軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1004話 聖遺物を取り巻く様々な思惑

「レオニス卿……まさかあの、禁断の秘術と呼ばれる復元魔法を!?」

「レオニス君、それは危険過ぎる賭けではないかね!?」

「そうですとも!万が一にもレオニス卿の御身に何か起きてはいけません!」

レオニスが自身の奥の手、復元魔法の実行を切り出したことにパレンやホロが血相を変えて止めようとする。

だが、そのまま引っ込むようなレオニスではない。レオニスはパレン達の説得を始めた。

「この聖遺物は……俺達人族が廃都の魔城の四帝を討ち滅ぼすために、何が何でも絶対に欠かすことのできない品だ。他の代替品なんて存在しないし、四つの聖遺物が全て揃っていなければ四帝を倒すことはできん。そのことはあんた達も知ってるよな?」

「そ、それは、そうだが……」

「し、しかし!廃都の魔城の四帝を討てるのも、レオニス卿をおいて他にはおりますまい!」

レオニスの紛うことなき正論に、パレンは押し黙る。

それでも何とかホロがレオニスの身を慮るも、それでもレオニスは留まらない。

「ンなこたぁないさ。俺や俺の代で成せなくとも、次の世代がいる。次の世代がダメでも、次の次の世代がいる。人類が四つの聖遺物を持ち続ける限りは、四帝討滅の望みは潰えることなく受け継がれていくんだからな」

「「「………………」」」

「だからこそ……今ここで最後の聖遺物を失う訳にはいかないんだ。それを俺の生命一つで取り戻せるなら、安いもんだ」

「「「………………」」」

淡々と事実を語るレオニスに、他の三人はそれ以上反論することができなかった。

実際レオニスの言うことは全て正しい。

四帝討滅を担う者は、何も絶対にレオニスでなければならない理由はない。探せば世界のどこかに、あるいは何十年後何百年後にレオニスを超える逸材が生まれる可能性だって大いにある。

だが、ここで最後の聖遺物【晶瑩玲瓏】を完全に失う事態になれば―――人類が真に四帝を滅する日も、永遠に失われることになるのだ。

この窮地を脱するには、レオニスの言うように【晶瑩玲瓏】に復元魔法をかけて、真っ二つに壊れた状態から完全に元通りにしなければならない。

その大事を成すためには、自分の生命など惜しくない。そう言い切るレオニスに、パレン達はもう何も言うことができなかった。

悲痛な顔で黙り込んでしまった三人の顔に気づいたレオニスが、『ン?』という顔をしつつ努めて明るい声で話しかける。

「いや、だからって俺だってそう易々とこの剣に生命をくれてやるつもりはねぇぞ?」

「もちろんリスクが高いことは否めんが、準備を整えて万全を期して挑むさ」

「だから、復元魔法を使うにしても今すぐここで実行するって訳にはいかん。俺の方でもいろいろと準備をしなけりゃならんから、後日改めて行うってことにさせてくれ」

レオニスの力強い言葉に、パレンやエンディ、ホロの顔が次第に明るくなっていく。

そう、レオニスだってむざむざと生命を捨てる気はさらさらない。

サイサクス世界の人類の未来、そしてその未来に希望を繋ぐために生命を賭した策を出しはするが、決してそれは自身を生贄とした前提のものではないのだ。

人類の未来を握る鍵【晶瑩玲瓏】を消滅の危機から取り戻し、なおかつ自身も生き延びてみせる―――レオニスの力強い言葉には、そうした強固な意思があった。

そんなレオニスに感化されたのか、エンディ達も気を取り直し奮起する。

「分かりました。レオニス卿、私達にもお手伝いできることがあれば、何でもご相談ください。私達でできることならば、助力を惜しみません」

「ありがとう。準備中に何か手伝ってほしいことが出てきたら、その時は遠慮なく頼らせてもらうわ」

「レオニス君、私も何でも協力しよう!事が事だけに公にはできんので、冒険者ギルド総出で支援する訳にはいかんが……それでも、私が個人の責任においてレオニス君を支援する分には何の問題もないからな!」

