軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1073話 小さな漁師町センチネル

シュマルリ山脈での修行?の翌日。

今日からライトの冬休みが始まる。

ライトの記念すべき二度目の冬休みの初日は、ラウルとともにセンチネルの町に出かけることになっている。

ライトの目的はもちろん、クエストイベントのエクストラページで出たお題の素材集めだ。

夏休み程の長さはないが、冬休みとて立派な長期休暇。休みのうちに、クエストイベントをガンガン進めるぞー!とライトは内心ウッキウキで張り切っている。

せっかくだからお昼はセンチネルで食べようか、ということになり、ライト達は午前十時頃に冒険者ギルド総本部に向かった。

普段なら人気が少なめな時間帯なのだが、年の瀬も押し迫っているせいか結構な人数の冒険者達がいた。

ライトとラウルがロビーを歩いていると、あちこちから二人に向けてお声がかかる。

「お、ラウルの兄ちゃんじゃねぇか!久しぶりだな!」

「今日は坊っちゃんとお出かけか?」

「坊っちゃん、冬休みか?」

「冬休みの宿題、ちゃんとやっとけよー!」

「ラウルの兄ちゃんも、俺達といっしょに忘年会と新年会しようぜ!」

強面のゴツい冒険者仲間のにこやかな歓迎に、ライトもラウルも「おう、久しぶり」「ああ、小さなご主人様の護衛だ」「はい!今日から冬休みなんです!」「書き初め頑張ります!」「え、両方やんのか?」等々、真摯に答えている。

そんなやり取りを経て、クレナのいる受付窓口に立ったラウル。

クレナもにこやかにライト達を迎えた。

「あら、ラウルさんにライト君。お久しぶりですねぇー」

「クレナさん、こんにちは!」

「よう、姉ちゃんも元気そうだな」

「おかげさまで。今日はどこかにお出かけですか?」

「ああ、今日はセンチネルの町に行こうと思ってな」

「まぁ、センチネルですか? ……ああ、あの町はジャーキーが名産品ですものね!」

「そゆこと」

軽く挨拶を交わした後、クレナに目的を尋ねられたラウル。

正直に行き先を告げると、速攻でその目的を看破されてしまった。

ラウルが動く時、それは『殻処理依頼をこなして稼ぐ』もしくは『美味しい食材を買い求めるため』の二点であることが多い。クレナもそうしたラウルの行動パターンを既に把握済みということか。

「じゃ、今日の通行料はこれでよろしくな」

「いつもご利用ありがとうございますぅー♪」

ラウルはポケットに忍ばせておいた小ぶりの魔石を一つ取り出し、カウンター越しにクレナに渡す。

ホクホク顔で受け取るクレナに、ラウルが問いかけた。

「なぁ、俺達センチネルに行くのは初めてなんで、どういう町なのか軽く教えてもらえると助かるんだが」

「あ、はい。センチネルは、表向きは小さな漁師町ということになっていますが……実は結構な重要拠点だったりします」

「そうなのか?」

「はい。センチネルの浜辺から見える、ブリーキーという島があるのですが、そこには『呪われた聖廟』と呼ばれる遺跡があるのです」

「ほう……そりゃまた何とも物騒な名前の遺跡だな」

クレナが語るセンチネル情報に、ラウルも興味津々で聞き入っている。

ラウルの横でちょこなん、とおとなしくしているライトは『うんうん、そこに行きたいんだよね!』と心の中で考えている。

「遺跡に関する詳しい話は、現地の受付窓口でお聞きになるのが一番よろしいかと」

「だな。ありがとう、参考になったよ」

「どういたしまして。ラウルさんもライト君も、お気をつけてお出かけしてきてくださいねぇー」

転移門がある奥の事務室に向かうライト達を、クレナは小さく手を振りながら見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてセンチネルに瞬間移動したライト達。

