軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1244話 奔走するレオニス

カタポレンの家からラグナロッツァの屋敷に移動したレオニスとラウル。

先に話し合っておいた通り、レオニスは鷲獅子騎士団の専用飼育場に向かい、ラウルは魔術師ギルドに向かった。

冒険者ギルド総本部の建物から出て、真っ直ぐに鷲獅子騎士団の専用飼育場に飛んでいくレオニス。

本来はこんな日中に、人目も憚らず空を飛ぶのは非推奨なのだが。今は緊急事態でそんなことを言ってはいられない。

それに、レオニスが街中の普通の道を全速力で走る方が余程危ないというのもある。

それはさながら暴走車にも等しいスピードになるので、誰かにぶつかったら冗談抜きで跳ね飛ばしてしまうのだ。

その点建物の上、地上から30メートルほどの高さを飛んでいれば、障害物や人を避ける必要もなく一直線かつ全速力で目的地に向かうことができる。

普通の道をのほほんと歩いていた数人の冒険者仲間達が、深紅の何かが猛烈な勢いで空を飛ぶのを見て「おー、レオニスの旦那が飛んでるぞー」と言いながら、これまたのほほんとレオニスが飛んで行った方向を眺めていた。

そうしてレオニスは、最短距離で鷲獅子騎士団の専用飼育場に辿り着いた。

正門の前にストッ、と降り立ったレオニス。

もはや顔見知りとなった門番達が、レオニスの到着より少し前に空を飛んでくるレオニスに気づき、泡を食った様子で驚いている。

「すまん、急用ができた、通してくれ」

「は、はい!」

もはや冒険者ギルドのギルドカードを提示することなく、すぐに中に通してもらうことができた。

これまで鷲獅子達と仲良くなるために、この専用飼育場に足繁く通った甲斐があったというものだ。

飼育場の中に通ったレオニスは、騎士団員達がいる宿舎に向かって駆け出す。

宿舎の中に入ってすぐ、玄関ホールで副団長のエドガーが他の騎士団員達とともにいた。

「エドガー!」

「……ン? レオニス卿ではないですか。もうコルルカ高原の任務が完了したのですか?」

「いや、コルルカ高原奥地に異変が起きている。厄介な事態になりそうだから、俺だけ一旦こっちに帰ってきたんだ」

「異変、ですか?」

レオニスの出現に、初めのうちはただ不思議そうな顔で驚いていたエドガー。

それもそのはず、任務から無事帰還するにしては想定していた日程的にかなり早かったからだ。

しかし、レオニスの言葉を聞いて瞬時にエドガーの表情が固くなる。

そしてレオニスは、深紅のロングジャケットの内ポケットから一通の手紙を取り出してエドガーに手渡す。それは、アルフォンソから託された鷲獅子騎士団団員宛の手紙だった。

「アルフォンソから手紙を預かっている。まずはこれを読んでくれ」

「分かりました。………………」

エドガーはレオニスから差し出された手紙を受け取り、封を開けて中の手紙を取り出し無言で目を通していく。

手紙の内容を把握したエドガー。その場にいた三人の騎士団員に早速指令を出す。

「緊急事態発生だ。今日非番の者を中心に、手隙の団員を急ぎ十人ここに集めろ。集まった十人には、コルルカ高原奥地に今すぐ向かってもらう」

「分かりました!」

エドガーの命を受けた三人の騎士団員、ピシッ!の敬礼した後すぐに散らばっていく。

騎士団員に指令を出したエドガーは、改めてレオニスの方に身体を向き直した。

「今からコルルカ高原に行ける者を十名集め、アルフォンソ団長のもとに向かわせます」

「すまん、助かる」

「人数が集まり次第転移門で移動しますが、今から集めるので少々時間がかかりますが……申し訳ない」

「いや、俺もまだもう一ヶ所寄り道しなきゃならんところがあるから、こっちにとってもその方が都合がいい」

「そうでしたか。どちらにお出かけで?」

「実はな―――」

レオニスが立ち寄らねばならない場所、それがどこかを尋ねるエドガー。

その問いかけに、レオニスは手短に説明をした。

「なるほど、竜騎士団の専用飼育場に取りに行かねばならぬ品があるのですね」

「ああ。お前らの方も出立の準備に時間が要るだろうと思って、竜騎士団の専用飼育場より先にこっちの方に来たんだ」

「分かりました。では私達も準備を進めますので、どうぞお気をつけて」

「よろしく頼む」

エドガーの了承を受けたレオニスは、すぐに踵を返して宿舎を後にした。

そして専用飼育場の正門から出たレオニスは、門番達に話しかけた。

「すまんが、これからうちの執事が俺宛の荷物を持ってここに来る手筈になっている。黒髪金眼の若い男で、名はラウルという。そいつがここに来たら、中には入れんでいいから俺がここに戻ってくるまで待たせてやってくれ」

「承知いたしました!」

レオニスの頼みに、二人の門番が敬礼しつつ承諾する。

ラウルに買い出しを依頼した呪符の受け渡しをするため、レオニスとここで待ち合わせすることになっている。

そのことを門番達にも知らせておかないと、不審者として扱われてトラブルになることは必至だからである。

門番達に必要事項を伝えた後、レオニスは竜騎士団の専用飼育場に向かうべくその場で飛んで立ち去っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァの外壁の上を、猛烈なスピードで飛んでいくレオニス。