「マスターパレンもありがとうよ。あんたの力を借りれるってだけで千人力だぜ」

エンディとパレンの助力の申し出に、レオニスは心から嬉しそうに礼を言う。

そう、レオニスは一人だけで戦う訳ではないのだ。

このようにたくさんの信頼できる友や仲間がいる。レオニスはそのことを改めて実感していた。

そんなレオニスに、ホロが実務的な話をし始める。

「して、レオニス卿としては今後どのように動くおつもりですかな? それを我らにもお教えくだされば、今すぐにでも何かお手伝いできることがあるやもしれません」

「そうだなぁ……」

ホロからの問いかけに、レオニスは口に手を当ててしばし考え込む。

そして徐に口を開いた。

「まず、復元魔法を実行する前にオラシオンにもこのことを知らせよう。オラシオンもまた俺達同様に、悪魔潜入事件の調査に深く関わってきたからな」

「そうですね……他の支部の再調査の時にも、兄上は私達とともに来てくださっておられましたからね」

「だろ? で、復元魔法を実行する際にもオラシオンに立ち会ってもらいたいが、そうするには実行日は土日でなけりゃならん。オラシオンにもラグーン学園理事長としての立場や仕事があるからな」

「確かに。オラシオン殿が合流できるのは、ラグーン学園が休日の土日に限られるな」

オラシオンにも今回の事件を教える、というレオニスの案に、パレン達も異論はないようだ。

実際オラシオンはこれまでずっと、レオニス達とともにラグナ教で起きた悪魔潜入事件の調査に関わってきた。

そして今日、最後の聖遺物である【深淵の魂喰い】に異変が起きた以上、オラシオン抜きで事を進めるのは非常によろしくない。

ここでオラシオンだけハブるのは可哀想というか申し訳ないし、後日オラシオンがこのことを知ったら恨まれそうでもある。

また、そうした感情論的な問題以前に『オラシオンとも情報共有すべきである』という観点で四人の考えは一致していた。

「この先の土日となると……来月の十二月の一日二日、八日九日、十五日十六日ですね」

「本当なら、一日も早く復元したいところであるが……オラシオン殿の都合も聞かねばなるまいな」

「そうですね。それもありますが……レオニス卿、どういたしますか? いつ頃がいい、とかの希望はあるのですか?」

「………………」

オラシオンを呼ぶとしたら土日、その土日がこの先何日分あるかをエンディが素早く計算する。

そしてパレンの言うように、オラシオン自身の都合も事前に聞いておかねばならない。

そしてホロが、肝心のレオニスの考えを問うてきた。

レオニスの言う準備が、どの程度の期間を要するものなのかがホロ達には分からないからだ。

ホロの質問に、レオニスはしばし考えてから答えを出した。

「とあるものを準備したいから、できるだけ長めの猶予が欲しい。新任式が行われる予定の十五日の早朝とかでもいいか?」

「もちろんそれでも構いませんが……この主教座聖堂の建物自体が危ない状況ですから、新任式もここではなく礼拝堂で行うことになるでしょうし」

「そうか、なら十五日にしてもらっても問題はなさそうだな」

「レオニス君、準備したいものとは一体何だね?」

レオニスの復元魔法の実行希望日は、なるべく後にしたいという。

それはレオニスが事前に何かを調達したいがためらしいが、レオニス一体何を用意するつもりなのだろうか。

パレンからの問いに、レオニスは驚くべきことを口にした。

「この、折れた【晶瑩玲瓏】とそっくりの剣を作る」

「……と、いうと……」

「つまりだな……今後このラグナ神殿に置いておく聖遺物を、この機会に別物にすり替えておく、ということだ」

「「「!!!!!」」」

そのあまりにも奇想天外な言葉に、パレン達はしばし言葉を失った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

度肝を抜かれ過ぎて、呆気にとられているパレン達を他所に、レオニスがその思惑を滔々と語る。

「俺が【深淵の魂喰い】と直接対決することはできなかったが、これは逆に言えば絶好の機会だと思う」

「それは一体、どういうことでしょうか……?」

「ここで別物と入れ替えておけば、四つの聖遺物を全て俺の手元に置いておけるということだ」

「……ああ!そういうことですか!!」

レオニスの説明に、ホロが思わず手をポン!と叩く。

これまでに【深淵の魂喰い】以外の聖遺物は三つ見つかっている。そしてそれらは全て新発見で、誰にも知られていない未公開の品というのをいいことに、そのままレオニスが預かっている。

だが、今回の【深淵の魂喰い】だけはそうはいかない。それは長年このラグナ神殿の中で祀られ続けてきた、いわばラグナ教を象徴する品だった。

そんな、ラグナ教にとって最も大事な品を、果たして信徒でもないレオニスに素直に渡すだろうか?答えは『否』である。

いや、現大教皇であるエンディや総主教ホロは、二人とも『大望を果たすためには、レオニスへの譲渡も已む無し』という考えだ。

だが、全てのラグナ教信徒がその言い分に納得するとは到底思えない。むしろ強硬に反対する者が必ずや出てくるだろう。

そうなればラグナ教の団結力は失われ、内部分裂による泥仕合になることは必至。

それを避けるには、レオニスの言うように中身をすり替えるしかないのだ。

「もちろん俺だって、何も好き好んでこんなことを提案する訳じゃない。あんた達が長年守り続けてきたお宝を奪うようで心苦しいし、他の信徒達を騙すことに変わりはないんだから、詐欺師とか犯罪者とか罵られても致し方ないと思う。だが、この機を逃したら……【晶瑩玲瓏】が今後俺の手元に来ることは、まずないだろう」

