軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1020話 彼の勇姿を知る者

【魔導大帝】をマスターしてヴァレリアと会った翌日の土曜日は、十二月の一日。師走突入である。

前日の夜、ライトはまんじりともせず明け方を迎えた。

もう十二月だけあって、朝日が昇るのがますます遅いこの時期。一刻も早くヴァレリアに会いたいライトとしては、なかなか明けない長い夜が実にもどかしい限りだ。

ベッドの横の窓から、空が白んできたのを確認したライト。ベッドから飛び起きて、日課の魔石回収ルーティンワークに出かける準備を始める。

そうしてとっとと魔石回収を一頻り終えた後、すぐに転職神殿に移動した。

マッピングで移動した転職神殿では、 蜷局(とぐろ) を巻いたルディとルディの身体を枕?にしたミーナがまだスヤスヤと寝ている。

しかし、ミーアだけは祭壇の前に一人立っていて、瞬間移動してきたライトを快く出迎えた。

『ライトさん、おはようございます』

「あっ、ミーアさん、おはようございます!」

『今日から十二月、もうすっかり冬ですねぇ』

「ホントに月日が経つのは早くて困ります」

『フフフ……でも月日が経たないことには、ライトさんも大人になれませんし』

「そうなんですよねー。十歳にならないことには、このサイサクス世界の冒険者にもなれないんですよねぇ」

明け方の冷え込む空気の中、ライトとミーアは挨拶とともに他愛のない話をしている。

すると、ライトが訪ねてきたことに気配で気がついたのか、ミーナとルディがもそもそと起きてライトのもとにきた。

『主様、おはようございますぅー……』

『パパ様、お早いお越しれすねぇー……』

「あ、ミーナにルディもおはよう。ごめんね、こんな朝早くに来ちゃって」

『いえいえ、大丈夫ですよぅ……昨日ヴァレリアさんともそうお話してらっしゃいましたしー』

『ですですぅ……僕達もヴァレリアさんのお話を聞きたいですしー』

「そっか……じゃ、早速ヴァレリアさんを呼ぶね」

時折大きなあくびをしながら、ライトを迎えたミーナとルディ。

いつもならまだのんびり寝ている時間だろうに、やはりミーナ達もライトとヴァレリアの会話が気になって仕方がないと見える。

ライトもミーナ達の安眠を邪魔するようで申し訳なく思うが、今回ばかりは致し方ない。

そしてライトもライトで、いつもならここで一旦皆で朝食を……となりそうなものだが、今日に限ってはそんな余裕は全くない。ヴァレリアからの報告を、誰よりも早く聞きたいのはライトなのだから。

