軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1021話 イグニス少年の復活

転職神殿を後にしたライトは、カタポレンの家に戻りレオニスと朝食を摂りながら今日の予定を話し合う。

「レオ兄ちゃん、今日の午後から奈落の谷に行くんだよね?」

「ああ。ツィちゃんに冥界樹に会いに行けって勧められたからな」

「そしたらさ、出かける前にちょっとだけイグニス君のお見舞いに行ってきていいかな? ラウルもイグニス君のお祖父さんのことがすごく気がかりなようだし」

「おう、いいぞー。そしたら俺はその間に、大教皇や総主教と話をしてくるわ」

「ありがとう!」

「どういたしまして。じゃ、ラグナロッツァの家で早めに昼飯食ってから、三人で出かけるか」

「うん!」

イグニスの見舞いに行きたいというライトの要望に、レオニスは快諾する。

ラグナ神殿主教座聖堂で爆発騒動が起きてから、明日で一週間。

その後特にラグナ神殿から冒険者ギルドへの要請などは来ていないが、レオニスとしてもラグナ神殿の現状は気になるところだ。

ライトがラウルとともにイグニスの見舞いに出かけるなら、レオニスも同行してラグナ神殿の中の状況を見てこよう、という訳である。

午前の十一時半頃にラグナロッツァの屋敷で昼食を摂り終え、ライトとレオニス、ラウルの三人でラグナ神殿に向かう。

まだ正門では衛兵が立っていて、出入りを厳しく制限しているっぽいが、レオニスが話しかけると快くその警戒を解いた。

ラグナ神殿の中に入った三人は、医務室と大教皇執務室に分かれて行動し始めた。

多分ライト達の方が早く用事が住むだろうが、とりあえず互いに先に用事を終えた方が医務室もしくは大教皇執務室に向かうことにした。

そうしてレオニスと分かれて医務室に向かうライトとラウルだったが、医務室に近づくにつれ何やら騒がしい。

人がバタバタと行き交う中、途中誰かが「子供が起きたぞ!」「総主教様をお呼びしろ!」と叫ぶ声が聞こえるではないか。

ライトとラウルは思わず顔を見合わせた後、急いで医務室に向かいその扉を開いた。

するとそこには、目を覚ましたイグニスがいた。

「おお……おお、イグニス……良かった……良かった」

「ンぁー……よく寝たァ…………って、じいちゃん、どした?」

「イグニス……イグニス……」

「じいちゃん、おはよー。……って、ここ、どこ?……おわッ!」

イグニスが起きたことに、感極まったペレがイグニスを抱きしめる。

一方のイグニスは状況が全く把握できていないようで、大欠伸をしながら背伸びをしていたところにペレに抱きつかれてびっくりしている。

「え、え、何ナニ? じ、じいちゃん、どうしたんだよ?…………って、アレ? ライトにラウルの兄ちゃん?」

「……何?」

ペレに抱きつかれて半ばパニックのイグニスの目に、医務室に入ってきていたライトとラウルの姿が映る。

イグニスの言葉に我に返ったペレが、イグニスの身体から離れて後ろを振り向いた。

するとそこには、イグニスが言う通りライトとラウルが立っていた。

「イグニス君……目を覚ましたんだね!」

「イグニス、おかえり。ペレのおやっさん、良かったなぁ」

「……ありがとう、ありがとう……」

感激の面持ちでイグニスの顔を見つめるライトとラウルに、ペレもラウルの手を取り両手で握りながら深く頭を下げる。

ラウルの手を握るペレのしわくちゃの手に、涙がぱたり、ぱたりと零れ落ちる。

そんなペレの姿に、ラウルも思わず言葉に詰まる。

そしてライトはライトで、イグニスの横に駆けつけた。

「イグニス君、大丈夫!?身体はどこも痛くない!?」

「ぉ、ぉぅ……てゆか、ここどこ?」

