軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話

立ち上がったアレクシオは私の手を取ったまま椅子へと誘導した。そうして私を席に着かせると、自分も隣に座って紙の上にペンを走らせる。

『お前がいてくれてよかった、本当に感謝している』

「……アレクシオさま、私には貴方の本音が見えております。言葉にして頂いたことで充分伝わっておりますよ」

彼は先ほどの本音とほとんど変わらないことをわざわざ書いて見せた。私の能力を知っているはずなのに、どうしたのだろうと不思議で首を傾げていると、彼は呟くように言った。

「からかっただけだ」

【ちゃんと感謝していることを言葉にしたかった。罵倒では感謝できた気がしない】

私には本音が見えていても彼の耳には罵倒として聞こえるだけだ。どうやらそれが嫌で、こうして文字で言葉を書き伝えたかったらしい。

彼はまだペンを持ったまま、声ではなく文字で言葉を記していく。

『感謝の言葉すらまともに言えない自分が嫌でたまらない。お前に誰よりも何よりも感謝しているのに、口にすればお前を傷つけるような物言いをしてしまう。私がお前に対し良い感情を持つほど、この口はお前を蔑むんだ。いつかはお前も、こんな私に嫌気が差すかもしれない』

紙に連ねられる文字はアレクシオの不安だった。本音として浮かぶものではなくても本心だと分かる。これを口にしようとすると、私に向かって必ず罵倒語が飛び出してしまうので彼はそれを避けたいのだろう。

「アレクシオさま。……私には長らく婚約者がおりました」

「興味がないな」

【知っている】

「彼は出会ってから、いつも私を褒めてくださいました。美しい、綺麗だ、愛する婚約者……その言葉すべてに、本音が浮かんで見えておりまして」

本音が見えるということは、口にした言葉が嘘だということ。褒め言葉も愛の言葉もすべて偽りでしかないと、常に見せつけられていたのだ。

婚約の話が進み、初めて顔合わせをした時のエリオットは、表情が動かなくなりつつあった十歳の私を見て「なんて美しいお嬢さんだろう」と言いながら【人形みたいな顔をした子供が婚約者だなんて】と思っていた。

そしてその印象は成長しても変わらなかったようだ。私の表情は凍てつく氷のように固まり、エリオットは人形のようだ、氷のように冷たい女だと内心で思い続けていた。……表面では甘く優しい顔と声で語り掛けながら。

「私にとっては人の本音が何よりも重要です。表の言葉は、人の本質ではありません。……ですから、アレクシオさまは私にとってはとてもまっすぐなお方。貴方の本音はいつも優しくて、貴方と話せる時間は心地よいです」

私のこの魔法は人の本質を見る力と言っても過言ではない。そしてこれまで見てきたアレクシオの本音に、不快な思いをしたことは一度もなかった。

呪いのせいで他人を傷つけるような言葉を発してしまう自分を嫌ってしまうくらい優しい人で、これまで誰にも理解されなかったことを苦しんでも、周囲を恨むこともなかったくらいまっすぐな人。

「私はアレクシオさまのお人柄が好きですよ」

僻地に移り住むとしても、そこが暮らすのに苦労する場所だとしても、家族になるならアレクシオがいいと思った。それほど私にとって見える本音というのは重要なのだ。

そんな私の顔を見てアレクシオが息を呑む。どうかしたのかと首を傾げると、彼は両手で勢いよく自分の顔を覆い隠し、軽く天を仰いだ。

「変な顔をするんじゃない……」

【笑った顔は初めて見たぞ……】

「……私、笑っていましたか……?」

自分でも驚いて口元に手を当てた。確かにほんのりと口角が上がっている。愛想笑いすらできなかったというのに、自然と笑うことができるとは。

(氷のように固まっていたのに、溶かしてくださった。……アレクシオさまは私にとって太陽のようなお方ね)

私がアレクシオを救うつもりだったのに、逆に救われてしまったらしい。それがなんだかおかしくなってきて、小さく笑い声が漏れた。……笑ったのは何年振りだろう。

「ああ、久しぶりに笑えました。……アレクシオさまのおかげですね。ですからどうか、これからも躊躇わずに言葉をかけてくださいませ」

「お前のためにわざわざか?」

【お前が本当に喜ぶなら……】

「ええ。貴方の隣でだけ、私は笑えるようです」

そうしてようやく手を退けたアレクシオは非常に不機嫌そうで、押さえていた顔が赤くなってしまっていた。……そんなに強く顔を押さえつけるほど、私の笑顔は衝撃だったのだろうか。

「そこまで驚かせてしまいましたか。……笑わないように気を付けた方が?」

「そうだな、笑うな。不快になる」

【いや、せっかく笑えるようになったなら気にせず笑ってくれ】

「ふふ……ありがとうございます」

自然と緩む頬を自覚する。自分でも笑っているのが分かって、それが嬉しい。そんな私を見たアレクシオは耳の裏をかき、そっと顔を背けた。

後日、王家からも正式な婚約の承認の知らせが届き、私とアレクシオの婚約が公表された。同時にアレクシオが呪いを受けており、その言動は彼の望みとは別であることも明かされている。だがほとんどの者は半信半疑だ。

次の社交パーティーで私達は婚約者として共に参加しお披露目することになるのだが、注目の的となるのは間違いない。

(でも今までより憂鬱ではないわ。……アレクシオさまがいるからかしら?)

隣に信頼できる人がいるというのは心強いものだ。

王家との顔合わせや、さまざまな打ち合わせなどもあり忙しくしていたら、あっという間にパーティーの日はやってきた。