ライトは早速顔を上げて、どこかで見聞きしているであろうヴァレリアに向かって大きな声で呼びかけた。

「ヴァレリアさーん!おはようございまーーーす!」

「ヴァレリアさん、起きてますかー!? まだ寝てたらごめんなさいですけど、来て昨日のお話を聞かせてくださーーーい!」

「お願いしまーーーす!」

まだ明け方の静かな山の中で、ライトの大きな声が一際響き渡る。

そして静けさが戻ってきてしばらく経った、その時。

どこからともなくヴァレリアがその姿を現した。

だが、いつもの殷紅色のローブ姿ではなく、紺地に黄色の星柄パジャマと同生地のナイトキャップを被っている。

とてもじゃないが【鮮緑と紅緋の渾沌魔女】などという二つ名の威厳など微塵もない。まさにあられもない姿である。

ヴァレリアは眠い目を擦りながら背伸びをし、ライトに挨拶をする。

「ふぁぁぁぁ……おはよーぅ、ライト君……」

「……ぁ、まだ寝てたんですね……お休みのところを叩き起こしちゃってごめんなさい……」

「いんにゃ、そこは気にしなくていいよー……昨日も朝早くに呼ぶって話はしてたしねぇー……」

まだ眠たそうな声でおはようの挨拶をするヴァレリアに、ライトはまたも申し訳ない気持ちになる。

しかし、いつもの殷紅色の出で立ちとは違い、パジャマ姿などという超激レアな格好を見ることができたのは奇跡にも等しいことである。

星柄というセンスはともかくとして、ヴァレリアがその私生活を漂わせる装いを他者に見せることなどまず滅多にないことだ。

そのあまりのレアな姿に、ライトですら『ヴァレリアさんも、寝る時はパジャマに着替えるんだー……』などと呑気なことを考えてしまった程である。

「ぁー……昨日の話をする前に、皆ちょっと待っててねぇー」

ヴァレリアは一言そう言うと、右手人差し指を立てて一回クルッ!と動かした。

するとその瞬間、星柄パジャマは瞬時に殷紅色のローブに変化した。

ヴァレリアの私生活披露タイムの終了である。

「ぃゃー、パジャマのままで登場するなんて、実に恥ずかしい……お見苦しいところを見せてしまって、ごめんねぇ」

「いいえ!そんなことないです!ヴァレリアさんのパジャマなんて激レア過ぎて、ぼく感激です!」

『そうですよ!ヴァレリアさんの私服なんて、付き合いの長い私ですら初めて見ました!』

「ですよねー!ぼくももっともっとヴァレリアさんの私服姿を見たいです!」

「ぇ、ちょ、待、君ら、興奮し過ぎじゃない?」

寝起き姿を晒してしまったことに恥じ入るヴァレリア。

ヴァレリアはいつも殷紅色の大きなローブをすっぽりと着ているので、ローブの下に何を着ているのかライト達は全く知らない。

いつかあのローブの下の私服?も見てみたいなぁ、とライトは思う。そしてその思いはミーアも同じだった。

それ程に、先程のヴァレリアのパジャマ姿は良い意味で衝撃的だったのだ。

思わぬところでモテモテになってしまったヴァレリア。戸惑いつつも何だか嬉しそうにも見える。

照れ隠しのためか、目を伏せつつコホン、と一つ咳払いをしつつ、話を再開し始めた。

「ぁー、私の服装とか、そんなもんどーでもいいんだよ。君達は、昨日の話の続きが気にならないのかい?」

「もちろん気になります!教えてください!」

『私も気になります!』

「そうだろう、そうだろう。……そしたらライト君、朝食代わりのスイーツとお茶の用意をお願いできるかな?」

「分かりました!ミーナ、ルディ、お手伝いをお願いできる?」

『もちろんです!』

『お任せください!』

ヴァレリアの朝食のおねだりに、ライトはすぐに朝のティータイムの準備を始める。

ヴァレリアから収納魔法を伝授されたルディがテーブルと椅子を出し、そのテーブルや椅子をミーナが開けた場所に持っていってセッティングする。

出されたテーブルの上に、ライトが温かい飲み物やお茶菓子などを人数分出していった。ちなみにお茶菓子は一口シュークリームにバニラクッキー、飲み物はヴァレリアとミーアは紅茶、ライトとミーナとルディはカフェオレである。

全ての準備ができ、五人は席についた。

大きめの丸いテーブルに、ライト、ヴァレリア、ミーア、ミーナ、ルディの順で座っている。

まずは温かい紅茶を一口啜ったヴァレリアが、ライトに礼を言った。

「ありがとう、おねだりするようですまないね。でも、ちょっと話が長くなりそうだからね」

「大丈夫です!ぼくもヴァレリアさんのお話を全部聞きたいですし!……あ、ミーアさんやミーナ、ルディも遠慮なく食べて飲んでね!」

『お気遣いありがとうございます』

『主様、いただきますね!』

『パパ様、朝から美味しいものをありがとうございます!』

ライトの気遣いに、ミーア達も礼を言いながら飲み物を啜る。

せっかくの温かい飲み物だ、冷めないうちに楽しむのも礼儀の一つである。

いつもとは一味違うお茶会?の様子に、ヴァレリアも小さく微笑みながら徐に口を開いた。

「じゃ、早速報告しようか」

「……はい……」

いよいよヴァレリアの口から明かされる真実に、ライトの胸は高鳴るばかりだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

期待より不安の方が勝る胸中を抱えたライトが、改めてヴァレリアに問いかける。

「イグニス君の様子はどうでしたか? イグニス君は……治るんですか?」

「結論から言おう。うん、破壊神はもう大丈夫だよ」

「!!!!!」

ヴァレリアからもたらされた朗報に、ライトは思わず息を呑む。

ライトはもちろんラグナ神殿の治癒魔法の達人達でさえも、イグニスの意識不明をどうすることもできなかった。

そんな危機的な状況を、ヴァレリアはあっさりと覆すことができたという。

ライトがヴァレリアに託した一縷の望みは、見事成就したのだ。

「ヴァレリアさん、ありがとうございます……ありがとうございます……!!」

「いやいや、そこまで礼を言われることではないし、むしろライト君に礼を言わなければならないのは私の方なんだよ。ライト君、破壊神の危機を教えてくれて本当にありがとう。もしこのままずっと知らなかったら、手遅れになっていたかもしれない」

