軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1147話 模擬戦の勝敗の行方

話の流れで模擬戦を行うことになったレオニスとバッカニア。

レオニスが手に馴染む竹刀を選んでいる間に、他の別館や第二道場、第三道場にいた師範や門下生達が続々と集まってきた。

かなりの人数だが、入口側の壁のみに沿うようにして門下生達を立たせる。四方の壁全部にぐるりと囲むようにしてしまうと、レオニス達の模擬戦に支障が生じる可能性があるからだ。

例えばの話、レオニスやバッカニアが模擬戦中に吹っ飛ばされて壁に激突した場合など、当人達だけなら問題ないが門下生達まで巻き添えを食らったら洒落にならないのである。

そしてバッカニアも、道着ではなく普段着に着替えてきた。

レオニスだって、いつもの深紅のロングジャケット他フル装備で模擬戦に挑むのだ。ならばバッカニアも単なる道着ではなく、より動きやすいいつもの冒険者装備で挑むのがベストである。

そうして道場中央で改めて向かい合うレオニスとバッカニア。

レオニスは両手で竹刀を持ち、床にドン!と垂直に立てている。直立姿勢で堂々と立つレオニス、その姿は実に威風堂々とした威厳に満ち満ちている。

一方のバッカニアは、右手に竹刀を携えてレオニスに負けないくらい凛とした姿勢でレオニスと対峙していた。

「……まさか、こんな形でレオニスの旦那と戦うことになるとはなぁ……夢にも思っていなかったぜ」

「全くだ。でも、俺は嬉しいぞ? お前だってヴァイキング流剣術の使い手だ、いつかは真剣に戦ってみたいと思っていたんだ」

「ぉぃぉぃ、さすがにモノホンの真剣は勘弁してくれよ? そんな勝負を受けたら、俺の命がいくらあったって足りやしねぇ」

「分かってるって、だからこその竹刀での模擬戦だろ?」

思いがけない対戦の実現に、バッカニアの顔は緊張に強張る。

しかし、レオニスの顔はいつもと全く変わらない。それどころか、リラックスした表情の中にも内心のワクワクが抑えきれないかのように、ニヤリ……と不敵な笑みを浮かべている。

「だが……この竹刀でも十分だ。お前の真の実力なら、得物を選ぶ必要なんてねぇからな」

「ぃゃー、それ程でも…………って、そんなに俺を持ち上げたって何にも出ねぇぞ?」

「いやいや、嫌でもここで全部出してもらうさ。……お前の全力をな」

レオニスの期待に満ちた目に、バッカニアの顔にも次第に笑みが浮かんできた。

普段は慎重過ぎるくらいのバッカニアだが、彼とて冒険者となってからそれなりの年月を過ごしてきた。そして冒険者になる以前、幼い頃からバッカニアは生家のヴァイキング道場で剣術を磨き続けている。

レオニスとのやり取りは、バッカニアの内に秘めた闘争心にじわじわと火を着け始めていた。

「……いいだろう。こないだ氷蟹のフルコースをたんまり食わせてもらったしな。その礼代わりと言っちゃ何だが、レオニスの旦那には今ここでヴァイキング流剣術を存分に堪能してもらおうじゃないか」

「おお、そりゃあいい!あれは別にお返しを期待して奢った訳じゃねぇが、それでもここでその礼をもらえるってんならありがたくいただこう」

レオニスと本気で戦う決意をしたバッカニアに、レオニスもまた嬉しそうに返す。

そして二人は同時にゆらり、と動き、竹刀を構えた。

道場の中は、水を打ったように静まり返る。完全な無音の世界で、ひりついた空気が辺り一帯を支配していた。

「……行くぞ」

「来い」

仕切る者もいない中、二人の合図で模擬戦が始まった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「………………」」」

レオニスとバッカニアの模擬戦が始まった後、ライト達はただただ呆然としながら二人の戦いを眺めていた。

背の小さいライトのために、ハンザが率先してギャラリーの最前列、ド真ん前に出ていたのだが。ライトのみならず、ハンザやコルセアも二人の戦いを見て息を呑むばかりだった。

今のところ、バッカニアがレオニスを押しているように見える。

一秒間に十回は打撃を繰り出すバッカニアの素早い攻撃は、もはや普通の門下生の目には映りきらない。ここまでになると、ハンザやコルセア達師範クラスですら気を抜いたら目で追えなくなる。

