軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1003話 レオニスの奥の手

祭壇部の床に、無惨な姿で落ちている白銀色の剣を見たレオニス。

それまでにエルメス、エンディ、ホロもしてきたように、ガバッ!と頭上を見上げた。

そして案の定、そこにあるはずの赤黒い剣が見当たらない。そのことをレオニスも己の目で確認した。

そして改めて己の足元に転がる壊れた剣を眺めながら、レオニスがぽそりと呟いた。

「…………これは、そういうことか?」

「ええ、おそらくは…………」

「目撃者はいないのか?」

「事件当時にこの主教座聖堂内にいたのは、当神殿所属の司祭一名と市井の子供四人と思われます」

「……ッ!!」

ホロからもたらされた目撃者情報に、レオニスが思わず息を呑む。

ホロが言う『市井の子供四人』とは、先程レオニスと会ったハリエット達ウォーベック家の人々が言っていた、ライトの同級生達のことに違いない。

レオニスが食いつくように、ホロの両肩をガシッ!と掴みながらその後の情報を求めた。

「その子供四人ってのは無事なのか!?」

「え、ええ。それら五名は当神殿所属の司祭エルメスによって、キュアヒール等の応急処置を施されて、今は医務室にて寝ております」

「そ、そうか……それなら良かった……」

レオニスに肩を鷲掴みにされたホロが、その剣幕に驚きつつも目撃者達の現状を伝えた。

目撃者全員の無事を知ったレオニスは、ホロの肩から手を放してほっとしている。

安堵したレオニスに向かって、エンディが問いかけた。

「レオニス卿、もしかしてその子供達のことをご存知なのですか?」

「ああ。その子供達はうちのライトの同級生で、仲良しの友達なんだ。今日同じく同級生のハリエットちゃん―――ああ、ウォーベック伯爵家の令嬢のことなんだが。その兄ちゃんのジョブ適性判断を見学するために、いっしょにこの聖堂に来ていたんだと。正門入口前にウォーベック家の馬車が停まっていてな、そこでそんな話を聞いたんだ」

「そうだったのですか……しかし、レオニス卿のおかげで子供達の身元が判明したのは幸いです。皆まだ医務室で寝ていましてね、無理矢理起こして身元を聞くこともできませんので……今もまだ全員、医務室のベッドに寝かされているはずです」

レオニスが語る事情に、エンディも頷きながら納得している。

するとその時、ギィィィィ……という音が聞こえた。それは主教座聖堂の入口の扉が開く音だ。

三人が思わず入口の方を見ると、そこには冒険者ギルド総本部マスターのパレンがいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

主教座聖堂の中に通されたのがパレンと知り、早歩きで入口に向かうレオニス達。

先程までのパレンは赤ずきんのコスプレをしていたが、今はカウボーイの格好をしている。

このカウボーイの格好、実はコスプレでも何でもない。パレンが外で救援活動などを行う時の、正真正銘紛うことなき正装である。

上はサーモンピンクの長袖シャツに、裾がフリンジになっている濃茶のベストを重ね着している。ベストの胸元には冒険者ギルドの紋章入りのバッヂが輝いていて、何気にお洒落だ。

下は濃茶の革パンツで、頭には濃茶の鍔広の革帽子=カルトマンハットを被っており、両手にも濃茶の革の手袋を嵌めている。さらには履いているロングブーツも濃茶の革製で、上のシャツ以外は全て同じ色で揃えている。

革パンツのベルトには真正面に横長の楕円形のバックルがついていて、それとは別に左右にガンホルスターが付いたベルトを装着している。

ただしこのガンホルスターに銃は入っておらず、右側にはグランドポーション、左側にはコズミックエーテルが収まっている。

これは、救援現場で素早く救助活動ができるように、というパレンの細やかな配慮によるものだ。

おお、マスターパレンの現場服か。コスプレしてないマスターパレンって、すんげー久しぶりに見た気がするな!

