軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1072話 不敬の輩

皆でワイワイとおやつを食べるライト達。

ちなみに飛竜は竜騎士達からビッグワームのおやつをもらい、嬉しそうに食べている。

するとここで、ライトが白銀の君や鋼鉄竜達に向かって話しかけた。

「あ、そういえばぼく、白銀さんや竜族の皆さんに一つ聞きたいことがあるんですが」

『ン? 何ですか? 私達に分かることなら、何でもお話してあげますよ』

「ありがとうございます!実はですね、この山脈のどこかに住むドラゴタイラントについて知りたいんですが」

『ドラゴ、タイラント……?』

「「「「…………???」」」」

ライトが聞きたかったのは、神威鋼の入手に欠かせないドラゴタイラントの情報だった。

しかし、ライトの質問に白銀の君も中位ドラゴン達も、眉間に皺を寄せつつ小首を傾げている。どうやら彼らには、人族が使う名称『ドラゴタイラント』では通じないようだ。

ならば、とライトはドラゴタイラントの特徴を細かく挙げていった。

鱗は明るい茶色、目は明るい緑色、体格は下位ドラゴン以上中位ドラゴン以下。鋭い牙と爪を持ちかなり凶暴な性格をしていることから、人族の間では『暴君竜』という別名でも呼ばれること等々。

それらを聞いて、一番真っ先に声を上げたのは氷牙竜だった。

「ァー……ソレッテェー、竜王樹ノ旦那ノ、イル山ノ、ズット向コウニイル、アイツジャネ?」

「ダナ……」

「あ、今の説明に当てはまる竜族がいるんですね!?…………ヒョエッ」

中位ドラゴン達の答えを聞いたライト、情報が得られる!と喜んだ次の瞬間。

突如ライトの右側からものすごい威圧が放たれたではないか。

その圧のあまりの強さに、ライトは思わず飛び上がりかける。

そして、強烈な圧が発生している方におそるおそる顔を向けると―――そこにはとんでもなく不機嫌そうな白銀の君がいた。

『…………そのドラゴ何とやらは、あの愚か者のことでしたか』

「お、愚か者……?」

『数多いる竜族の中で、唯一我が君を尊重しない不敬の輩……その名を口にするのも穢らわしい。氷牙、ライトに 彼奴(きゃつ) のことを解説してやりなさい』

「ハ、ハイィィィッ!!」

コォォォォ……という壮絶に機嫌の悪い吐息を漏らす白銀の君。しかもそれだけに留まらず、ギリギリと歯軋りまでしているではないか。

まさに鬼の形相の白銀の君に、ライトだけでなく他の全員も震え上がる。

竜騎士達の相棒の飛竜など、プルプルと震えながら何頭か失禁している有り様である。

もともと白銀の君にも苛烈な一面はあるが、それでも普段は穏和な態度で皆と接している。

その白銀の君が、ここまで不機嫌さを 顕(あらわ) にして隠そうともしないのは初めてのことだ。余程ドラゴタイラントのことを嫌悪していると見える。

そんな白銀の君から解説のご指名を受けた氷牙竜、慌ててシャキッ!と立ち上がる。

超絶不機嫌な白銀の君の圧に中てられつつも、己の使命を果たすために重い口を開いた。

「アー……ライトガ言ッテイタ、ソイツハ、俺達ノ、間デハ、『ロドン』ト、呼バレテイル」

「ロドン、ですか……それは初めて知りました」

「デナ、何デ、白銀ノ君ガ、アンナニモ、怒ルカト、言ウトナ? ロドンハ、竜王樹ノ旦那ノ、前ニ来テモ、全ク、頭ヲ、下ゲンノダ」

「そ、それは……」

「ソレダケナラ、マダイイ。……ィャ、ホントハ、良クネェンダケドナ? デモ、ロドンノ奴ダケハ、本当ニ、洒落ニナラン。アイツ、竜王樹ノ旦那ニマデ、平気ナ面シテ、襲イカカルンダ」

「「「「………………」」」」

氷牙竜が語るドラゴタイラント、もといロドンの素行の悪さに、ライトだけでなく横で聞いていたレオニスや竜騎士達も開いた口が塞がらない。

ライト達がこれまで見てきた竜族は、等しく竜王樹に対して敬意を払っていた。

それは、常にユグドラグスの横にいて寄り添う白銀の君の威光もあるだろう。だが、それを差し引いても竜王樹という個を敬愛している。中位ドラゴン達の日頃の様子を見ていれば、それは明らかだ。