レオニスはこの外壁に沿って、ラグナロッツァの外周をぐるりと回って竜騎士団の専用飼育場に行くつもりなのだ。

何故そんな回り道をするかと言うと、鷲獅子騎士団と竜騎士団の専用飼育場はラグナ宮殿を挟んでラグナロッツァの対極に位置しているからだ。

先程は冒険者ギルド総本部からの移動だったので、鷲獅子騎士団の専用飼育場に一直線で飛ぶことができた。

だが今回はそうはいかない。

もし鷲獅子騎士団の専用飼育場から竜騎士団の専用飼育場に一直線で向かうとしたら、ラグナ宮殿の上もしくは横の至近距離を通らねばならない。

国家元首のいる宮殿の上空やその脇を飛行しようものなら、それこそ不敬かつ王族の安全を脅かす者として懲罰必至だ。

数日程度の謹慎で済めばマシ、下手をすれば冒険者資格の剥奪なんてこともあり得る。

そうならないためにも、レオニスはぐるりと迂回して竜騎士団の専用飼育場に向かうつもりなのだ。

そうして十分もしないうちに、竜騎士団の専用飼育場に到着したレオニス。

ここでも猛烈な勢いで迫りくるレオニスに、門番達が唖然としていた。

「すまん、急ぎの用事だ、通してくれ!」

「は、はい!」

竜騎士団でも顔パスのレオニス、門番達の了承を得て飼育場の中に入る。

すると、宿舎の手前の鍛錬場で第一旅団長のエレオノラが相棒の飛竜とともにいるのが見えた。

レオニスは早速とばかりに、エレオノラに声をかけた。

「おーい、エレオノラ!」

「ン? あら、レオニス卿、ご無沙汰しておりますー」

怒涛の勢いで駆け寄ってくるレオニスに、エレオノラがのんびりとした挨拶を口にする。

「本日は何か御用で?」

「こないだの邪竜の島討滅戦の時に使った、浄化魔法の呪符の余り。あれを受け取りに来た」

「ああ……あれでしたら確か、ルシウス副団長が集めてましたよ。いつでもレオニス卿にお返しできるよう、会議室の書棚の引き出しに仕舞ってあるはずです」

今日の用向きを問うたエレオノラに、レオニスがその目的を伝える。

エレオノラの話によると、未使用の浄化魔法呪符『究極』は既に一ヶ所に集められて管理されているようだ。

「今すぐ持って帰りたいんだが、いいか?」

「もちろんですとも。ただ、引き渡し完了のサインだけお願いいたします」

「承知した。そしたらエレオノラも会議室についてきてくれ」

「分かりました。……って、何をそんなに急いでいるんですか!?」

急いで宿舎に向かうレオニス。

バビューン!と猛ダッシュするレオニスに、エレオノラが慌てて走りながらその後をついていく。

その後レオニスは宿舎に入り、一階奥にある会議室に向かうレオニス。

会議室の中には誰もおらず、書棚の前でエレオノラの到着を待つ。

程なくして、息を切らしたエレオノラが会議室の中に入ってきた。

「ハァ、ハァ……レオニス卿、一体どうしたんです、そんなに慌てて……」

「すまん、詳しい話はまた後でするが、浄化魔法呪符『究極』が要る事態が起きた」

「何か大事が起きたのですね?」

エレオノラはレオニスの話を聞きつつ、レオニスの目当てである浄化魔法呪符『究極』が保管されている書棚の引き出しを開ける。

そこには約三十枚の浄化魔法呪符『究極』と、引き渡し用の書類がいっしょに置かれていた。

