軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1146話 思いがけない再会と世紀の対戦

ハンザの案内でメインの道場に向かったライトとレオニス。

道場に近づけば近づく程、威勢のよい掛け声が多数聞こえてくる。

そして道場の入口に立ったレオニスとハンザ。

道場内では多数の門下生が剣を振り、各々懸命に修行に励んでいた。

基本的に皆修行に集中しているのか、殆どの者はライト達が入口に来たことに気づかない。

だが、極少数の者達は瞬時に剣を止めてガバッ!と入口の方に振り返った。どうやらハンザ以外の強者のオーラを感じ取ったようだ。

その殆どは門下生を指導中の師範などの実力者だったが、中でも一際強い反応を速攻で示した者がいた。

それは誰あろう、ヴァイキング流剣術の使い手パイレーツ一族の現当主ハンザの四男、バッカニアであった。

たまたま入口付近で門下生相手に稽古をつけていたバッカニア。

レオニスの顔を見た途端、バッカニアがものすごーく渋い顔をして叫んだ。

「……うげッ、レオニスの旦那じゃねぇか!何でこんな片田舎にッ!?」

「何でって、そりゃお前………………」

「???」

仰天顔のバッカニアが思わず叫んだ質問に、レオニスは何故ここに来たのかを言おうとして言い淀む。

今日皆でこのヴァイキング道場に連れ立って来たのは、八咫烏親子のウルスとケリオンに存分に男性の人族を観察させてやるのが主目的だ。

だがこれは、今ここで明かせるものではない。ウルスとケリオンが八咫烏であること自体伏せているのだから。

故にレオニスは、一瞬言葉に詰まったのだ。

一方バッカニアは、そんなことを知る由もない。

突然黙り込んだレオニスに、バッカニアはジトーッ……とした視線を向けながら改めて問うた。

「ぉぃぉぃ、レオニスの旦那……また何か変なこと企んでんじゃねぇだろうな?」

「 また(・・) とか 変なこと(・・・・) とか失敬な。一体いつ俺が変なことを企んだよ?」

「よく言うぜ……俺達『天翔るビコルヌ』を問答無用で氷の洞窟に強制連行したのを、もう忘れたってのか?」

「ぃゃぃゃ、あれはお前の借金返済のための救済措置だっただろ? つーか、お前らだってあん時の氷の洞窟でかなり稼げたじゃねーか」

「だから!ありゃ借金なんかじゃねぇ!レオニスの旦那が勝手に水増ししまくってただけだ!」

バッカニアのジト目尋問に、レオニスはシレッとした顔で反論する。

バッカニアの借金云々は、例の『氷蟹フルコース料理○人前奢れ問題』だ。

この件に関しては、レオニスとバッカニア双方でその解釈に大きな乖離がある。その相違は水と油程に違うものなので、おそらくは一生埋まることのない溝であろう。

しかし、レオニスとしては納得がいかない。

その件に関しては、既に先日の『皆で楽しく氷の洞窟で氷蟹を狩ろう!ツアー』で完全に解決したはずだ。

なのに、未だにバッカニアから警戒されているとは一体どういうことだ。レオニスにしてみたら『解せぬ』の一言に尽きるというものである。

「バッカニアよ、氷蟹の件はもう解決済みだろ? つーか、何ならお前らの方が逆に氷蟹フルコースを十人前以上食ってただろうがよ?」

「うぐッ……そ、そりゃそうなんだが」

「だったらいい加減、俺に対する警戒を解け。いくら俺でもさすがに傷つくぞ?」

「そんなん仕方ねぇだろう、俺の目にはもうレオニスの旦那は地獄からの使者にしか見えねぇんだからよ」

「バッカニア、お前ってやつぁホントに酷ぇよね……」

口を尖らせながら軽く抗議するレオニスに、バッカニアも反論する。

そんな二人のやり取りに、ハンザが呆れ顔でバッカニアを問い詰める。

「バッカニア、お前……レオニス君に対して、いつもそんな態度なのか?」

「ン? ぁ、ああ、これまで俺はレオニスの旦那には散々な目に遭わされてきてるし」

「どんな目に遭わされてたかは知らんが、それにしたって態度が悪過ぎやしないか。レオニス君は冒険者としてお前より先輩だろうに」

「親父はな、レオニスの旦那の真の恐ろしさを知らんからそんなことが言えるんだ!」

「「…………」」

バッカニアを窘めるハンザに、反論して食ってかかるバッカニア。

このままでは親子喧嘩に発展しそうな勢いに、ライトもレオニスもただただ無言になる。

するとここでレオニスが、はぁー……という大きなため息をついた後、二人の会話に介入した。

「ハンザ、俺のことなら気にしなくていい。バッカニアはいつもこんなで今更だし」

「そ、そうなのか……うちの愚息が誠に申し訳ない。これも全ては親の教育が行き届かなかった、私の不徳の致すところだ」

「いやいや、ハンザが気に病むこたねぇさ。そもそもバッカニアのこれは、何も俺に対してだけじゃねぇからな。誰に対してもいっつもこんなだから、ある意味平等っちゃ平等な態度だし」