「そうですね……ラグナ教の中には、聖遺物を手放すことを良しとしない者は少なからずいます。負の状態の【深淵の魂喰い】でさえ手放したがらないのですから、それが聖なる状態になったと知れば……」

「何が何でも、それこそ死に物狂いで外部への譲渡を阻止しに出るでしょうね……」

レオニスの言葉に、エンディもホロも険しい顔で頷く。

レオニスですら簡単に思いつくラグナ教内部分裂予想は、大教皇であるエンディや総主教ホロにしてみれば火を見るよりも明らかな未来だった。

そうした者達に、人類の未来や四帝討滅の大義を説いても無駄だ。彼らはそうした大義よりも、自分達の名誉や利益、保身といったものを最優先させるのだから。

となると、やはりここはレオニスの案に乗る他なさそうだ。

だがここで、パレンがレオニスに疑問を呈した。

「しかし、すり替える品を用意すると言っても、果たしてそれは上手く事を運べるのかね? 魔力察知に長けた者に偽物だと看破されたり、あるいは偽物作成を依頼した鍛冶屋から情報が漏れたりなどの危険性もあるだろう?」

「偽物と見破られる危険性は、まぁ全くないとは言わんが……ラグナ教側が『これは本物だ!』と言い張り続けりゃいいだけのことだ。そもそもこのラグナ教の中にすら【晶瑩玲瓏】の姿は伝わってないって話だしな。ここで【晶瑩玲瓏】を見た俺達以外の者達には口外無用の誓約魔法をかければいい」

「そ、それはそうかもしれんが……」

パレンが呈する疑問は尤もなものだ。

だが、レオニスの見立ても間違ってはいない。負の魔剣【深淵の魂喰い】が聖なる状態に転化した【晶瑩玲瓏】の姿を知る者は、今回の騒動で目撃した者達を除いて誰もいないのだ。

レオニス達以外に【晶瑩玲瓏】を見た者といえば、司祭エルメス他数名の衛兵達だが、この者達も既にエンディ達が先んじて他言無用の誓約魔法をかけさせている。

故に内部から情報がもれる心配はなかった。

だが、パレンの不安はなおも尽きないようだ。

「だが、偽物作りの鍛冶師の手配はどうする? その者を口封じでもしない限り、人の口に戸は立てられんぞ?」

「その点も心配ない。人族以外の鍛冶師に制作を依頼するつもりだから」

「人族以外、というと……異種族、つまりはドワーフとかですかな?」

「惜しい。異種族ってのは合ってるが、俺が依頼しようと思ってるのはトロール族だ」

「「「トロール、族……」」」

レオニスの口から出た意外な異種族の名に、パレン達はあんぐりと口を開けたまま放心する。

鍛冶仕事と言えばドワーフ!というのは、このサイサクス世界でも有名な共通認識だ。だが、その超有名なドワーフではなくトロール族に頼むのだ、とレオニスは言うではないか。

予想外の新情報に、パレン達が呆気にとられるのも無理はない。

トロール族はオーガ族と同じく巨躯を誇る種族として、人族の間でもそこそこ知名度のある種族だ。

だが、そのトロール族が鍛冶が得意ということは、レオニス以外誰も知らなかったらしい。

もっともレオニス自身も、先日シンラに会うまではトロール族が鍛冶が得意だということは微塵も知らなかったのだが。

「とりあえず、この【晶瑩玲瓏】の姿絵が一枚欲しいんだが。トロール族に参考資料として見せるやつだから、もちろん折れてない図でな。……誰かこの中で、絵心のあるやつはいないか?」

