軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1161話 特別な絆

その後ライトとシャーリィ、そしてラウルは客間で会話をしていた。

もっとも、楽しく会話をしていたのは主にライトとシャーリィで、ラウルはほとんど口を聞かないままライトの椅子の後ろに立っていただけだったが。

そして午後五時を少し過ぎた頃、マキシが帰宅してきた。

マキシはライトやラウルの気配が客間にあることを察知し、玄関ホールから真っ直ぐに客間に向かった。

「ただいまー」

「あッ、マキシ君!おかえりー!」

「お、マキシ、今日は帰りが早いじゃないか」

「うん、明日からアイギスはお休みになるからねー。今日はいつもより早くにお店を閉めたんだー。……って、シャルさん?」

「マキシ君、おかえりなさーい♪」

仕事から帰ってきたマキシを快く迎えるライトとラウル。

マキシはいつも、だいたい午後六時過ぎ頃に帰ってくるのだが。公国生誕祭に合わせて、アイギスが明日から三日間は店休日となるので、その前日である今日は早くに仕事が上がったようだ。

そして客間にシャーリィがいることにも早々に気づき、マキシがびっくりしたような顔をしている。

ライトやラウルがマキシの名を呼んだので、シャーリィもちゃっかりとその名を呼びつつおかえりの言葉をかけていた。

「シャルさん、こんにちは。お久しぶりですね」

「ええ、本当に。丸一年ぶりよねぇ」

「お元気そうで何よりです。今日はラウルを訪ねて来たんですか?」

「もちろんラウルにも会いたかったけど、ライト君やマキシ君、そしてこのお屋敷の主であるレオニスさんにもお会いしたくて来たの」

「そうなんですね!僕にまで会いたいって言ってくれるなんて、とても嬉しいです!」

にこやかな笑顔でマキシの問いかけに答えるシャーリィ。そんなシャーリィの笑顔に、マキシもまた無邪気な笑顔で答えている。

ライトとシャーリィの会話の中に、マキシも加わってより賑やかになった。

三人で楽しくキャッキャウフフと会話をしているうちに、それまでずっと渋い顔をしていたラウルの表情も次第に解れていく。

もともとラウルはシャーリィと喧嘩をしていた訳でもないし、去年の思わぬ邂逅ではそれまでの蟠りを捨てて和解していた。

それに、シャーリィはプーリアの里を捨てたラウルが森の外の世界で会うことのできる唯一の同胞。

彼女も自分同様、これまで外の世界でそれなりに苦労してきたのだと思えば、ラウルも自然と警戒心が薄れていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてライト達が客間で和やかな会話を続けること一時間と少し。