いや、そもそもあのカウボーイ姿も、本来はコスプレに該当しそうだが……マスターパレンが現役冒険者だった頃は、あれが彼の普段着だったってのは有名な話だ。だから、あのカウボーイ姿がマスターパレンにとっての正装なのは間違いない。

いつもは華やかな衣装に身を包んでいるマスターパレンだが、さすがに今回ばかりはなぁ……あの赤ずきんのままでは、現場を指揮するにも何かと差し支えありそうだし。つーか、ラグナ教側の人間が間違いなく大混乱に陥るだろうだしな……

基本的に何を着ても似合う人だが、こうして見るとやはり正装が一番似合うというか、しっくりくるもんだよな。やはりマスターパレンはいつ何時でも頼もしい、男の中の男だ!

久しぶりに見るパレンの正装姿に、心なしかレオニスも嬉しそうな顔をしている。

レオニスが最も尊敬する人はライトの実父グランだが、パレンもまたレオニスにとって理想の冒険者、そして偉大なる先輩であり、尊敬して止まない人物の一人なのだ。

「マスターパレン、ようこそお越しくださいました」

「ご多忙の御身でしょうに、我々のために救援に駆けつけてきてくださって……本当にありがとうございます」

「おお、これはこれは、大教皇様に総主教様!お二方にお出迎えいただけるとは光栄の極み。お二方ともご壮健そうで、何よりですな!」

自らを出迎えてくれたエンディ達に、心から嬉しそうに話しかけるパレン。

凛々しい釣り眉に人懐っこそうな垂れ目、そして口元には真夏の空に浮かぶ雲よりも真っ白な歯がキラリ☆と光る。その輝かんばかりの笑顔はとても眩しく、パレンの頼もしさを如実に表していた。

そんなパレンに、早速レオニスが話しかけた。

「よう、マスターパレン。思ったより早い到着だったな」

「おお、レオニス君もご苦労だったね」

「他の冒険者連中はどうしてる? 聖堂の入口前で待機か?」

「ああ。見たところ、急ぎ行うような救援活動や避難誘導は必要なさそうだったのでな。私とともに来た十人は、ひとまず入口で待機させている」

今主教座聖堂に入ってきたのは、パレンただ一人。

それ以外にも連れてきているであろう冒険者は、やはり入口で止められて待機しているようだ。

それを受けて、レオニスがパレンにさらに話しかける。

「そしたらちょうどいい。事件に巻き込まれた子供が四人いるんだが、その子供達の家に連絡を入れてもらいたい」

「何ッ!? 子供が四人も!?」

「ラグナ教側の適切な治療により、今は医務室で寝ているらしいがな」

「親御さんに連絡しろということは、その子供達の身元は既に判明しているのかね?」

「ああ、偶然にもうちのライトの同級生達らしくてな。一人は向日葵亭の娘でリリィ、二人目は向日葵亭の近くに住むリール子爵家の―――」

レオニスがイヴリン達四人の身元をパレンに伝える。

パレンは急いでカウボーイベストの胸ポケットからメモ帳とペンを取り出し、レオニスが語る子供四人の身元の詳細を書き留めていく。

普段はコスプレマスターと思われがちなパレンだが、山のような書類仕事を日々バリバリこなしているだけあって、実務能力にも秀でているのだ。

イヴリン達四人の詳細情報を得たパレンが、早速行動に移る。

「よし、承知した。早速待機中の冒険者達に伝えよう。ホロ総主教様、今から我々冒険者達が子供達の親御さん方を連れてこちらへ来ます。ついては親御さん達がラグナ神殿の敷地内に入れるよう、正門を通れる手筈を整えていただけますかな」

「分かりました。では正門を守る衛兵達に、私から直接そのように伝えてきましょう」

「ありがとうございます。冒険者達は皆白銀級以上の階級持ちなので、出入りの際は必ず正門にてギルドカードを提示するよう徹底させましょう」

「正門の衛兵達にも、そのように伝えておきます」

パレンの要請に、ホロが素早く応じる。

二人の実務能力の高さと柔軟さには、ただただ感心するばかりだ。

そして二人はすぐに主教座聖堂入口に向かい、外に出ていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後戻ってきたパレンとホロとともに、再び四人で話し合いを始めた。

