それを果たせなかったことを謝るレオニスとラウル。

ラウルに至っては、今すぐラグナロッツァに戻って魔術師ギルドで呪符を買い足す!と言い出している。

「ご主人様、いいよな? 今から俺がラグナロッツァに戻って、魔術師ギルドで呪符を買ってくる」

「ぃゃぃゃ、それなら俺が魔術師ギルドに行ってピースに直に交渉した方が早いって」

「なら俺はここでラーデといっしょに留守番してるから―――」

レオニスとラウル、二人が喧々諤々の論議を始めた。

そんな二人を制するかのように、ラーデが二人の間に割り入った。

『ここまでやってくれれば問題ない。後は我に任せよ』

「「…………」」

突如動き出したラーデの宣言に、レオニスもラウルも思わず動きを止める。

そしてラーデは再び金鷲獅子の傍に飛んでいく。

『金の。よくぞここまで耐え生き永らえた。後の仕上げは、我が魔力によって賄おうぞ』

ラーデが金鷲獅子に静かに語りかけたと思ったら、次の瞬間ラーデの身体が全身眩い光に包まれた。

その数瞬後にラーデの身体は大きくなり、体長5メートルを超す皇竜の姿に戻っていた。

『さあ、金の……我が力を受け取れ』

元の姿に戻ったラーデが前屈みになり跪き、大きくなっても短い腕を金鷲獅子の頭の上に伸ばす。

そしてラーデの手が金鷲獅子の頭に触れ、ラーデがカタポレンの森で貯め込んでいた魔力を解放した。