軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1116話 クレサの思いと感謝

ライトがツェリザークで楽しいひと時を過ごした翌日。

ライトとレオニス、そしてラウルの三人でプロステスに出かけていた。

何故プロステスに向かうかというと、まだ火属性の加護を一つも持たないラウルに炎の女王の加護を授けてもらうためである。

朝から三人で冒険者ギルド総本部に向かい、冒険者ギルド所有の転移門でプロステスに移動する。

移動先のプロステス支部で、窓口業務をしている受付嬢クレサに声をかけた。

「よう、クレサ。久しぶり」

「あらまぁ、レオニスさんじゃないですかー!お久しぶりですぅー!」

「クレサさん、こんにちは!今年もよろしくお願いします!」

「ライト君もお久しぶりですぅー。こちらこそ、本年もどうぞよろしくお願いいたしますぅー」

レオニスとライトの挨拶に、クレサもまた花咲くような笑顔で迎え入れる。

クレサがペコリと頭を下げた後、ライトとレオニスの後ろにいるラウルをちろり、と見遣りながらレオニスに問うた。

「あのー……後ろにおられる黒いお方は、レオニスさん達のお仲間さん、ですか……?」

「ン? あー、こいつがプロステスに来るのは初めてだったか。こいつの名はラウル、ラグナロッツァにある俺の屋敷で執事をしている」

「ああ!貴方様がかの有名なラウルさんでしたか!」

「「「有名???」」」

黒一色の天空竜革燕尾服に身を包んだ、クレサ初見の人物がラウルだと知り、クレサの顔がパァッ!と明るくなる。

ラウルはこれまでプロステスに来たことはなく、正真正銘今日が初めての訪問だ。

なのに、何故かクレサはラウルのことを知っていて、しかもラウルを有名人扱いしている。

その理由は、クレサの口から語られた。

「ラウルさんは、私達姉妹の間でとーっても有名なんですよ? クレア姉さんやクレナはラウルさんのお料理は宮廷料理以上だ!と公言して憚りませんし、殻処理問題で悩むクレエ姉さんにクレノやクレハは、それはもうラウルさんのことを神の如く崇め奉っていますし」

「「「………………」」」

ラウルが有名人な理由を熱く語るクレサに、ライト達はただただ絶句する。

殻処理問題を抱える各街で、ラウルが『殻処理貴公子』と呼ばれて持て囃されているのはライトもレオニスも知っている。

しかし、もはや神様扱いにまで至るとは想定外もいいところだ。

それに加えて、料理の腕まで宮廷料理人以上という高評価でその名を轟かせていたとは。さすがにライト達もそこまで予想していなかった。

そんなライト達の戸惑いなど物ともせず、クレサがキラッキラに輝く笑顔で話し続ける。

「というか、皆さん三人でこのプロステスにお越しいただけるなんて、とっても嬉しいですぅー♪」

「おう、ありがとうよ。そんなん言ってもらえたら、俺達も嬉しいわ」

「……で、本日は皆さんでどこに向かわれるのですか?」

「今日は炎の洞窟に行こうと思ってな。炎の女王にちょいと野暮用があるんだ」

「まぁー、そうなんですねぇー。………」

レオニス達の用向きを聞いたクレサ。

だが、それまで明るい笑顔だったクレサのが急激に曇る。

そして何故か真面目な顔になり、突如深々と頭を下げた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

突然頭を下げたクレサに、ライト達三人はびっくりした。

何故クレサがそんなに深々と頭を下げるのか、全く分からなかったからだ。

またも戸惑うライト達に、クレサは頭を上げて改めて礼を述べ始めた。

「プロステスの死活問題だった高温気象の原因を、レオニスさんとライト君が解決してくださったと、ウォーベック様からお聞きしております。本当に……本当にありがとうございました」

「あー、あのことか……あれはまぁ、とある縁でウォーベック侯爵家と知り合って直接調査依頼を受けたんで、クレサ達プロステス支部を通さなかったんだ。そこら辺を報告しなくてすまなかった」

「とんでもない!あの問題は、私達プロステス支部の総力を挙げてもどうすることもできませんでしたから……本当に不甲斐ないことです……」

クレサがレオニス達に向けて礼を言ったのは、かつてプロステスを悩ませていた灼熱地獄のような気温上昇問題。

冒険者ギルドプロステス支部も、領主であるアレクシス・ウォーベックから何度も依頼調査を受けて調査を続けていた。

だが、炎の洞窟があまりにも高温になり過ぎていて、プロステス支部が派遣した上級冒険者パーティーでもなかなか調査が進まなかった。

なおかつ洞窟内には禍精霊【炎】という手強い魔物がうようよと涌いていて、もはやどうにもならなかったのだ。

クレサ達とて、己の力量不足が悔しくなかった訳がない。

しかも長年抱え続けてきた問題を、外部の者があっさりと解決してしまったとあっては面目丸潰れである。

だが、少なくともクレサには面目丸潰れなどという被害者意識は全くない。

相手は当代最強を誇る、現役の金剛級冒険者レオニス。

大陸一と名高い冒険者が洞窟調査に乗り出して、しかも問題解決までしてくれたとあらば、その功績を感謝しこそすれ妬んだり悔しがる必要など微塵もないのだ。

そんなクレサの心情を、レオニスは何も言わずともすぐに察した。

「クレサ、頭を上げてくれ。クレサにそんな風に言われたら、むしろ部外者の俺がしゃしゃり出たことを謝らなきゃならん」

「レオニスさん……」

「だが、あの時のアレクシス―――ウォーベック侯爵も、とにかく必死だったんだ。このままでは、プロステスは遠からず人が住めない死の街になってしまう、とまで言っていたしな……それだけは何としても避けたい一心で、俺個人に調査を依頼したんだ」

