軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1157話 ハンザの生き様

「ぁー……つまり、何だ? 要はうちの親父は、この三羽の八咫烏と対面してブッ倒れちまったってことか?」

「ライトからそう聞いている。ライト、相違ないか?」

「うん。ウルスさん達の本当の姿を見て、あまりにもびっくりし過ぎて卒倒しちゃった……」

改めて現状を確認するバッカニアの問いかけに、レオニスが頷きつつライトに確認する。

そしてレオニスから話を振られたライトも、改めて証言する。

ちなみにウルス達三羽は、八咫烏サイズのままベッドの隅―――ハンザの足元の上で申し訳なさそうに縮こまっている。

ハンザが倒れた真の原因を知り、目を閉じ眉間に皺を寄せたバッカニアが額に手を当て力なく呟く。

先程まで散々散々ハンザの身体を心配していたのは、一体何だったのか。

父は自分達の知らぬ間に病魔に侵されていたのか、それを家族の誰にも悟らせることなくずっと隠してきたのか―――バッカニア達は言い知れぬ不安に苛まれていた。

そして、バッカニアは内心で『親父を助けるためなら、何だってする!伝説の神薬エリクシルだって探し当ててみせる!』という密かな意気込みを抱いていた。

それら全てが空振りに終わった今、バッカニアが脱力するのも無理はない。

はぁぁぁぁ……という大きなため息がバッカニアの口から否応なしに漏れまくる。

しかし、そんなバッカニアに反してスパイキーやヨーキャはかなり前向きだ。

「でも、ほら、バッカニアの兄貴、これは結果としてまだっつーかかなり良い方なんじゃないか?」

「そうそう!ハンザ先生がすっごく重い病気に罹ってたんじゃなかった訳だし!ネ?ネ?」

バッカニアの両脇にぴったりと寄り添い、背中や肩を擦りながら懸命にバッカニアを慰めようとするスパイキーとヨーキャ。

心根の優しいスパイキーはともかく、いつもはバッカニアを揶揄うことが多いヨーキャですらバッカニアを慮って元気づけようとしている。

普段どんなにおちゃらけていようとも、本当に危機的な状況では結束して仲間を助ける。『天翔るビコルヌ』とは、そういうパーティーなのだ。

そんな心優しい仲間達の励ましに、バッカニアが改めてハンザの顔を見遣る。

ベッドの上に寝かされているハンザの顔に、苦悶の表情は一切ない。本当にただ普通に寝ているだけの、実に穏やかな寝顔だ。

もともとハンザとは、病気や怪我で苦痛に襲われていても極力顔には出さない。

例えそれが痩せ我慢だの強がりだのと笑われようとも、家族や周囲の大事な者達の前では常に強い 漢(おとこ) であり続けたい―――そう願い、実際そうして見せるのがハンザという男なのだ。

そんなハンザが普通の寝顔を晒している。

これは何でもないことのように見えて、実は幸せなことなのだ。

スパイキーやヨーキャの励ましによって、そのことに気づいたバッカニア。今度は、ふぅ……という小さなため息の後に、ぽそりと呟いた。

「…………そうだな。親父が不治の病で倒れたんじゃないって分かっただけでも、まぁマシだよな」

「そうそう!ハンザ先生の無事を喜ばなくちゃ!」

「だね、だね!……って、ハンザ先生まだ起きてないけど。もうすぐ起きるかな? カナ?」

何とか気を取り直すバッカニアに、それまで事の成り行きを見守っていたコルセア達も安堵したように大きく頷く。

「……何はともあれ、父上がご無事そうで本当によかった」

「ホントにな。一時はどうなるかと思ったが……これなら俺の結婚式も、そのまま進めてよさそうだな」

「全く全く。父さんの口癖は『お前たち全員の孫を見るまでは死ねん!』だからな。まずはアマロ兄が結婚して子供を産んで、その子がまた結婚して子供を産まなきゃな!」

「親父、俺の孫の顔まで見る気満々なんか……」

コルセアにアマロ、レイフもほっとした様子でハンザの顔を見ている。

特に結婚式を一週間後に控えたアマロは、本当に安心したようだ。

そしてコルセアが改めてレオニスに声をかける。

「レオニス殿、その……そちらにおられる八咫烏様達の話を伺いたいのですが……」

「おお、そうだな。どういう経緯でここに来たか、お前たちとしても知りたいところだろうしな」

「ええ、是非ともお聞かせ願いたい」

コルセアの要請に、レオニスがウルス達八咫烏との出会いを話して聞かせていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトやレオニスが、八咫烏達との関係性を一通り説明し終えた頃。

