軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1182話 ドライアドの使命

その後ライト達は、負傷した天使達の治療とユグドラエルの支援に懸命に回ることにした。

負傷した天使達は、転移門がある場所から反対側に集まっていた。

ライト達は一旦天使達のもとに行き、ライト達の支援を得られやすくするために転移門近くに移動してもらう。

そしてラウルが大量のエクスポーションとアークエーテルを渡し、個々で回復に努めてもらうようにした。

負傷している天使達をあまり構ってやれないのは申し訳ないが、天使達の中には回復魔法が使える者もそこそこいるので、そうした者達の負担が軽くなるよう回復アイテムで支援してやればよい。

それより何より、ユグドラエルの支援の方が喫緊の課題だ。

まずラウルが出してくれたツェリザークの雪解け水、氷牙竜達が次々と運んでくれるアクアの泉の水に、ライトがアイテムリュックから手持ちのアークエーテルやコズミックエーテルなどの魔力回復剤を取り出しては手早くかき混ぜる。

それをラウルに渡し、ユグドラエルの根元にかけてもらう。

普通の樹木なら、これを二回か三回もやれば十分に回復するのだが。ユグドラエルは樹高100メートル超の巨大な樹木。

人族サイズのバケツの水を五回や十回与えたところで到底足りない。まさに焼け石に水である。

しかし、塵も積もれば何とやら。ユグドラエルの大きさに比べたら、ライト達はアリンコ程度にしかならないが、それでも地道な努力の積み重ねを惜しまず水遣りを続ける。

そうしてライト達が魔力豊富な良質の水を五十回、百回とひたすらユグドラエルに繰り返し与えていくことで、その魔力も少しづつ回復していった。

『皆、ありがとう……先程まで溜まってきていた疲れが、皆のおかげでだいぶ軽くなりました』

「どういたしまして!皆を守ってくれてるエルちゃんを守り支えるのは、ぼく達の役目です!」

「そうだぞ、エルちゃん。エルちゃんが頑張って天空島全部を守ってくれているからこそ、他の皆は邪竜の殲滅に専念できるんだからな」

『フフフ……私が皆を守ることはあっても、誰かが私を守ってくれるなんて……そんなこと、生まれて初めて言われました。何だかとても嬉しいですね』

ライト達を労ったはずが、逆に自分が労われてしまった。

ユグドラエルは『天空樹』の名の通り常に天空島に在り、天空でともに暮らす者達を守っている。

そんな自分が他者から守ってもらえるなどとは、生まれてこの方一度も考えたことがなかったらしい。

五千年の永きに渡る樹生の中で、それは初めて味わう感覚。

くすぐったいような、照れ臭いような、でもそれでいて心はとても温かくて、嬉しさで小躍りしたくなるようなウキウキとした気分に満ちていく。

はにかみながら呟くユグドラエルの声は、いつもの穏やかで優しい声になっていた。

するとここで、ユグドラエルのあちこちにしがみついていたドライアド達がのそのそと下に降りてきた。

ユグドラエルの穏やかな声を聞いたおかげで、戦乱の恐怖に怯えていた彼女達も少しだけ落ち着いてきたらしい。

『ライト、ラウル、来てくれてたのね……』

『エルちゃん様、ごめんなさい……私達、隠れてばかりの役立たずで……』

『ふぇぇ……邪竜、何であんなたくさんいるの? 怖いよぅ……』

『あんな大きいのが大量に来たことなんて、今までなかったのに……』

ドライアド達は皆涙目で、ユグドラエルに謝ったり邪竜の恐怖に怯えたり様々な反応をしている。

実際彼女達が邪竜に怯えるのも無理はない。基本的に彼女達には、正面切って邪竜と戦える程の攻撃力はないのだから。

しかし、ライトは彼女達に向かって大きな声で話しかけた。

「そんなことないよ!ドライアドさん達は役立たずじゃないよ!」

『ふぇ? だって……私達には邪竜を倒す力なんてないし……』

「邪竜を倒すことはできなくても、皆でエルちゃんを守ることならできるじゃないか!」

『『『ふぇ???』』』

ライトが発した言葉に、皆涙目のままきょとんとしている。

ライトが言わんとしていることがさっぱり分からないドライアド達に、ライトは懸命に説明し始めた。

