軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1115話 共通の目標

その後ライトは存分にカタログを眺め、ロレンツォとともにルティエンス商会の店の方に戻っていった。

結局この日はCPでの買い物を諦めたが、課金武具のカタログを見ることができただけでもライトは大満足していた。

特にライトの前世でのBCOの得物、『ガンメタルソード』をカタログの中に発見した時は、それはもう大興奮である。

このガンメタルソードとは、ミステリー箱7における目玉商品であり、強力無比にしてユーザーからの絶大な人気を誇った片手武器。

ノーマルストレートタイプのブレードで、刃渡りが1メートル近くあるとても大きな剣なのに、片手で取り回しができるのが最大の魅力ポイントだ。

その刀身は剣にしては珍しい燻したような茶色で、美しい流線型の長い刀身と相まって見た目も何しろ格好良い逸品である。

カタログ内にその絵を見たライトの目が大きく見開かれ、思わずロレンツォの方にガバッ!と向き直った。

「ああッ!ガンメタルソードまである!? え、え、待って待って、嘘ウソ、まさかこれもCPを出せば確実に買えるんですか!?」

「もちろん。ただし、こちらのお品はBCOでも超人気だった逸品で、なおかつこのサイサクス世界においても大変貴重な品ですので、お値段もそれなりにいたしますが……」

「うおッ!? 2000CPとなッ!?」

苦笑しながら忠告するロレンツォの言葉に、改めてその値段を見たライトが思わず喫驚する。

2000CPと言えば、前世のリアルマネーで言うところの2000円。

かつての愛用の武器を2000円で買えるなら、速攻で飛びついて大喜びしながら十本や二十本も買い占めるところだ。

だが悲しいかな、ここはBCOと似て非なるサイサクス世界。かつて暮らしていた現代日本と今は状況が全く異なる。

2000CPをこの世界の通貨に換算すると200億G。とてもじゃないが、今のライトに手が出せる金額ではない。

「に、にせん、しーぴー……にひゃく、おくじー……」

「心中お察しいたします……」

先程の発見時とはまた違う意味で、ライトの目が極限まで大きく見開かれる。

クエストイベントで500CPを稼ぐのにだって、丸一年以上の月日がかかっているというのに。その四倍ものCPを稼ぐとなったら、一体あと何年かかることやら。

単純計算で三年以上だが、それよりもっと時間がかかる可能性だって大いにあり得る。

そう考えたら、ライトは本気で気が遠くなってきた。

今のライトの目の前には、果てしなく広がる宇宙とところどころで小さく渦巻く 小宇宙(コスモ) 、木星や土星などの惑星がチカチカと映る。

ほげー……と口を開けたまま呆然とするライトに、ロレンツォが心配そうに声をかける。

「ライトさん……大丈夫ですか?」

「…………ハッ!だ、大丈夫、です……」

ちょっとだけ気を失いかけたライトだったが、ロレンツォの声で我に返る。

そして次の瞬間から、ライトの頭の中で様々な演算がなされ始めた。

このサイサクス世界で一番売価が高い物と言えば、属性の女王様達が生み出せる宝珠だが……

ぃゃぃゃダメだ、女王様達がその魔力でもって生み出す貴重な宝珠を、俺個人の欲望を満たすために用いる訳にはいかん!

そんなことしたら女王様ファン失格だし、何より女王様達に合わせる顔がなくなる!

となると、CPを得られるイベントをガンガンこなすか、あるいは本当に200億Gを用意するかだが……

つーか、クエスト系以外にCPを得られるイベントってあったっけ? 確か、ビキニパンツにおひねりをたくさん差し込まれた変態仮面を撃退せよ!とかいう、かなり頭のおかしい特殊討伐任務があった覚えがあるが……

あの変態仮面を召喚するのが、『濃桃香炉』だった、はず。

このサイサクス世界に、濃桃香炉が実在するかどうかは分からんが……クエストイベントの報酬に他の香炉が出てきているんだから、濃桃香炉だってあるかもしれないよな?