「レオニス卿、こちらが未使用の浄化魔法呪符三十枚です。こちらの書類にサインをお願いいたします」

「分かった」

会議室のテーブルの上に書類を置き、エレオノラが貸してくれたペンでスラスラと記名していくレオニス。

かつてレオニスは邪竜の島討滅戦において、邪竜が撒き散らす瘴気対策として三十人の竜騎士達に各五枚づつ浄化魔法呪符を渡した。

計百五十枚の呪符を配った訳だが、そのうち余ったのはたったの三十枚。一人につき四枚を消耗した計算になる。

これは、竜騎士と相棒の飛竜が二枚づつ使ったことになり、邪竜の島討滅戦での瘴気が如何に酷いものだったかを物語っていた。

しかし、そのたった三十枚でも今はとてもありがたいとレオニスは思う。

ラウルが魔術師ギルドで同品を新たに購入できるかどうか分からない今、この三十枚はかなり貴重な浄化アイテムなのだ。

書類に署名し終えたレオニス、ペンと書類をエレオノラに渡して確認してもらう。

レオニスから書類を受け取ったエレオノラは、レオニスの記名を確認した後に受取確認者の欄に自分の名前を記入していく。

「これで呪符の引き渡しは完了いたしました。レオニス卿、わざわざご足労いただきありがとうございました」

「いや、こっちこそ余剰分をまとめておいてくれて助かった。ディラン達皆にも、俺が礼を言っていたと伝えておいてくれ」

「分かりました」

書類上の手続きを完了し、エレオノラから三十枚の浄化魔法呪符を受け取ったレオニス。

早速空間魔法陣を開き、たった今回収したばかりの浄化魔法呪符を仕舞い込んだ。

「すまんが、これで失礼する。本当に助かったよ、ありがとうな」

「いえいえ、どういたしまして」

改めて礼を言うレオニスに、エレオノラがニッコリと微笑みながら返す。

そしてエレオノラの笑顔はすぐに消えて、真面目な顔つきでレオニスに語りかけた。

「あの強力な浄化魔法呪符が必要になるということは、何やら深刻な事件が起きたようですが……もし我らで力になれることがありましたら、いつでも我らにお声がけください。我らは竜騎士団という公の組織故、表立って個人を支援することはできませんが……それでも我らはレオニス卿に多大な恩があります故、皆何かしらのお力になりたいと思っております」

「ありがとう。今はその言葉だけで十分だし、もしこの先本当にお前らの力を貸してほしいとなったら、その時は遠慮なく頼らせてもらう」

「ええ、いつでもお待ちしております」

エレオノラの真摯な言葉に、レオニスは心から嬉しく思い礼を言う。

確かにエレオノラの言う通りで、竜騎士団とはアクシーディア公国直属機関。

竜騎士団に所属する者は皆公僕であり、一個人の私的な事情に関わることは本来なら許されることではない。

しかし、公僕と言えども皆一人の人間。

恩義ある者に対して報いたいという気持ちを持つのは当然のことであり、大義なく飛竜を動かしたりなどしたの職権濫用さえしなければ、個人的な付き合いまで制限される謂れはないのだ。

「じゃ、またな。皆にもくれぐれもよろしく伝えてくれ」

「分かりました。レオニス卿のご武運をお祈りしております」

竜騎士団での用事を終えたレオニスは、鷲獅子騎士団に戻るべく専用飼育場を後にした。