軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1232話 ニルの家族

オーガの長老ニル宅に上がったライト達。

中の間取りもラキ宅より広々として見える。

そうして通された客間には茣蓙のような敷物が敷いてあり、そこに直に座るニル。

ここなら小さなライトでも皆と同じように寛げるだろう、というニルなりの配慮である。

ライトは前世の日本の生活風景を思い浮かべつつ、和風の座敷みたいでこういうのもいいなー、とライトは内心で思う。

初めて見る長老ニル宅の物珍しさに、ライトがキョロキョロと周囲を見回している。

その間に、ニルとレオニスがのんびりとした会話をしている。

「こうして角なしの鬼を我が家に招くなど、思えば今まで一度もなかったのう」

「まぁな、これまでそんな機会もなかったしな……つーか、ニル爺さんの一人娘は他所の鬼人族のところに嫁に出たんだったか?」

「ああ、東のオーガの里の前族長の息子に見初められてな」

「それって一応政略結婚みたいなもんなのか?」

何気なく会話しているレオニスとニルだが、初めて聞くニルの家族事情に思わずライトの耳はダンボになる。

というか、レオニスの質問も大概失敬だが、前族長にして現長老というニルの立場を考えれば政略結婚と考えても不思議はない。

そしてニルもまたこの程度のことはキニシナイ!ので、普通に答える。

「いやいや、うちの娘……レナも娘婿のセスに一目惚れしたらしくてな。ま、いわゆる相思相愛というやつだから決して政略結婚ではない。向こうで二人の子を生んで、何年か前にはその孫の子、 玄孫(やしゃご) にも恵まれておる」

「おお、そうなんか、そりゃ羨ましいもんだ。たまには皆で里帰りとかしてくるのか?」

「いや、玄孫が生まれてからはまだ一度も帰ってきておらん。子供が小さいうちは、里の行き来の移動も大変なのでな」

「まぁ、そうだよなぁ。人族だって、遠い街に嫁いだら実家に帰るのは大変だって聞くもんなー」

ニルの娘レナが相思相愛と聞き、レオニスが心底羨ましがっている。

しかし、ここでも初耳情報がてんこ盛りなことにライトだけでなくラウルの耳までダンボになる。

するとここで、ニルがラウルの腕の中にいるラーデに目を留めた。

「ところで……ラウル先生が抱っこしておられるそれは……」

「あ? ……ああ、そういや今日はそれでここに来たんだったわ」

「角なしの鬼よ……もう物忘れが始まったのか?」

「ニル爺よ、知らんのか? 俺に物覚えの良さを期待しちゃいけねぇんだぜ?」

「おお、そうなのか、よく覚えておこう……って、儂も物忘れに関しては人のことを言えんがな」

「違ぇねぇwww」

「「ワーッハッハッハッハ!」」

互いに物覚えの悪さを自覚している者同士、レオニスとニルがふんぞり返りながら豪快に高笑いしている。

そうして一頻り高笑いした後、やっと本題に戻る。

「あの赤いのはラーデといってな、ニル爺なら竜のことを知ってるかも、とラキに言われてここに来たんだ」

「確かに儂が若い頃には、竜のいる山まで遠出したことはあるが……そのような羽毛を持つ竜、しかも六枚の翼持ちとは何とも珍しい。儂でも初めて見るわ」

五百歳を超えるニルでも初めて見る物珍しい 竜(ラーデ) を、繁繁と興味深く見るニル。

そんなニルに、レオニスがラーデの正体を明かす。

「そりゃそうだ。こいつは種族で言えば皇竜メシェ・イラーデだからな。俺達人族の間でも皇竜は伝説の生物だったし」

「皇竜とな!? 皇竜と言えば、竜の祖を示す言葉ではないか!」

「そそそ、それそれ」

「角なしの鬼よ、何でそんな伝説級の竜をこんな気軽に連れ歩いておるんじゃ!?」

「それがな、これには訳があってだな―――」

ラーデが皇竜であると知り、ニルの目がまん丸&点になる。

さすがはニル、オーガ族の生き字引的存在だけあって皇竜のことも知識として知っていたようだ。

そんなニルに、レオニスがラーデを連れてきた経緯を掻い摘んで話していく。

「はぁ……天空島、空に浮かぶ島々とは想像もつかんが……角なしの鬼ともなれば、天に至るも造作もないことなのだな」

「いや、いくら俺だってそこまで簡単なことじゃねぇけどな?」

「……で、皇竜の療養のために、地上に降りてカタポレンの森のお主の家にしばし留まる、という訳だな?」

「そうそう。何しろこの森は魔力がいくらでも溢れているからな。大量の魔力を必要とするラーデの療養に最適って訳よ」

レオニスの説明で、事情を理解したニル。

ラーデに向かって改めて頭を下げつつ挨拶をする。

「皇竜殿、ようこそ我が里にお越しくださった。儂はニル、そこにいるラキの前にこの里の長を務めておった者にて、以後お見知りおきいただきたい」

『うむ。我はラーデ、かつてはメシェ・イラーデと名乗っていたが、今はラーデという名で過ごしておる。この里の者は皆心優しき者達ばかりだな。我のことを快く受け入れてくれること、本当に嬉しく思う』