イグニスを助けてくれた礼を言うライトに、逆にヴァレリアの方も頭を下げた。

ヴァレリアが発した『手遅れになっていたかもしれない』という言葉に、ライトの背筋が凍りつく。

手遅れということは、つまり『処置が遅ければ、イグニスは本当に死んでいたかもしれない』ということである。

「……そんなにイグニス君の容態はヤバかったんですか……?」

「うん。身体の傷の方はともかく、霊体の損傷はなかなか治せないからね」

「やっぱり……」

その後ヴァレリアが詳細を語って聞かせていく。

ヴァレリアはライトから話を聞いた後、深夜の零時を回ってからラグナ神殿に向かったそうだ。

深夜なら見回りも少なかろう、という目論見なのだろうが。それでも巡回者はいただろうに、一体どうやって監視の目を掻い潜ったのだろう?

そして、医務室のベッドで寝かされているイグニスを直接見て確信したらしい。

イグニスが一向に目覚めなかったのは、やはり霊体損傷の度合いが激しかったのが原因だった。

実際BCOでの臨時討伐対象だった【破壊神イグニス】のステータスは、HP5551923、MP851555というとんでもない数値であった。

そして【武帝】との激突の後の破壊神イグニスは、ヴァレリアが見た時点でHPもMPも一割以下に激減していたという。

「でね、この霊体損傷ってのが結構厄介でさ。埒内の者にはそれが見えないというか、分からないんだよね」

「ですよねぇ……イグニス君の中に【破壊神イグニス】なんて別の神格?がいるなんて、BCOのことを知る者以外には理解できるはずないですもんね……」

「そゆこと。いくらイグニス少年本体の方を回復させたところで、霊体の損傷が治らなければ本体が昏睡から目覚めることはない。昏睡に陥った本当の原因は、霊体が大きく損なわれたせいだからね」

ヴァレリアの解説に、ライトもただただ頷く。

埒内の者は BCO(埒外) の知識を持たないので、イグニス少年本体の表層面しか理解できない。

そしてそれは、彼らではイグニスの昏睡状態の真の原因を突き止めることができないことを示唆していた。

ヴァレリアの解説はなおも続く。

「それに、霊体損傷の完治はMPを完全回復させるしかないから、余計に埒内の者には手が負えないって訳」

「BCOのスキルにも、MP回復スキルとかなかったですもんね……ていうか、それはこのサイサクス世界の魔法でも同じことなんですか?」

「うん。魔力を回復させるには、魔力回復剤を飲むか自然回復を待つしかないね」

「やっぱりそうなんですね……」

やはりライトの予想通り、このサイサクス世界でもMP回復手段は魔力回復剤の飲用か自然回復の二択しかないらしい。

それだと意識不明の者は手の施しようがないことになるが、そこは体力回復魔法でHPを維持しつつMPが満タンになるまで自然回復を待つことになるようだ。

幸いにも体力回復魔法は複数あるので、魔力枯渇による昏睡は時間をかけてば治せる、という訳である。

しかし、イグニスの場合はこうした一般的な例に当てはまらないらしい。

ヴァレリアがため息をつきながら零す。

「でさ、イグニス少年の場合、体力枯渇よりも魔力枯渇の方が深刻でね。ほら、彼の中に眠る【破壊神イグニス】って、HP550万にMP85万ってとんでもないステータスだったでしょ?」

「ええ、よーく覚えてます……」

「あの化物レベルのステータスが九割以上削られたことで、【破壊神イグニス】はイグニス少年本体の中に戻らざるを得なくなった訳だけど……その失われた九割以上のHPとMPを充填するために、イグニス少年本体のHPとMPが使われていたんだ」

「えッ!?!?」

ヴァレリアの言葉に、ライトがびっくりしている。

確かに霊体損傷した破壊神イグニスだって、全快するまで療養しなければならないだろう。

だが、埒内の者達には破壊神イグニスの療養などできるべくもない。そもそもその存在自体が知られていないのだから。

ならば、破壊神イグニスはどうやって回復を図るのか?と問われれば、イグニス少年本体の方からHPとMPをもらうしかなかった。

もちろんそれは、破壊神イグニスが意図してやっていることではない。破壊神イグニスは、満身創痍のままイグニス少年本体の中に戻り、ただただ彼の中で眠りについているだけである。

