軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1233話 それぞれの過ごし方

ニル宅でいろんな話に花を咲かせていると、玄関の方から誰かの声が聞こえてきた。

「ニルおじいちゃん、ルネおばあちゃん、こんにちはー!」

「「「こんにちはー!」」」

その声は複数で、しかも幼い子供達のものだ。

早速ルネが「はいはーい」と言いながら玄関に向かう。

しばらくしてからルネが戻ってきて、ライトに声をかけた。

「ライト君、ルゥちゃん達がラニといっしょに遊ぼうって来てるわ」

「ホントですか!? レオ兄ちゃん、ルゥちゃん達と遊びに行ってもいい?」

「もちろんいいぞ。ただし、間違っても勝手に里の外に出たりするなよ?」

「うん!」

ルゥ達が遊びに誘いに来てくれたと知り、ライトはレオニスの了承を得て早速外に出ていった。

そんなライトを微笑みながら見ていたルネが、ラウルに声をかけた。

「ラウル先生、よろしければ私達もお散歩しませんか? このハーブティーのもとになっている、カモミールの花畑をお見せしたいのですが」

「おお、そりゃいい。ルネさん達が丹精込めて育てたカモミール、是非とも見てみたいな!」

「では早速参りましょう。あなた、ラウル先生とカモミール畑に行ってきますねー」

「おお、気をつけてな」

ルネの粋な誘いに、ラウルも一も二もなく乗る。

そして二人していそいそと外に出ていく。

そんなラウル達を、レオニスもニルも微笑みながら送り出していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ニル宅玄関先で、ルゥ達と合流したライト。

ルゥとともに来ていたラニを見て、嬉しそうに抱きついた。

「ラニ、久しぶりだね!元気にしてた!?」

「ワォン!」

ラニはルゥの後ろでおすわりをして待っていたのだが、おすわりをしていても立っているライトより体高が高い。

この大きさなら、ライトやレオニス、ラウルを一度に三人背中に乗せても大丈夫そうだ。

「ラニ、本当に大きくなったねぇ」

「ラニも私達と同じご飯を食べているのよ。ママが作るご飯は毎日すっごく美味しくて、パパも私もレンもロイもラニも、皆一度はおかわりしちゃうの!」

「そっかー、たくさん食べればそれだけ早く大きくなるよねぇ」

ライトがラニの身体をもふもふしている間に、ルゥや他の子供達もライトといっしょにもふもふしている。

艶やかな黒い毛並は、人族のみならずルゥ達鬼人族をも魅了してやまないのである。

「ところで皆は、いつもラニとどんな遊びをしてるの?」

「ンーとねぇ、皆でラニの背中に乗って走ったり、ライト君に教えてもらったブーメランやボールを鍛錬場で交代で投げて、それをラニが飛びながら取ったりとかかな!」

「いいね、それ楽しそう!」

「そしたら今から鍛錬場に行って、皆でブーメラン投げする?」

「うん!」

ルゥ達の普段の遊び方を聞いたライトの顔が、パァッ!と明るくなる。

ルゥが語ったそれは、動物との戯れにおいて鉄板の遊び方。

かくいうライトも正月三が日の間に、ディーノ村でドラゴンの幼体クー太ちゃんを相手にほぼ同じような遊び方をしてきた。

クー太ちゃんと遊んだ時だってものすごく楽しかったのだ、ラニとも絶対に楽しく遊べるに違いない。

ライトと子供達は、迷うことなく鍛錬場に向かって駆け出していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方、ルネに誘われてカモミールの畑に移動したラウル。

オーガの里の外周に新しく開墾したという畑には、ラウルの背丈程もある大きなカモミールがたくさんの白い花をつけて咲いていた。

「おおお……結構な量だな」

「ええ。ラウル先生が仰った通り、このカモミールは生命力が強くてあまり手間もかからず、おかげさまで私達オーガのような粗忽者でも育てることができております」

「そりゃ良かった。つーか、やはりカモミールもカタポレンの森で育てると普通のものの何倍も大きく育つんだな」

ラウルの手のひらほどもある白い花を、ラウルは感心しながら眺めている。

カモミールティーとは、ジャーマンカモミールと呼ばれる種類の花を使用したハーブティーだ。

ジャーマンカモミールの花は花弁は白く、中央の黄色い花芯が大きく盛り上がっている。

この花を収穫し、乾燥させたものがお茶となる。

その効能はリラックス効果や安眠が得られる他、冷え性や胃腸を整えるのにも良いとされている。

「これのお茶のおかげで、うちの人の寝付きが良くなったんですよ」

「ハーブティーにはいろんな種類があって、効果も様々だからな。何にせよ、カモミールティーで良い効果が得られたなら何よりだ」

ルネの話に、ラウルも大きく頷いている。

これまでオーガの里で飲む茶と言えば、カタポレンの森に自然に生えているよもぎっぽい葉を乾燥させてお湯に浸して飲むくらいだったが、ラウルが持ち込んだ新種のカモミールティーも好意的に受け入れられているようだ。