ちなみにライトの目には、二人の動きはちゃんとよく見えている。

これも日頃のBCO関連の修行の成果、そして各種加護の恩恵である。

『バッカニアさんのあの攻撃も、もちろんすごいけど……何が一番すごいって、あれを全部受け止めてるレオ兄なんだよな』

『しかもそれも、受け止めるだけで精一杯とかじゃなくてまだまだ余裕があるってんだから……』

『てゆか、二人の動くスピードがどんどん上がってるし……これ、どこまで早くなんの?』

レオニス達の模擬戦を見ながら、ライトは内心で冷静に分析している。

ライトがレオニスをすごい!と評するのは、その動体視力と反応の良さだ。

レオニスがバッカニアの猛攻を全て受け止め、軽くいなすように流しているのは、ひとえにバッカニアの剣の動きが完全に見えているからだ。

尋常でないレベルの動体視力、そしてそれを生かせるだけの反射神経。これこそが、レオニスの強さの秘訣でもあった。

そしてライトが感じていたように、二人の剣戟は次第に早くなっていった。

模擬戦を始めた直後でさえ、猛烈な動きで打ち合いをしていたというのに。徐々に上回っていくバッカニアの猛攻に、レオニスがニヤリ、と笑う。

「バッカニア、だいぶ腕を上げたじゃねぇか」

「そうか? 俺の剣はまだまだこんなもんじゃねぇぞ?」

「言ったな? ならもっと全力で来い」

「つーか、レオニスの旦那からは来ねぇのか? まさか俺の剣を受けるだけで精一杯、とか言わねぇよな?」

バッカニアの腕を褒めるレオニスに、当人は事も無げに受け流す。

普段のバッカニアなら、「ぃゃー、そんなこともあるけどな?」とか言いながら照れ臭そうにはにかむところなのだが。今のバッカニアは、普段のおちゃらけたバッカニアとは違う。

この模擬戦にかける思いの強さは、バッカニアを真の剣士たらしめていた。

そしてバッカニアにしては珍しく、レオニスを煽るようなことを言っている。

もちろんバッカニアとしては、わざと煽っている訳ではない。ただ純粋に『俺だけが攻撃してていいのか?』という意味で尋ねただけなのだが。

その言葉をバッカニアからの挑戦状と受け取ったレオニス。それまで比較的穏やかだった目の色が、突如ギラリ!と瞬時に変わった。

「……良かろう、お前の願いは確と受け取った。お望み通り、こっちからも行くことにしよう」

「おう、そうしてくれ。俺も全力で行かせてもらうからよ」

「上等だ。安心しろ、やるにしても死なない程度にしといてやる」

「そりゃありがてぇ、ここには親父や兄貴達もいるしな!死ななけりゃすぐに治してもらえるから問題ねぇぜ!」

レオニスの攻撃転化宣言に、バッカニアも口角を上げて承諾する。

いつものバッカニアならすぐにでも撤退するところだろうに、今日に限ってはその気配は微塵もない。

一度火が着いたバッカニアの闘争心は、その程度のことで収まりなどしない。まるでレオニスの戦闘狂がバッカニアにまで感染したかのようだ。

「逃げるんじゃねぇぞ?」

「ここまできて逃げる訳ねぇだろ」

「そうこなくっちゃな」

この言葉を最後に、二人の動きがさらに激しくなり、レオニスがバッカニアの剣を受けつつ攻勢に反転していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

