軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1113話 想定外の落とし穴

ラウルと分かれ、ルティエンス商会の奥に入っていったライト。

長い廊下を歩き、最奥の客間に二人で入る。

「只今お茶をお持ちしますので、少々お待ちください」

「あ、お構いなく」

応接セットのソファにぽすん、と座るライトに、ロレンツォがお茶を淹れるためのワゴンを部屋の隅から運んできた。

急須に茶葉を入れ、お湯を注いで湯呑みにお茶を注ぐ。今日のお茶は緑茶のようだ。

二人分の湯呑みをテーブルに置き、テーブル中央にも大福入りの籠を置くロレンツォ。

お茶の支度を一通り済ませ、ライトの向かいの席に座った。

「改めまして、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします」

「あッ、こちらこそ!よろしくお願いいたします!」

丁寧な挨拶をするロレンツォに、ライトも慌てて頭を下げる。

そしてロレンツォの方からライトに尋ねた。

「して、今日は新年のご挨拶の他にも何か御用がおありですかな?」

「あ、はい。何かCPで買えるお得なアイテムとかないかなー、と思いまして……ロレンツォさんのオススメの品とかありますか?」

「ご予算は如何程でしょう?」

「えーと、今ぼくが持っていてすぐに使えるのは、468CPです」

「でしたら、ちょうど良いものがございます。少々お待ちくださいね」

「はい!」

ライトがロレンツォに相談したかったこと。

それは『課金通貨で買えるお得なアイテムはないか?』ということだった。

ライトはかつて、課金通貨で買える討伐任務権の購入を目指していたが、それは諸々の事情によりもう既に諦めた。

改めてCPの他の使い道を模索し、初めてルティエンス商会で100CPを出して購入した【お役立ちアイテム詰め合わせセット】。これのおかげで、ライトはマッピングスキルと幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョンを手に入れたという経緯がある。

