軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1155話 バッカニアの悪巧みとハンザの衝撃

結局この日のライト達は、夜遅くまでヴァイキング道場第一支部で過ごした。

明るいうちはアマロ他第一支部の猛者達と稽古をするレオニス。

しかもアマロがレオニスと稽古している間に、何とバッカニアが第二支部に向かい三男のレイフまで呼び寄せてきた。

真っ直ぐな長い赤髪を頭の後ろの高い位置で一つに結んでいて、本紫色の涼やかな目元や道着と相まって凛とした剣士の風格を醸し出している美丈夫、レイフ・パイレーツ。

道場の入口の引き戸が突然勢いよく開いたかと思うと、レイフが開口一番大声を上げた。

「何だ何だ、レオニス君がホドに来てるんだってー!?」

「ン?……おお、レイフじゃねぇか!久しぶりだな!」

「おおー、本物のレオニス君だー!マジ 久(ひッさ) しぶりだなぁ!」

スパーーーン!というけたたましい引き戸の音とともに現れたレイフ。

その姿はヴァイキング道場共通の道着を着たままで、しかも左手には普段愛用しているマイ木刀を持参しているではないか。

あまりにも豪快過ぎる登場の仕方に、コルセアが「え? レイフ? 何でレイフがここに来てんの?」と驚いている。

しかし、レイフの登場に驚いているのは観戦していたコルセアやマレー達師範代くらいのもので、当のレオニスやアマロは全く動じていない。

それどころか、レオニスはアマロに攻撃を繰り出しつつ平然と声をかける。

「おう、正真正銘本物だぞ!つーか、そんなところで立ち話も何だ、お前も稽古に混ざるかー!?」

「もちろんだ!アマロ兄、いいよな!?」

レイフの参戦を促すレオニスの言葉に、レイフの笑顔はますます輝く。

参戦する気満々のレイフに、アマロもレオニスの猛攻を受けながらニヤリ、と笑う。

「おう、レイフも混ざれ混ざれ!俺だけじゃレオニス君の相手をしきれん!」

「ヒャッホーィ!そうこなくっちゃな!いッくぜぇーーー!」

只今絶賛特別稽古中のレオニスとアマロの歓迎に、レイフが大喜びで参加する。

レイフは着の身着のまま、マイ木刀とともに道場の真ん中に駆け出していった。

それまでレイフの後ろにいたバッカニア、道場の中に入り壁際で観戦しているスパイキーとヨーキャのもとに戻ってきた。

「クックック……俺やコルセア兄とあんだけ戦った後だ、アマロ兄にレイフ兄まで戦えばさすがにレオニスの旦那でもへばるだろ!」

「バッカニアの兄貴、性格 悪(わり) いなぁ……」

「ホントだヨねー……でもまぁ多分、バッカ兄のイタズラなんてレオニス君には通じないと思うけどネ? プププwww」

悪い顔でニヤニヤとほくそ笑むバッカニア。

そんなバッカニアをスパイキーは呆れ顔で見つめ、ヨーキャもまたニヨニヨ顔でバッカニアの返り討ちを予想している。

バッカニアはレオニスがヘロヘロになって草臥れることを期待して、わざわざ第二支部まですっ飛んでいってレイフを呼び寄せた。

自分を皮切りにコルセア他本館の門下生一同、そして今は第一支部の門下生達が早々に敗退してアマロ一人となっている。

そこにパイレーツ四兄弟三男のレイフまで参戦すれば、さしものレオニスの旦那でもいい加減へばるだろ!というのが、バッカニアの悪巧みの全貌である。

しかし、レオニスがへばる様子は一向に見えてこない。

それどころか、新たに登場したレイフを快く迎え入れてますますご機嫌で特別稽古に熱中しているではないか。

そんなレオニスの上機嫌ぶりに、バッカニアの顔から次第に悪い笑顔が消えてスーン……とした表情になっている。

「……あの底無しの体力は、尽きるってことを知らんのか?」

「うん、バッカニアの兄貴の企みは、レオさんを草臥れさせるどころかますます喜ばせるだけだったな」

「だヨねー。結局ボクの予想通りだったネ!キシシ☆」

「お前ら、言うな、言わんでくれ……これじゃ俺はまるっきり道化じゃねぇか……」

「「今更???」」

思い通りに事が運ばずに、がっくりと項垂れるバッカニア。

根が真面目で善人のバッカニアが考える悪巧みなど、所詮この程度の可愛らしいものである。

しばらく項垂れた後、バッカニアがふいっ……と顔を上げて道場のど真ん中を見遣る。

そこにはレオニスとアマロ、そしてレイフの三人が汗を飛び散らしながら竹刀や木刀で打ち合っている。

三人の顔は実に生き生きとしていて、剣士特有の歓喜―――強者と戦える喜びに満ちていた。

「…………ま、いっか。アマロ兄もレイフ兄も楽しそうだし」

「だな。レオさんにも喜んでもらえりゃ万々歳だ」

「脳筋のレオニス君を喜ばせるなら、死なない程度の戦いを用意するのが一番ってことだネ!ウキョキョ☆」

レオニス達の喜びようを見て、バッカニア達は結局それを是とすることにした。

バッカニア率いる『天翔るビコルヌ』の日常会話がそこにあった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニスがアマロやレイフとの特別稽古に没頭している間。