まずはパレンにも、祭壇部に転がる割れた白銀色の剣を見せる。

レオニス同様驚愕に染まるパレンに、ホロが先程戦った黒い靄のことを話して聞かせた。

ホロが語る話に、レオニスもパレンも息を呑みつつ静かに聞き入る。

ホロと黒い靄の話を一通り聞き終えたレオニスとパレン。二人からほぼ同時に、はぁ……という大きなため息が思わず漏れていた。

「何と……そのようなことになっていたとは……」

「その黒い靄ってのは、おそらくというか間違いなく【深淵の魂喰い】に潜んでいた四帝のうちの一つ【武帝】だな」

「ああ。何らかの理由により【深淵の魂喰い】から追い出された【武帝】が、その執念で黒い靄となって宙に漂い、外に出て生き延びようとしたのだろう」

「だな。もしその場に総主教がいなかったら……きっと【武帝】はまんまと逃げ 果(おお) せていただろうな」

レオニスとパレンの会話は、推測ではあるが全て正鵠を射ていた。

【武帝】が【深淵の魂喰い】から追い出された原因は、現時点ではレオニス達にはさっぱり分からない。いや、そもそも埒内の人間であるレオニス達には、BCO由来の【破壊神イグニス】という存在を知る術がない。そしてそれは、今後とも誰にも知られることはないだろう。

だが、その過程は理解できずとも結果は誰の目にも見えるものであり、皆十全に理解できている。

レオニス達にとっては、それだけで十分だった。

【深淵の魂喰い】から【武帝】を追い出せたことは実に喜ばしい。

だが、全てを手放しで喜べる状況ではないことも確かである。

そのことを真っ先に指摘したのは、パレンだった。

パレンは足元に落ちている白銀色の剣を見つめつつ、エンディに問いかける。

「大教皇様にお伺いしたいのだが……」

「はい、何でしょう?」

「これは聖なる状態の聖遺物、ということでよろしいのですよな?」

「はい。私共ラグナ教内部にも、【深淵の魂喰い】の聖なる状態がどのようなものなのか、具体的には伝わっていないのですが……それでも今ここに【深淵の魂喰い】がないこと、そしてこの白銀色の剣から聖なる力を感じることからも、この剣が聖なる状態の聖遺物【晶瑩玲瓏】であることは間違いないでしょう」

「そうですか。しかし……この真っ二つに折れた状態で、聖遺物として万全と言えるのですかな?」

「それは…………」

パレンの口から出た尤もな疑問に、エンディも思わず言葉に詰まる。

聖なる状態の聖遺物は、レオニス達人類が廃都の魔城の四帝の本体に辿り着くための、最重要アイテムだ。

しかし、その最重要アイテムである【晶瑩玲瓏】という名の剣が、見るも無惨な真っ二つの状態となって発見された。

見るからに壊れてしまったこの状態で、果たして四帝の本体に辿り着くことができるのだろうか。少なくともそれは、剣としての形状を保っていなければならないのではないか―――

パレンの呈した疑問は、パレンだけでなくエンディやホロの心の中にも暗い影を落とす。

そんな中、ただ一人だけ希望を捨てない者がいた。

それは、他ならぬレオニスである。

皆が皆沈黙し、強い絶望感だけが漂う中、しばし考え込んでいたレオニスが徐に口を開いた。

「…………それは、俺が何とかしよう」

「???……レオニス卿が、ですか……?」

「ああ。この剣に復元魔法を使う」

「「「!!!!!」」」

何とレオニスが繰り出したのは、禁断の秘術にして最大の奥の手『復元魔法』。

思いもよらないレオニスからの提案に、パレン達はただただ驚きを隠せなかった。