「角なしの鬼やラウル先生、そしてライトは我が里の恩人ですからな。恩人達が信用する者ならば、我らにとっても信ずるに値しますからな!」

ラーデの言葉に、頭を上げてニカッ!と笑うニル。

大恩ある者達が連れてきた者ならば、自分達も無条件で信じる―――ニルが語った言葉はオーガ族の総意であり本心だった。

そんなニルの眩しい笑顔に、ラーデもまた嬉しそうに微笑む。

ラーデはラウルの腕の中から飛び出し、ふよふよと飛んでニルの膝に乗る。

ニルの人懐っこい笑顔と豪快な性格に、ラーデはニルのことを気に入ったようだ。

『ほう、レオニスだけでなくラウルやライトまでも恩人なのか?』

「如何にも。この角なしの鬼のみならず、ラウル先生もライトも我らの救世主ですじゃ」

『それは実に興味深い。どのような経緯でそうなったのか、聞いてもよいだろうか?』

「もちろんですとも!あれは過日、この里にて起きた大事件で―――」

その後ニルとラーデは、かつて起こったオーガの里襲撃事件を始めとして、ニルが若かりし頃に出会った竜の話など、様々な話で盛り上がっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ニルとラーデが楽しく話をしている間に、ニルの妻ルネが入室してきた。

その手には大きなお盆を持っていて、ライト達にお茶を持ってきたようだ。

「あらあらまぁまぁ、うちの人が何やら騒がしいわねぇ」

「おお、ルネ婆様、突然大勢で訪ねてきてすまない」

「いいのよー、うちは私とあの人の二人暮らしだから。こうしてお客さんが来てくれるだけで嬉しいのよー」

「そう言ってもらえると助かる」

一人一人の前にお茶を出すルネ。

ライトやレオニス、ラウルにはオーガ族の子供達が使うカップでお茶を出してくれた。

オーガの子供達は体格的にレオニスやラウルと大差ないので、食器も子供用のものが最適なのだ。

ライト達一人一人にお茶を出しながら、ルネがレオニスに声をかける。

「レオニス君も、お久しぶりねぇ」

「ああ、こないだのラニの宴会以来か。ルネさんは滅多に表に出てこないレアキャラだからな、なかなか会えないが元気にしてたか?」

「おかげさまでね、この通り元気に過ごしているわ。というか、私、ラウル先生にはよくお会いするのだけどね?」

「え、そうなんか?」

久しぶりに会うルネに、レオニスが珍しく丁寧に接している。

レオニスの場合、ニルに対しては『ニル爺』と気安く接しているが、年配の女性達と会話する機会がないのは事実だ。

だからこそルネのことは『レアキャラ』と評していたのに、何とルネはラウルとは頻繁に会っていると言うではないか。

この驚愕の事実に、レオニスが思わず目を点にしながらギュルン!と首を90°向けて横にいるラウルの顔をガン見する。

そんなレオニスの反応を他所に、ラウルは事も無げにそのからくりを明かす。

「そりゃあな。ルネさんは俺の料理教室の常連さんだし」

「料理教室……その手があったんか……」

「本当にねぇ、ラウル先生のお料理教室は素晴らしいわ!このハーブティー?も、ラウル先生に教えてもらったものなのよー」

全てのお茶を出し終えて、お盆を胸に持ちながらニコニコ笑顔でお茶の説明をするルネ。

ルネの話によると、今皆に出したのはカモミールティーで、このカモミールもラウルが種を持ち込んでオーガの里で栽培しているという。

このカモミールも然程栽培は難しくなくよく育つので、カモミールティーの元となる花を収穫後乾燥させてお茶にして飲むのだそうだ。

「このカモミールティーは、里の外周に新たに作った畑で栽培しててね。これからはうちの特産品として、行商の売り物の取引品目に加える計画が進んでいるのよ」

「ほう、このお茶を特産品にするのか。お茶なら乾燥させれば日持ちもするし、一つでもオーガの里の売り物が増えるなら良いことだな」

ライト達に出されたカモミールティー。

これがオーガの里の特産品として栽培されていると聞き、手に持ったカップの中のお茶をレオニスが感心したように眺めている。

そんなルネの解説に、ラキも頷きながら会話に入る。

「ラウル先生のおかげで、我が里は着実に豊かになってきている。本当にありがたいことだ」

「どういたしまして。つーか、俺はきっかけを与えただけに過ぎん。そこから先、大事に育てて伸ばしていくのはラキさん達オーガの民の仕事だ」

「そうね。カモミールの栽培と収穫、そして乾燥まで主に私達女衆に任されているから、私も頑張らないとね」

ラウルを褒め称えるラキの言葉に、ラウルは事も無げに返す。

そしてそんなラウルの当然といった言葉に、今度はルネが奮起している。

ニルの自宅を訪ねたことで、オーガの里の様々な話を聞けたライト。

これからもオーガの里がますます繁栄していくといいな、と心から願うのだった。