軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1114話 ルティエンス商会のカタログ

頭を真下に向けてがっくりと項垂れていたライト。

ライトの絶望はロレンツォにも理解できるだけに、迂闊に声をかける訳にもいかずただただ無言でライトを見守る。

ライトが絶望しているのは、『ハデスの大鎌』を始めとした両手武器全般の取り扱いがかなり厳しいことが予想できるからだ。

いや、決して武器として使えない訳ではない。戦闘シーンになったらそれなりに使えるだろう。

だが、戦闘シーン以外の場面が問題だ。

戦闘以外の何気ない時でも片手で持てないというのは、案外というかかなり困る。

例えば破壊神イグニスは、非戦闘時の会話時などはその巨大な大鎚部を地面に下ろし、柄を上に立てながら手に持っていた。

もちろん『ハデスの大鎌』であっても、そうした動作は両手ならできる。

だが、何かの拍子に片手になってしまった途端に、その都度『片手操作NG』の判定が出て激重になるのはいただけない。

百歩譲って、自分一人やBCO仲間の転職神殿組の前ならまだいい。そうした事情も包み隠さず打ち明けられるから。

だが、それ以外の埒内の者のいる前で『ハデスの大鎌』を片手で持ち損ねるのはマズい。

両手で持つ分には普通に扱えていたものが、片手になった途端に全く持ち上げられなくなるなんて、どう考えてもおかしい。

そんな不可解なことばかり繰り返していたら、不審がられるに決まっている。

レオニスやラウル、マキシなど、常に身近にいる者達とこれからも様々な冒険をしていきたい。

そして大事な仲間である彼らに、疑念を持たれたり変な目で見られたくない。

そうした事態を未然に防ぐには、BCO由来の両手武器を人前で堂々と使うことを諦める他なかった。

しばしの沈黙の後、はぁーーー……という大きなため息をライトがついた後、ようやくその顔を上げた。

「とりあえず、今日は『ハデスの大鎌』を買うのはやめときます……」

「そうですね……そうなさるのがよろしいかと」

「……ま、今のぼくがこんな強力な両手武器を手に入れたところで、それを活用するような場面もほとんどないですしね」

「ですね。将来立派な冒険者になられて、ライトさんがお一人で活動される時に両手武器をお使いになられるのがよろしいでしょう」

「そうします」

ロレンツォの慰めが効いたのか、ライトの顔もだんだんと明るさを取り戻していく。

そう、取り扱いが難しい両手武器であっても、レオニス他埒内の者達がいない場所で使えばいいのだ。

両手武器を使うような戦闘を終えてから、アイテムリュックなり空間魔法陣なりにすぐに仕舞えば良い。

BCOという大きな秘密を隠し通すのは、何かと労力がかかることだが、それも致し方ない。

「そしたらロレンツォさん、改めてお願いがあるんですが」

「はい、何でしょう?」

「『ハデスの大鎌』以外にもBCO武器があったら、見せてもらえませんか? ……あ、できれば片手武器でお願いします」

「畏まりました。少々お待ちくださいませ」

ロレンツォは客間の中、ライトが座る後側の壁にある書棚の前に歩いていった。

そして書棚の一角から何かを取り出してから、再びライトの前に戻ってきた。

「こちらが、当店にて取り扱い可能な武具の一覧です」

「これは……ぼくが見てもいいんですか?」

「ええ、よろしいですよ」

ロレンツォがライトに差し出したのは、武具のカタログ。

このカタログに記載されているものなら、ルティエンス商会で売買できるらしい。

それって、ルティエンス商会にとってかなり重要な機密情報じゃないの?とライトは思うのだが、ここはロレンツォの言葉に甘えて見せてもらうことにした。

そう、店主であるロレンツォがOK!というのだから、ライトが見ても大丈夫なデータなのだ。

そのカタログは見目鮮やかな青色の表紙で、ずっしりとした重さがあり厚さも結構ある。

表紙には文字も絵も一切なく、何も書かれていない。

ライトは緊張の面持ちで、そっと表紙を開いてページを捲り始めた。

「おおおお……な、懐かしい……」

カタログを見ながら、ライトの目がどんどん輝いていく。

表紙を開いて一枚と二枚目は目次で、三枚目から具体的な品目が並んでいる。

そのカタログは装備品のシリーズ毎に収められていて、1ページの中に様々な情報が入っていた。

まずページの真ん中には、シリーズ同名の武具のフル装備した状態の姿絵が描かれている。

そしてページの右上にはシリーズ名が書かれていて、下部には武具の名前と販売価格が記載されている。

一番最初に目に飛び込んできた3ページ目は『オケアノス』。

これはガチャやミステリー箱ではなく、通常の武器屋で最初期から売られていた課金武具だ。

このオケアノスシリーズは『オケアノスブレード』『オケアノスバスター』『オケアノスエッジ』『オケアノスシールド』『オケアノスクラウン』『オケアノスアーマー』『オケアノスアーム』『オケアノスボトム』の全九種類の武具からなる。