ハンザが「ううッ……」と小声を洩らしながら薄目を開けた。

「あッ、父上!目を覚ましましたか!?」

「ン…………」

「父さん!しっかりしてくれ!」

「ここは……」

「ここは第一支部の医務室だ!」

「…………医務、室?」

「親父はな、庭園で坊っちゃん達と散歩中にブッ倒れたんだ。覚えてねぇのか?」

「………………」

目を覚ましたハンザに、コルセアやアマロ、レイフ、そしてバッカニアがそれぞれ心配そうに声をかける。

最初のうちはぼけーっ……としていたハンザだったが、息子達の言葉でだんだんと思い出してきたのか、その目が少しづつ開いていった。

「そういえば……庭園で、八咫烏と会って……」

気を失う直前のことを思い出したハンザ。

瞬時にベッドからガバッ!と起き上がったかと思うと、キョロキョロと周囲を見回しだした。

そして足元にいた三羽の八咫烏を発見し、その目はますます大きく見開かれていく。

「おお……八咫烏にお会いできたのは、夢ではなかったのだな!」

突如起き上がったハンザに、ウルス達三羽はビクンッ!と一瞬飛び上がったものの、それ以上慌てることなくそのままその場に留まる。

そしてウルス達の姿を見て破顔するハンザに、ウルスが申し訳なさそうに声をかけた。

「ハンザ殿、先程は驚かせてしまって大変申し訳なかった……」

「いやいや、ウルス殿、何を仰るか!八咫烏を家紋とする我らパイレーツ一族にとって、貴殿達は神使にも等しい存在!我らが頭を垂れることはあれど、貴殿が謝ることなど何一つござらん!」

ウルスからの謝罪に、ハンザは瞬時に布団から飛び起きてウルスの真ん前で正座した。

ハンザの勢いに、ウルス達はまたもビクンッ!と飛び上がりかけるが、何とか堪えてウルスが再びハンザに話しかける。

「貴殿らのご先祖と、我ら八咫烏が交流を持っていたという逸話を聞き、思わず舞い上がってしまい……勢い余って正体を明かしてしまった」

「それは、それだけ我らがウルス殿の信頼を得たということ。光栄の極みにございますな!」

なおも謝るウルスに、ハンザはますます嬉しそうな笑顔を浮かべる。

ニカッ!と破顔するハンザの笑顔は非常に眩しく、ウルス達の正体を知り度肝を抜かれたことなど本当に微塵も気にしていないことが手に取るように分かる。

そしてハンザは、ウルスの横にいるケリオンやマキシにも声をかける。

「そちらの御仁は、ウルス殿のご子息でしたよな?」

「あ、はい」

「どちらがケリオン殿で、どちらがマキシ殿ですかな?」

「私がケリオンです」

「僕がマキシです」

「ふむ……よし、覚えましたぞ!」

どちらがケリオンでどちらがマキシかを問うハンザに、ケリオンとマキシが順番に名乗り答える。

そしてハンザは真剣な眼差しで三羽を見つめ、覚えた!と宣言した。

三羽とも漆黒の羽根に包まれていて、見た目は完全に同じなのだが。その中で最も違うのは、体格の大きさである。

現役族長であるウルスが最も大きく、ケリオンとマキシはほぼ同じサイズだ。

サイズで覚えるとしたら、最も判別しやすいウルスはともかくケリオンとマキシは見分けがつかなさそうだ。

だがしかし、ハンザははっきりと「覚えましたぞ!」と宣言した。

ハンザはヴァイキング道場本館で飼っている六羽のカラスも、全部きちんと見分けがつくという。

そんなハンザのことだ、きっとケリオンとマキシの違いも既に見つけていてちゃんと分かるのだろう。

そして、思った以上に元気そうなハンザの様子に、周囲は安堵していた。

そんな中で、レオニスが率先してハイポーションに話しかけた。

「ハンザ、どこも具合が悪いところはないか?」

「おお、レオニス君、心配かけてすまない。今のところ、痛みや吐き気など全くない」

「そうか、そりゃ良かった。ただし、念の為マレー達の回復魔法を受けといてくれ。その方が皆も安心するだろうからな」

「ああ、そうしよう。……マレー、モロ、カリブ、モルトケ、ナッソー、すまんがよろしく頼む」

「「「はいッ!!」」」

レオニスの勧めに従い、師範代五人に頭を下げて頼み込むハンザ。

マレー達も元気良い返事とともに一斉に両手を前に翳し、ハンザの身体に回復魔法をかけていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ハンザはベッドから降りて、腰を左右に捻ったり歩いたりして身体に異常がないことを確認した。

ハンザの無事を確認できたコルセア達四兄弟は、本当に安心した表情になっていく。

「はぁー……父上のご無事が確認できて、本当に良かったです」

「うむ、コルセアにも心配させてしまってすまなかったな」

「ホントですよ、父さん。今父さんの身に何かあったら、俺の結婚式を延期しなきゃならないところでしたよ」

「何ッ!? そりゃいかん、我の身体はこの通りピンピンしておるのだから、結婚式は予定通り執り行うぞ!?」

「そりゃそうッスよ。こんだけ父さんが元気なら、延期する必要なんてねぇですし」

「そうだろうとも、そうだろうとも。……って、ン? レイフ、お前いつここに来たんだ?」

「俺が呼んだんだ。アマロ兄とレオニスの旦那の稽古の助っ人にな!」

「バッカニア、お前……そういう悪知恵だけは、相変わらずよく働くな……」

四人の息子達に詫びたり慌てたり、あるいは疑問符がたくさん浮かんだり呆れ返ったり、何かと忙しそうなハンザ。

そこには父と息子達の仲睦まじい姿があった。