軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1140話 辻風神殿での初めてのお茶会

日課の散歩から帰還した風の女王と青龍。

ライト達とともに辻風神殿に入ると、そこには超絶綺麗な空間が広がっていた。

『『………………』』

ライト達が遠慮なく中の方に入っていくのに、風の女王と青龍は入口に一歩入った途端に身体が止まってしまった。

床から天井から柱に祭壇、全てが真っ白に輝いていることに、二人ともあんぐりと口を開けたまま固まってしまっている。

特に何を配置替えした訳ではないのだが、散歩に出かける前のビフォーアフターがここまで見違えれば度肝を抜かれて当然か。

『ぇ、えーと……ここ、ワタシ達が住んでいる、辻風神殿……よね?』

『ぅ、うん……多分……?』

神殿入口で呆然と立ち尽くす風の女王と青龍。

一方、とっとと中に入っていった客人達のうち、レオニスが風の女王の異変?に気づき声をかけた。

「おーい、風の女王、青龍、どうしたー?」

「ン? ……ぁー、きっとこの中があまりに綺麗になり過ぎてびっくりしちゃったんじゃない?」

「かもな。ライト、青龍達の手を引っ張ってこっちに連れてきてやんな」

「うん!」

レオニスの指示に従い、ライトがタタッ、と駆け出し入口の方に戻っていく。

そしてぽけーっ……と突っ立ったままの風の女王と青龍の手を握り、軽く引っ張った。

「風の女王様、青龍、中に行きましょう!」

『へ?……ぁ、ぁぁ、そうね……』

『う、うん……そうだよね、ここは僕達の家、だもん、ね……』

にこやかなライトに促されて、戸惑いながらも前に進み出した風の女王と青龍。未だにキョロキョロと神殿内を見ながら歩いている。

あまりにもピッカピカに磨かれ抜いた神殿内部の様変わりように、未だに理解が追いついていないようだ。

そんな二人に、ライトがその経緯を解説した。

「ぼく達、ちょっと前にここに着いたんですけど、風の女王様も青龍もお出かけしてて誰もいなくて。多分お散歩か何かでお出かけしてるんだろうし、ただ単に待つよりお掃除しながら風の女王様達の帰りを待とうってことになったんです」

『そ、そうなのね……道理でこんなに中が綺麗になってた訳ね……』

『うん……ちょっとびっくりしたけど、僕達じゃここまで綺麗に掃除できないし。君達に掃除してもらえてとても助かるよ、ありがとう』

辻風神殿が見違える程綺麗になった理由を知り、風の女王と青龍が納得している。

実際風の女王と青龍だけで、ここまで神殿内部を綺麗に掃除するのはかなり難しいだろう。何しろ青龍は生後二週間だし、風の女王だって掃除という概念があるかどうかも定かではないのだから。

いや、だからといって何もここまで完璧に磨き上げる必要もないのだが。

そしてライトが風の女王達を呼びに行っている間、レオニスとラウルは空間魔法陣からテーブルや椅子その他を出している。

そうして祭壇前のテーブル席に風の女王達が来た。

その頃にはもうすっかりお茶会の用意が出来上がっていた。

「ささ、風の女王様も青龍もこちらにどうぞ!」

『えーと……これは、ナニ?』

「これはうちのラウルが作った、自慢のスイーツです!」

『すいーつ……?』

テーブルの上にずらりと並ぶ、ラウル特製スイーツの数々。

アップルパイにシュークリーム、カスタードクリームパイに苺のタルト、ショートケーキにチョコレートケーキ、バニラクッキーにブラウニー等々、ラウルのスイーツの集大成のような豪華なラインナップだ。