時刻は午後六時半になろうとする頃。

ラウルがふい、と視線を外したかと思ったら、ライトに向けて声をかけた。

「大きなご主人様が帰ってきたようだ」

「あ、そしたらラウル、レオ兄ちゃんを出迎えてこっちの客間に連れてきてくれる?」

「了解ー」

ライトの頼みを聞き入れたラウル、フッ……と姿を消した。

レオニスを出迎えるために玄関ホールに移動したのだろう。

そうしてしばらくして、レオニスがラウルとともに客間に入ってきた。

「ただいまー」

「レオ兄ちゃん、おかえりー!」

「レオニスさん、おかえりなさい!」

屋敷の主の帰宅に、ライトもマキシも満面の笑みで迎える。

シャーリィも座っていたソファから立ち上がり、レオニスのもとへ楚々と歩いていく。

そしてシャーリィがレオニスの目の前に立ち、挨拶の言葉をかけた。

「はじめまして、こんばんは。私の名はシャル、貴方のお帰りをお待ちしておりましたの」

「………………」

妖艶な笑みを浮かべながら、レオニスに挨拶をするシャーリィ。

だが、レオニスはシャーリィの顔をじーーーっ……と凝視したまま動かない。

その眼差しは、見惚れているとか気を取られているといった類いのものではなく、間違いなく純粋な観察眼である。

そんなレオニスの視線に、シャーリィの方も次第にきょとんとした顔になっていく。

これまでシャーリィは、人族の異性からそんな目で見られることなどほとんどなかった。

シャーリィが嫋かな笑みを浮かべれば、大抵の男はポーーーッ……としたまま顔を赤らめたり、息をするのも忘れたかのように身体が固まるのが常だ。

だが、今シャーリィの目の前にいる 男(レオニス) は、これまでの男達のしてきたどの態度とも異なる。

レオニスの意図が全く読めず、さすがのシャーリィも徐々に戸惑い始めていた。

そしてついに堪えきれなくなったのか、シャーリィの方から再びレオニスに声をかけた。

「……あ、あのー……貴方がこのお屋敷の主で、ラウルのご主人様のレオニスさん……よね?」

シャーリィの問いかけに、ようやくレオニスが我に返りその口を開いた。

「ン? ああ、俺はレオニス、この屋敷の持ち主だ。……つーか、そうか、あんたがラウルの幼馴染か!」

「え、ええ……私もそこにいるラウルと同じ、プーリア族よ」

「そうかそうか!去年ライト達が言っていた『プーリア族の、すっごく綺麗なお姉さん』ってのは、あんたのことなんだな!」

目を大きく見開きながら破顔するレオニス。

その笑顔はレオニスの天色の瞳と相まって、澄みきった晴れやかな青空を思わせるような爽やかさだ。

その無邪気な笑顔に、シャーリィの目はぱちくりとしている。

「黒髪巻き毛に金色の瞳、典型的なプーリア族の特徴だな。つーか、ラウル以外のプーリアは俺も初めて見るわ」

「そ、そりゃまぁ、そうでしょうねぇ……プーリアの里だけでなく、カタポレンの森の外に出たのなんて、ラウルと私くらいしかいないし」

絶世の美女相手に全く物怖じしないレオニス。

むしろ感心したように眺めてくるレオニスに、シャーリィはどんどん拍子抜けしたような声になっていっている。

そんなシャーリィの変化など全くキニシナイ!なレオニス。ますます輝く笑顔で嬉しそうに言い放つ。

「世界でたった二人のプーリア族を同時に見れるなんて、サイサクス史上初じゃね? すっげー贅沢だなぁ!」

「「…………」」

シャーリィとラウルの顔を見比べながら、無邪気に喜ぶレオニス。

思いの外大喜びしているレオニスを、ラウルはスーーーン……とした顔つきで、シャーリィはぽかーん……とした顔で眺めていた。

確かにレオニスの言う通りで、このサイサクス世界において妖精プーリアを見ること自体かなり稀だ。

しかもラウルとシャーリィ、二人の男女のプーリアを同時に見れることはもはや奇跡にも等しい。

もっとも、レオニスが言う『サイサクス史上初』は去年の時点でライトとマキシが達成してしまっているのだが。

「えーと、あんた、何て名前だったっけ……シャル、だったか?」

「え、ええ、そうよ。私の名前はシャルよ」

「シャル、今日はよく来てくれた。せっかくだから、是非とも今日はうちで皆で晩飯を食っていってくれ。何ならここに泊まってくれてもいいぞ」

「あらまぁ、ホント? 実は私もここに三日程お泊まりさせてもらいたくて、貴方の帰りを待っていたの!」

シャーリィに晩御飯や宿泊を勧めるレオニスに、シャーリィの顔が途端にパァッ!と明るくなる。

シャーリィが頼まないうちから、屋敷の主であるレオニスにお泊まりを誘われるとはまさに渡りに船だ。

嬉しそうに微笑むシャーリィ、その言葉の中にさり気なく『三日程』と付け足しているところがラウル同様実にちゃっかりとしている。

「何だ、今日から三日泊まりたいのか? もちろんいいぞ、部屋はいくつも空いているしな」

「ありがとう!さすがラウルのご主人様だけあって、本当に太っ腹ね!」

「何、ラウルの幼馴染なら歓迎して当然だ。ラウルは俺達の家族なんだからな!」

「…………」

シャーリィのおねだり、三日間のお泊まりを快く受け入れるレオニス。

念願叶ったシャーリィも、最初のうちは思い通りに事が運び、ニコニコ笑顔でレオニスの待遇をヨイショしていた。

しかし、レオニスの『ラウルは俺達の家族』という言葉を聞いて、何故かその表情から笑みが抜けていく。

『ラウルに限らず、私達プーリア族に『家族』という概念はほとんどないに等しい。生みの親木である母や、母を同じくする兄弟姉妹はたくさんいたけれど……もともとプーリアって他者に対する関心からしてかなり薄いし』

