軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1222話 邪竜の島討滅戦の後始末

レオニスが鷲獅子騎士団相手に、様々な話し合いを始める少し前に時間は遡る。

ラウルは週明けの月曜日に、昼頃からツェリザークに出かけていた。

その目的は、ツェリザーク近郊に邪龍の残穢が大量発生していないか確認するためである。

本当ならラウルは、邪竜の島討滅戦の際にはツェリザークで待機する予定だった。邪竜の島討滅戦で邪竜を大量討伐するため、その余波でツェリザークにのみ発生する邪竜の思念の集合体、邪龍の残穢まで大量発生する懸念があったからだ。

しかしその討滅戦は、先週の金曜日夜に邪竜の島側からの奇襲により勃発し、土曜日未明に天空島側の勝利を以って無事決着した。

討滅戦終結後、当日と翌日は皆草臥れきって動けなかったが、ラウルだけはツェリザークのことが気がかりで仕方がなかった。

何故ならツェリザークは、魔力をたっぷり含む美味しい水をもたらしてくれる大事な地。ラウルにとって聖地にも等しいこの場所で、万が一にも邪龍の残穢が大量発生していたら、と思うと気が気でない。

故にラウルは早々にツェリザークの様子を見に出かけた、という訳だ。

ちなみにその間ラーデは、ユグドラツィのもとでお留守番してもらうことにした。

ユグドラツィもライト達が身に着けている分体を通して、先日天空島で起こった討滅戦の一部始終を見ている。

故にユグドラツィはラーデ=皇竜メシェ・イラーデの存在も知っているので、ライトやレオニス、ラウルの不在中に預ける先として最適なのである。

ツェリザークに出かける前にラーデをユグドラツィに託すべく、ラーデをおんぶしながらカタポレンの森の上を飛ぶラウル。

ラウルの背中にしがみつくラーデは、気持ち良さそうに魔力たっぷりの風を浴びている。

そしてユグドラツィのもとに辿り着いたラウルとラーデ。

二人の来訪を、ユグドラツィは快く歓迎する。

「よう、ツィちゃん。元気にしてたか?」

『いらっしゃい、ラウル。昨日は本当にお疲れさまでした。そして……エル姉様を助けてくれて、本当にありがとう』

「何、礼を言われる程のことでもないさ。エルちゃんも俺の大事な友達だからな」

『それでも礼を言わせてください。貴方方の助力がなければ、エル姉様を含めた全ての天空島が敵の手に落ちていたことでしょう……もし万が一にもそんなことになっていたら、と思うと……今でも震えが止まりません』

挨拶を交わしながら、天空島での戦いを労い姉のユグドラエルを助けてくれたことに礼を言うユグドラツィ。

その枝葉はザワザワと揺れ動き、彼女の心の動揺を表しているかのようだ。

そんなユグドラツィの不安を取り除くべく、ラウルは微笑みながら声をかける。

「大丈夫、もう心配は要らない。邪竜の島は完全に消え去ったんだから」

『そうですね……皆のおかげで天空島の平和と安寧は守られました。そして……そこにいるのが皇竜メシェ・イラーデ様ですね?』

ユグドラツィは改めて安堵を噛みしめるとともに、ラウルの背中にしがみついたままのラーデに声をかけた。

ユグドラツィからの呼びかけに応じ、ラーデがラウルの背中から離れてふよふよと飛んで前に出る。

『如何にも。我は皇竜メシェ・イラーデ。……もっとも今は『ラーデ』という名で呼ばれておるがな』

『フフフ、では私も敬愛の意を込めて『ラーデ様』とお呼びしてもよろしいですか?』

『様は要らぬ。今の我には、様付けで呼ばれる程の威厳などないからな』

『分かりました。ラーデ、貴方にお会いできて本当に嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね』

『こちらこそ。しばらくあの家で厄介になる故、これからここに来ることも多くなるだろうからな』

嬉しそうな声音でラーデに語りかけるユグドラツィ。

分体を通して見たラーデの姿も愛らしかったが、実物はさらに可愛らしく思えるようだ。

親しみを込めてラーデの名を呼ぶユグドラツィに、ラーデも満更でもなさそうな声で答えていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラーデを無事ユグドラツィのもとに預けたラウル。

ユグドラツィには「夕方には戻るから、それまでラーデをよろしくな」と頼み、ラーデにも「お利口さんで待ってるんだぞ。でもって、ツィちゃんとも仲良くな」と言い含めてある。

まずはカタポレンの家からラグナロッツァの屋敷に移動し、そこから冒険者ギルド総本部に行き転移門でツェリザーク支部に移動した。

ツェリザーク支部の大広間は、見たところ普段と変わらない程度の賑やかさに思える。

この様子なら、邪龍の残穢が大発生していることはなさそうだ……とラウルは内心で安堵する。

そして受付窓口にいる受付嬢クレハに声をかけた。

「よ、クレハ。今日も受付仕事、ご苦労さん」

「あらまぁ、殻処理貴公子様ではありませんか!ようこそお越しくださいましたぁ!」

ラウルの顔を見たクレハの顔が、パァッ!と明るくなる。

クレハにとってラウルとは、ツェリザークの社会問題である氷蟹の殻処理問題を迅速に解決してくれる、神の使徒にも等しい唯一無二の存在なのである。

そしてクレハはニコニコ笑顔のままラウルに問うた。

「今日も氷蟹の殻処理依頼を引き受けてくださるのですか?」

「それもあるが、以前話した邪龍の残穢の件。あれがどうなってるのか気になってな」

「……ああ、去年の初冬に聞いた例の案件ですよね? 今のところ、邪龍の残穢が発生したという報告は直近では受けていませんが……え? もしかして、もう例の作戦が行われたのですか?」

