軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1192話 邪皇竜メシェ・イラーザ

邪皇竜メシェ・イラーザ―――

それは、レオニス達が生きるサイサクス世界において神話や御伽噺で語られる伝説の生物。

脳みそのような形をしたおどろおどろしい卵から生まれるだとか、孵化後の姿形は東洋竜型で、成体になると100メートル以上の長い胴体を持つとか、その外見は赤と青と黒が入り混じった、奇妙ながらも美しい色合いに満ちている等々、様々な伝説がサイサクス世界各地に残されている。

だが、邪皇竜メシェ・イラーザはそうした神話や御伽噺でしか語られることはなく、実際に見たり戦ったりしたという具体的な資料は現存していない。もちろんレオニスやピースだって、邪皇竜メシェ・イラーザの実物なんて一度も見たことがない。

それだけに、その実在を疑う者の方が多かった。

しかし、先程闇の精霊を通して語られたクロエの口から『邪皇竜メシェ・イラーザ』の名が出てきた。

これは、邪皇竜メシェ・イラーザが実在する魔物だということを指し示している。でなければ、クロエの口からその言葉が出てくるはずなどないのだから。

そしてその伝説の生物が、よりによって今レオニス達が交戦している邪竜の島にいるというではないか。

この思わぬ事態に、レオニスとピースの顔が青褪める。

「え、ちょ、何、レオちん……この闇の精霊が言ってること、マジ?」

「……今この闇の精霊には、ココという名の暗黒神殿の神殿守護神が憑いている。神殿守護神がそう言うなら、それは間違いない事実だ」

「ウッソーーーン……邪竜の島にそんなもんがいるなんて、洒落なんないじゃん……レオちん、どうする? これ、夜明けを待たずに今すぐ島を撃ち落とした方がいいヤツ?」

「…………」

明らかに動揺するピースに、レオニスはしばし考え込む。

そして徐に闇の精霊に声をかけた。

「ココ、邪竜の島にいるというメシェ・イラーザ、これについてココの知っていることを教えてくれないか?」

『うん、いいよ。邪皇竜メシェ・イラーザってのはね―――』

レオニスがクロエに求めたのは、邪皇竜メシェ・イラーザの情報。

それまでサイサクス世界では伝説の生物とされていただけに、メシェ・イラーザに関する正確な情報は殆どないに等しい。

この先メシェ・イラーザと戦うにしても、敵の情報が曖昧なままではレオニス達には圧倒的に不利だ。

敵に打ち勝つには、兎にも角にも相手の情報が必要なのである。

そしてクロエが語ったところによると、邪皇竜メシェ・イラーザは『邪皇竜』という名の通り邪悪な存在である。

一度地上に顕現すれば、邪皇竜が生きている間中ずっと膨大な瘴気を撒き散らし続け、メシェ・イラーザが通った後は草木一本も生えない死の地と化すという。

その威力はツェリザークの固有魔物、邪龍の残穢どころの話ではない。邪龍の残穢など足元にも及ばぬ瘴気の濃さは、地上に生きる者全ての生命を刈り取る―――それが邪皇竜メシェ・イラーザという存在なのだ。

しかしその邪皇竜メシェ・イラーザも、もともとは『皇竜メシェ・イラーデ』という光の眷属が何らかの理由により邪竜に堕とされたのだという。

その理由はクロエにも分からないらしいが、『邪皇竜メシェ・イラーザ』と『皇竜メシェ・イラーデ』は表裏一体の存在ということは本能レベルの知識としてクロエの中に備わっていた。

そして今邪竜の島にいる邪皇竜メシェ・イラーザは、まだ卵の段階にあるらしい。

邪竜の島の地表には、邪竜を召喚するための魔法陣が複数設置されており、さらにその中央には巨大な魔法陣があるという。

その巨大な魔法陣の上に邪皇竜の卵があって、今は孵化のための力を蓄えている段階だという。

「クロエ、卵が力を蓄えてるってことは、何かを栄養源にしてるんだよな?」

『うん』

「できれば孵化を阻止したいんだが……何を栄養源にしてるのか分かるか?」

『……それは……』

邪皇竜メシェ・イラーザなんてとんでもないものが、今ここで孵化するのは何としても避けたい。

そのためには、孵化するための栄養源を断つのが最も確実で手早い。

しかし、クロエの答える口調はとても重い。

躊躇いがちながらも、クロエはレオニスの求めに応じた。

『多分……邪竜だと思う』

「…………何?」

『私もさっき、マードンの目を通して見て初めて知ったんだけど……パパ達に倒された邪竜の魂が、卵のある島に引き寄せられていくのが見えたの。あれは多分、メシェ・イラーザの卵が邪竜の魂を吸収しているんだと思う』