しかし、イグニス少年と破壊神イグニスは一心同体ならぬ異心同体。

破壊神イグニスの方が重篤になれば、イグニス少年の本体の方にも影響が出て当然だし、無意識のうちに互いが互いを救うようにできているのだ。

「私が見たところ、HPの方はラグナ神殿の人達の治癒魔法で十分に与えられていたよ。霊体の方で失われたHP500万も、半年もすれば満タンになったことだろう。ただ、MPの方がね……」

「MP70万以上を自然回復って、かなり厳しいですもんね……」

「そうそう。しかもね、破壊神の場合、本体から破壊神へのHPMP譲渡の際の変換ロスがすごいんだよね。HPはラグナ神殿の司祭達の治癒魔法で満タンになる度に、その半分を即時霊体側に吸収していたからHP回復の速度は早かったけど……」

ヴァレリアの話によると、変換効率は100%ではなく譲渡の際にどうしてもロスが出るという。

その変換率は、HPは五割とまだマシだがMPは何と一割だという。

これはつまり、イグニス少年本体のMP100が破壊神のMPとして譲渡された時には10にしかならない、ということである。

変換効率が悪過ぎるにも程があるが、これはHPよりMPの方が自然回復しにくいこと、そしてHPとMPの総量も相対的にMPの方が低いせいでもあった。

ちなみに埒内の者の自然回復量は、HPは10秒で1回復、MPは30秒で1回復となっている。

これを今回のイグニスに当てはめて変換効率込みで計算していくと、破壊神イグニスのMPが完全回復まで約2700日。何と七年以上はかかる計算だった。

そのまま放っておけば、七年以上も昏睡状態を続けていかなければならなかったイグニス。

だが、ヴァレリアは一番最初に『破壊神はもう大丈夫』と言い切った。

その言葉を覚えていたライトは、期待と不安の入り混じる声でおそるおそるヴァレリアに尋ねた。

「じゃ、じゃあ……ヴァレリアさんが昨晩、イグニス君に直接MPを分け与えてくれた……ってことですか?」

「うん。イグニス少年本体にじゃなくて、破壊神イグニスの方にだけどね。体力と魔力を満タンになるまで直接注ぎ込んできたよ」

「ぁ、ぁぁ……本当に、本当にありがとうございます!」

ヴァレリアの嬉しい報告に、ライトは思わず涙目になりながら頭を下げた。

これでイグニス君はもう助かったんだ、イグニス君が昏睡状態のまま死んじゃうなんてことにはならなくなったんだ―――ライトの胸は安堵と感激に満ちていた。

「とりあえず変換効率から考えて、本体じゃなくて霊体の方を直接治したけど。本体の方もそのうちというか、今日中には目が覚めると思うよ」

「そしたらぼく、午後にまたお見舞いに行ってきます!」

「うん、それがいいよ。きっと破壊神も喜ぶだろうからね」

右の手の甲でぐしぐしと涙を拭いながら、笑顔になるライト。

そんなライトに、ヴァレリアもまた微笑みながら頷く。

その後ライトは、ヴァレリアにどうやってMPを直接注ぎ込んだのかなどを尋ねた。

ヴァレリアによると、それは幻のツルハシと同じ要領でいいらしい。

相手の手を握るなりして直接触り、己の魔力を相手に注ぎ込むイメージで魔力を譲渡すればよいのだとか。

また、埒内の者が何故それができないかの理由も聞いた。

埒内の者は全般的にMPが低い者が多く、他者に譲渡する余裕などないことが最たる要因だという。

確かにMP二桁の者は、他者に魔力を分け与える余裕などないだろう。

そしてMP三桁あればあったで、そうした者達は仕事や家事などで日々魔法を当たり前に使う者も多い。

結局は、ライトやレオニスのように余程魔力の多い者でなければ、MP譲渡などという離れ業はしたくてもできない、もしやるにしても命がけになる、ということだった。

有用な話をたくさん聞けたところで、ライトが席から立ち上がる。

「ヴァレリアさん、イグニス君を救ってくれただけでなく、今日もたくさんのお話を聞かせてくれてありがとうございます。ぼく、そろそろ帰ります。朝食の時間にいないと、レオ兄ちゃんが心配するので」