ラウルの答えに、クレハがびっくりしている。

今年の一月末に、とある事情により邪龍の残穢が大量発生するかもしれない懸念がある、というのはツェリザーク支部全体に広く通知されていた。

もしその懸念通りに邪龍の残穢が大量発生すれば、このツェリザークは未曾有の危機に直面することになるからだ。

万が一の中でも最悪の事態になった場合に備えて、ツェリザーク支部でも様々な対策を講じてきた。

そして、レオニスに予言された時期に近づいてきていた昨今。

いつ何時邪龍の残穢発生通報が来てもいいよう、心構えだけは常に欠かさず持っていたつもりのクレハ。

しかし、まさかその一報がラウルからもたらされるとは、全くの予想外だったようだ。

そんなクレハに、ラウルが掻い摘んで解説を始めた。

「公国生誕祭最終日の夜に、天空島が邪竜の島から奇襲を受けてな。そのまま討滅戦に移行し、何とか天空島側の勝利で収まった」

「生誕祭終了直後にですか!? それは大変でしたね……ラウルさんもその作戦に参加なされたのですか?」

「もちろん。本来俺は討滅戦には参加しないで、このツェリザークで邪龍の残穢発生に備える予定だったんだがな。そうする間もなく討滅戦が行われたことを、ツェリザーク支部にも知らせておきたかったんだ」

「本当にありがとうございますぅ……ツェリザークはいつもラウルさんに助けられていますぅ」

ラウルの話に、クレハが席から立ち上がり深々と頭を下げる。

そしてすぐに頭を上げ、ラウルに相談を持ちかけた。

「このことを、今すぐ支部長に報告を上げなければなりませんが……よろしければラウルさんもご同席願えますか? できれば討滅戦での様子など、いくつかお聞きしたいこともございますし」

「俺で良ければ構わん。もっとも俺自身は最前線に出ていないんで、話せることも限られるとは思うが」

「それでも構いません。ラウルさんが分かる範囲でお聞かせいただければありがたいですぅ」

「承知した」

クレハの要請にラウルも承諾し、二人で支部長室に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

支部長室での話を終え、冒険者ギルドツェリザーク支部を後にしたラウル。

ツェリザーク支部長のハイラムとの話し合いの中で、当面は邪龍の残穢発生に対する警戒を続ける、ということになった。

討滅戦で大量に討伐された邪竜が、いつ邪龍の残穢として蘇るか分からない。もしかしたら今日明日にも大量発生するかもしれないし、あるいはこの先もずっと発生しないかもしれない。

思念体である邪龍の残穢の発生メカニズムは、現状では解明されていない。そのため先のことなど誰にも分からないし、全く読めないのが実情だ。

ひとまず今後一週間は厳戒態勢を維持し、そのまま何事も起きなければ段階的に警戒を緩めていく、とハイラムはその場で決定した。

もし万が一、あまりにも大量の邪龍の残穢が発生したら、その時はラグナロッツァ総本部に救援要請を出すのでレオニス君とともに駆けつけてくれるとありがたい、とハイラムに言われたラウル。もちろん二つ返事で承諾する。

そうして一通りの報告と打ち合わせを終えて、ツェリザークの街の外に出たラウル。

冒険者としての責務を果たした後は、ラウルのお待ちかねの雪狩りタイムの始まりである。

もちろん雪狩りするだけではない。きちんと氷の女王にも会っていくつもりだ。

大きな門から外に出て、ラウルはすぐに氷の洞窟に向かって飛んでいく。城塞都市の外は、相変わらず真っ白い雪原が限りなく広がっていた。

大きな木々の半分くらいが雪に埋もれている景色がしばし続く。

ツェリザーク近郊は毎年大量の雪に埋もれるが、今年はまた特に雪が多く降っているようだ。

ツェリザークの街と氷の洞窟の中間地点まで来たラウル。

ある地点から、積雪の高さががくんと下がる場所に出た。

何故そこから雪の量が減少しているかというと、それはラウルが前回雪狩りで訪れた場所だから。

前回の雪狩りでごっそりと採取した後に、また新たに雪が降り積もり続ける。その段差は結構な差となって現れていた。

ラウルは飛んだままで空間魔法陣を開き、大きなスコップを取り出した。

そしてスコップで雪を掬っては、ポイ、ポイポイー、と空間魔法陣にじゃんじゃん放り込んでいく。

氷の女王が出してくれる氷の槍や、氷の洞窟の壁の氷ももちろんいいのだが。魔力が少なめの雪も、普段の飲み水にしたり調理用の茹で水にしたりとちゃんと用途があって、それなりに使い勝手が良いのだ。

そうしてラウルが一心不乱に綺麗な新雪を採取しながら、氷の洞窟に向かうこと約小一時間。氷の洞窟の入口が見えてきた。

ここまで来た感じでは、冒険者ギルドツェリザーク支部でも聞いたように邪龍の残穢は発生していないようだ。

そのことに、ラウルは内心で安堵する。

ラウルは洞窟入口ギリギリまで雪を採取し、最後にスコップを空間魔法陣に仕舞い込む。

スコップと入れ替わりに氷の勲章を取り出し、黒の燕尾服の内ポケットに忍ばせてから氷の洞窟内部に入っていった。