転移門が設置してある個室からライト達が出てきたことに、事務室にいた二人の職員がびっくりしている。

事務室の規模を見る限りでは、かなり小さな支部のようだ。

ラウルが職員に広間のある道順を聞き、二人でその通りに歩いていく。

明るい日差しが差し込む方向、その先には広大な広間があった。

「「……おおお……」」

思わず感嘆の声を上げながら、広間を見回すライトとラウル。

奥の事務室の質素さとは、とても比べ物にならない大広間だ。

だが、それにしては人が疎らで数える程しかいない。

設備と利用者の比率があまりにもアンバランスなことに、二人とも首を傾げながらひとまず掲示板のある方向に向かった。

「ふむ……そこまでたくさん依頼が出てる訳でもないな?」

「だねぇ。こんなに立派な建物なんだから、もっと賑わってるのかと思ったけど……そうでもなさそうだね?」

依頼書が貼られている掲示板を眺めながら、ライトとラウルはゴニョゴニョと小声で話す。

奥の事務室や人の疎らさは、ラグナロッツァのクレナが言っていた『小さな漁師町』というのが事実であることを示している。

だがしかし、それにしては大広間の広大さは異様だ。その広さだけで言えば、ラグナロッツァの総本部にも引けを取らない程だ。

「とりあえず、窓口行って観光名所でも聞いてみるか」

「うん、そうだねー」

ラウルの言葉にライトも賛成する。

そして受付窓口と思しきところに行くと、そこにはインディゴブルーに包まれた美女がいた。

窓口の前に立つラウルに、インディゴブルーの美女はニッコリと微笑みながら声をかける。

「こんにちは。この街には初めてのお越しですか?」

「ああ、一応冒険者の資格も持ってはいるんだが、今日はここの名物のシーファルコンジャーキー?を買いに来たんだ」

「まぁ、それはお目が高いですね!我が町はジャーキー生産が盛んなのですが、中でも有名なのがシーファルコンのジャーキーですからね!」

ラウルの話に両手をパン!と叩いて綻ぶ受付嬢の顔を、ライトがじーーーっ……と見つめている。

そんなライトの視線に気づいた受付嬢、今度はライトの方に向かって優しく語りかける。

「私の顔に、何かついていますか?」

「い、いえ、そうではなくて……アドナイの冒険者ギルドの受付のお姉さんにそっくりだな、と思いまして……」

「あら、マリサ姉さんのことをご存知なのですか?」

ライトの言葉に、パッ!と顔が明るくなる受付嬢。

彼女はそのまま自己紹介を始めた。

「私の名はマリヤ、各地の冒険者ギルドで受付嬢を勤めるマリア十二姉妹の十番目です」

「ぼくはライト、こっちはラウル、ラグナロッツァでレオ兄ちゃんといっしょに暮らしてます」

「……ああ!レオニスさんの弟さんと執事さんでしたか!お噂はかねがねあちこちで聞いておりますぅー!」

受付嬢の名はマリヤ、やはりライトが思っていた通りマリア十二姉妹の一人であった。

クレア十二姉妹がラベンダー色の塊ならば、マリア十二姉妹はインディゴブルーの塊。今後も『インディゴブルーの塊=マリア十二姉妹の誰か』と考えておけば間違いなさそうだ。

