軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1191話 本当の敵

突如現れた暗黒蝙蝠、マードンを見たレオニスが思わず叫ぶ。

「ゲッ!ちょ、おま、マードンじゃねぇか!」

『パパ上しゃま、おッひさ~~~☆』

「貴様、何でここにいる!?」

ニヨニヨ笑顔でレオニスのことを『パパ上しゃま』と呼ぶマードン。そこにはおそらく悪意はない。

レオニスはマードンの主クロエがパパと慕う人物。故にマードンも、主の父親に対してこの上なく敬意を払っている、つもりなのだ。

しかし、レオニスにしてみたらたまったものではない。

クロエにパパと呼ばれるのは許せても、マードンに『パパ上』などと呼ばれるのは絶対に許し難い。

あまりの気色悪さに、レオニスは全身が鳥肌になりながら絶叫している。

「 つーか、その『パパ上しゃま』ってのやめろ!気色悪い!」

『えェーーー、だッてあーた、ココしゃまのパパ上でそ? 我、ココしゃまから『パパを馬鹿にすることは絶対に許さない』ッて言われてェるしィー』

「だからって!『パパ上』はねぇだろ、『パパ上』はよ!」

『だッたらァ、 何(なン) ーて呼べばヨロスィので?』

「普通に『レオニス』でいい!何なら『おめー』でもいいし、様付けも要らん!つーか、絶対に様付けするな!」

とぼけた顔であれこれ言い募るマードンに、レオニスが必死に抗議及び指導している。

ここでレオニスが先んじて様付け禁止にしておかなければ、間違いなくマードンはレオニスのことを『レオニスしゃま』と呼ぶだろう。

それだけは何としても断固阻止したいレオニス、兎にも角にも必死である。

『えェー、遠慮しなァくてイイのにィー。……ンじゃ、『レオニス』ッてー呼び捨てか、もしくは『おめー』呼びでええのだナ?』

「ああ、それで構わん……『パパ上』より『おめー』呼ばわりされた方がよっぽどマシだ……」

『つーか、もしココしゃまに『パパを呼び捨てすンな!』ッて怒られェたら、どーしてくれンの?』

「そん時は、俺が執り成してやるから安心しろ……」

マードンからの気色悪い呼び方を何とか回避し、呼び捨てさせることに成功したレオニス。何故だかドッと疲れたような顔をしている。

そんなレオニスに、横にいたピースが説明を求めた。

「ねぇねぇ、レオちん……この変な生き物、ナぁニ?」

「ぁー、こいつは暗黒蝙蝠のマードンってやつでな。廃都の魔城の四帝の【愚帝】の配下、屍鬼将ゾルディスの自称側近だったやつだ」

「ゾルディスってーと、アレ? 確か一年くらい前に、屍鬼化の呪いを撒き散らそうとしたヤツ?」

「そう、そいつだ」

ピースの求めに応じ、マードンの出自を掻い摘んで話すレオニス。

そんなレオニス達の前で、マードンがドヤ顔で語る。

『フッフーン。今の我ェはァー、ココしゃまのォー、忠ゥー実なる 下僕(しもォべ) だもんぬェーーーイ☆』

『偉大なるココしゃま、その下僕ェになれェテ、我、とーーーッても幸せェー♪』

『ココしゃまこそ至高!我の 生命(いのーち) 、全ェてを捧げるに 相応(ふッさ) わしーい御方!』

『ココしゃまァーーー!今日も我ェは、アナタ様のためェに!粉骨砕ッ身、働いておりマッスルヨーーー!』

「「…………」」

恍惚とした顔でペラペラと語るマードン。終いには両翼を思いっきり左右に広げて、天を仰ぐようにして叫んでいる。

マードンが主人であるクロエを称賛し忠誠を誓うのはいいが、いちいちキモい言動に今頃クロエが寒気に襲われていないか心配になってくる。

「……つーか、マードン、お前本当に何しにここに来たんだ……」

『……ア、ソレね。ココしゃまと闇の女王しゃまがナ? おめーにどーーーッ……しても、伝えェなきゃならァンことが、あンのだと』

「ココ達が俺に、か? それは一体何だ?」

『詳ッしーいことハ、ソコの 精霊(せーれー) に聞くがイイ』

マードンの話に、それまで脱力していたレオニスの顔が怪訝になる。

クロエと闇の女王が、今この時に自分に対してどうしても伝えたいことがある―――それはきっと、今ここで起きている事件に関連しているに違いない。レオニスは咄嗟にそう考えた。