「はい……もちろんそれも、重々承知しております……レオニスさんがウォーベック侯爵家とどのような取引をしたのか、私達には知る由もありませんが……本来なら私達からも、レオニスさんに報奨金をお出ししなければならないのに。それもできておらず、本当に申し訳ないですぅ……」

レオニスの言葉に、クレサも力なく項垂れる。

炎の洞窟の諸問題は、ウォーベック侯爵とレオニスの個人間で取引されたことなので、冒険者ギルドは一切関与することができない。

故に問題解決に導いたレオニスに対し、報奨金を出してその働きに報いることもできない。

それがクレサにとって非常に心苦しかった。

そんな健気なクレサを励ますべく、レオニスが努めて明るい声で話しかける。

「とりあえず、プロステスの街の危機は去った。クレサにはそのことだけを喜んでもらいたい。それに、アレクシスからはそれなりに報酬を提示してもらっているしな」

「そうなんですか? その報酬とはどのようなものか、お聞きしてもよろしいですか?」

「ああ。俺もこのプロステスに住んでみないか?って移住を勧誘されたぞ。移り住むための家屋敷も手配するし、そのための費用は一切取らないとまで言われた」

レオニスが語る、ウォーベックから提示された『事件解決の報酬』。

その内容に、クレサが驚いている。

「まぁ、ウォーベック様がそんな素敵なことを提案してくださっていたなんて……!」

「とはいえ、俺はまだまだ冒険者を続けるつもりだから、このプロステスに居を構えるつもりはないがな」

「そうなんですかぁ、それは残念ですぅ……レオニスさんがこのプロステスの市民になってくだされば、これ程心強いことはありませんのにー」

「ははは、すまんな」

レオニスにはプロステス市民になる気はないことを知り、クレサがとても残念そうな顔をしている。

確かにクレサの言う通り、金剛級冒険者のレオニスがプロステスにいてくれればこの上なく心強いことだろう。

しかし、その実現は叶わないであろうこともクレサには分かっていた。

如何にこのプロステスが商業都市として名を馳せていても、所詮は一地方都市。ましてやレオニスの故郷でも何でもない。

大陸一の冒険者をこの地に留め置くような力も縁も、このプロステスにはないことは明白だった。

しょんぼりとしているクレサに、レオニスはなおも言葉をかける。

「……ま、アレクシスには『冒険者を引退したら、このプロステスに別荘の一つも持つことも検討する』とは答えておいたがな」

「!!!それは是非!例え冒険者引退後でも、私達はレオニスさんの移住を歓迎いたしますぅ!」

「おう、そんな頃には俺もヨボヨボになってるかもしれんがな」

パッ!と顔を上げて力強く移住歓迎を表明するクレサに、レオニスが苦笑しながら答える。

そう、レオニスが冒険者稼業を引退する頃と言えば、やはりそれは冒険者を続けていく体力や気力が失くなってからの話。

あるいは大怪我や病気などが原因での早期引退もあるかもしれないが、どの道冒険者を引退するからには今の威光は保てまい。

だが、レオニスのそんな杞憂にクレサはさらに力強く宣言をする。

「ご心配は要りません!どれだけレオニスさんが、ヨボヨボのヨレヨレのズタボロになっていようとも!レオニスさんがこのプロステスの救世主であることに変わりはないのですから!レオニスさんの介護は、是非ともこのクレサにお任せください!」

「ぉ、ぉぅ……さすがにそこまでズタボロになったら、他の街に移住する気すら起きないだろうがな……」

天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、高らかに介護宣言するクレサ。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

そんなクレサの意気込みは、空回りどころかレオニスをドン引きさせてしまっているのだが。

とはいえ、血の繋がりのないレオニスの介護の面倒まで見てくれるということは、普通では考えられないことだ。

それだけクレサは、レオニスに恩義を感じているということなのだろう。

それはレオニスにも理解できるので、コホン……と軽く咳払いをしてから話題を変える。

「ぁー、とりあえず今日は俺達三人で炎の洞窟に向かう。炎の女王や朱雀に何か伝言とかはあるか?」

「あ、はい、えーとですね、近いうちにウォーベック様が神殿守護神であらせられます朱雀様にお目通りしたい、と仰っておられましたぁ」

「あー、朱雀誕生の祝いの言葉を領主直々に伝えたい、とかそんなところか?」

「はい、そういうことだと思いますぅ」

炎の女王への伝言の有無を確認したレオニス、クレサの話を早々に理解した。

このプロステスという都市は、炎の洞窟とともにある街。その炎の洞窟の主である炎の女王のことも、必然的に女神の如く崇め奉っている。

その炎の洞窟に新たな神殿守護神が誕生したとあれば、街を挙げての慶事になるのも当然であった。

「了解、そしたら炎の女王にもそう伝えとくわ」

「よろしくお願いいたしますぅー」

「じゃ、いってくる」

「クレサさん、いってきます!」

「いってらっしゃーい!お三方とも、どうぞお気をつけてー!」

右手を上げてひらひらとさせつつ出口に向かうレオニスに、ライトとラウルもその後をついていく。

炎の洞窟に向かう三人の後ろ姿を、クレサは大きく手を振りながらずっと見送っていた。