「そうだね。というか、ライト君が帰る前に一つだけ、聞いておきたいことがあるんだけど……いいかな?」

「はい、何でしょう?」

イグニスの容態が無事だと知れたことだし、そろそろ朝食の時間なので家に帰らなければならないライト。

帰宅しようとした時に、ヴァレリアがライトに何か尋ねたいことがあるらしい。

「四次職マスターのご褒美の質問が、破壊神を治す方法だった訳だけど……ライト君は、それでいいの?」

「はい!今回ぼくは、それを聞くために急いで【魔導大帝】をマスターしたんですし」

「本当に、他の質問にしなくていいの? 今回の破壊神の件は、私としても非常に助かったから、もし君が望むならこの件ではカウントせずにもう一つ質問してもいいんだよ?」

「………………」

ヴァレリアの非常に魅惑的な提案に、ライトの心は思わず揺れる。

四次職マスターによるヴァレリアのご褒美は、今回で四回目。四次職は十二種類あるので、残りの回数は八回である。

ヴァレリアへの質問権は、ライトですら知らないBCO及びサイサクス世界の情報や知識をもたらしてくれる、正真正銘非常に貴重な機会だ。

だが、ライトは今回の選択に一切の後悔はない。

破壊神イグニスのいない世界などBCOではないし、何より同級生としてのイグニスを失いたくなかった。

そして、ここでヴァレリアの言う通りに質問権の執行のカウントをなしにしてもらう―――それは非常に魅力的ではあったが、同時にこれまでのライトの決意や覚悟をも無かったことにするようで、そこにライトは抵抗感があったのだ。

質問権はまだ八回もある。聞きたいことはまた次に聞けばいい。

今はただ、イグニス君が救われたことを喜ぼう―――

ライトは晴れ晴れとした顔で、ヴァレリアに己の出した答えを告げた。

「大丈夫です!今度は戦士職での四次職をマスターして、またヴァレリアさんからご褒美をいただきますから!」

「そうか、分かったよ。……ライト君は、本当に潔いねぇ。その潔さに敬意を表して、あの日あの場で何が起きたのかを見せてあげよう」

「…………え?」

ライトの潔い答えに感銘を受けたヴァレリアが、右手人差し指をライトの額にちょこん、と軽く当てた。

ヴァレリアの指がライトの額に触れた瞬間、ライトの頭の中に様々な映像が流れ込んでくる。

それは過日ラグナ神殿主教座聖堂で起きた、破壊神イグニスと魔剣【深淵の魂喰い】の激闘の一部始終だった。

事が起こる少し前のウィルフレッドのジョブ適性判断から始まり、破壊神イグニスの顕現や魔剣の中に潜む【武帝】との会話のやり取り、そして破壊神イグニスと【武帝】の壮絶な戦い。

そして魔剣に打ち勝った破壊神イグニスが、笑顔のまま粒子となって消えてイグニス少年の中に戻るまでの全てを見終えたライト。

その瞳からはとめどない涙が溢れ出ていた。

「あの破壊神イグニスがねぇ、あんなに頑張って友達を守るなんて……私も予想だにしていなかったよ」

「……イグニス君、本当に格好いいですね……」

「でしょう? 誰かを守るために身体を張るなんて、そうそうできることじゃないよね」

「……はい……」

ヴァレリアの言葉に、ライトは同意しかない。

イグニスが破壊神となって【武帝】と対決したことまではライトも推測できたが、何が原因で【武帝】と激突したか、その理由までは分からなかった。

それがイヴリン達幼馴染を守るためだったとは、さすがにライトもそこまでは見通せなかった。

「あの勇姿を、私以外の誰にも知られないまま埋もれさせるというのは、さすがに破壊神が不憫過ぎてね……ライト君、君だけでもこの事実を知っておいてもらいたかったんだ」

「ありがとうございます……このことは、決して忘れません。誰にも言えないことだけど、これはぼくとヴァレリアさんが知っていればいいことですから」

「うん。BCOとイグニス少年を知る君ならば、この事件の本質を知る資格が十分にあるからね」

ヴァレリアがライトに破壊神と【武帝】の戦いを見せた理由。

それは、イグニスの戦いが自分以外に知る者がいないことへの憐憫だった。

ヴァレリアからの思わぬご褒美により、今回の事件の顛末全てを知ったライト。顔中涙でぐしゃぐしゃになってしまったが、それでも全てを知れたことへの充足感に満ち足りていた。

「本当にありがとうございました。ヴァレリアさんへのご恩も一生忘れません」

「うんうん、また次にいつ会うか分からないけど。その時にはまた美味しいスイーツをご馳走してね!」

「分かりました!とびっきり美味しいスイーツを用意しておきますね!」

「ヒャッホーィ♪ 頼んだよ!」

ヴァレリアへの礼を言い終えた後、ライトは瞬間移動でカタポレンの家に戻っていった。