ライトとラウルの正体を知ったマリヤ、またも花咲くような笑顔になる。

アドナイのマリサも言っていたが、マリア十二姉妹の中でもレオニス、ライト、ラウルの三人はかなり有名人らしい。

ここセンチネルはラグナロッツァからかなり離れた僻地だが、それでもレオニスだけでなくライトやラウルのことまで知っているとは驚きである。

「噂のライト君やラウルさんにお会いできて、本当に光栄ですぅー」

「アハハハハ……そんな大層なもんじゃないですけど」

「これからジャーキーをお買い求めになるのでしたら、良いお店やお食事処をお教えしましょうか?」

「是非!お願いします!」

「うふふ、そしたら少々お待ちくださいねぇー」

マリヤの嬉しい申し出に、ライトは一も二もなく飛びついた。

マリヤは窓口机の引き出しから一枚の紙を取り出し、そこにいくつかの印をつけていく。

ちなみにペンは、ベレー帽の中からスチャッ!と取り出したものだ。

ベレー帽にペンを入れるのは、クレアさん達だけの特技じゃなかったんだ……などとライトとラウルが壮絶に失敬なことを密かに考えている。

そして『センチネル見所満載観光マップ』と銘打たれた紙を、マリヤがラウルに差し出した。

「こちらの星印がオススメのお食事処、花丸印はイチオシのジャーキー店、二重丸は土産物店ですぅー」

「たくさん教えてくれてありがとう。他にこの町で過ごすのに、何か注意事項なんかはあるか?」

「あ、はい、いくつか気をつけなければならないことがありますので、よーく聞いて覚えておいてくださいねぇー」

ラウルの質問に、マリヤははたとした顔で応じる。

「まず、この町は『小さな漁師町』ですが、それに相応しくない過度な設備があります。この冒険者ギルドの建物の大きさもその一つです」

「確かに……言っちゃ悪いが、こんなに大きな広間なのに冒険者が殆どいないのはかなり不自然だ」

「初見のラウルさんでもそう思いますでしょう? ですが、このセンチネルの町には重大な使命が課せられているのです」

「「……(ゴクリ)……」」

真剣な眼差しで語るマリヤに、ライトもラウルも思わず固唾を呑む。

その後マリヤは重大な使命の内容を明かした。

「ここセンチネルは『呪われた聖廟』があるブリーキー島の最寄りの街。あの島から時折溢れ出る異形の魔物の侵略を食い止める砦でもあるのです」

「その『呪われた聖廟』の話は、ラグナロッツァでもちろっとだけ聞いたが……そこから魔物が這い出てくるのか」

「はい。普段は一日に一体も出てこない日の方が多いのですが……年に一度か二度くらいの頻度で、大量の魔物が上陸を目指してこの町に押し寄せるのです」

「なるほど……その対応のために、この広間も大きく作ってあるということか」

「そうですそうですぅ」

思っていた以上に重大な内容に、ライトもラウルも納得している。

ライトが知る『呪われた聖廟』固有の魔物は、かなり強力なものが多い。それが大量に溢れ出て、センチネルの町目がけて押し寄せてきたら―――とてもじゃないが、センチネルが保有している戦力だけでは到底持ち堪えきれない。

つまり、ラグナロッツァや周辺都市に援軍を求めた場合でも対応できるように、大広間をかなり大きくしてあるのだ。

「魔物が大量に涌く周期は決まってんのか?」

「絶対にこれ!という規則性はないのですが、二百日から三百日の周期で起こります」

「前兆はあるのか?」

「浜辺に大きな吸盤や異形の角が大量に漂流したら、数日以内に魔物が溢れ出るというサインです。なので浜辺は毎日三回、朝昼夕の見回りを欠かさずしているんですぅ」

「そっか……そりゃ大変だな」

「お気遣いありがとうございますぅ。その時以外は、本当に長閑な漁師町なんですけどねぇ……」

一日に三回もの巡回を要する環境に、ラウルが思わず労いの言葉をかける。

マリヤが話してくれた、センチネルの町が担う重大な使命。それはいわゆる魔物暴走、別名スタンピードと呼ばれる厄災を食い止めるという役割。普段長閑な小さな町が一身に背負えるものではない。

迫りくる魔物の波を乗り越えるには、周辺都市はもちろんのこと、時には首都ラグナロッツァにまで援軍を求め派遣してもらわなければならない。そのためには、いち早く前兆を察することが重大な鍵となる。

故にこの町では、一日三回の浜辺の見回りが欠かせないのだ。

「なら、俺達部外者が浜辺に行くのは迷惑になるか? 今日はシーファルコンジャーキーのもとを実際に狩ってみたかったんだが」

「危険がある場所には違いないので、あまり推奨はしていませんが……厳重な立入禁止を実施している訳ではありません。漁師町という通り、近海で漁をして生活を営む者も少なからずおりますので」

「そうか、なら現役冒険者の俺なら浜辺に入ってもいいな?」

「階級が黒鉄級以上でしたら、問題なく対処できるかと。ちなみにラウルさんは、今現在どの階級ですか?」

「黒鉄級だ」

「なら大丈夫ですね!」

ラウルの階級が黒鉄級と知り、パァッ!と明るい笑顔になるマリヤ。

センチネルの浜辺は、誰でも気軽に入れるような安全な場所ではないが、黒鉄級の実力を持つ者ならば問題ない、というのが冒険者ギルドセンチネル支部の見解。

その判断基準に、ラウルはギリギリだがセーフだった。

「いろいろ教えてくれてありがとう。そしたらまずはオススメのジャーキー屋や土産物店を見て、昼飯食ってから浜辺の見学に行くか」

「うん!ジャーキー屋さんとか土産物屋さんとか、すっごく楽しみだね!」

「あ、各種お土産でしたらこのセンチネル支部の売店にも多数揃えてありますので。是非とも売店にもお立ち寄りくださいねぇー♪」

「分かりました!」

そろそろ外に出かけようとするライト達に、売店アピールを欠かさないマリヤ。実にちゃっかりとした有能受付嬢である。

もっとも、マリヤに言われるまでもなく売店にも立ち寄る気満々のライト達なのだが。

「じゃ、いってきまーす!」

「いってらっしゃーい、お気をつけてぇー」

外に出るべく、出口に向かって歩き出したライト達。

建物を出る前に、ライトは一旦立ち止まって振り返り、マリヤに向けて手をブンブン!と振る。

そんなライトに、マリヤもニコニコ笑顔で手を小さく振りながら応えていた。