しかし、マードン自身はそれが何か、詳細は全く知らないらしい。ドヤ顔で現れた割には役立たずである。

そんな役立たずなマードンがフイッ、と身体を後ろに向けた。

そしてその視線の先には、一体の闇の精霊がいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

マードンの斜め後ろにいた、一体の闇の精霊。

その背丈や顔つきなどから、上級精霊であることが窺える。

レオニスが闇の精霊に向けて声をかけた。

「闇の精霊よ、こいつの言っていることは本当か?」

『ええ、本当よ。ココ様が貴方との会話を望んでいるわ』

「会話? もしかして、俺の方から暗黒の洞窟に出向かなきゃならんか?」

『いいえ、その必要はないわ。私の身体をココ様にお貸しするから』

闇の精霊はそう言うと、目を閉じ静かに空中で佇む。

クロエが俺と話をしたいと言うくらいだから、とても大事な話だなんだろうが……まさかこの場を離れて、今すぐ暗黒の洞窟に行かなきゃならんのか?とレオニスは内心で焦っていたのだが。どうやらそうではないらしい。

如何に愛娘クロエの頼みでも、さすがに今レオニスがこの場を離れる訳にはいかない。レオニスは内心で安堵する。

それから数瞬の後、闇の精霊がその目をパッ!と開いたかと思うと、突如違う声を発した。

『パパ、ココの声が聞こえる?』

「おお、聞こえるぞ!確かにココの声だな!」

『良かった!ちゃんと通じたのね!』

闇の精霊の口から出てきた言葉の声音が、暗黒の洞窟にいるはずのクロエの声そのものだった。

クロエの話によると、これはクロエの意識を闇の精霊に憑依させることによって成せるのだという。

こうした離れ業は属性の女王達も可能で、同属性の精霊に対して有効な能力らしい。

そしてクロエは闇の女王に、闇の精霊への憑依の仕方を習った。

クロエの場合は闇の精霊ではなく神殿守護神だが、暗黒神殿の守護神なのだから闇の精霊への能力行使も可能なのだろう。

その新たな技を使い、クロエがレオニスに話しかけてきた。

『あのね、ココね、パパにどうしても今すぐお話ししたいことがあるの』

「何だ?」

『パパ、今すっごく危険なところにいるよね?』

「ああ……もしかしてココや闇の女王も、この天空島での出来事を見ているのか?」

『うん。今日の夜はいつもと違って、ものすごく怖くて黒い空気が空全体を覆っているの。だからココもすっごく気になって、マードンや闇の精霊達の目を通してその怖い空気のもとを探していたら……その中に、パパやお兄ちゃんがいるのが見えたの』

「そうか……」

闇の精霊の口を通して語るクロエの声からは、緊迫感が滲み出ている。

今レオニスの周辺で起きている事件、邪竜の群れが天空島を襲撃している様子を目の当たりにしているならば、クロエが緊張しているのも当然のことか。

クロエは強大な力を持つノワール・メデューサで、身体もそれなりに大きくなってきてはいるが、生後九ヶ月少しで心は幼子に等しい。

まだまだ子供のクロエを安心させるべく、レオニスが優しい口調で語りかける。

「ココや闇の女王にまで心配かけてしまってすまんな。でも大丈夫、俺達は邪竜の群れなんぞに絶対に負けない。もう少しで邪竜の島も落とせるしな。そしたら俺もライトも、すぐにカタポレンの森に帰るから。だからココも、そんなに心配しなくていい」

『…………』

クロエが憑依している闇の精霊の頭や頬を、レオニスがそっと撫でる。

それはクロエを安堵させたいがための行動なのだが、何故か闇の精霊の顔は一向に浮かないままだ。

眉間に皺を寄せて険しい顔の闇の精霊、クロエが思い詰めたようや声でレオニスに話しかけた。

『違う、そうじゃない……パパ達の本当の敵は、邪竜なんかじゃない……』

「ン? そりゃまぁ確かに? 邪竜の群れの後ろには、廃都の魔城の奴等がいるだろうが」

『それも違う……廃都の魔城の奴等は、そこにはいない……』

「……廃都の魔城の奴等でもないってんなら、何が本当の敵なんだ?」

言い淀むクロエに、レオニスが怪訝そうに問いかける。

廃都の魔城の四帝が天空島を奪い、そこに邪竜の群れを作ってあちこちで手駒として悪事を働いていることは明白だ。

しかし、クロエに言わせればそれとは別の本当の敵がいるらしい。

辛抱強く問いかけるレオニスの言葉に、クロエがようやくその重い口を開いた。

『その邪竜の島には……邪皇竜メシェ・イラーザがいる』

「「!?!?!?」」

クロエの口から出てきたとんでもない言葉に、レオニスとピースの顔が驚愕に染まっていった。