「……何てこった……」

クロエの告げた見解に、レオニスが愕然とする。

絶え間なく涌き続ける邪竜の群れを、これまでレオニス達は必死に駆逐し続けてきた。

そのこと自体に瑕疵はない。そうしなければ、今頃天空島は数多の邪竜に蹂躙されていただろうから。

しかし、それが結果的に邪皇竜メシェ・イラーザの誕生を手助けしていたというのは痛恨の極みでしかない。

今更邪竜の群れの駆逐を止める訳にはいかない。

そんなことをすれば、再び邪竜の勢いが増してレオニス達を圧倒するようになる。引いては天空島勢の敗北に繋がり、全ての天空島は邪竜達の手に落ちるだろう。

それだけは、何としても阻止しなければならない。

かと言って、邪皇竜メシェ・イラーザの存在を知った以上は、無為に過ごし手を拱いている訳にはいかない。

邪皇竜メシェ・イラーザが孵化する前に、何とか手を打ち邪皇竜が生まれることを阻止したい。

そのためにはやはり、夜明けまで待つなどと悠長なことは言っていられなさそうだ。

「ピース、俺は急ぎ雷の女王とヴィーちゃんのもとに行く。光の女王とグリンちゃん、白銀とパラス、ディランにヴィーちゃんのもとに集合するよう伝えてくれるか? これはもう俺の独断では決められん、一度皆と相談したい」

「分かった!」

レオニスの頼みに、ピースが快諾し速攻で飛び去っていった。

レオニスがヴィゾーヴニルのもとに向かうことにしたのは、闇夜の中でも煌々と赤く光る身体が皆の目にも見つけやすいからだ。

そして邪皇竜メシェ・イラーザの件は、レオニス一人では到底手に負えない。

ここは前線で戦う者達、その主力級達を一堂に集めて話し合い、情報共有して対策を練ろう、という訳だ。

バビューン!と飛び去るピースを見送ったレオニスは、続けてクロエに向かって声をかける。

「ココもパパといっしょについてきてくれるか?」

『もちろんよ!ココはいつだってパパといっしょよ!』

「ありがとうな」

『♪♪♪』

闇の精霊を通してクロエに頼むレオニス。

もちろんクロエがレオニスの願いを断ることなどない。

嬉しそうに快諾するクロエに、レオニスが優しく微笑みながらそっと頭を撫でる。

大好きなパパに撫でてもらって、大満足したクロエ。今度はマードンに向かって指令を出した。

『そしたらマードンはもう一度邪竜の島に行って、しばらくの間島の監視をしてて。そうすればココの目でも島を見れて、その様子をパパ達に伝えることができるから』

『あいあいさー!』

ココの指令を受けたマードンも、これまた実に嬉しそうに快諾し嬉々としてすっ飛んでいく。

主であるクロエから指令をもらい、彼女の役に立つことがマードンにとっては心底嬉しいことのようだ。

マードンがすっ飛んでいった後、クロエがレオニスに向かって声をかけた。

『じゃあパパ、そのヴィーちゃんって子のところに行きましょ!』

「ああ。……そうだ、クロエ、せっかくなら俺の肩に乗っていくか?」

『うん!!』

雷の女王とヴィゾーヴニルのところに行こうと言うクロエに、レオニスも応じる。

そして、どうせいっしょに移動するなら自分の肩に乗りな、というレオニスの誘いにクロエが大喜びしている。

闇の精霊がレオニスの右肩にちょこん、と乗っかる。

そしてレオニスは、遠目にも赤く輝くヴィゾーヴニルがいる方向に向かって飛んでいった。