この【お役立ちアイテム詰め合わせセット】は、当たりの品ばかりではない。魔物が出没する香炉や髪型変更チケットなど、使えないアイテムも同時に掴まされもした。

だがそれを差し引いても、この二つの力を得られたことはライトにとってかなり大きい。

これに味を占めた訳ではないが、残る468CPも何か活用できないだろうか?と思ったのだ。

しばらくしてロレンツォが客間に戻ってきた。

その手は赤色の紙袋の持ち手を握っている。

「こちらは新年から二週間の間だけ販売している限定品、『迎春福袋』でございます」

「福袋……どういった詰め合わせで、お値段はおいくらですか?」

「価格は300CP、BCOで発売された全ての課金武具のうち、五種類の武具が入っております」

「武具というと、武器と防具がランダムで入っている、ということですか?」

「はい。武器は最低でも一つ以上、防具は部位問わずの完全ランダムで入っております」

「……完全ランダム……」

ロレンツォが持ってきたのは『迎春福袋』。

どうやらこれも福袋形式のアイテムで、正月から二週間の間だけ販売している限定品のようだ。

ロレンツォから聞いた商品詳細に、ライトはしばし考え込む。

300CPで課金武具五個を入手できるというのは、非常に魅力的だ。

一個あたり60CPと考えると、コスパ的にもかなり優れている。

だが、このアイテムに全く罠がない訳ではない。課金武具にも様々なランクがあり、それこそピンキリだからだ。

例えばの話、ルティエンス商会の店頭に飾ってある『ハデスの大鎌』。その価格は100CPとロレンツォが言っていた。

この『ハデスの大鎌』は両手武器で、物理攻撃力が格段に上がる他魔法防御力も上がるなどの効果があり、課金武具の中でもそこそこ強力な方とされている。

もしそれと同等の武器が入っていればかなりお得だが、本当に問題なのは防具の方だ。

ここで一つ、BCOにおける武具の解説をしよう。

まず武器は、片手で装備する『片手武器』と両手で持つ『両手武器』の二種類がある。

片手武器は『右手』を使い、両手武器は『右手』と『左手』の両方が装備名で埋まる。

そして防具は『頭』『体』『腕』『足』の他、片手武器を装備した場合にのみ『左手』に盾を装備することができる。

基本的に両手武器の方が強力なものが多いが、盾を装備することで防御力や他のステータス補正が上がることから、片手武器を好み愛用するユーザーも多かった。

そして、今回ロレンツォが出してきた『迎春福袋』。

もし五種類のアイテムのうち、一つが武器だったとして残る四つは防具になる。

ここで最も注意しなければならないのは『部位問わずの完全ランダム』という点だ。

四つの防具が『頭』『体』『腕』『足』の各一個づつ出れば万々歳だが、部位問わず完全ランダムという時点でその実現を望むのはかなり難しい。

例えば『頭二個』『体二個』など偏る可能性は大いにあるし、むしろ『腕四個』『足四個』といったとんでもない内容になることだって大いにあり得る。

それに、警戒すべきは部位の偏りだけではない。

課金武具には、歴代のガチャシリーズや各種ミステリー箱専用シリーズが多数存在する。

例えばガチャなら『風神と雷神』『月と太陽』『混沌と秩序』『狂戦士と龍戦士』などがあるし、十五種類以上はあるミステリー箱にもそれぞれに専用の防具一式がある。

これらが全て入った福袋形式のランダム選出となると、出てくる防具は全て違うシリーズのものになる可能性が高い。

それは『風神の兜・太陽の衣・混沌の篭手・狂戦士の具足』というような、見た目も性能も完全にちぐはぐな装備の集まりになる、ということだった。

うーーーん、五個の課金武具が一気に手に入るってのは、すっごく魅力的だけど……これ、絶対に揃いの防具で出てくるやつじゃないよな?

そりゃ見た目なんかより性能が高い方が重要だけど。それでも金ピカ&真っ赤&ド緑&濃茶とか、あまりにもちぐはぐな色合いになるのは避けたい……人間多少は見た目も注意しなきゃなんないしな!

ライトはそんなことを考えながら、目を閉じうんうんと唸っている。

するとここで、ライトははたと何かを思いついたように目を開いた。

そして早速ロレンツォに質問をぶつける。

「ロレンツォさん、お店の方に『ハデスの大鎌』が置いてありましたよね? あれはまだ売り物としてありますか?」

「ええ、ありますよ」

「確か100CPで売ってるんでしたよね? もしぼくが100CPで買いたいと言ったら、売ってもらえるんですか?」

「もちろん。ライトさんが100CPを払って『ハデスの大鎌』を購入したいと仰るのであれば、お売りいたしますよ」

ライトの質問に、ロレンツォが笑顔で答える。

300CPで『迎春福袋』を買うのもいいが、それよりもっと安い100CPという価格で『ハデスの大鎌』を購入するのもアリかもしれない。

またも悩むライトに、ロレンツォが声をかける。

「もしよろしければ、こちらに『ハデスの大鎌』の現物をお持ちいたしましょうか?」

「いいんですか!?」

「もちろん。服の試着同様、武器もまた手に馴染むかどうかが重要ですからね」

「そしたらお願いします!」

「畏まりました。少々お待ちくださいませ」

ライトの願いを受け入れ、ロレンツォが再び客間から出ていく。

このサイサクス世界に生まれてから、初めてライトが目にしたBCO由来の武器『ハデスの大鎌』。

それは懐かしさを感じると同時に、この世界が本当にBCOを舞台としていることを実感できる品。

それを実際にこの手に持つことができる―――ライトの胸は弥が上にも高鳴っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

しばらくしてロレンツォが再び客間に入手してきた。

その手には、ルティエンス商会の店頭に飾られていた『ハデスの大鎌』が握られている。

「お待たせいたしました。こちらが『ハデスの大鎌』でございます」

「うわぁ……大きい……」

ロレンツォから渡された『ハデスの大鎌』を、両手で受け取るライト。

とても大きくて切っ先鋭い鎌は、まるで本当に死神が駆るかのような異様なオーラを放っている。

柄と鎌の交差部には大きな髑髏の彫刻があしらわれており、それがより一層不気味さをマシマシにしていた。

鎌の長さは優に1メートルは超えており、柄の長さも相まってかなりの大きさの武器だ。

その分重量もかなりあるが、今のライトの力を以ってすれば持てない程の重さではない。

「結構重たいですけど、持てない程のものでもないですね」

「さすがライトさんですね。そのお歳で『ハデスの大鎌』を軽々とお持ちになるとは……」

「いえ、さすがに軽々と持てるって程ではないですが……」

重量にして50kg以上はあるであろう『ハデスの大鎌』を、余裕でその手に持ち続けるライト。とても九歳の幼子とは思えない勇姿に、ロレンツォが心底感嘆している。

そしてライトがこの『ハデスの大鎌』を、右手だけで持とうとした次の瞬間。ライトの右手にとんでもない重さが伸しかかった。

「……ッ!?!?!?」

突然重くなった『ハデスの大鎌』に、ライトがびっくりしながらガクン!と膝をつく。

思わず『ハデスの大鎌』を床に落としそうになったのだが、何とかそれを堪えたのだ。

とはいえ、『ハデスの大鎌』の鎌の部分は床についてしまい、カシャン!という鋭い金属音が響いた。

「あッ!ご、ごめんなさい!落っことすつもりはなかったんです!」

「いえいえ、大丈夫ですよ。『ハデスの大鎌』は壊れたり傷ついていませんし」

「……本当に、ごめんなさい……」

大事な売り物である『ハデスの大鎌』を床に落としかけたことに、ライトは大慌てでロレンツォに謝罪した。

そのことをロレンツォは咎めなかったが、ライトとしては気が気ではない。慌てて両手で『ハデスの大鎌』を持ち直し、床に落ちた鎌の部分や髑髏の装飾に傷がないかを繁繁とチェックしている。

ロレンツォが言ったように、傷一つついていないことをライトもその目で確認し、ほっと安堵した。

それと同時に、ライトは不思議でならなかった。

それにしても、先程の突然変異は一体何だったんだろう。

片手に持ち直した途端、その重さが十倍二十倍、いや、百倍以上は増えたような気がする。

今はこうしてちゃんと持っていられるのに、何で???