……よし、いつかどこかで濃桃香炉を発見できることを願いつつ、今はGを貯めるよう頑張ろう!

ライトの脳内でこの思考が展開されてから完結するまでに、要した時間およそ3秒。

考えがまとまったライトの顔は、スッキリとしていて実に晴れやかだった。

「ロレンツォさん、ぼく、今まで通り……いえ、今まで以上にイベントやG貯金に励んで、いつか『ガンメタルソード』を購入します」

「それは素晴らしいですね。人間目指す目標があれば、より充実した日々を過ごせるというものです」

「ハハハ……目指す目標が高過ぎたり遠過ぎたりするのも、それはそれで気が遠くなりますけどね……」

ロレンツォの励ましに、ライトは思わず苦笑しながら呟く。

今のライトは、マイページ内にあるアイテムの売却でGを得ることができる。それは仮想通貨のような存在であり、実在のG通貨とはまた別のものなのだが。

例えば先程ライトが脳内で最初に考えた、属性の女王と神殿守護神が力を合わせて作り出す宝珠。

先日ライトが【詳細鑑定】で宝珠を視た時に出てきた値段は10億G。宝珠が二十個あれば『ガンメタルソード』が一本手に入る勘定だ。

だが、世にも貴重な宝珠をそんなことに使う気は、ライトにはさらさらなかった。

他にGを得る方法が全くないならともかく、ライトにはマイページ経由でアイテム売却という、Gを得る立派な方法がある。

そして何よりも、属性の女王達の厚意を裏切りたくなかった。私利私欲を満たすためだけに、彼女達の厚意の証である宝珠を売り払う―――そんな不誠実極まりない真似は、属性の女王の大ファンであるライトには絶対にできないことだった。

CP不足が何だってんだ!どっかの世界のパンと菓子の話じゃないが、CPがないならGを稼げばいいだけのことだ!

ぶっちゃけ今すぐガンメタルソードを手に入れたところで、大っぴらに使いこなせる訳じゃないんだし。

俺が冒険者として本格的にやっていけるのは、ラグーン学園中等部を卒業してからの話。どの道それまで自由に動くのなんて無理なんだから、今は雌伏の時と思って力とGを蓄えなきゃな!

改めてそう心に誓うライト。

その決意を表すべく、ライトはロレンツォに向かって明るい声で話しかける。

「ロレンツォさん。ぼく、今からもっともっと頑張って、200億Gを貯めます!果たして何年かかるかは分かりませんが……それでも、いつかその日が来たら、ぼくにガンメタルソードを売ってくださいね!」

「承知いたしました。いつでもお売りできるよう、今すぐにでもガンメタルソードのお取り寄せを手配しておきますね」

「よろしくお願いします!」

200億Gという、正真正銘途方もない金額を貯金目標としたライト。

その目標がいつ達成されるかなど、誰にも分からない。ライトやロレンツォどころか、ヴァレリアや 創造神(BCO運営) にすら予想不可能だろう。

だがその途轍もなく遠い約束を、ロレンツォは厭うことなく喜んで受け入れる。何故ならロレンツォもまたBCOのNPCであり、その存在意義は『勇者候補生に尽くすため』にあるからだ。

いつ果たされるとも分からぬ約束―――それが叶うのは、五年後か十年後か、あるいはもっと先のことか。

だがライトは、生ある限り絶対に諦めることはないし、ロレンツォもまた 勇者候補生(ライト) との約束を守るべく待ち続ける。

ライトとロレンツォ、BCOという奇縁で結ばれた二人の共通の目標ができた瞬間だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして店に戻ってきたライトとロレンツォ。

まだラウルは訪ねてきていないようだ。

ラウルが迎えに来るまで、ライトはいつものようにルティエンス商会の品々を見て回る。

ぁー、そういやこの『紅龍偃月刀』も確か両手武器だったよな…………うん、やっぱ片手じゃ動かせんわ。残念無念。

こっちの『精霊術師の外套』もいいけど、多分今着ているアイギス製マントの方が性能高いんだよな。何故ならレオ兄が付与魔法を山盛りつけてくれているし。

……ま、防具だっていずれ揃えてみせるさ!……とはいえ、まずは兎にも角にもガンメタ貯金が最優先だけどね!

