軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1160話 シャーリィの来訪目的

突如レオニス邸を訪ねてきたシャーリィ。

その姿を見て、階段の中程で立ち止まっていたライトが思わず叫んだ。

「シャルさん!?」

シャーリィ以外の人は他に誰もいないので、伴の者は一切連れず単身で訪ねて来たようだ。

ライトの声を聞いて、玄関ホールにいたシャーリィがふい、と上を見上げてライトのいる方を見遣る。

「……あ、君、ここに住んでる子よね? えーと、名前は……」

「ライトです!」

「そうそう、ラウルの小さなご主人様のライト君!お久しぶりね!」

「こんにちは!お久しぶりです!」

ライトがパタパタと足音を立てながら階段を下りて、シャーリィのもとに駆け寄る。

ライトとシャーリィは、昨年の公国生誕祭の最終日に一度きりしか会っていない。なので、さすがにシャーリィの方はライトの名前まで覚えていなかった。

すぐに名乗りを上げたライトに、シャーリィの顔がパァッ!と明るくなり挨拶を交わす。

しかし、ライトの方はシャーリィのことをはっきりと覚えている。

彼女はラウルの唯一の同胞、妖精プーリア族の一人であり、しかもサイサクス大陸でも超有名な一座『暁紅の明星』の看板ダンサーを務める程の絶世の美女。

その出自も見た目の華やかさも、何から何まで全てがあまりにも鮮烈過ぎて、忘れようにも忘れられるはずがない。

それに、シャーリィの方もライトの名前までは思い出せなかっただけで、ライトの存在自体は『ラウルの小さなご主人様』としてちゃんと覚えていたようだ。

自分のもとに駆け寄ってきた可愛らしい男の子に、シャーリィも微笑みながら嬉しそうに話しかける。

「ライト君、こんにちは。会うのは一年ぶりだけど、私のことを覚えててくれてとても嬉しいわ」

「シャルさんみたいな綺麗な女の人、絶対に忘れませんよ!」

「うふふ、子供なのにお口が上手だこと。それに、『シャル』と呼んで、とお願いしたこともちゃんと覚えててくれたのね。本当に偉いわ」

「シャルさんがそう望んでるんですから」

ライトの前に立ち、前屈みになりながらライトに話しかけるシャーリィ。

目線の高さを合わせながら語りかけてくるシャーリィの視線は、限りなく優しい。

そしてライトの頭をそっと撫でるシャーリィ。そんな彼女からは、とても良い匂いがする。

香水なのかシャンプーの匂いなのか分からないが、普段接することのない大人の女性の色香にライトは内心ドキドキしながら照れ臭そうにはにかむ。

「ライト君、少し会わないうちに背が大きくなった?」

「そうですね!多分去年より身長が5cmくらいは伸びてると思います!」

「そっかー、人の子は大きくなるのが本当に早いものねぇ……君もあと五年か十年もすれば、きっと私の背を追い越して立派な大人になるんでしょうねぇ」

ライトの頭を撫でていたシャーリィ、ライトの背が伸びたことに気づき感嘆しながらもどことなく寂しそうな顔をしている。

シャーリィは妖精プーリアなので、ライト達人族とは時間の進み方が全く異なる。

四百年は生きるプーリアと、長くても百年程度しか生きられない人族。流れる時間が異なる者、そして置き去りにされる方であるシャーリィの悲哀がそこにはあった。

するとここで、ライトの背後から突如声が聞こえてきた。

その声の主は、他ならぬシャーリィの同胞ラウルである。

「おい、シャーリィ。突然訪ねて来て何してんだ」

「あら、ラウル、こんにちは♪ 何してるって、見ての通りよ? ラウルの小さなご主人様にご挨拶をしているところよ」

「俺にはただ単に、ちっこい子供をあやしているようにしか見えんがな……つーか、そもそも何しにここに来たんだよ?」

「ホンット、ラウルってば相変わらず取り付く島もないわよねぇ」

いつになく無愛想モードのラウル。

ここ最近のラウルは、以前に比べてかなり人当たりが良くなってきた方だ。だがしかし、それでも同胞であるプーリア族相手となると、どうしても厳しい態度に出てしまうようだ。