何故こんなに種類が多いのかというと、ブレード、バスター、エッジの三つが武器で、片手、両手の他に装備可能な性別があるためだ。

「はぁぁぁぁ……オケアノスとか、ホンット懐かしい……」

「こちらはゲームのサービス開始直後から売られていた、本当に最初からある武具ですからね。ライトさんが懐かしく思うのも当然かと」

「はい……ちなみにこれ、バラ売りしてるんですよね?」

「もちろん。一点からでもお買いいただけます」

ライトの確認に、ロレンツォも笑顔で頷く。

ちなみにこのオケアノスシリーズ、カタログ下部には以下のように書かれていた。

====================

オケアノスブレード(片手武器・共用):50CP

猛々しき海神の力が宿る魔法剣。一度剣を振るえば、激しい海流を生み敵を襲うという。

オケアノスシールド(盾):30CP

猛々しき海神の力が宿る盾。盾の中央から激しい海流を生み、敵の攻撃を防ぐという。

オケアノスクラウン(頭):30CP

猛々しき海神の力が宿る冠。激しい海流で身を包み、敵の視界を遮るという。

オケアノスアーマー(体):30CP

猛々しき海神の力が宿る鎧。激しい海流で身を包み、敵の攻撃から身を守るという。

オケアノスアーム(腕):30CP

猛々しき海神の力が宿る篭手。激しい海流で身を包み、敵の薙ぎ払う力になるという。

オケアノスボトム(足):30CP

猛々しき海神の力が宿る脛当。激しい海流で身を包み、敵の攻撃を避ける俊足を得るという。

====================

武具それぞれに解説が書かれていて、思わず読み込んでしまうライト。

といっても、基本的にこの手のシリーズものはコピペのような似通った解説になりがちなのだが。

ページ中央に描かれた、オケアノスシリーズ一式装備の絵を見ながら、ライトが思わずため息をつきつつロレンツォに問いかける。

「オケアノスって、初期のものだから性能的にはそんなに高くないですよね?」

「はい。性能で言えば、埒内の人達が扱う武具と比べても中の下といったところでしょうか。その分値段も初心者向けに抑えられておりますが」

「うーん、ロレンツォさんには申し訳ないけど、オケアノスは今ここで買おうとは思わないかな……」

ライトがオケアノスシリーズを買おうとは思わないのは、いくつか理由がある。

まずはBCO最初期から存在する武具なので、性能は決して高くないという点。これを200CPも出して買うくらいなら、ファングの街で凄腕職人が作る武具を購入した方が余程強くて丈夫な品々が手に入るだろう。

二点目は、武具の性能が明記されていないこと。

どの武具にも必ずステータス補正がある。例えば武器なら物理攻撃力や魔法攻撃力が上がるし、頭の部位なら知力、体なら物理防御力や魔法防御力などが上がる。

そうした補正値が分からないままでは、性能の比較のしようがないからだ。

ちなみにそれらは、ルティエンス商会に現物があれば教えてもらえるらしい。

そして最後の三点目は、今のライトに200CPは高過ぎて出せない!である。

これが前世のBCOなら、リアルマネーを注ぎ込めばいくらでもCPを購入することができた。

だが、このサイサクス世界でCPを得ることは非常に困難を極める。

今だって、クエストイベントを散々散々苦労し続けて、必死こいてこなしてようやく500CPを得た。

この貴重な500CPのうちの四割も消費するほど、最初期の課金武具であるオケアノスシリーズを揃える価値があるとは到底思えなかった。

そこら辺はロレンツォも理解しているのか、特に不快な顔もせず静かに頷くのみ。

そんな優しい対応をしてくれるロレンツォに、ライトは嬉しそうに破顔しつつ感謝を伝える。

「でも……こうして懐かしい品々を見ているだけでも、とっても楽しいです!」

「ライトさんに喜んでもらえたら、私としてもとても嬉しゅうございます。よろしければ、そのカタログの先のものもご覧ください。オケアノスには男女別の両手武器二種類もございますので、装着図を見るだけでも楽しめるかと」

「ありがとうございます!じっくりと見させてもらいますね!」

ロレンツォのお勧めの言葉に、ライトはさらに明るい顔になる。

ライトは早速次のページを開き、「オケアノスバスター!やっぱ両手武器ってカッコイイ!」「あ、女用の両手武器、オケアノスエッジもある!ゴツいバスターに比べて、エッジは流線型が綺麗だなー」と大はしゃぎしながら、カタログを読み進めていく。

そんなライトの喜びように、ロレンツォの顔も自然と綻ぶのであった。