待ってろよー、俺のガンメタ!こっちの世界でも、絶対にゲットしてやるぜ!

そんなことを考えながら、店の中の至るところにあるBCO要素を満喫するライト。

するとそこに、ルティエンス商会の入口扉が開かれた。そう、ラウルがライトを迎えに来たのだ。

「あ、ラウル!おかえりー!」

「ただいま、ライト。今日もここで面白いもんを見つけられたか?」

「うん!面白楽しいものをいっぱい見せてもらったよ!」

「そりゃ良かった」

店に入ってきたラウルのもとに、嬉しそうに駆け寄るライト。

ラウルもまた穏やかな笑顔で、ライトの頭をくしゃくしゃと撫でる。

そんな仲睦まじい主従達を、ロレンツォもニコニコとした笑顔で出迎える。

「ラウルさん、ようこそいらっしゃいました」

「おお、店主か。今日もうちの小さなご主人様の相手をしてくれてありがとう」

「いえいえ。当方もライトさんとは、いつもとても楽しいひと時を過ごさせていただいております」

「そう言ってもらえたらありがたい」

ロレンツォに礼を言うラウルに、ロレンツォは両手を胸の前で振りながら恐縮している。

そして一通りの挨拶を終えた後、突如二者の目がキラン!と光る。

「……ところで店主よ。今日も何か面白い出物はないか?」

「ございますとも。少々お待ちくださいませ」

ラウルの期待に満ちた眼差しに、ロレンツォも応えるべく一旦店の奥に引っ込んだ。

そしてしばらくしてから再び現れたロレンツォの手には、とても立派な鉄製の中華鍋が握られていた。

「ほう、これは……中華鍋か?」

「はい。こちらも先日の『呪いの鍋』同様、とても年季の入った品物でございまして……」

「何か特殊効果はあるのか?」

「ええ。こちらの中華鍋は『野菜炒め専用』となっております」

「そうか……つまりはあの芋煮鍋と同じく、野菜炒め以外には全く使えん代物、ということだな?」

「左様でございます」

一見極々普通の中華鍋を取り囲み、ゴニョゴニョと話し合うラウルとロレンツォ。

その姿はまるで、時代劇の悪代官と悪徳商人の談合を思わせる胡散臭さである。

「……店主よ、そしたらコイツの値段はいくらだ?」

「先日の芋煮専用鍋同様、こちらも3000Gでの販売予定でございます」

「よし、買った!」

「お買い上げいただき、誠にありがとうございます」

即断即決で購入を決めるラウルに、ロレンツォが恭しく頭を下げつつ礼を言う。

二人はそのまま店内の会計カウンターに行き、大銀貨三枚と中華鍋を交換している。

前回の買い物の例を踏まえると、その中華鍋もまた『呪いの中華鍋』であり、野菜炒め以外の料理は全く味がしない代物になるはずだ。

そんな奇妙奇天烈な中華鍋なのに、嬉々として即購入を決めるラウル。この妖精、どこまでも料理馬鹿である。

呪いの中華鍋を入手し、ホクホク顔で空間魔法陣に仕舞い込むラウル。

きっと今日の晩御飯は野菜炒めなんだろうなー……とライトはぼんやりと予想しながらラウルを見つめている。

そんなライトに、ラウルが振り返りながら声をかける。

「……さ、仕事も買い物も済んだことだし、家に帰るか」

「うん!ロレンツォさん、今日もいろいろとありがとうございました!」

「こちらこそ、いつもご贔屓いただきありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」

諸々の用事も済み、ラグナロッツァの我が家へと帰っていくライトとラウル。

ロレンツォは店の外まで二人を見送った後、満足げな顔で再びルティエンス商会の中に入っていった。