そんな素っ気ない態度のラウルに、シャーリィははぁー……というため息をつきながら残念そうに呟いている。

そして困り顔のシャーリィを見たライトが、ラウルに向かって怒り始めた。

「ちょっと、ラウル!うちを訪ねて来てくれたお客さんに、そんな態度取っちゃダメでしょ!?」

「ぃ、ぃゃ、こいつの場合、何しに来たんだか分からんだろ?」

「だからって!のっけからそんな敵対的な言い方してちゃダメでしょ!そんなんじゃ執事失格だよ!? 執事ってのはね、お客様を出迎えておもてなしするのも大事な仕事なんだから!」

「うぐッ……そ、そりゃそうなんだが……」

プンスコと怒り心頭のライトに、ラウルはタジタジになる。

実際ライトの言う通りで、執事というものはどんな来客に対しても臨機応変に接しなければならない。

例えばの話、最初からヒャッハー!な乱暴者相手なら、先程のラウルの態度もありだろう。

しかし今日のシャーリィは、そこまで無礼な態度で入ってきた訳ではない。極々普通に訪ねてきて、先に対応したライトとも友好的な会話で再会を喜んでいた。

そんなシャーリィに対し、さっきのラウルの態度にライトがNGを突きつけたのも当然である。

とはいえ、今更ラウルに一般的な執事の模範的対応を求めるのもどうかとは思うが。

そしてライトはラウルを肘で突つきながら謝罪を促す。

「ほら、ラウル、シャルさんに謝って!」

「ぅッ……す、すまん、シャーリィ。執事にあるまじき態度を取ってしまって悪かった」

「フフフ、いいわ、ちゃんと謝ってくれたから許してあげる。というか、ラウルが私に対して最初から丁寧な態度で接してきたら、そっちの方がびっくり仰天だものね♪」

「何だとぅッ……」

ライトに促されて、頭を下げながらシャーリィに謝罪するラウル。

そんなラウルに対し、シャーリィは右手を頬に当てながら小首を傾げつつニッコリと微笑む。

ラウルの謝罪を受け入れつつも、その後しっかりとラウルを揶揄うあたりがシャーリィらしい。

そんなシャーリィの小悪魔的ないたずらっぽい魅惑の笑顔に、ライトは終始ドキドキしっぱなしだが。もちろんキング・オブ朴念仁のラウルには一切通用しない。

悔しげに歯軋りするも、ライトの手前これ以上シャーリィに噛みつくことはできないので、ぐぬぬと呻るのみである。

そんなラウルはさて置いて、とばかりに、ライトがシャーリィに声をかけた。

「ところでシャルさん、今日はどうしたんですか? 今年も公国生誕祭のパレードに出演するんですか?」

「ええ、その通りよ。今年は生誕祭の三日目、最終日の昼間のラストパレードに『暁紅の明星』のパレードが催されるの」

「だからもうラグナロッツァ入りしたんですか?」

「そうなの。それでね、今日と明日と明後日の三日間、こちらのお屋敷に泊めてもらおうと思って来たの♪」

「「え"???」」

シャーリィの突然の申し入れに、ラウルだけでなくライトまでその場で固まる。

来訪者として訪ねてきてくれたからには、もちろんそれなりにもてなす用意はある。

だがしかし、まさか三日間も宿泊させろと言い出すとは予想だにしなかった。

完全なる想定外の事態に、二人が石化するのも当然である。

そしてシャーリィはシャーリィで、固まる二人など全くキニシナイ!な様子で、腰にかけたポシェット様のウエストポーチから一通の手紙を取り出した。

「えーとねぇ、突然泊めろ!って言っても戸惑うと思うんだけど。そこはちゃんと『暁紅の明星』の団長の許可も取ってあるのよ?」

「これがその証拠の手紙ね、はい♪」

ウエストポーチから取り出した手紙を、両手に持ちながらライトに向けて差し出すシャーリィ。

ペカーッ☆と輝く糸目&ニッコニコな笑顔のシャーリィの、何と眩しきことよ。

あまりの眩しさに、しばし呆然としていたライト。ハッ!と我に返り、慌ててシャーリィの手紙を受け取った。

そそくさと封を開けて開いた手紙には、以下の文が書かれていた。

====================

『先様へ

うちのシャルがご迷惑をおかけしてすみません。

