軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話

魔法道具でアレクシオへ合図を送る。指輪の形をしている道具の魔法石の部分に魔力を流し込むことで、相手にそれが伝わるだけの簡単な道具だ。

三度魔力を流したら来てほしいとあらかじめ決めていたのでそのように合図した。

王妃は口を閉ざしたままのため、私も無言でカップに口をつける。そのおかげで緊張したせいでのどが渇いていたことに気づいた。……冷めた紅茶ですらこんなに美味だとは。

「お待ち下さい、アレクシオ殿下! 王妃陛下に非礼ですよ!」

侍女がアレクシオを止めようとしている声が聞こえてきて、すぐにアレクシオが姿を見せた。横暴な王子をとめられなかったと青ざめる侍女へ、王妃は軽くあしらうように手を振って合図する。

「わたくしが許可したわ。この者の席を用意して下がりなさい」

「し、しかし……」

「わたくしの命が聞こえなかったかしら?」

「……申し訳ございません」

侍女はしぶしぶといった様子でアレクシオの席を用意し、彼を忌々し気に睨みつけてから下がっていった。出迎えの時もそうだったが、この侍女はかなりアレクシオを嫌っている様子だ。

おそらく王妃に忠誠を誓っており、その意に沿わないアレクシオが嫌いなのだろう。王妃を苦しめる悪魔とでも思っていそうだ。

「母上にご挨拶申し上げます」

「ええ」

侮るような笑みを浮かべるアレクシオと、それを見る王妃の無表情。とても母子の様子とは思えない。数秒無言で見つめ合った二人のうち、先に切り出したのは王妃の方だった。

「話したいことがあるなら席に着きなさい」

「話したいことなどありませんが、お邪魔しましょう」

【話の場を設けていただきありがとうございます】

そう言いながらアレクシオは席に着く。そして手に抱えていた紙の束をテーブルへと載せ、言葉にできなかった本音を書き込み王妃へと差し出す。

「王妃陛下、アレクシオ殿下は文字でなら本心を語れるようですので、口にした言葉ではなくこちらを殿下のお言葉だと思っていただけないでしょうか」

「……そうだとするなら、何故今まで文字で伝えなかったのかしら」

『母上にはお会いできなかったので、事情を書いた手紙を何度かお送りしておりました。しかし何も変わらなかったため、諦めたのです』

「……手紙を? いえ、わたくしは目にしていないわ」

王妃は身に覚えがないようだ。何かしらの邪魔が入り、アレクシオの手紙は王妃へ届かなかったらしい。そもそも文字を覚え手紙を書けるようになるまでも時間を要しており、それまでに修復が難しいほど関係がこじれてしまったのだろう。

彼女は改めて息子へと視線を向ける。彼はニコニコと笑っているがこれは居心地が悪いせいで、機嫌が良い訳ではない。

「……ようやく装いを改めたようね」

『仕立て屋へのオーダーが上手くできなかったためです』

「わたくしがいくつか相応しいものを用意させたはずだけれど」

『私が着るはずがないと、周囲の者に片付けられてしまいました。せっかくのご厚意を申し訳ございません』

「貴方のこれまでの行いは王族の恥でしかなかった。それがすべて呪いのせいだと?」

王族の親子というものは、親子らしい関わりを持つ時間が少ない。親が子供を見つめる時間が少ないのだ。世話をするのは乳母、勉強をさせるのは教育係、身の回りの世話は使用人がしている。アレクシオに魔法が発現した年は特に、国境で諍いが起こり王も王妃も魔法発現に伴い性格がひねくれた子供に掛けられる時間がなかった。戦争は最優先するべき国の問題だ、両陛下はそちらに注力していた。

それが落ち着いて子供に向き合えるようになった時には、アレクシオは悪童という認識になっていたのである。まともな人間は愛想をつかし、甘言を囁く者で周囲を固めていた。更生させようと厳しくしつけようにも、本人は望んで悪事をやっていないのだからすれ違うのも致し方ない。

「今もわたくしを謀ろうとしているのではなくて? これまでの悪行を呪いのせいにすれば帳消しになるとでも思っているのかしら。とても信じられない話よ」

【信じてあげたい】

『私が至らぬばかりに、申し訳ございません。これまでのことはいくらでも償いますが、これからは呪いがあることを周囲に理解してほしい、私の言葉をその通りに受け取らせないようにしたいのです』

魔法を与えられたことによって生じた呪いは消えることはない。この先もアレクシオはその思いとは異なる言葉を発し続け、表情も感情とは裏腹になる。それを周囲が理解していなければ、彼の性格がねじ曲がらない限り誰が見ても横暴なままだ。良い為政を考え実行したくても真逆の結果を生みかねない。

「けれど治癒の魔法でそれ程の呪いを受けることがあって?」

「王妃陛下、アレクシオ殿下の魔法は治癒ではございません。……時を操る魔法です」

「なんですって?」

これは見せた方が早いだろう。私はアレクシオの紙の束から一枚とって、それを細かくちぎった。アレクシオも私の意図を察したのか、破れた紙の山に手を翳す。するとみるみるうちに紙片は元の形を取り戻し、一枚の紙へと変わった。

「これほどの魔法であれば、この呪いもしかりかと。……しかし人前で使えば大ごとになります。故に殿下は、直接両陛下へお話しできる機会を待たれていました」

周囲は信用できない人間ばかりとなっていたアレクシオが、誰かに魔法を見せられるはずもない。誰に見られるかもわからないのに、それを文書にしたためることもできない。

初対面で私に魔法を使ってくれたのは、私が彼の内心を見抜いていたことに希望を見出したからなのだろう。あの出会いがなければ彼はずっと、来るかどうかも分からない機会を待ち続けていたかもしれない。

「…………そう。…………そうなのね……」

王妃は内心を悟らせないためか、小さく肯定の言葉をつぶやいただけだ。しかしほんの少しうるんで見える黒い瞳に、その本心が滲んでいるように思えた。