「レオニスの旦那も、何気にシレッと酷ぇよな?」

バッカニアを擁護するレオニスに、ハンザは恐縮しきりだ。

このヴァイキング道場も基本的に実力主義ではあるが、それでも体育会系特有の年功序列な空気だって若干は存在する。

特にレオニスのような、破格の実力を持つ先輩に対して腐すなどということは、ハンザの感覚からすれば絶対にあり得ないことだった。

だがしかし、当のレオニスはバッカニアの無礼に対しそこまで怒ってはいないようだ。

実際バッカニアが言うように、レオニスの方から無茶振りすることだってない訳ではない。というか、間違いなくある。

そしてバッカニアの方も、口ではレオニスを忌避するような言い方を度々しているが、本当に毛嫌いしている訳ではない。そのことは、バッカニアの表情などから分かる。

故にレオニスとバッカニアはお互い様な関係であり、先程の抗議合戦もお約束のお戯れのようなものなのだ。

「ま、堅苦しいのはここまでにして。何だ、バッカニア、お前でも実家に帰ることがあるんだな?」

「そりゃあな? アマロ兄がもうすぐ結婚するんだ、俺だって帰郷してちゃんと祝うのは当然だろ?」

「まぁな。俺は今日たまたまここに寄って、アマロの結婚を知ったんだが。いやー、実に目出度いことだよな!」

「ああ、本当に喜ばしいよな!…………って、レオニスの旦那、それ知らずにうちに来たの? ホント、何で今日うちに来たのよ?」

滅多に帰郷しないバッカニアの帰郷理由に、レオニスも大いに頷く。

バッカニアが滅多にホドに帰ってこないというのは、前回の訪問時に長兄のコルセアから聞いていた。

そんなバッカニアと今日ここで会ったこと自体が驚きなのだが、次兄の結婚を祝うために帰ってきたと聞けば納得である。

そしてレオニスがふと周囲をキョロキョロと見回し始めた。

「つーか、アマロは今ここにはいないのか? もしいたら、俺からも直接祝いの言葉を伝えたいんだが……」

「ああ、アマロ兄は第一支部の支部長をしてるからな。日中はずっと向こうにいて、主に向こうに通う子供達の指導をしてるんだ。夜になったらこっちに帰ってくるけどな」

「そっか……そしたらここを出た後に、その第一支部とやらにも寄ってみるか」

「おお、是非そうしてやってくれ、絶対にアマロ兄も喜ぶだろうからさ!」

レオニスの言葉に、バッカニアが明るい顔で喜ぶ。

アマロは道場主次男として、ホドにあるバッカニア道場第一支部の支部長を務めている。そのため日中はずっと第一支部に詰めているのだ。

そしてアマロもまた、ハンザやコルセア同様レオニスとも知己があり、気安く会話できるくらいには親交がある。

互いに住む場所が離れているため、滅多に会うことのない友ではあるが、友が結婚すると聞けばレオニスとしても直接祝いの言葉をかけたいと思うのは当然のことだった。

そうして和やかに会話していたレオニスとバッカニア。

するとここで、ハンザが二人に提案をした。

「そうだ、レオニス君。もし良ければこの愚息に、今日はガッツリと稽古をつけてやってくれんか」

「え"ッ!? ぃゃぃゃ、ちょ、待て待て、親父、何を言い出すんだ!?」