『そんなプーリアの気質に、ラウルはほとほと嫌気が差して里を飛び出していったけど…………』

『そう、ラウル……貴方はここで、貴方だけの大事な家族を……特別な絆と幸せを見つけたのね……』

シャーリィは、かつての故郷とラウルの不遇な生い立ちを心の中で思い浮かべながら、ぼんやりとした眼差しでレオニスの後ろにいるラウルを見つめる。

そんなシャーリィの眦に、涙が滲むのにそう時間はかからなかった。

涙で目の前が霞むシャーリィ、懸命に堪えつつ平静を装う。

そしてラウルに向かって声をかけた。

「……ラウル、貴方のご主人様の許可はちゃんと得たわよ。今日から三日間、よろしくね?」

「そのようだな。……ま、お前も普段から旅の移動やら何やらで草臥れてるだろうからな。ラグナロッツァにいる間くらいは、この屋敷でのんびりと寛ぐがいいさ。本番当日の朝までは、美味い飯くらい好きなだけ食わせてやる」

「うふふ、ありがとう。貴方にそんな気遣いをしてもらえるなんて、とても嬉しいわ」

「…………」

努めて明るく振る舞うシャーリィ。

彼女の涙に気づかぬ程、ラウルも愚鈍ではない。

しかし、シャーリィのその涙が何を意味しているのかはラウルにも分かっていた。

故にラウルは彼女の涙に気づかぬフリをしているのだ。

「ああ、でもそうね、私はそこまでのんびりと寛ぐ気はないわ。だって貴方達、明日と明後日はお出かけするでしょう?」

「そりゃもちろん。何てったって、明日から公国生誕祭だからな。祭りの屋台や出店で買い物をしたり、全日出かける予定が入っている」

「そのお出かけには、私も全部連れてってね♪」

「「「…………」」」

明日から始まる公国生誕祭。

もちろんライト達には三日分の予定がぎっしりと詰まっている。

そんなライト達のお出かけに、何とシャーリィは全部くっついて回るつもりらしい。

ラウルは呆れて物も言えない様子だったが、ライトやマキシは違った。

「シャルさん、ぼく達といっしょにお祭りに行きましょう!」

「ええ、是非ともいっしょにお出かけしましょう!皆でお出かけすれば、それだけ楽しさも増えますし!」

「まぁ、嬉しい。ライト君もマキシ君も受け入れてくれて、本当にありがとうね」

ライトとマキシはシャーリィの祭りのお出かけの同行に、嬉しそうに同意している。

二人の厚意にシャーリィはますます喜び、さらにはレオニスにも意思確認で問うた。

「大きなご主人様……レオニスさんも、それでよろしいかしら?」

「ン? ああ、俺も別に構わんぞ。ただし、俺が祭りに出かけられるのは三日目だけだから、あんたやライト達と行動をともにすることはできんがな」

「あらまぁ、それは残念ねぇ……初日と二日目はお仕事なの?」

「ああ、国を挙げての盛大な祭りだからな。階級が高い冒険者達は皆有事に備えて、冒険者ギルド総本部で待機しておかなきゃならないんだ」

「ぁー、確かに……万が一にも祭りの最中に事件や事故が起きたら、迅速に対処しなきゃならないものねぇ……」

「そゆこと」

レオニスの答えに、シャーリィは残念そうにしながらも納得し頷く。

レオニスが最上位の冒険者であることは、当然シャーリィも知っている。

そして公国生誕祭の規模を考えると、その警備や事件事故などへの対応も上位の実力者が担う必要があることも想像に難くない。

シャーリィとしては、ラウルやライト、マキシはもちろんのこと、レオニスとも親交を深めたかった。

それは、レオニスがラウルの雇い主であるということもあるが、伝説と謳われる金剛級冒険者の人となりに純粋に興味があったからだ。

残念そうにしょんぼりとしているシャーリィに、レオニスが明るい声で話しかける。

「お出かけに付き合えなくてすまんな。だが、明日明後日はライトやラウル、マキシがあんたのことを精一杯もてなすだろうから、存分に公国生誕祭を楽しんできてくれ」