言い出したら聞かない子なので、どうか数日の間そちらで過ごさせてやっていただけますでしょうか。

宿泊代は自分で払う!と本人が言っておりますので、そちら様の言い値でシャーリィからもぎ取ってください。

お手数おかけして大変申し訳ありませんが、何卒よろしくお願い申し上げます。

暁紅の明星 団長クレール 他一同』

====================

「「………………」」

シャーリィからの手紙を読んだライトはもちろん、その背後からライトとともに手紙に目を通していたラウルも絶句する。

ライトは当初、『あー、シャルさん、同族のラウルに会いに来たんだなー』と思っていただけだった。

それが三日間の宿泊に加え、よもやそれがシャーリィの所属団体の団長公認だとは。

しかもこの手紙の内容からして、先方はもはやシャーリィの手綱を握ることを完全に諦めきっていると思われる。

無理に締めつけてシャーリィに逃げられるよりは、ある程度本人の希望を叶えさせることで団内に留まってもらうことを優先としているのだろう。

しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのはラウルだった。

「はぁー……お前、三日間もここに泊めろとか、一体どういうつもりだ」

「ここ数年、生誕祭に参加するためにラグナロッツァに来る度に、出番の日以外は団の皆とちょこちょこ観光してたの。だけどほら、ラウル、貴方がここに住んでいることを去年知ったじゃない? だからね、今年はラウル、貴方と余暇を過ごしたいと思ったの。……ダメかしら?」

シャーリィを問い詰めるラウルに、上目遣いで理由を語り懇願するシャーリィ。

その懇願の仕方の、何とあざといことよ。普通の男なら、この時点で完全に胸を射抜かれて言いなりになるところだ。

しかし、ラウルにその手の手管は通じない。ものすごーく渋い顔をしながら言い放つ。

「ダメもいいも何も、執事である俺にそれを決める権限はない。宿泊の許可をもらいたけりゃ、大きなご主人様と交渉しろ」

「ああ、それもそうね。ここのお屋敷の主であるレオニスさん?にお許しを得るのが筋よね」

「そういうこった」

ラウルの論に、シャーリィもはたとした顔で頷く。

実際ラウルの言うことは尤もで、この屋敷の主はレオニスであってラウルではない。

ラウルがOKを出したところで、もしレオニスがダメと言えばその要望は通らないのである。

「じゃあ、大きなご主人様がご帰宅なさるまでの間、ここで待たせてもらってもいいかしら?」

「ぁー、それくらいなら構わんが……ライト、どうだ?」

「あ、うん、ぼくは全然大丈夫だよ? むしろレオ兄ちゃんを待っている間、シャルさんとお茶しながら旅のお話を聞きたいくらい!」

「まぁ、この小さなご主人様はラウルと違って、とても話が分かる賢いお子なのね♪」

「うッせーよ」

シャーリィのしばしの滞在を快諾するライトに、シャーリィが実に嬉しそうに褒め称える。

その対比で何気にラウルがディスられているが、先程の意趣返しと思えば可愛らしいものだ。

「では、ライト君のご厚意に甘えてしばらくお邪魔するわね♪」

「そしたら客間に行きましょう!あ、ラウル、皆でお茶できるように支度をお願いね!」

「……了解」

シャーリィとお茶する気満々のライトに、ラウルは不承不承ながらも承諾する。

速攻で背を向けて厨房に行こうとするラウルに、ライトが背後から声をかけた。

「あ、お茶にはラウルも参加するんだよ? せっかくシャルさんがわざわざ来てくれたんだから、ラウルもお茶だけ出してとっとと逃げないで、ちゃんと話に混ざるように。分かった?」

「……はいよー」

ラウルとしては、お茶だけ出してとっとと逃げようと思っていたのに、ライトに先んじて釘を刺されてしまった。

ラウルの考えそうなこと、やりそうなことなど、ライトにはつるっとまるっとぺろっとちゃちゃっとお見通しなのである。

客間に案内するべくシャーリィの手を引っ張るライトに、シャーリィもニコニコ笑顔でついていく。

そしてレオニスが帰宅するまでの間、ライトはラウルとシャーリィとともに楽しいひと時を過ごすのだった。