軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1156話 予想外の理由

ライトがレオニスを呼びに道場に戻ると、そこではまだレオニスが嬉々としてアマロやレイフを相手に稽古をしていた。

いつものライトならば、レオニスの戦いを妨げるようなことは決してしないのだが。今は緊急事態なので、そんなことを言ってはいられない。

道場中央で竹刀を振るうレオニスに向けて、大きな声で呼びかけた。

「レオ兄ちゃーん!邪魔してごめんね、ちょっと来てくれるー!?」

ライトの呼びかけに、レオニス達がピタリ、と動きを止めた。

そしてレオニスが入口の方にくるっ!と身体を向き直したかと思うと、速攻でライトの元に駆け寄ってきた。

「どうした、ライト、何かあったのか!?」

「うん、実はね…………」

慌ててライトの元にきたレオニス。

ライトが自分の稽古の真っ最中に声をかけてくるなんて、余程のことでもない限りあり得ないことをレオニスも理解しているのだ。

そんなレオニスに、ライトがちょいちょい、と手招きをして耳打ちする。

ハンザが倒れたことを知らせるのはいいが、その原因『ウルス達の本当の姿、八咫烏を見たから』というのは大っぴらに明かせないためだ。

ゴニョゴニョ、モショモショ……と囁くライトに、話を聞いていたレオニスが一瞬「何ッ!?」とびっくりした後、その原因を知り、ぁぁー……と納得のため息をつく。

「……分かった、今すぐ俺もそっちに行こう」

レオニスがライトに了承の意を伝えた後、今度は道場中央でヨレヨレに草臥れたアマロに向けて声をかけた。

「アマロ、この第一支部に医務室みたいなもんはあるか?」

「??? そりゃもちろんありますよ?」

「そしたら俺といっしょに庭園に来てくれ。ハンザが庭園で倒れたそうだ」

「え"ッ!? 父さんが倒れた!?」

レオニスの言葉に、アマロだけでなくコルセアやレイフ、そしてバッカニア達『天翔るビコルヌ』の三人やマレー達師範代達も仰天する。

「え、ちょ、待、レオニスの旦那!親父が倒れたって、一体どういうことだ!?」

「マレー、モロ、カリブ、モルトケ、ナッソー、今すぐ庭園に向かうぞ!」

「「「はいッ!!」」」

「アマロ兄、俺も行くぞ!」

「バッカニアの兄貴、俺達も行こう!」

「あッ、でもボクら、ここの医務室がどこにあるか分かんない!どどどどうしよ!?」

とんでもない一大事に、泡を食いながら急いで庭園に向かおうとするコルセア達やバッカニア達。

プチパニック状態の彼らに、レオニスが大声でストップをかけた。

「待て待て、お前ら!気持ちは分かるが、ちょっと落ち着け!!」

レオニスの有無を言わさぬ牽制に、それまで右往左往していたバッカニア達が動きをピタッ!と止めた。

全員の顔がレオニスの方を向いたところで、レオニスが改めて事情説明を始めた。

「……ぁー、ライトの話によると、倒れたといってもそこまで深刻なもんじゃないらしい。小石に蹴躓いて転んだようなもんだと思えばいい」

「あの親父が、小石に蹴躓いたくらいで倒れるか……?」

「つーか、今ここで無闇に大騒ぎするのはマズい。まずは俺達だけでハンザの様子を見てからだ」

「ぁ、ぁぁ、確かにそうですね……もし転んでたんこぶを作ったくらいの軽い怪我だったとしたら、大騒ぎして後で恥をかくのは父上の方ですし……」

「そゆこと。そんな訳で、庭園に来るのはアマロだけにしてくれ。他の皆は先に医務室に行って待機な」

「……分かりました」

レオニスの説得に、それまで焦りまくりだったバッカニアやコルセア達も次第に落ち着きを取り戻していく。

ハンザが倒れた、と聞いて一度は皆大いに動揺したが、そもそもあのハンザがちょっとやそっとのことで倒れるはずがない。そのことは、ヴァイキング道場一門の者こそが一番よく知っている。

そのため、まずはハンザの容態を見てから、というレオニスの提案を受け入れることにしたのだ。

こうしてライトとレオニス、アマロは庭園の方に向かい、他の面々は先に医務室に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトの案内で庭園に出たレオニスとアマロ。