「ドライアドさん達は、いつもは天空島の木のお世話をしてて、枝や幹が傷ついていたら治したりするんでしょ?」

『う、うん……だってそれは、私達のお役目であり使命だもの……』

「そしたらエルちゃんにも、それと同じことをしてあげればいいんだよ!だって、エルちゃんだって木なんだから!」

『『『!!!!!』』』

ライトの言葉に、ドライアド達全員が目を大きく見開きながら固まる。

今までドライアド達は、ユグドラエルに対してそのようなことを思ったことは一度もなかった。

何故ならユグドラエルは原初の神樹であり、全ての樹木の頂点に君臨する者。木の精霊達の崇敬を一身に集め、崇め奉られる存在なのだから。

しかし、言われてみれば尤もなことで、ライトの言う通りユグドラエルだって一本の樹木。

神樹だとか神格が高い云々を抜きにして考えれば、ユグドラエルとて木であることに何ら変わりはないのだ。

最も身近にいる尊ぶべき者だからこそ、ドライアド達はその本質的なことをつい忘れてしまっていた。

『……そ、そうね……エルちゃん様だって、他の木の皆と同じ、木なのよね……』

『私達、エルちゃん様は偉大な神様だと思ってたわ……』

『……いえ、エルちゃん様は私達にとって、神様にも等しい御方であることに変わりはないけど……それと同時に、樹木であることも変わりはないのよね』

『天空島の木々をお世話するのは、私達ドライアドのお役目。樹木であるエルちゃん様をお世話するのも、私達の使命よ!』

最初は戸惑っていたドライアド達の目や顔に、だんだんと活気が宿っていく。

自分達は守られてばかりの役立たずだと思っていたが、ユグドラエルの役に立てるとなれば話は俄然変わってくる。

天空島を守るユグドラエルを支えることは、天空島防衛への立派な貢献になる。

そう、彼女達だって天空島の一員。他者に比べて弱者だからといって、ただ守られているだけでは駄目なのだ。

するとドライアド達の中からモモが飛び出してきて、ライトの眼前に迫った。

『ねぇ、ライト、そしたら私達は何をすればいい!?』

「例えばぼく達に加護をくれた時のように、皆でエルちゃんを囲んで力を分けてあげるってのはどうかな?」

『それ、いいわね!早速皆でやってみる!』

ライトの助言を受け入れ、やる気満々のモモ。

フンス!と鼻息も荒く拳を握りしめるモモに、ライトが慌てて声をかける。

「あ、でも皆も一気に力を使い果たしたり、疲れ過ぎないように気をつけてね!邪竜退治がそんな早くに終わるとは思えないから、無理せず何人か交替でやった方がいいと思う!」

『分かったわ!先に皆で順番や人数を話し合って、ちゃんと決めてからやるわね!』

「うん、頑張ってね!」

ライトのさらなるアドバイスに、モモも笑顔で応えながら仲間達のもとに戻っていく。

天空島に住むドライアド達は百人以上いるので、彼女達が力を合わせてユグドラエルを支えれば、きっと大きな助けとなるだろう。

いつになく張り切るドライアド達を、ライトは微笑みながら見つめると同時にラウルに声をかけた。

「ラウル、ドライアドさん達がこれから頑張って働いて疲れてたら、時々でいいからラウルの特製マカロンを差し入れしてあげてくれる?」

「おう、もちろんいいぞ。疲れた時には甘いものが一番良く効くからな」

「だよね!特にラウルの美味しいマカロンは、ドライアドさん達の一番の大好物だもん。きっとドライアドさん達だって、大喜びして頑張ってくれるよ!」

「だといいがな」

ライトのさり気ない心遣いに、ラウルも快く応じる。

戦いの最中に甘味とか、何ふざけてんの?と嘲笑うことなかれ。戦時中のエネルギー補給は重要課題だ。

そう、『腹が減っては戦はできぬ!』のである。

その点ドライアド達の大好物であるラウルの特製マカロンがあれば、彼女達の身も心もお腹も存分に満たしてくれる。

ドライアド達にとって、これ程心強いご褒美支援はない。

「……さ、俺達もまだまだもっと頑張るか」

「そうだね!ドライアドさん達に負けていられないもんね!」

「ああ。ピースを呼びに行ったご主人様やマキシ達も、そろそろこっちに来る頃だろうしな」

「うん!」

奮起したドライアド達の頼もしい背中を見つつ、ライト達もまたユグドラエルの支援のための水遣りに励んでいった。