「それなら私が描きましょう」

「総主教が、か? あんた、絵が得意なのか?」

「絵というか、もともとデッサン全般好きですよ。でなければ、木彫りの置物作りなんてできませんからね」

「そ、そうか。俺は絵心は全くないから、綺麗な絵が描ける人は無条件で尊敬するわ」

トロールに見せるための【晶瑩玲瓏】の正確な絵を求めたレオニスに、ホロが右手を上げて名乗り出た。

ホロと言えば木彫りの達人。彫刻を嗜む者が、絵は下手くそなどということはあり得ないのである。

「よし、そしたら総主教にはすぐにでも【晶瑩玲瓏】の絵を描いてもらいたい。あとは……そうだな、この弱っている【晶瑩玲瓏】をどうするか、だな」

「【晶瑩玲瓏】が、弱っている……?」

「ああ。今ここにはないが、他の支部で見つけた聖なる状態の聖遺物からは、これよりもっともっと強い力を感じた。そこら辺は、エンディも覚えているだろう?」

「確かに……言われてみればそうですね……」

レオニスの指摘に、エンディもハッ!とした顔になり頷く。

これまでに発見されたのは、プロステス支部の司教杖、ファング支部の腕輪、エンデアンの三叉槍。この三つはエンディもオラシオンとともに目撃しており、その都度エンディが強い浄化の力を確認し、聖なる聖遺物として認定してきている。

(ちなみにホロは、聖なる聖遺物を直接見たことはない。各支部再調査の間、ホロはその都度証言者として連れてきていた魔の者達の監視役をしていたのだ。)

だが、今レオニス達の足元に転がっている【晶瑩玲瓏】には、それらに匹敵するような力は感じられない。

いや、聖なる力を宿していることは分かるのだが、如何せんその力が他に比べて弱過ぎるのだ。

これはやはり、真っ二つに折れてしまっていることが原因だろう。損壊した状態では、万全の力を発揮できないのも当然である。

「俺が復元魔法をかける前に、この剣自体の命運が尽きたらもうどうにもならん。そうならんように、エンディ達にはこの【晶瑩玲瓏】に魔力を注ぎ続けてもらいたい。あんた達の浄化魔法なり回復魔法を施せば、少なくとも現状維持は可能だろう」

「分かりました。では試しに今ここで、回復魔法と浄化魔法をかけてみますね」

レオニスの論の可否を証明するために、エンディが回復魔法と浄化魔法をかける役を買って出た。

エンディが折れた【晶瑩玲瓏】のすぐ横に屈み、両手を翳して呪文を唱える。

「フルキュア」

「キュアオーラ」

エンディの翳した両手から淡い光が出て、折れた【晶瑩玲瓏】に回復と浄化の力が注がれていく。

しばらくして光が消えてから、レオニスが【晶瑩玲瓏】に近づく。

そしめしばらく【晶瑩玲瓏】を眺めた後、小さく頷いた。

「……うん、やっぱり思った通りだ。この剣から感じる聖なる力が、さっきよりも増えている」

「そうですか、それは良かった!」

「そしたらエンディ、ホロ、二人には交代で【晶瑩玲瓏】への魔力を注入し続けてくれ。もちろん無理のない範囲で頼む」

「分かりました。ですが、最後の頼みだけは聞けませんね」

「……何? 何でだ?」

これまでレオニスの意見や言い分に、全て相槌を打ってきたエンディが、ここに来てレオニスの頼みを聞けないと言い出した。

どうしてそんなことを言い出したのか、レオニスにはさっぱり分からない。怪訝そうな顔で問い返すレオニスに、エンディは小さく微笑みながら答えを口にした。

「レオニス卿が生命を賭して聖遺物を直そうとしているのに、私だけのほほんと構えていられるとお思いで?」

「……それは……」

「もちろん私だけでなく、ホロ総主教も同じ思いですよ。ね、ホロ総主教?」

「……(コクリ)……」

エンディの思いがけない言葉に、意表を突かれた格好のレオニスは思わず戸惑う。

エンディはその言葉の通り、レオニスが生命を賭けて人類の命運と未来を守ろうとしているのに、自分だけがその後ろでのうのうと過ごすことが許せないのだ。

そしてそれはエンディから話を振られたホロも同じようで、エンディの問いかけに一回だけ力強く頷いてみせた。

ラグナ教トップツーの強い意思表示に、レオニスははぁ……と小さなため息をついた後、ニヤリと笑った。

「……あんた、やっぱオラシオンの弟だな」

「ええ、私はオラシオン兄上の弟ですから!」

「上等だ、オラシオン同様あんた達にもたくさん働いてもらうからな?」

「それこそ上等です。聖遺物すり替えという逆賊の汚名も、いくらでも被りましょう。そしてレオニス卿やマスターパレンとともに、我らも人類未来を守る礎となりましょう」

「……ありがとう」

ラグナ教大教皇エンディに、総主教ホロ。聖遺物すり替えの共犯となることすら厭わぬ、その強い決意にレオニスの胸は打ち震える。

いつにも増して心強い援軍を得たレオニスに、もう怖いものなどない。

どちらからともなく手を差し出し、固い握手を交わすレオニスとエンディだった。