そこには地面に寝かされたハンザと、その横にラウルがいた。

ハンザの頭には毛布を丸めた簡易枕が充てられており、ラウルなりにハンザの身体を気遣ったであろうことが窺える。

「父さん!」

倒れたハンザのもとに駆け寄り、しゃがみ込みながら心配そうにハンザの顔を覗き込むアマロ。

レオニスもすぐにハンザの近くに駆け寄り、ラウルに話しかけた。

「ラウル、ハンザの具合はどうだ?」

「倒れた直後に俺が後ろから受け止めたから、頭を打ったとかそういうことは一切ない」

「そうか、ならひとまずは安心だな。ラウル、よくやった、ありがとう」

「どういたしまして」

ラウルに現状を聞いたレオニスが安堵しつつ、ラウルの働きを労う。

そしてふと寝ているハンザを見ると、ハンザの胸元に文鳥サイズのウルスとケリオンがいた。

ハンザをずっと心配そうに見つめているウルスとケリオン。

そんな二羽に、レオニスが優しい声で話しかける。

「……ウルス、ケリオン、こっちに来な」

「「………………」」

レオニスの呼びかけに、ウルスとハンザが振り向きレオニスした元に飛んでいく。

二羽とも空気を読んで、無言を貫きつつレオニスの両肩に留まった。

「話はライトから聞いた。ウルスもケリオンも、そんなに心配すんな。ハンザは俺並みに頑丈なやつだから」

「「…………」」

「アマロ、ハンザは俺が背負って運ぶから、医務室への道案内を頼む」

「……あ、はい、分かりました!」

レオニスの言葉にアマロが立ち上がり、ウルスとケリオンもレオニスの肩からライトの両肩に移動する。

レオニスがハンザの前に後ろ向きでしゃがみ、ラウルがハンザの両脇に手を入れて身体を持ち上げ、レオニスの背中に乗せた。

レオニスは「よっ、と」と言いながら、ハンザをおんぶしつつ立ち上がる。

体重100kg以上はあるであろうハンザの恵体。それを軽々と持ち上げるラウルもだが、おんぶして難なく立ち上がるレオニスも相当な怪力である。

そしてアマロが先頭に立ち、第一支部本館内の医務室にハンザを運んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アマロが医務室の扉を開き、レオニスとラウルがハンザを連れて医務室の中に入っていく。

中にはバッカニアやコルセアが心配そうな面持ちで待っていた。

「あッ、親父!」

「父上!」

レオニスに背負われたハンザの姿に気づいたバッカニアとコルセアが、堪らずレオニスのもとに駆け寄る。

そしてレオニスが医務室内のベッドの横まで進み、アマロやコルセアがハンザの身体を支えつつベッドの上に寝かせた。

その後すぐに、マレー他五人の師範代が総出でハンザの身体に向けて回復魔法をかけ始めた。

「あの親父が倒れるなんて……一体何があったんだ……」

「レオニス殿、父上の身に何が起きたのですか?」

バッカニアやコルセアの問いかけに、レオニスが真剣な眼差しで答える。

「そうだな……そしたらマレー達も一旦手を止めて、皆で俺の話を聞いてくれるか」

「??? ぁ、はい……」

レオニスの指示に従い、マレー達が回復魔法をかける手を止めてレオニスの前に集まった。

そして医務室の中がしばし静寂に包まれた後、レオニスが徐にその口を開いた。

「ハンザが庭園で倒れたのは……」

「「「……(ゴクリ)……」」」

「八咫烏に会ったせいだ」

「「「…………は?????」」」

レオニスの口から出てきた突拍子もない理由に、その場にいたヴァイキング道場一門全員が固まった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

再び医務室の中がシーーーン……と静まり返る。

ヴァイキング道場一門全員が『は? 何言ってんの?』という顔をしていた。

レオニスがハンザを連れてくるのを待っている間、バッカニア達は医務室の中でいろんな話をしていた。

ここ最近のハンザの体調はどうだったのか、とか、具合が悪そうなそぶりはなかったのか、とか、倒れた原因を特定しようと必死に話し合っていたのだ。

しかし、ホドを離れているバッカニアはともかく、毎日道場で顔を合わせているコルセアや師範代達ですら、全くその原因が思いつかなかった。

ハンザは生粋の武人であり、『健全な精神は健全な肉体に宿る』をモットーにして生きてきた人だ。

朝は六時に起床、その後午後五時まで剣術指南、晩御飯前に風呂に入り汗を流し、夜十時には布団に入り就寝する。

朝昼晩の三食だってきちんと食べるし、酒も飲まない煙草も吸わない、実に健康的な生活を日々送ってきた。

そんなハンザが病気を抱えていたことなど今まで一度もなかったし、何ならここ数十年風邪一つ引いたことすらない。

昨日も今日も、体調がおかしいといった様子は微塵も感じられなかった。

故にコルセア達が倒れた原因を探ろうにも、完全にお手上げだったのだ。

それなのに、レオニスが語った原因は『八咫烏に会ったからだ』と言うではないか。

バッカニアやコルセアにしたら、全く以って意味が分からない。

ぽかーん……と口を開けたまま呆然としている面々に、レオニスがなおも解説を続ける。

「ぃゃ、まぁな? お前らがそうなるのも無理はないが、これは本当のことなんだ。な、ライト?」

「はい。……ウルスさん、ケリオンさん、今ここで元の姿に戻って、皆に見せてやってください」

「…………承知した」

レオニスがライトに話を振り、パスを受けたライトが己の肩に乗っているウルスとケリオンに元の姿になるよう促した。

バッカニア達が八咫烏の存在を信じられないのなら、その目で直接見た方が早い。いわゆる『百聞は一見に如かず』である。

そんなライトの意図を汲んだウルスとケリオン。

その場でライトの肩から飛び立ち、文鳥サイズから本来の八咫烏の姿に戻った。

ボフン!という音とともに、小さな文鳥サイズだったウルスとケリオンが、巨大なカラスに変化した。

今まさに目の前で起きた出来事に、バッカニア達の目が点&まん丸になる。

呆気にとられるバッカニア達を他所に、ウルス達は早速名乗りを上げた。

「我が名はウルス。カタポレンの森に御座す大神樹、ユグドラシア様をお守りする八咫烏一族の族長である」

「私の名はケリオン。八咫烏一族族長ウルスが次男にして、マキシの兄」

「…………え? マキシの、兄???」

ウルスとケリオンの名乗りも驚きだが、その中にマキシの名が出たことにバッカニアが耳聡く反応した。

バッカニアやコルセア達の視線が、一斉にマキシに向けられる。

そしてマキシもケリオンの名乗りを受けて、その場で人化の術を解き八咫烏の姿に戻った。

「実は僕も、八咫烏なんです……」

申し訳なさそうに名乗るマキシに、もはやバッカニア達の口は開いたまま塞がらない。

全ての人族が言葉を失う中、医務室の中はマキシ達三羽の八咫烏達がパタパタパタ……という翼を動かす音だけが静かに響き渡っていた。