軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1190話 冒険者の勘

神殿の島から出たレオニスは、その後もいろいろと飛び回っていた。

まずは地上の調査。

今天空島が地上のどの位置にいるか、把握しておかなければならない。

今から邪竜の島を撃ち落とすに当たり、万が一にもその直下に人里や異種族の集落などがあってはいけない。

真下の地上に甚大な被害を及ぼすようなら、その回避のためにある程度航路が進んでからでないと作戦実行できないのだ。

今レオニスや竜騎士達、邪竜の島の最前線で戦っている者達は全員ハイパーゴーグルを装着している。そのおかげで、月明かりしかない薄暗い闇夜の中でも邪竜と戦えていた。

しかしこの天空島は、実はかなり高い位置にある。

その高さは地上から約2000メートル以上あり、今のような深夜では地上の様子がさっぱり分からなかった。

そしてこの高度から一度地上近くまで下りると、レオニスの飛行能力だけで再び天空島に戻ってくるのはかなりキツい。

故にレオニスは、飛竜を駆る竜騎士に調査を依頼することにしたのである。

レオニスに調査依頼されたディランは、己の近くにいた部下のエレオノラに調査を託した。

その結果、現在天空島は北レンドルー地方の上空にいることが分かった。

北レンドルー地方はカタポレンの森に隣接する最果ての荒野で、めぼしい人里や異種族の集落はない。ここなら問題なく邪竜の島を撃ち落とすことができそうだ。

この結果をエレオノラから受けたレオニスは、安堵しつつも改めて気を引き締める。

「よし、これからは夜明けが来るまで、とにかくひたすら邪竜を狩りまくるぞ!」

「「「応ッ!!」」」

レオニスの気合の篭った掛け声に、周囲にいた竜騎士達も負けじと気勢を上げる。

そうしてレオニス達は、再び激しい戦場に身を投じていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから時は過ぎ、午前三時を少し回った頃。

天空島周辺では、レオニス達人族やシュマルリの竜達を含む天空島勢と邪竜の群れの戦いが続いていた。

邪竜は絶えず涌いてくるが、それでもレオニス達が駆けつけた時よりはその勢いは明らかに衰退してきていた。

もう少し押せば、邪竜の島の全容も見えてくるはずだ。

そしてそこまで持っていければ、神鶏二羽の力とピースの補助魔法でもって邪竜の島を撃ち落とすことが可能になる。

ピースの呪符作りの方も順調で、約二時間の間に魔法攻撃力上昇の呪符を何と三百枚以上も描き上げていた。

レオニスの手配通り、ラウルが呪符の回収にログハウスを何度か訪れ、その都度アップルパイやシュークリームなどの癒やしスイーツをラウルがピースのために置いていく。

そうしたラウルのささやかな気遣いが、ピースのやる気とモチベーション維持に繋がったようだ。

そうして出来上がった三百枚以上の呪符は、まず竜騎士達に一人二枚配られ、その後天使達と二人の女王にも一人につき二枚が渡された。

身体強化の呪符は、一枚につき十分間効果を発揮する。

その効果は『魔法攻撃力100%上昇』。BCOスキルのような重ねがけは不可だが、それでも一時的にでも魔法攻撃力が倍増するのはかなりすごいことだ。

これを竜騎士と天使が同時に使い、邪竜の群れを一斉に薙ぎ払う。二十分もあれば、表に出ている邪竜のほとんどを片付けることができるだろう。

そうして邪竜の島の周囲に邪竜がほぼいなくなったところを、グリンカムビとヴィゾーヴニルの極大浄化砲で一気に畳み掛ける。

これが今回レオニス達が計画した作戦だ。

レオニスも空中で時折エクスポーションやアークエーテルを飲みながら、ひたすら邪竜に向けて魔法を放ち剣を振るう。

大きな邪竜には剣戟で翼を切り裂き、飛行能力を奪ったところをシュマルリの竜達が複数襲いかかりトドメを刺す。小さな邪竜には雷撃を食らわせて撃墜させる。

するとそこに、箒に跨ったピースが現れた。

「レオちーん、そっちの方はどうだーい?」

「お、ピース!呪符作成お疲れさん!何だ、外の空気を吸いに来たんか?」

「うん、ちょっとした休憩も兼ねてね、御用聞きに来たのよー。レオちん、他の呪符とか要る?」

「そうだな、まだ夜明けまで三時間近く待たなきゃならんしな。お前さえ良けりゃ、他の呪符も作っておいてもらいたいところなんだが」

「うぃうぃ、小生が描けるものなら何でも描くよー」

休憩がてらレオニスのもとを訪ねたというピースを、レオニスが笑顔で迎え入れる。

確かにいくらピースが呪符作成大好きと言えど、ずっとログハウスに缶詰状態では息も詰まるだろう。

ハイパーゴーグルを装着したピースが、周囲の様子をキョロキョロと見回している。

「てゆか、さっきに比べたら邪竜の数がかなり減ったね?」

「そりゃあな。天空島の天使達百人に竜騎士三十騎、シュマルリの竜三十頭近くが戦ってんだ、圧倒的とまでは言わんが邪竜の群れにも引けを取らんさ」

「だね!これなら夜明け前に決着ついちゃうかもね!」

思った以上に天空島勢が優勢なのを見て、ピースが明るい声で喜んでいる。

それに反し、何故だかレオニスの顔が険しい。

ピースの来訪を歓迎し、その働きを労っていた時とは打って変わって、邪竜の島があるであろう方向をじっと見つめている。

そんなレオニスの異変に気づいたピースが、不思議そうな顔で問うた。

「…………って、レオちん、どしたの?」

「いや、何だか妙な気がしてな……」

「妙な気って?」

「あまりにも上手く事が進み過ぎというか……このまま最後まで予定通りに進みゃいいんだが……」

「それって、冒険者の勘、みたいなやつ?」

「ああ……お前の勘ほどじゃないが、俺もこの手の勘は割と働く方でな」

怪訝な顔のまま、ピースの質問に答えるレオニス。

彼自身、どこがどうおかしいのか言葉にするのが難しいのだが、それでもそこはかとなく湧き出る違和感のようなものが拭えずにいる。

それはいわゆる『冒険者の勘』というやつで、決して無視していいものではないことをレオニスもピースも知っていた。

「ぬーーーん……小生の方の勘は、今のところ何も働いていないけど……そういう感覚ってのは、存外侮れないよねぇ」

「そうなんだよな……俺の思い過ごしならいいんだが」

「とりあえずさ、注意深く周囲を観察しながら動くようにするとか?」

「だな……今のところ、それくらいしかないか」

言い様の知れない不安感を払拭するように、ピースと会話するレオニス。

不安感の原因が判明していれば、それを取り除く努力もできるのだが。言ってみればレオニスのそれは『虫の知らせ』や『第六感』的なものなので、具体的な対処のしようもない。

仕方がないので、ピースの言う通り注意深く動くことにするか……とレオニスが考えていた、その時。

何者かがレオニスの背中をチョン、チョン、と突ついた。

「ン? 何だ?」

背中を突つかれたレオニスが、反射的に後ろを振り返ると―――

そこにはニヨニヨとした不気味な笑顔を浮かべた暗黒蝙蝠、マードンがいた。