軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14話

「アレクシオ。貴方から目を逸らし続けていた、わたくしの責任です。……もう、遅いだろうけれど、償いとしてできることはいたしましょう。この母を恨み続けても構わないわ、それでもこれからは貴方の力になりましょう」

『いえ、母上。理解頂けただけで充分です。実は、これまで渡せなかった手紙もございます。よろしければ受け取っていただけないかと』

「……ええ、もちろん」

アレクシオが古い手紙の束を取り出した。届かぬと諦めて、それでも書かずにはいられなかった母への言葉だろう。王妃はそれを受け取ると、その表面をそっと撫でた。……王妃の表情はあまり変わらないが胸の内に秘める思いはあるように見える。

「時魔法は秘匿したまま、呪いについては公表いたしましょう。そうすれば多少状況が変わるわ。けれど……その呪いはやはり、王族としての欠陥であることは理解してちょうだい」

『承知しております』

王族の仕事は国内に留まらない。外国との社交もある。アレクシオが王族として社交の場に出れば、親しくない相手を怒らせ、親しくなるべきでない相手を招きかねない。

嘘を吐けない、建前が言えない正直者でも使えないが、嘘しか吐けない者も使えないのだ。たとえ性根が真っすぐだとしても王族としては決定的な欠陥である。……王妃は悲しそうに目を伏せた。

「貴方は成人後に公爵として、ヴィアトレイを治めることが決まっているわ。それはもう覆ることのない決定事項よ。まもなく公表される」

「ヴィアトレイというと……あの、酷暑の……」

王都から離れた南の辺境の土地、厳しい暑さで知られる土地ヴィアトレイ。隣接する国はなく、主に農業が主体の土地だ。

権力を持たせたくない者に治めさせるにはちょうど良いのだろう。先代が亡くなり、今は王都より派遣された代理領主が治めている。そこにアレクシオをあてがう予定らしい。

「厳しい僻地よ。……グレイシー、それでもアレクシオを支える気はあるのかしら?」

「……私以上の適任もいないかと」

私の魔法は氷を生み出すもの。暑い土地であればあるほど、私の存在はありがたがられるだろう。私が公爵夫人としてアレクシオと共にその土地に住み、領民のために氷を使えばもろ手を挙げて歓迎してもらえるかもしれない。……アレクシオの地盤づくりに役に立つはずだ。

「……そう。では、わたくしも貴方たちの婚約を後押ししましょう」

『ありがとうございます、母上』

「ありがとうございます、王妃陛下」

「……礼を言うべきはこちらね。ありがとう、グレイシー」

そう言うと王妃は静かに立ち上がる。王妃を立たせて侯爵令嬢が座っているなど非礼だが、あまりにも自然な動作だったため出遅れてしまった。慌てて立ち上がろうとする私を彼女は手で制し、私のすぐ横にやってくる。そうして自分の髪に飾られた簪を一本引き抜くと、私の髪にそっと挿した。

「これは……」

「持っていなさい」

「……ありがとうございます、王妃陛下」

感謝の印か、アレクシオの婚約者として認められたということか、王妃から簪を賜った。

これは貴族としても相当な栄誉であり、そうそう得られるものでもない。王妃からの信頼とその庇護を示すもので、社交の場で使っていればあらぬちょっかいはかけられないだろう。……とてつもない品をいただいてしまった。

「王への報告に参ります。あとは二人でゆっくり過ごしなさい」

「……王妃陛下をお見送りいたします」

「もうしばらく残られてもいいのではないですか」

【母上をお見送りいたします】

目上の者が去ろうとしているのを引き留めるのは非礼だ。今度こそ立ち上がり、王妃を見送るために腰を落として一礼する。アレクシオも引き留める声をかけているが、これは送りだす言葉を言おうとして逆さになっているだけである。しかし王妃はアレクシオの言葉に足を止めた。

「……そちらが本音でないことが残念ね」

そう言い残して今度こそ去っていく。私が本音を見抜くと信じたからか彼女は嘘を吐かなかった。真実を話し、伝えるべきことだけを話せば必要以上に私に情報が洩れることもないからだろう。

そしてアレクシオを想う彼女の気持ちも本物だ。王族として不適格だと断じていても、愛情がなかった訳ではない。だからアレクシオの手紙も大事そうに抱えて持って行った。

「母上は……私を愛しているんだな?」

【母上は私を嫌っていたか?】

「王妃陛下は本心でお話しされていらっしゃいました。……アレクシオさまを想っていらっしゃるのは、間違いございません」

アレクシオの手紙が届かなかった理由は分からない。しかし少なくとも、王妃自身が拒絶していたわけではない。……おそらく余計なお世話を焼いた使用人がいるのだろう。

私の言葉を聞いて、アレクシオはふっと息を吐く。少しは不安がぬぐえたのかもしれない。

そしておもむろに私の前に跪き、手を掬い取ったかと思えば己の額をぴたりとつけた。……これはとても深い感謝を示すもので、王族に跪かれるという状況に私も少々面食らう。

「お前は本当に迷惑だな、お前がいなければよかったと心底思う」

【お前がいてくれてよかった、ありがとう】

行動で感謝を示せても、その言葉と表情までは操れない。顔を上げたアレクシオは笑顔だったが、その目はどこか泣きそうに見えた。