「ここはラグナ神殿の医務室だよ。イグニス君は、こないだのハリエットさんのお兄さんのジョブ適性判断を見学しに行ったことを覚えてる?」

「ぁー……ああ、確かイヴリン達と皆でジョブ適性判断を見に行ったよな……」

まだ若干寝ぼけ眼のイグニスに、ライトが状況を説明していく。

「その時に、聖堂で原因不明の爆発騒ぎが起きて……イグニス君はずっと意識がなくて、ここで寝てたんだよ」

「え、マジ?」

「マジマジ。イグニス君は、その時のことは何も覚えてないの?」

「うーーーん……ハリエットちゃん達が帰って、その後オイラは……リリィといっしょに水晶を眺めていた?ことまでは、覚えてるんだけど……」

「その後のことは思い出せない?」

「うん……」

ライトの話に、イグニスがただただびっくりしている。

どうやらイグニス自身には、破壊神顕現以降の記憶は一切ないようだ。

というか、爆発騒ぎだの意識を失くしただのの話に、イグニスの頭の中は混乱しきりといった様子が窺える。

そんなイグニスに、ライトはさらに現状解説していく。

「ちなみに今日は土曜日で、イグニス君達がジョブ適性判断を見学した日から六日後だよ」

「え、マジ??」

「マジマジ。イグニス君はね、六日間ずっと目を覚まさずにここで寝てたんだ」

「……ぇー……ウッソーーーン……」

ライトの解説に、イグニスの目はますます大きく見開かれていく。

そして自分が六日間も寝ていたという話に、イグニスは呆然としていた。

イグニスの顔は然程憔悴していないが、それでもやはり少し頬が痩けているような気がする。六日間も意識不明の寝たきりだったのだから、それも致し方なしか。

するとそこに、職員に呼ばれた総主教のホロが医務室に入室してきた。

「失礼します。イグニス君が目を覚ましたと聞きましたが……」

「おお、総主教様!見てください、イグニスがこの通り起きてくれました!」

知らせを受けて、急いで駆けつけてきたのであろう。少し息の上がった総主教の登場に、ペレも歓喜の面持ちで迎えた。

イグニスの傍にいたライトが横に退き、ホロがイグニスの真横に立った。

「おお、本当に目を覚まされたのですね……」

「おじさん、誰……?」

「これは失礼。私の名はホロ、このラグナ神殿にて総主教を務めております」

「ソウシュキョー? ……よく分かんないけど、偉い人なの?」

総主教と言われてもピンとこないイグニス、右手人差し指で頬をポリポリと掻きながらホロに問いかけ続けている。

実際イグニスを含むペレの家では、ラグナ教に入信している者は一人もいない。なので、イグニスが総主教云々言われてもさっぱり分からないのも無理はなかった。

そんなイグニスに、ペレが慌てて窘める。

「こ、これ、イグニス!この御方はラグナ教の大教皇様に次ぐ偉いお人じゃぞ!」

「ああ、良いのですよ。イグニス君は起きたばかりですし、分からないのも無理はありませんから」

「すまんことです……総主教様には、本当に本当にお世話になりました……」

ペレがホロに向かって、改めて深々と頭を下げる。

イグニスが意識不明だった六日間、ホロも毎日必ず一度は医務室を訪れて、浄化魔法と回復魔法をかけていってくれた。

そうしたホロの真摯な姿をペレも毎日見ていたので、ホロに対する感謝の念が人一倍深かった。

深々と頭を下げるペレに、ホロはペレの肩に手を起きながら静かに微笑みかける。

「困っている人々を助けるのは、私の務めですから。……さて、そしたら念の為にもう一度、イグニス君に浄化魔法と回復魔法をかけておきましょう」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

