軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1139話 辻風神殿の大掃除

フラクタル峡谷の上空から谷底に降りたライト達。

今のところ不穏な空気なども感じられず、特に異変などは起きていなさそうだ。

前回訪ねた時の記憶を辿り、周囲の地形などを見ながら辻風神殿のある方向に移動していく。

そうして見えてきた辻風神殿。

ライトが先頭に立ち、中に入っていった。

「ごめんくださーい、お邪魔しまーす」

「……(シーン)……」

「ちょっと前にここに来た、ライトとレオニスという人族なんですがー……」

「……(シーン)……」

「風の女王様、青龍、いますかー?」

「……(シーン)……」

静まり返った辻風神殿の中で、ライトの声だけが響き渡る。

どうやら風の女王も青龍も不在のようだ。

ライトは後ろを振り返り、レオニス達に声をかけた。

「風の女王様も青龍もいないっぽいよ……どこかにお出かけ中なのかなぁ?」

「ンー、散歩にでも出てるのかもしれんな……少しここで待ってみるか」

「そうだねー。そしたらついでに辻風神殿の中の掃除でもしよっか」

「それがいいかもな。どうやらこの神殿の中は、掃除らしきことも長らくされてないようだし」

レオニスの待機提案を受けたライトが待機中に掃除することを提案し、それにラウルが賛同する。

実際周囲を見回してみると、谷底の河岸や周辺の木々から飛んできたであろう小石やら枯葉が隅っこに追いやられて、結構な量が溜まっているのがそこかしこで目につく。

ここは風の女王の住処だけあって、普段から風が吹いていてゴミ自体は溜まりにくいのだが。それでも誰かが定期的に掃き出したりしなければ、どうしたって隅っこの方にゴミが溜まっていってしまう。

そうした掃除作業が、代替わりしたばかりの風の女王と生後二週間の青龍にできるとは到底思えない。ここはライト達が手を差し伸べるべきところだ。

そして、掃除となれば万能執事であるラウルの出番だ。

ラウルは空間魔法陣を開き、三角巾二枚づつをライトとレオニスに渡す。

自分も三角巾を頭と口元に装備しつつ、ラウルが装備の指示を出した。

「よし、そしたらライトは風魔法の練習がてら、隅に溜まっているゴミを一ヶ所に集めてくれ。ご主人様は俺といっしょに浄化魔法担当な。俺は天井と入口側の柱を担当するから、ご主人様は床と奥側の柱と祭壇を頼む」

「はーい!」

「了解ー」

ラウルの的確な指示に、ライトもレオニスも三角巾を装備しながら素直に従う。

まずライトが弱めの風魔法を用いて、床のあちこちに溜まっているゴミを集める。埃が飛び散らないように、高さ1メートル程の極小の竜巻で丁寧にゴミを掻き集めるのがポイントだ。

特に神殿の四隅や祭壇の裏など、ゴミが溜まっている場所は念入りに掃除していくライト。極小竜巻がゆっくりと移動していく様は、まるで前世のルンバを彷彿とさせる。

そしてある程度集まったゴミは、ライトが箒と塵取りを用いて掻き集める。そこで集めたゴミは、最終的にライトがアイテムリュックから取り出した木製バケツに入れてひとまとめにしておいた。