生まれて初めて見るそれらの物珍しさに、実に興味津々といった様子でテーブルの上を覗き込む青龍。

一方の風の女王は、スイーツを繁繁と見てはいるものの青龍ほどの反応ではない。

そして風の女王が徐に口を開いた。

『スイーツって、人族がよく好んで食べている、甘くて美味しい食べ物のこと……よね?』

「はい、その通りです。風の女王は、スイーツのことをご存知なんですか?」

『ええ。ただの精霊だった頃は、人里にもよく遊びにいったもの。人族に見つからないように、こっそりとだけどね』

「そうなんですね!」

何と、風の女王はスイーツの存在を知っていた。

しかしそれも、少し考えれば納得だ。自由に動けない女王と違い、精霊ならば己の意思でいつでも好きな場所に行けたのだから。

そしてその頃に見聞きしたもののなかに、人族が笑顔になる場面があった。それは、ご馳走やスイーツなどの美味しいものを食べている時が特に多かった。

この時の幸せそうな風景を、風の女王は覚えていたのだ。

どことなく懐かしげな顔でスイーツを眺める風の女王に、ライトが話しかける。

「そしたら風の女王様は、実際にスイーツを食べたことがあるんですか?」

『いいえ、いつも隠れてこっそり見てただけだから……人族が食べるものは、今まで一度も食べたことはないわ』

「そしたら今日は、青龍といっしょに好きなだけ食べてくださいね!どれもすっごく美味しいんですよ!」

スイーツの存在は知っていても、実際に食べたことはないという風の女王。

確かに人族に見つからないようこっそり見ていたのならば、実物を食べるには至らなかっただろう。

かつての精霊だった頃の思い出に触れたせいか、その表情はどことなく沈みがちだ。

そんな風の女王に、ライトが嬉しそうにスイーツを勧める。

せっかくだからこれを機に、風の女王と青龍にも美味しいものを食べて幸せな気分を味わってもらいたい―――ライトはそう思っていた。

そうしたライトのスイーツ猛プッシュに、風の女王の顔はどんどん晴れやかになっていった。

『それはとても楽しみね!青龍様、ここはライト達の好意に甘えましょ!』

『そうだね、僕もすっごく興味あるから楽しみだな』

風の女王が椅子に座り、青龍は風の女王の後ろでふわふわと浮いている。

龍の姿で椅子に座るのは難しいため、風の女王の席の後ろにつくのは妥当である。

その後ライト達も椅子に座り、三人してパン!と勢いよく両手を合わせていつもの挨拶を始めた。

「「「いッただッきまーーーす!」」」

『『いッた、だーき、まぁーす???』』

食事の挨拶を唱和するライト達に、風の女王と青龍もつられて真似をする。

そして風の女王の左側に座るライトが風の女王の世話を焼き、右側に座るレオニスが青龍の世話を担当する。

二人してテーブルの上の様々なスイーツを皿に取り、その都度スイーツの解説をしていた。

「これは苺のタルトといって、苺という果物をふんだんに使った甘酸っぱくて美味しいものなんですよー」

『……(モクモク)……ホントね!赤くてとってもツヤッツヤで綺麗で、しかもこんなに美味しいなんて!』

「この丸いのはシュークリーム、こっちの三角のはアップルパイ、どれもラウル渾身の手作りスイーツだぞ」

『……(モクモク)……うん、すっごく美味しい!』

風の女王の向かいの席に座っているラウルが、ライトやレオニスとともに楽しそうにスイーツを食べている風の女王達を見て、満足げに頷いている。

時折新しいスイーツを追加で出したり、飲み物の補充などもラウルの担当である。

初めて食べる美味しいスイーツに、風の女王も青龍もこれまでにない笑顔に満ちている。

今まで経験したことのない幸福感に満ちていく風の女王と青龍。

真っ白に輝く辻風神殿の中で、楽しくも和やかなひと時が流れていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして一頻りスイーツを食べて、人心地ついた頃。

それまでブラックコーヒーを啜っていたレオニスが、改めて話を切り出した。

「さて、そろそろ本題に入るか。今日の俺達は、風の女王に渡すものがあってここに来たんだ」

『ワタシに渡すもの……? 一体何かしら?』

「それは…………これだ」

風の女王に話しかけながら、レオニスが空間魔法陣を開いて何かを取り出した。

それは、五日前に天空島で雷の女王から預かった【雷の乙女の雫】。

これを風の女王に渡すために、ライト達はこの辻風神殿に来たのだ。

レオニスの手から三粒の【雷の乙女の雫】を受け取った風の女王。

手のひらの上に転がる淡い黄色に輝く真円の粒を、しばし無言のままじっと見つめている。

『これは……雷の女王ちゃんの、【乙女の雫】ね?』

「ああ。雷の女王は普段は天空島にある雷光神殿に住んでいてな。俺達は天空島にいる雷の女王や光の女王とも知己があるんだが、五日程前に天空島に行く機会があって、その時に風の女王が代替わりしたばかりだということを伝えたんだ」

『そうだったの……それで、この雫をワタシに渡すように頼まれたのね』

「そういうことだ。その乙女の雫は、雷の女王が風の女王を想い零した涙だ。雷の女王は風の女王のことを『風の姉様』と呼んでいたよ」

『………………』

レオニスの話をじっと聞き入りながら、なおも手のひらの上の【雷の乙女の雫】を見つめ続ける風の女王。

その 円(つぶら) な瞳はあっという間に潤み、薄緑色の珠となって彼女の頬を伝い零れ落ちる。

『この雫からは、ワタシを想ってくれている雷の女王ちゃんの気持ちがいっぱい……いっぱい溢れ出ていて伝わってくるわ……』

「確かに光の女王もそんなことを言っていたな。この乙女の雫には、他者を労り癒やす力があるんだってな」

『ええ……ええ……ワタシはずっとひとりぼっちだと思っていたけれど……空の上には、ワタシのことを慕ってくれる妹もいたのね……』

風の女王の頬を伝う【風の乙女の雫】が、風の女王の手のひらの上に零れ落ちる。

彼女の手のひらの上には、淡い黄色の【雷の乙女の雫】と薄緑色の【風の乙女の雫】が身を寄せ合うように一ヶ所に集まっていく。

この【風の乙女の雫】は、悲しみに暮れた涙ではない。

彼女の妹分である雷の女王、その温かくも深い思い遣りに直に触れた風の女王の感激の涙である。

今も天空島にいるまだ見ぬ妹を想う風の女王。嗚咽する彼女の啜り泣く声が、辻風神殿の中で静かに響き渡っていた。