ホロはそう言うと、イグニスの方に身体を向き直して魔法をかけ始めた。

まず浄化魔法で体内の邪気や瘴気を取り除き、その次に回復魔法で失った体力を回復させる。

ホロの二つの魔法を受けたイグニスは「ぉぉー……何だか 温(あった) けぇー……」と呟き、ちょっとだけ感動している。

「……さぁ、これでもう大丈夫でしょう」

「総主教様、このご恩は一生忘れません」

「総主教様、オイラ、もう家に帰ってもいいの?」

「ええ。お祖父様とともにおうちに帰っていいですよ」

「ヤッター!」

改めて感謝するペレの横で、イグニスが帰宅してもいいかどうかをペレに尋ねる。

意識不明だったイグニスの目が覚めたからには、これ以上イグニス達をこの医務室に押し留める理由などない。

ペレがイグニス達の帰宅を許諾したことに、イグニスが飛び上がらんばかりに大喜びしていた、その時。

イグニスのお腹から『ぐきゅるるるぅぅぅぅ』という、盛大な腹の虫の声が鳴り響いた。

「じいちゃん、オイラ腹減ったぁー……早く家帰って、ばあちゃんのご飯が食べたい!」

「まったく、この子ときたら……」

「ふふふ、元気なのは良いことですよ。ただ、イグニス君は六日間も寝たきりでしたので、何か食べるにしてもお粥などのお腹に優しいものから始めてくださいね」

「分かりました。何から何まで本当にお世話になりました。……さ、イグニス、うちに帰ろうか」

「うん!」

ベッドから下りて立ち上がろうとしたイグニス。ふらりと 蹌踉(よろ) けてペレの身体に倒れ込んだ。

やはり六日間も寝たきりだったことで、足腰や歩く感覚が若干損なわれているのだろう。

そんなイグニスを見兼ねたラウルが、イグニスとペレの身体を支えるべく手を伸ばした。

「イグニス、大丈夫か?」

「う、うん……何か、ちょっとだけ、足がふらついちゃった……」

「六日間も寝てたんだから仕方ない、あまり無理するな。ほら、俺の背中に乗っかれ」

「……いいの?」

「遠慮すんな、こんな時くらい誰かを頼っても罰は当たらん」

「……ありがとう」

イグニスの前で背中を向けてしゃがむラウル。いわゆるおんぶの体勢である。

足がふらついてしまったイグニスも、ラウルの言葉に甘えてその背に身体を預ける。

イグニスをおんぶしたラウルが、ライトに向かって声をかけた。

「ライト、俺は今からペレのおやっさんといっしょにイグニスを家に届けてくる。すぐに戻るから、ご主人様にもそう言っておいてくれ」

「うん、分かった!レオ兄ちゃんにもそう言っとくし、ラウルが戻ってくるまで待ってるから、安心してイグニス君達を送っていってあげてね!」

「ありがとう、よろしくな」

イグニスをおんぶして家に送り届けるというラウルに、ライトも笑顔で承諾する。

ラグナ神殿からイグニスの家までそこそこ距離はあるものの、ここでラウルを行かせないなどという非人道的な選択肢はない。

ラウルに負ぶわれたイグニスに、ライトが声をかけた。

「……イグニス君、月曜日にはラグーン学園に来れる?」

「ンー、多分ダイジョブじゃね?」

「そっか、なら良かった!イヴリンちゃんやリリィちゃん、ジョゼ君にハリエットさん、皆イグニス君のことを心配してたからね。イグニス君の元気な顔を見たら、皆すっごく喜ぶと思うよ!」

「そっかぁー……皆に心配させちゃったんだな……」

ライトの言葉に、イグニスが一瞬だけ沈んだ顔をするも、すぐにパッ!と明るい顔になる。

「でもオイラ、もうこの通り、すっかり元気だから!ライトにも迷惑かけちゃってごめんな!」

「ううん、迷惑だなんて、そんなことないよ!友達の体調を心配するのは当たり前のことだよ!」

「うん、ありがとう!また学園で会おうな!」

「うん!またね!」

ラグーン学園での再会を約束したライトとイグニス。

二人の会話と別れの挨拶を聞き届けたラウルが、ペレに声をかけた。

「……さ、ペレのおやっさんも家に帰ろう」

「ああ……ラウルさんもありがとう。では総主教様、これにて失礼いたします」

「ペレさんも、今日までお疲れさまでした。イグニス君はもう大丈夫だとは思いますが、もし万が一帰宅後に何かありましたら遠慮なくご相談に来てくださいね」

「ありがとうございます」

ペレがホロに深々と頭を下げた後、ラウルに背負われたイグニスとともにラグナ神殿の医務室を後にした。