ちなみにこの箒と塵取りは、ラウルからの支給品である。

こんなものまで空間魔法陣に収納し、常時使えるようにしておくとは。さすがは万能執事である。

レオニスはライトのゴミ集めを待つ間に、祭壇の方の掃除から取り掛かった。

祭壇自体は然程大きくないので、それが終わった後すぐに奥側の柱の浄化に着手している。

そしてラウルは天井から浄化魔法をかけ始めていた。

二人が使っている浄化魔法は、中級の『キュアクリーン』。

もともと二人とも浄化魔法は初級の『クリーン』しか習得していなかったが、ユグドラツィの襲撃事件で浄化魔法の重要さを思い知り、一念発起して中級まで会得したのだ。

こうして三人が手分けして掃除すること約三十分。

ちょっとだけ埃っぽかった辻風神殿は、見違える程に綺麗になった。

皆して隅から隅まで徹底的に掃除したので、白い大理石でできた神殿はまるでミラーボールのようにキラキラと光り輝いている。

まるで年末の大掃除の如き働きを完遂したライト達。

三人とも満足そうな顔で神殿入口に集まった。

「ふーーーッ……皆お疲れさま!」

「かなり綺麗になったよな!」

「ああ、掃除する前もそこまで汚かった訳じゃないが、今は見違える程綺麗になったな」

額に滲んだ汗を拭うライトに、レオニスは腰に手を当てながらエクスポーションを、ラウルはアークエーテルをそれぞれぐい飲みしている。

するとそこに、神殿入口から見て左側の空から強大な力を持つ何者かが近づいてきた。

ライト達は、三人一斉に空を見上げる。

しばらくして現れたのは、風の女王を背に乗せた青龍だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

辻風神殿の入口前に、空からスーッ……と降りてきた青龍と風の女王。

青龍が地面に降り立つと、風の女王も青龍の背からふわり、と優雅な仕草で飛び降りた。

そしてライト達三人が神殿入口に立っているのを見て、ゆっくりとした動きで近づいてきた。

『あれぇー、こないだ僕が生まれるのを手伝ってくれた人達?』

『あッ!えーと、確か……レオニスとライト、だっけ? もう一人はよく分かんないけど、よく来たわね!』

思いもよらぬライト達の来訪に、風の女王も青龍もにこやかな笑顔を浮かべている。

風の女王達の歓迎を受けたライト達も、自然と笑顔になる。

「風の女王様、青龍、こんにちは!」

「二人とも元気そうで何よりだ。つーか、二人でいっしょに散歩にでも出かけてたのか?」

『ええ!最近は朝とお昼に青龍様とお散歩するのが日課なのよ!』

「そっか、そりゃいいことだ」

「うん!風の女王様もすっごく元気そうだし、青龍も少し大きくなってるし、ホント良かったです!」

『うふふ、ありがとうね』

思った以上に元気に過ごしている風の女王達の様子を見て、ライトもレオニスも安堵している。

二週間前に初めて会った時のやさぐれた空気など全くなく、とても朗らかな笑顔は実に愛らしい。

これこそが本来の風の女王の素顔であり、穏やかな日常を手に入れた彼女はとても幸せそうだ。

その輝かんばかりの笑顔に、ライトもレオニスも二週間前の苦労が報われた思いがした。

そして、風の女王が穏やかな日々を過ごせているのは、やはり青龍の存在が大きい。

風の女王は基本的に辻風神殿から動けない身だが、辻風神殿の守護神である青龍が散歩と称して少しづつ外に連れ出しているようだ。

その効果が如実に現れているおかげか、風の女王はものすごくご機嫌な様子で話を続ける。

『昨日なんてね、ちょっとだけだけど夜にもお散歩したのよ!すっごく楽しくて、ワクワクしちゃった!ねー、青龍様♪』

『うん。昼間とは違う空を飛ぶというのも、なかなかに楽しいもんだよね』

『ええ!夜空に輝く星々を見ながら青龍様とお散歩するのは、すっごく楽しくて……時間が経つのも忘れてしまうくらいに、それはもうとびっきりに素晴らしい素敵なひと時だったのよ!』

青龍と駆ける夜空の素敵さ、楽しさを興奮気味に語る風の女王。

目を細めて満面の笑みで青龍に笑いかける彼女のニコニコ笑顔の、何と可愛らしいことよ。

それを真正面で見ているライトの心は、もうずっと和みっぱなしの癒やされまくりである。

一方の青龍はクールな笑顔を崩さないが、ウッキウキな笑顔でライト達に日々の散歩を自慢する風の女王を見つめる眼差しはとても優しい。

青龍もまた、風の女王が日毎に明るさを取り戻していくことがとても嬉しいようだ。

するとここで、風の女王を優しく見守っていた青龍の視線が、ふとラウルに向けられた。

『ところで、そこの君は……ここに来るのは初めてだよね?』

「ああ、挨拶が遅れてすまん。俺の名はラウル、この二人の仲間だ」

『……君、人族じゃないよね? 何故だか分からないけど、君にはとても親近感を覚えるんだ……何でだろう?』

初見のラウルに青龍が声をかけ、それに応じたラウルが名乗りつつ軽く自己紹介をした。

しかし青龍は、何故か小首を傾げながらラウルを見つめ続けている。

彼自身何故だか分からないが、青龍はライトとレオニスには感じられなかった親近感をラウルから感じ取っていた。

ラウルが人族ではないことを青龍が即座に見抜いたのは、謎の親近感という違和感を感じていたからだ。

この謎の親近感は、一体何なんだろう?

戸惑いを隠せない青龍に、ラウルが己の生い立ちを語って聞かせた。

「あー、よく分かったな。俺はカタポレンの森に住む、プーリアという妖精なんだ。プーリアというのはフォレットという樹木から生まれる妖精だから、生まれながらにして風属性が強い者も多くてな」

『ああ、道理で……木の性質を持つ者は、同時に風属性を併せ持つことが多いものね』

「だな」

ラウルの生い立ちを聞いた青龍が、大いに納得している。

このサイサクス世界には、木属性というものは存在しない。属性として表せるのは、地・水・火・風・光・闇の基本属性と、それに属さない無属性の七種類のみ。

そしてこの七種類の大分類から、炎や海、氷などの小分類が派生していく。

しかし、樹木はこのサイサクス世界においても重要性は高い。

世界に六本しか存在しない神樹族を始めとして、カタポレンの森やドラリシオ一族、そして咆哮樹他数多いる植物系魔物など世界中の至るところに樹木は存在している。

そんな木の性質を持つ者達が、独自の属性こそ持たない代わりに七つの属性の中で最も近しいとされるのは風属性なのだ。

これは、ファンタジー要素の強いゲーム世界ならではのあるある話である。

近しい属性の者に会えて、思いの外喜んでいる青龍。

そんな青龍の様子を見た風の女王が、ラウルに声をかけた。

『アナタ、ラウルという名前の妖精なのね?』

「ああ。普段はこの大小二人のご主人様とともに人里で暮らしている」

『ご主人様ということは、アナタはレオニスとライトに隷属しているの?』

「いや、奴隷とかの一方的な支配関係ではない。レオニスに雇われた執事という立場上、呼び方だけでも尊重しておこうと思ってな」

『執事とか立場とか、ワタシにはよく分かんないけど……要するに、奴隷でも何でもなくて皆対等な友達ってこと?』

「まあ、そういうことになるな」

『ふーん……アナタ達って、何だか不思議な関係なのね』

興味津々でラウルに質問を続ける風の女王に、ラウルも淡々と事実を話し続ける。

ここら辺のことは、いつもならライトかレオニスが解説するところだが。今日は本人の口から説明されて、なかなかにスムーズな会話となっている。

そして互いの挨拶が一通り済んだことで、レオニスが改めて風の女王と青龍に声をかけた。

「こんなところでずっと立ち話するのも何だし、とりあえず神殿の中に入らないか?」

『もちろんいいけど……そういえばアナタ達、今日は何か用があってここに来たの?』

「ああ、そこら辺も中でゆっくりと話そう」

『分かったわ。青龍様、行きましょう』

『うん』

レオニスからの提案に、風の女王と青龍も承諾する。

こうしてライト達は、辻風神殿の中に全員で入っていった。