「ルネさん、俺にもこの花を少し分けてもらえるか?」

「もちろんですとも!お好きなだけ摘んでいってくださいまし」

「ありがとう。何、これだけの大きさだ、お茶として飲むには十個ももらえりゃ十分だ」

「あらまぁ、ラウル先生ってば謙虚でいらっしゃるのねぇ。うちの人もラウル先生を見習ってほしいものですわ」

「いやいや、俺は謙虚とは真反対側の妖精だぞ?」

オーガの里のカモミールの花を十個ほど欲しいというラウルに、ルネが笑顔で快諾する。

ルネにしてみれば、たった十個でいいの?もっと採っていってもいいのよ?と思うところなのだが。ラウルが本当に本気を出したら、ここにある花全てがラウルの空間魔法陣に収納されてしまうだろう。

カモミールの花が香る畑で、妖精の青年と鬼人族のご婦人の穏やかな会話と時間が流れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトがルゥ達と鍛錬場でブーメラン投げに興じ、ラウルとルネがカモミールの花畑でのんびりと過ごしている頃。

ニル宅に残るはニルとレオニスとラキ、そしてラーデだけになった。

立て続けに人が減って、ライト達が去った後の客間にしばし静寂が広がる。

しかし、そんな静寂もほんの一瞬のこと。

ニルがレオニスに向かって話しかけた。

「角なしの鬼よ、一つ聞きたいことがあるのだが」

「ン? 何だ?」

「お主、東のオーガの里には行ったことはあるか?」

「東のオーガの里か? 一応場所は分かるが……」

ニルの質問に、レオニスが上目遣いになりながら答えていく。

「あそこのオーガって、基本的に鬼人以外の異種族はお断り!なやつらだから、直接話したり里の中に入ったことはねぇな」

「そうか……確かに東の里の者達は閉鎖的なところがあるからな。如何にお主であろうとも、そう簡単に受け入れはせんだろうな」

「だよな。なので俺としても、無理に接触したいとは思わん」

レオニスの答えに、ニルが俯きながらぼそりと呟く。

レオニスやライトが普段から懇意にしているこのオーガの里は、鬼人族の間では通称『中央』もしくは『中央の里』と呼ばれる。

これはただ単に、この里がカタポレンの森の中央付近にあるからそう呼ばれるだけで、決してここが鬼人族の中央=中心であるという意味ではない。

そして、このサイサクス世界には鬼人族の集落がいくつもある。

もちろんこの中央の里や東の里だけでなく、他にもたくさんの鬼人族の集落が存在している。

そして各集落毎に特徴があり、それは民族性だけでなく肌の色や髪の色も異なる場合が多い。

現代日本がある地球にだって、白人や黒人、アジア人など様々な人種がいるように、サイサクス世界の鬼人族にも様々な種族があるのだ。

「角なしの鬼よ……東の里に入れとまでは言わんが、もしその近くを通ったら……里の外からでいいから、様子を見てはくれまいか」

「そりゃいいが……東のやつらに何かあったんか?」

「いや、特に明確に何かがあったという訳ではない。ただ……孫が子を生んだと聞いてから久しいのに、なかなか顔を見せてくれんのがもどかしくてのぅ」

「そっか……」

ニルの頼みごとに、レオニスは拒絶こそしないものの何事があったのかを問う。

ニルの口ぶりでは、娘一家が里帰りしないのが寂しいようにしか聞こえないが、何年もの間一度も帰ってこないとなればニルが心配するのも無理はない。

いつになくしょげているニルに、レオニスは努めて明るい声で返す。

「……ま、他ならぬニル爺の頼みだ。向こうに行ったら様子を見てこよう」

「おお、引き受けてくれるか!」

「おう、この程度ならいくらでも頼まれてやるさ」

「さすがは角なしの鬼、頼もしいのう!」

「ニル爺ェ……そう思うなら、そろそろ俺の名を普通に呼んでくれてもいいんだぞ?」

特に報酬なども提示しない、正式な依頼でも何でもない頼みごとを快く引き受けるレオニスに、ニルが破顔する。

そんなニルにレオニスがチクリと嫌味を言うが、もちろんそれを聞き入れるニルではない。

ご機嫌な様子で、レオニスの肩をバンバン!と叩く。

「よし、そしたらその礼に、今度また儂がお主を肩車してやろう!」

「それが報酬かー? ……まぁな、ニル爺の肩から眺める森と空は絶景だけどよ」

「何なら儂と追いかけっこをしてもよいぞ!『オーガの韋駄天』と呼ばれし我が俊足、とくと見せてやろうぞ」

「ここでも追いかけっこかよ……絶対に負けんからな?」

アクアだけでなく、ニルにまで追いかけっこ勝負を持ちかけられたレオニス。

ここ最近、レオニスの追いかけっこ勝負の勝率はあまり芳しくないのだが。そこは負けず嫌いのレオニスのこと、売られた勝負は高価買取がモットーなので断るという選択肢はない。

鬼人族長老ニルと、その本家本元たる鬼人族に【角なしの鬼】と呼ばれるレオニス。

両者の新たなる勝負の約束が交わされた瞬間だった。