しかし、ドラゴタイラントに限っては竜族の掟にも等しい慣習が全く当てはまらないという。

しかも、礼を尽くさないどころか襲いかかるというではないか。

これは白銀の君が壮絶に毛嫌いしても不思議はないな……とレオニスも竜騎士達も納得している。

だが、ライトだけは別のことを考えていた。

『ドラゴタイラントは、もともとBCOのレイドボスだもんな……』

『レイドボスの中でも最弱のレベル1とはいえ、通常モンスターとはそもそもの立ち位置からして違う。言ってみれば存在意義やその次元が端から違うんだ』

『ロドンが他の竜族と全く迎合しないのは、そういう背景があるせいなのかもな……当たり前と言えば当たり前のことなのかもしれん』

ドラゴタイラントと他の竜族達の違いを冷静に分析するライト。

竜族達に『ロドン』と呼ばれる竜族の異端者、ドラゴタイラント。その由来がBCOのレイドボスであることを知るのは、この場にいる者達の中ではライト唯一人。

レオニスや竜騎士達はもちろんのこと、竜族や竜王樹ですら根源的な違いを知る由もない。

ライトがそんなことを考察していると、レオニスが氷牙竜に話しかけていた。

「ドラゴタイラント……いや、そのロドンってヤツ、まだ北方にいるよな? ラグスにちょっかい出しといて、よく生きていられるな?」

「イヤ、ソレガナ? 白銀ノ君ト、先代ノ王ガ、百回以上ハ、全殺シノ手前マデ、叩キノメシダンダ……ソレデ、ヨウヤク、ロドンノ奴モ、向コウニ、逃ゲタンダガ……」

「アイツラ、マダ懲リテネェノカ、未ダニ、タマァーニ、コッチニ、来ルンダヨナァ」

「白銀に百回以上も殺されかけて、まだ懲りねぇのか……ある意味すげーな」

氷牙竜のさらなる解説に、レオニスはもちろんのことライトも竜騎士達も半ば感心している。

聞けばこのロドン、もとはユグドラグスがいる山の北側すぐ近くを根城としていたらしい。

だが、何故か時折ユグドラグスのいる山に登ってきては、ユグドラグスの幹を引っ掻いたり突撃して倒そうとしたりしたという。

それに激怒した先代の竜王、白銀の君の父や母がその都度全殺し一歩手前まで叩きのめして追い返していた。

もちろん白銀の君とて黙ってはいない。父母が他界してからも懲りずに南下してくるロドンを、ズタズタのボロボロに蹂躙しては都度蹴散らしてきた。

ここでポイントとなるのは、『半殺し』ではなく『全殺し一歩手前』である、ということだ。

つまりは半殺しどころではない、それ以上の瀕死の重傷を負わされたのだ。

しかもそれを百回以上とは、想像を絶する凝りなさだ。

そして、それでもなお今も生き永らえるそのしぶとさは、まさに感嘆に値する。

「そのロドンは、どれくらいの頻度で現れるんですか?」

「寒イウチハ、奴ラハ、アマリ、動カナイ。寒サガ、無クナッテ、温カクナッテクルト、コッチニ、来ルヨウニナル」

「じゃあ、春になったらまた現れる可能性があるってことですね」

「俺モ、ロドンノコトハ、嫌イダガ……アノ、シブトサダケハ、誰ニモ負ケネェト思ウワ……」

「「「……ハァー……」」」

ライトの質問に、氷牙竜だけでなく他の中位ドラゴン達もがっくりと項垂れつつため息をつく。

今は冬でロドンの襲来の心配はないが、春になればまた厄介者が南下してくると思えば憂鬱にもなるのだろう。

何はともあれ、ドラゴタイラントのより詳細な基本情報は得られた。次は素材の入手方法である。

しかし、ここで『ドラゴタイラントの爪が欲しいんですけど、どうすれば採れますかね?』とは聞けない。

そんなことを言おうものなら、レオニスや竜騎士達に『何でそんなもんが要るの?』と問い詰められかねないからだ。

いつもなら理由の言い訳にするラグーン学園も、さすがに今ここで使うのは憚られる。如何に今が冬休みの真っ最中であっても、ドラゴタイラントの爪を冬休みの宿題に要るとするのはさすがに無理がある。

とはいえ、春になればまたドラゴタイラントが襲来する可能性があるという。今はこの情報を得られただけでも良しとしなければならない。

他にも揃えなきゃならない品は山程あるし、春になるまでに何とか考えておこう……とライトは考えたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そんな話で盛り上がっているうちに、シュマルリ山脈の空も赤く染まってきた。