己の両手の中にある『ハデスの大鎌』を見つめながら、ずっと考え込んでいたライト。

ここまでライトは考えて、はたとあることに気がついた。

「ロレンツォさん……この『ハデスの大鎌』って、両手武器でしたよね?」

「はい、その通りでございます」

「…………これ、ちょっとだけ床に置いてみてもいいですか?」

「??? それはもちろん構いませんが……」

ロレンツォの了承を得て、ライトは『ハデスの大鎌』を床に置いた。

そして一旦床に置いた『ハデスの大鎌』を、右手だけで持とうと柄を握った。

だが、いくらライトが持ち上げようとしても『ハデスの大鎌』がぴくりとも動かない。

重さが何百kgもある大岩でもヒョイ、と持ち上げてしまうライトなのに、どういう訳か今床にある『ハデスの大鎌』の柄すら持ち上げられないのだ。

しばらくライトは「ふんぐぬぬぬぬ……」と格闘していたが、何をどうしたって持ち上がる気配がない。

ライトは片手で持ち上げることを諦めて、今度は大鎌の柄を両手で持ってから持ち上げてみた。

するとどうだ、今度は楽々持ち上げることができてしまったではないか。

「「…………」」

今ライト達の目の前で起きた出来事に、二人とも凡そのことを察して無言になる。

この『ハデスの大鎌』は、BCOでは『両手武器』と定義されている。

それはつまり、両手で持つことが大前提とされており、それに反して 片(・) 手(・) で(・) 持(・) つ(・) こ(・) と(・) は(・) 許(・) さ(・) れ(・) て(・) い(・) な(・) い(・) のだ。

その 規約(ルール) の存在に気づいたライトが、愕然としつつ呟く。

「ええええ……いくらこれが両手武器だからって……片手で持っちゃイカンザキ!なんてこと、あり得ます???」

「そうですよねぇ……普通ならば、そんなことないだろうと思いますが……相手は 彼(か) の創造神ですしねぇ……」

「ぐぬぬぬぬ」

思わぬ障害出現に歯軋りするライトの横で、ロレンツォが床に置いたままの『ハデスの大鎌』に右手を差し伸べる。

すると、柄の部分だけだがロレンツォは『ハデスの大鎌』を持ち上げることができた。

鎌の部分を含めた全部はさすがに重た過ぎて持ち上げられなかったが、それでも柄だけでも持ち上げられることが証明された。

ロレンツォよりはるかに怪力のはずのライトは、その柄すら全く持ち上げられなかったというのに。

このことから、ロレンツォはある一つの仮説を導き出した。

「これはやはり、ライトさんが埒外の者―――勇者候補生であることが影響しているのではないでしょうか?」

「ぼくが埒外の者だから……ですか?」

「はい。ここで言う埒外の者とは、つまりはBCOユーザーであるということ。他の有象無象の武具ならともかく、BCO由来の武具につけられた設定はBCOユーザーには決して打ち破ることができない―――いわば絶対的な定義にして、問答無用で従わねばならない掟なのでしょう」

「何ソレしどい!」

ロレンツォの仮説に愕然とするライト。

だが、ロレンツォが語る推察は実に合理的で筋が通っている。

『BCOで両手武器と設定されているのだから、BCOユーザーであるライトはこの定義に絶対従わなければならない』———そう考えると、今二人の目の前で起きた不可解な現象も腑に落ちる。

ライトはこれまで職業システムやスキルシステムなど、様々なBCOシステムの恩恵を受けてきた。それは、ライトが埒外の魂を持つ者であり、それら全てを駆使することを許された存在だからだ。

だが、このシステムは何も利点ばかりではない。

システムが定義した事項から大きく外れることを、決して許しはしない。

そう、今後もずっとBCOのシステムを利用し続けていくならば、今回のような不利益も甘んじて受け入れていかなければならないのだ。

あーーーッ!何だよこの縛りプレイ!

これじゃ『ハデスの大鎌』を使うのなんて無理じゃん!

てゆか、これ『ハデスの大鎌』に限らず両手武器全部無理ってことじゃん!

思わぬ落とし穴に、ライトはただただ項垂れるしかなかった。