「そうね……それだけでも良しとしなくちゃね」

レオニスの慰めの言葉に、シャーリィも顔を上げて気を取り直す。

そう、レオニスがいないのは確かに残念なことだが、ライト達三人とお出かけするだけでも間違いなく楽しい日を過ごせるだろう。

レオニスだって、好きで冒険者ギルドに詰める訳ではないだろうし、そこで文句をつけたら罰が当たるというものだ。

するとここで、レオニスがさらに言葉を続ける。

「それに……三日目もすれ違いになって申し訳ないが、三日目はあんたたちのパレードが行われるんだろう?」

「え? え、ええ、去年は二日目の昼間のパレードだったけど、今年はとうとう最終日の大トリのパレードを任されることになったのよ」

「その日は俺も、皆といっしょにパレードを観に行くから。絶世の美姫と名高いあんたのパレード、楽しみにしてるぜ!」

「……ッ!!」

レオニスは初日と二日目が仕事で、三日目が休み。シャーリィはその逆で、三日目が仕事で初日と二日目はフリー。

レオニスとシャーリィ、とことん日程が合わない同士だが、舞姫シャーリィの大一番である三日目のパレードならレオニスも観ることができる。

そして、シャーリィの舞を楽しみにしている、と言い放ったレオニス。

その笑顔は本当に眩しく、嘘偽りない本心であることがシャーリィにも瞬時に伝わってきた。

その眩い笑顔にしばし呆けていたシャーリィだったが、ハッ!と我に返ったかと思うと顔を背けて目線を逸した。

「……そ、そうね。でも、パレードは人混みがすごいから、貴方達がどこかで見ていても私の方からは見えなくて分からないかもよ?」

「それでも構わんさ。俺達はあんたの華麗な舞を見れりゃそれで大満足なんだからよ」

「ンもう……何なの、この天然の人たらしっぷりは……」

変わらずずっとニコニコしているレオニスに、シャーリィが堪らずクルッ!と後ろを向いてブツブツと呟く。

シャーリィはこの人里で生き抜くために、計算高く愛想を振りまくことも多い。もちろんそれ以外にも、本人の意図せぬところで無自覚に愛嬌を振りまいていることも多々あるので、天然半分養殖半分といったところか。

しかし、レオニスの場合ほぼ全てにおいて深い意図などない。というか、そもそもレオニスの性格上、駆け引きや心理戦といった類いの策は極めて難しいと言わざるを得ない。

ラウルもかなりの天然人たらしだが、その雇い主であるレオニスも実は結構な天然人たらし。

そう、シャーリィのような養殖成分混じりでは、純度の高い天然人たらしには到底敵わないのである。

するとここで、だいたいの話がついたと見たライトが皆に向かって声をかけた。

「ねぇ、レオ兄ちゃんも帰ってきたことだし、そろそろ晩御飯にしない?」

「おお、それもそうだな。ラウル、晩飯の支度を頼めるか?」

「もちろん。速攻で支度してくるから、ご主人様やマキシは着替えてから食堂にきてくれ」

「了解」「はーい!」

ライトの案に速攻で乗るレオニス達。

ラウルはすぐに姿を消し、レオニスとマキシは私服に着替えるためにそれぞれ自室に向かうために客間を出ていった。

客間には、ライトはシャーリィの二人だけになった。

「そしたらシャルさん、ぼく達は先に食堂に行きましょうか」

「ええ、そうしましょう。そしたら小さなご主人様、この屋敷に不慣れな私をエスコートしていただけますか?」

「もちろん!」

食堂までの道案内を、エスコートという形でライトに頼むシャーリィ。

レオニスの天然砲に撃沈しかけたシャーリィだったが、何とか気を取り直したようだ。

シャーリィのエスコートの求めに対し、もちろんライトに否やはない。

ライトはサッ!と右肘を突き出し、シャーリィがライトの右腕にそっと捕まる。

そうしてライトとシャーリィは、パーティー会場に向かう紳士淑女よろしく食堂に続く廊下をゆったりと歩いていった。