そろそろ帰り時を察したディラン、率先して帰宅を口にする。

「今日は思いの外長居してしまったな。そろそろ我らは帰るとしよう」

「お、そうだな、俺らもぼちぼち帰らんと」

ディランの言葉を皮切りに、レオニスも帰宅の意を示しそれぞれ帰り支度を始める。

ライトはおやつのために出した敷物を仕舞い、竜騎士達は各自相棒の飛竜の背に乗り込んだ。

先程まで飛竜達は白銀の君の圧によるお漏らしに凹んでいたが、出立前に特別にビッグワームのおやつをもう一個食べさせてもらったことで、何とか気を取り直したようだ。

「白銀殿、鋼鉄殿、氷牙殿、迅雷殿、獄炎殿、今日も稽古をつけていただき、誠にありがとうございました」

『何の、礼には及びませんよ。私も久々に良い運動になりました』

「我ラモ、オマエラト、戦ウノハ、結構、楽シイ」

「マタ、遊ボウナ!」

「イツデモ、遊ビニ、来イヨ!」

「エクスポモ、忘レズニ、タクサン、持ッテコイヨナ!」

竜騎士を代表して別れの挨拶を述べるディランに、白銀の君達も気軽に返す。

中位ドラゴン達の挨拶は、途中から修行ではなく遊び扱いになり、さらにはエクスポーションの持参まで念押しになっているが、これも親交が深まった証と思えばそう悪くもない。

竜騎士達十人が去るのを見送った後は、ライトとレオニスだ。

二人はユグドラグスの横にある神樹族用の転移門で移動してきたので、帰りもそれを使うことになる。

レオニスは暮れ始めた空を見上げながら、皆に話しかけた。

「じゃ、俺達もラグスのところの転移門でカタポレンに帰るか。白銀達もいっしょにラグスのところに帰るか?」

『もちろんです。私が帰る場所は、我が君のところを於いて他にはありません』

「獄炎達はどうすんだ? 回り道して自分達の巣に直帰するか?」

白銀の君は当然ユグドラグスのもとに帰るとして、他の中位ドラゴン達はどうするかが気になるところだ。

彼らには彼らの一族が住まう縄張りがあるし、ユグドラグスのもとに行ってから各々帰るとなると、そこそこ時間もかかるだろう。

そんなレオニスからの問いかけに、四頭はしばし考えてからそれぞれ口を開いた。

「ンー……セッカクダカラ、竜王樹ノ旦那ノ、オ顔ヲ、見テカラ、帰ルトスルカ」

「ソレガ、イイナ!」

「竜王樹ノ旦那モ、俺達ノ、顔ヲ、見ルト、喜ンデクレルシナ!」

「ヨーシ!ジャア、皆デ、竜王樹ノ旦那ノ、トコロニ、行コー!」

「「「オー!!」」」

最後の氷牙竜の掛け声に、他の三頭もご機嫌な声で応える。

そんな四頭の後ろで、白銀の君が満足気に頷いている。それはきっと、ユグドラグスが思いの外中位ドラゴン達に慕われていることに嬉しさを感じているのだろう。

『では、我ら全員で我が君のもとに帰りましょう。……ああ、鋼鉄達、今日は私とともにいるので其方達も私の後ろを飛んでいいですよ』

「エッ!?」

「ホントデスカ!?」

『もちろん本当ですとも』

「「「「ヤッター!」」」」

ちょっぴり機嫌が良い白銀の君、何と中位ドラゴン達の飛行を許可したではないか。

実に珍しいことだが、確かに白銀の君といっしょにユグドラグスのいる山に帰るのならわざわざ低空飛行させる必要もない。

滅多に出ない許可を得たことに、中位ドラゴン達が飛び上がる程はしゃいでいる。

そんな中位ドラゴン達に、白銀の君が声をかけた。

『誰か、レオニスとライトを背に乗せてあげなさい。皆でいっしょに帰るなら、二人も乗せていってあげた方がいいでしょう』

「ヨシ!ナラ、レオニス、今スグ、アミダクジダ!!」

「早ク!早ク!」

「ぉ、ぉぅ、ちょっと待ってろよ」

白銀の君のさらなる指令に、中位ドラゴン達はレオニスにあみだくじを描く催促をする。

もちろんそれは、誰がライトとレオニスを乗せるかを決めるためのものだ。

一方で白銀の君は『アミダクジ……? 何ですか、それは?』と怪訝そうな顔をしている。白銀の君は、中位ドラゴン達の恒例であるあみだくじ抽選会?を見たことがないので、訳が分からないのも当然である。

急いで地面に線を描くレオニスに、やんややんやと囃したてる中位ドラゴン達、そしてそんなレオニス達の動きを、ずっと首を傾げて『???』と不思議そうに見ている白銀の君。

実に賑やかで楽しげな光景を、ライトもまた嬉しそうに見つめていた。