ライトとラウル、そしてマキシはハンザの案内で第一支部内を見せてもらっていた。

ちなみにウルスはライトの右肩に、ケリオンはマキシの左肩に留まっている。

この第一支部は三年程前にできたばかりなので、施設内のどこを見てもまだ新しさが漂う。

玄関から外に出て、整えられた庭園を散策するライト達。

ここでライトがふと、それまで感じていた疑問をハンザに問うた。

「ハンザさん、一つ聞いてもいいですか?」

「ン? 何だね?」

「このヴァイキング道場では、八咫烏の紋章を用いていますよね? それには何か理由があるんですか?」

ライトが常々聞いてみたかったこと、それは『何故ヴァイキング道場では、八咫烏を崇めているのだろう?』ということ。

紋章に動物をモチーフに用いるのはよくあることだが、このヴァイキング道場が八咫烏をモチーフにしているのに何か明確な理由があるのなら、それを聞いてみたい!とライトは前々から思っていたのだ。

そんなライトの素朴な疑問に、ハンザは微笑みながら応える。

「ライト君は、あの紋が八咫烏だということをその歳で理解できているだな。とても素晴らしいことだ」

「い、いえ、そんな大したことでは……」

「謙遜することはない。そもそもあの家紋に興味を示す者自体が滅多におらんしな」

思いがけずハンザに褒められたライト、照れ臭そうに小さく微笑む。

実際ライトの歳、九歳児で八咫烏という存在を知る者自体かなり珍しいことだ。

もっともライトの場合、前世にゲームや漫画、アニメなどで培った知識とマキシ他本物の八咫烏との交流もあるのだが。

そんなことは知る由もないハンザ。

ライトの質問に、静かに答えていった。

「我がパイレーツ家は、ヴァイキング道場の道場主を代々務めておる。ヴァイキング道場の開祖にして初代道場主である我が祖先、バルバロッサ・パイレーツは一羽の八咫烏を友としていて、どこに出かけるにも常に行動をともにしていたという逸話があるのだ。その逸話をもとに、パイレーツ家の家紋は八咫烏と決まっているのだ」

「へー、ハンザさん達のご先祖様 にも(・・) 八咫烏の友達がいたんですねー」

「そう……って、ライト君は他にも八咫烏を友にする者を知っているのか?」

「え"ッ!?」

ハンザが語るご先祖様の逸話に、ライトが感心しながら相槌を打つ。

だがその相槌の中で『(ご先祖様)にも』なんて言ってしまったものだから、ハンザの鋭い質問がすかさず飛んできてしまった。

実際ライト達はマキシ他八咫烏一族と親交があるので、ついぽろりと口に出てしまったのだが。そんな何気ない一言を見逃さないとは、ハンザもなかなかに切れ者である。

「ぁー、ぃゃ、その、えーと……実はぼくとレオ兄ちゃんが住んでいるカタポレンの森にも、八咫烏の集落がある、ようでして……」

「おお、そうなのか!カタポレンの森と言えば……確か、他のどの地域よりも多数の魔物が住む森として恐れられている、と記憶しているが……」

「はい、その認識で間違いありません。レオ兄ちゃんは、カタポレンの森の魔物が暴れたり溢れ出したりして人里に襲いかからないように、国や冒険者ギルドから頼まれて森の監視を引き受けているんです」

「そうか……レオニス君が背負うものとは、それ程までに大きなものなのだな……」

己の失言にしどろもどろだったライトだが、何とか誤魔化せたようだ。

ちなみにライトが語った、レオニスがカタポレンの森に住んで監視等警邏を一手に引き受けているというのは、別に機密事項でも何でもないのでハンザに話しても問題はない。

レオニスが背負うものの大きさ、その過酷な境遇にハンザはレオニスの身を憂いて視線を落とす。

そしてその視線の先には、偶然にもライトの肩に乗るウルスの姿があった。

小さな文鳥に扮したウルスを見つめながら、ハンザが呟く。

「そういえば君達も、ここに来る度に黒い文鳥を二羽連れてきていたな。その文鳥達は、君達のペットなのかね?」

「いいえ、この子達はちょっとした事情があって、数日間だけぼく達が預かっているんです。前回連れてきた子は女の子でしたが、今回は男の子なんです」

「おお、そうなのか。前に来た女の子達もそうだったが、今回来た子達もとても凛々しくて可愛らしい子達だな」

ウルス達のことをライトやレオニスのペットかと思っているハンザに、ライトは言葉を濁しながらもペットではないことを伝える。

確かに来る度に黒い文鳥を連れてきていれば、それが大事なペットかと思われて勘違いされてしまうのも当然のことだ。

八咫烏を家紋とし、自らも六羽のカラスを飼うハンザ。カラスではないにしても、サイズが違うだけの黒い鳥ということで文鳥もどきのウルスやケリオンに親近感を抱いているようだ。