「いや、お前だってヴァイキング流剣術の使い手だ、ここでレオニス君の指導を受ければより一層飛躍できるぞ?」

「だからって!いくら何でもレオニスの旦那に頼むこたねぇだろ!レオニスの旦那の本気の扱きなんて受けたら、今日が俺の命日になっちまうじゃねぇか!」

「バッカニア、今日のお前はいつにも増してより一層酷ぇよね……」

再び親子で言い合いになっているバッカニアとハンザに、レオニスははぁー……と二度目の大きなため息をつく。

だが、次の瞬間。レオニスはニヤリ……と不敵な笑みを浮かべた。

「……ま、ヴァイキング道場主の直々の依頼とあらば、断る訳にはいかんなぁ」

「え"ッ!? ぃゃぃゃ、ちょ、待て待て、レオニスの旦那まで何言ってんだ!」

「そのままの言葉通りだ。こないだもここで、門下生全員に稽古をつけてやったばかりだし。せっかくだから、バッカニアとも平等に手合わせしとかなきゃな」

「要らん要らん、そんな平等要らんって!」

泡を食いながら必死にレオニスを押し留めようとするバッカニア。

相変わらずの弱腰に、ハンザが雷を落とそうとしたその時。

別の方向からバッカニアに声をかけた者がいた。

「バッカニアさん!ぼく、バッカニアさんの剣術を見たいです!」

「え? ぼ、坊っちゃん……そんなに俺の剣を見たいのか?」

「はい!だってバッカニアさんは、ヴァイキング流剣術の一流の使い手だって、レオ兄ちゃんも言ってました!レオ兄ちゃんが認めるくらいなんだから、バッカニアさんってものすごく強いんですよね!?」

「そ、そりゃ、まぁ、な?」

幼い瞳をキラッキラに輝かせて、バッカニアを見つめるライト。

その双眸の輝きぶりに、バッカニアは怯むことなく照れ臭そうに頬をポリポリ、と掻いている。

バッカニアは自分の剣術の腕をあまり評価していないが、幼子の期待を裏切って全否定するほど腰抜けではないらしい。

そんなバッカニアのまんざらでもない様子に、レオニスもハンザもこの機を逃すまい!と畳み込みに出た。

「よし!そうと決まればバッカニア、今すぐ稽古を始めるぞ!」

「そうだな!バッカニアよ、この子だけでなく門下生の子供達にもお前のカッコいいところを、存分に見せてやれ!」

「ン? 俺のカッコいいところ?…………しゃあないなぁ、そこまで言われちゃやらん訳にはいかんなぁ」

レオニスとハンザの言葉に、だんだん乗り気になってきたバッカニア。

このバッカニアという男、実はこの手の煽て作戦には滅法弱かったりする。

そしてハンザが道場の中にいる門下生達全員に向かって声をかけた。

「皆の者!今からレオニス君とバッカニアの模擬戦を執り行う!全員入口に退避!」

ハンザの鶴の一声に、それまで道場内にいた門下生達は一斉に従い入口付近に集結した。

そして最初に入口に来た門下生数人に、他の道場にいてここには今いない者達も全員呼び集めるように指示を出した。

「レオニス君、すまんが他の師範達が来るまで少し待っててくれ」

「了解。そしたら今のうちに俺にも竹刀を貸してくれ」

「承知した。あっちの壁に立て掛けてある中から好きなものを選んでくれたまえ」

「はいよー」

こうしてレオニスとバッカニア、二者の世紀の対戦?の準備が進んでいった。