二人の模擬戦が始まってから、三十分くらい経過しただろうか。

最初のうちは接近戦でずっと打ち合っていたが、次第に二人の動きは大きくなっていき、終いには道場の端から端まで全ての空間を使った動きになっていった。

二人とも無意識のうちに入口側の壁には近寄らず、しかし他の三方の壁は遠慮なく足場にしたり相手を吹っ飛ばして叩きつけたりしている。

大勢のギャラリーがいる入口側に配慮できるあたり、見境ない戦闘狂ではないだけ大したものだ。

とはいえ、ここまでくるともはや剣術道場の模擬戦の範疇をはるかに超えてしまっているが、周囲が止めに入る様子はない。

それというのも、このヴァイキング道場の稽古場には各種防御魔法が付与されており、多少のことではびくともしない頑丈さを誇るからだ。

しかもレオニス達が使っている竹刀も、ただの竹刀ではない。竹のように見えるそれにも様々な付与魔法が施されている。

対戦の際に負うダメージを軽くするための重量軽減魔法の他、耐久性を増すための防御魔法などが付与されていた。

道場ならではの配慮が行き届いた環境の中で、最後まで立っていたのはレオニスだった。

「…………参った」

スタミナ切れで床にペタリと座り込むバッカニアに、レオニスがその喉元に竹刀の先端を突きつけている。

如何にバッカニアが剣術の達人であっても、対戦相手の動きについていけなければそこで試合終了、である。

「はぁー……やっぱまだまだレオニスの旦那にゃ勝てねえなぁ」

「そりゃそうだ。俺だって、まだまだお前に負けてやる訳にはいかんしな」

「つーか、レオニスの旦那よ……アンタ、また前よりかなり強くなってねぇか?」

「そうか?…………まぁな、俺だってまだまだこれから成長し続けていくってことさ!」

「ぉぃぉぃ、勘弁してくれよ……それじゃ俺は、いつまで経ってもレオニスの旦那に追いつけやしねぇってことになっちまうじゃねぇか」

床に胡座をかいたまま、がっくりと項垂れるバッカニア。

もとより今の実力でレオニスに勝てるとは思っていなかったが、それでも自分の攻撃がここまで通用しないとは思わなかった。

彼我の差をまざまざと見せつけられては、その場で項垂れ落ち込むのも無理はない。

そんなバッカニアに、レオニスがスッ……と左手を差し伸べる。

レオニスの左手を見たバッカニア、同じく左手でその手を掴み立ち上がった。

「……ま、結局は俺の修行がまだまだ足りんってことだな。しゃあない、明日から稽古の時間をもっと増やすか」

「それがいいな。俺はもうちょいここで稽古をつけていくから、お前はライトのところに行って休んでていいぞ」

「え? 何、レオニスの旦那、まだ稽古すんの?」

「おう、せっかくならここの門下生達ともまた手合わせしていきたいしな!」

「………………」

ペカーッ☆と輝くレオニスの笑顔に、バッカニアはただただ絶句するしかない。

今しがたバッカニアと散々模擬戦したばかりなのに、まだここで稽古をつけていくと言うではないか。

ヘロヘロに疲れきったバッカニアを他所に、レオニスは輝く笑顔のままハンザに声をかけた。

「ハンザ、待たせたな!そしたら今から門下生達の稽古を始めるか!」

「え? 何、レオニス君、まだ動けるのか?」

「もちろん!まだまだイケるぜ!」

バッカニア同様、ハンザも呆然としながらレオニスに問いかけるも、本当に平気そうなレオニスの余裕ぶりに次第にハンザも我に返る。

「……よし、そしたらこのままレオニス君に稽古をつけてもらうぞ!」

「「「え"ーーーッ!?」」」

「お前達、何を間抜けな声を出してるんだ? レオニス君自身がいいと言っているんだ、何の問題がある?」

「ぃ、ぃゃ、それはそうなのですが……」

休憩も無しに再度稽古をつけるというレオニスの無謀さに、コルセア以下殆どの門下生達が驚愕している。

しかしハンザの言うことも尤もで、何もハンザが無理強いしている訳ではない。レオニス本人がやろうぜ!と言っているのだから、そこに何の問題もないのである。

ちなみにこのハンザと門下生達のやり取りの間に、レオニスは空間魔法陣から取り出したエクスポーションをぐい飲みしている。

この短時間でしっかりと体力回復するあたり、レオニスの抜け目なさが分かろうというものだ。

「ほら、お前達!もたもたしていると、レオニス君が完全回復してしまうぞ!バッカニアの仇を取って一矢報いてこい!」

「……は、はい!」

最高師範ハンザに檄を飛ばされた門下生達。

慌てて己の竹刀を持ち、道場内に雪崩込んでいく。

そして入口付近に残ったのは、ライトとハンザ、そしてさっきレオニスとの模擬戦を終えたばかりのバッカニアの三人だけになった。

道場内に満遍なく門下生達が散開したところで、ハンザがレオニスに向けて声をかけた。

「レオニス君の好意に甘えて、稽古を続行させていただこう。皆準備はいいか!」

「おう、俺はいつでもいいぞー」

「「「……(コクリ)……」」」

レオニスはハンザの問いかけに気軽に応え、門下生達は真剣な眼差しで無言で頷く。

「では、始めッ!!」

ハンザが発した開始の掛け声に、門下生達は一斉にレオニスにかかっていった。