するとここで、ウルスが何を思ったかライトの肩からパタパタと飛び、ハンザの真正面に移動した。

そして、身体のサイズを解いて元の大きさに戻ったではないか。

「!?!?!?」

自分の目の前で、小さな文鳥が突如巨大なカラスに変化したことに驚愕するハンザ。

しかも、空中で留まり続ける巨大カラスは、あろうことか三本の足があるではないか。

これにはハンザも心底度肝を抜かれていた。

「こ、これは……まさか……八咫烏?」

「然様。我が名はウルス、カタポレンの森で大神樹ユグドラシア様をお守りする八咫烏一族が族長である」

「………………」

自ら名乗りを挙げたウルスの言葉に、ハンザは言葉を失う。

このサイサクス世界において、八咫烏とは架空の生き物ではない。実在する霊鳥であることは広く知られている。

ただし、如何に実在する霊鳥であっても実際に実物を見る機会はほとんどない。それら霊鳥は、人里離れた秘境や奥地に住んでいるのが通例であり、人族と交わること自体が極稀なのだ。

石のように固まってしまったハンザに、ライトが慌てて声をかける。

「ハ、ハンザさん? 大丈夫ですか!?」

「…………ぷはぁッ!ハァ、ハァ……あ、あまりにも驚き過ぎて、息が止まってしまったわ……」

ライトの呼びかけに、何とか我に返ったハンザ。息を吹き返し、気持ちを整えようと必死に呼吸をしている。

その間に、ライトやマキシ、ケリオンがウルスの前に集まり、小声で問いかける。

「ウルスさん、正体を明かしてしまって大丈夫なんですか!?」

「うむ。この御仁の真っ直ぐさ、そしてご先祖が我ら八咫烏と縁があったと聞いて、我も正直にあらねばと思ってな」

「それは……父様のお気持ちも分かりますが……」

「何、心配は要らぬ。この御仁とて、森の番人たるレオニス殿が心を許す心友。ならば我らが疑う余地などない」

「……そうですね」

懸命にウルスとゴニョゴニョと話していたライト達。

ウルスの言い分も尤もで、レオニスが認めるハンザならばウルス達の正体を知っても大丈夫そうだ、とはライト達もそう思う。

そしてここで、ケリオンが父に続け、とばかりに元の姿に戻りハンザの前に飛んだ。

「ハンザ殿、ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はケリオン、ここにいるウルスが次男にして八咫烏一族の一員にございます。以後お見知りおきを」

「うおッ、こちらも八咫烏!? で、では、先日来た女の子の文鳥というのも……」

「はい。我が姉ムニンと、同じく二番目の姉トリスも八咫烏一族にございます」

「何と……」

ウルス達の怒涛のカミングアウトに、ハンザは先程からずっと驚かされっぱなしである。

そして最後に、事ここに至っては自分だけそのままではいられない、と観念したマキシが人化の術を解いて八咫烏の姿に戻った。

ウルスの横に並んだケリオン、その横にマキシが飛んでハンザに向かってペコリ、と頭を下げた。

「実は僕も八咫烏でして……ウルス父様の四番目の息子、マキシです」

「………………」

マキシが名乗った途端、とうとうハンザが後ろにひっくり返って倒れてしまった。

如何にハンザが強靭な精神の持ち主であっても、さすがにこの怒涛の衝撃には耐えきれなかったようだ。

後ろに倒れゆくハンザの身体を、ラウルが「おっと」と言いながら素早く後ろに回り込み支える。

おかげでハンザは後頭部強打の憂き目は逃れたものの、半ば白目を剥きつつそのまま気絶してしまった。

「うおッ、ハンザ殿!?」

「あー、こりゃ驚き過ぎて気を失っちまったな」

「そそそそんな……我々はどうすれば……」

「ンー、とりあえずウルス達はまた文鳥サイズに戻っておいてくれるか? ハンザ一人だけに正体を明かすならともかく、今ここで他の人間にまで広く知られていいもんかどうかまでは分からんからな」

「わ、分かりました……」

ラウルの適切な指示に、ウルス達は唯々諾々と従う。

ウルスとケリオンが文鳥サイズに変化し、マキシも人化の術で再び人の姿になったところで、ライトがラウルに声をかけた。

「このままハンザさんをここに放置する訳にもいかないし、とりあえずレオ兄ちゃんに知らせてくるね」

「おう、そうしてくれ」

ライトはレオニスに事態を知らせるべく、道場本館に戻っていく。

ここは庭園で、ライト達以外には誰もいなかったのが幸いか。

ラウルに抱えられたまま倒れているハンザの腕に、文鳥サイズに戻ったウルスとケリオンがちょこんと留まり、心配そうに見つめている。

そしてマキシもまたラウルの横で、父や兄同様に心配そうにハンザを見つめていた。