軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

376話:またね

数十分後。

一良、ジルコニア、フィリアは、手持ち花火を楽しんでいた。

シューッと音を立てて火の粉を噴き出す花火を手に、フィリアは大興奮だ。

「すごく綺麗だね! どんどん色が変わっていく!」

両手にすすき花火を持ち、フィリアが走り回りながら花火を振り回す。

ジルコニアも大はしゃぎで、同じように走り回っている。

「ほんと、綺麗ね! ちょっと煙たいけど。けほ、けほ」

『ぶえっくしょい!』

オルマシオールが煙を吸い込んでしまい、盛大にくしゃみをした。

フィリアがそれを見て、あはは、と楽しそうに笑う。

「よし、それじゃあ、次は大きいやつをやってみるか」

一良が花火の大袋から、噴出し花火を取り出して地面に置いた。

ライターで火を点けて離れると、すぐにすさまじい勢いで火の粉が噴き出した。

「「おー!」」

走り回っていたジルコニアとフィリアが足を止め、その光景に見入る。

「綺麗ですね……こんなに綺麗なもの、初めて見ましたよ」

「すごーい!」

シューシューと音を立てて火の粉を噴き出し続け、今度はパチパチと音を立てて火花が散り始めた。

ジルコニアとフィリアが再び、「おー!」と声を上げる。

「まだいろいろありますよ」

一良が今度は連発式の打ち上げ花火を取り出した。

それを地面に置いている間に噴き出し花火が終わり、一良が打ち上げ花火に着火して少し離れる。

すると、ぽん、と音がして、空に向かって緑色の光の玉が飛び出した。

パン! と軽快な音とともに、夜空に小さな緑色の光の花が咲く。

それが何発も続き、すごいすごいとフィリアは大喜びだ。

そんな彼女の姿に一良も嬉しくなって、どんどん打ち上げ花火を並べては火を点けていった。

次々に上がる花火を見上げ、ジルコニアとフィリアは並んでそれを見つめている。

「お姉ちゃんは、今、幸せ?」

夜空に咲く眩い光に目を向けながら、フィリアが尋ねる。

「うん。すごく幸せ。こうしてまた、フィリアとも会えたし」

「そうだね! お姉ちゃん、私たちのお墓に何度か来てくれたでしょ? いつもすごく悲しそうな顔をしてたから、皆で心配してたんだよ」

「そっか……見えなくても、フィリアたちはあそこにずっといたんだもんね」

「うん。だけど、元気なお姉ちゃんにまた会えて、本当によかった」

『おい』

傍にいたオルマシオールが2人に、声をかける。

『もう少ししたらティタニアの体から出てくれ。そろそろ時間切れだ』

「うん」

フィリアがにこりと微笑む。

その時、ちょうど打ち上げ花火がすべて終わった。

「いやぁ、綺麗でしたね!」

一良が花火の袋を手に、ジルコニアたちに歩み寄る。

「あとこれ、線香花火っていうんです。これもやりましょう」

「えっと……」

ジルコニアがオルマシオールを見る。

『大丈夫だ。やるがいい』

ジルコニアは頷き、一良から線香花火の束を受け取った。

「カズラさん、これはどうやって遊ぶんですか?」

「上のひらひらを持って、下側に火を点けるんです。揺らさないようしておくと、しばらく燃え続けますよ」

「お姉ちゃん、早く!」

「うん」

ジルコニアが線香花火を配り、3人でしゃがみ込んで上のひらひらを摘まむ。

一良がライターでそれぞれに火を点けると、少しの間を置いてパチパチと火花が散り始めた。

「わあ、綺麗ですね……」

「すごーい!」

「派手な花火もいいですけど、これも趣があっていいですよね……あっ!」

一良の線香花火が真っ先に落ち、続けてフィリア、ジルコニアとそれぞれ落ちた。

火を点けた順番通りに落ちたかたちだ。

「あー、負けちゃった! もう一回!」

「ふふ、はいはい」

「じゃあ、次は3人同時に点けましょうか」

一良が持つライターの火に、3人が一緒に線香花火の先端を近づける。

ほぼ同時に着火し、パチパチと燃え始めた。

「お姉ちゃん、泣かないで」

「っ」

線香花火を持ちながら、歯を食いしばって泣いているジルコニア。

フィリアは火花を見つめながら、穏やかな表情をしている。

周囲には、ジルコニアに寄りそうように無数の光の玉が浮かんでいる。

「私もお父さんもお母さんも、ずっとお姉ちゃんのこと見守ってるから。お姉ちゃんは、おばあさんになるまで幸せに生きてね」

「……うん」

「ふふ、よろしい」

涙を流しながらも笑顔を作るジルコニア。

フィリアからはまったく悲しげな雰囲気がなく、よしよしとジルコニアの頭を撫でている。

まるで姉と妹が逆になったようだと、一良はその微笑ましい光景を見つめていた。

「あっ! 落ちちゃった!」

すると、またもやフィリアの線香花火が最初に落ちてしまった。

一良とジルコニアが、あー、と声を漏らす。

その直後、ぽとぽとと、一良、ジルコニアの順に地面に落ちた。

「お姉ちゃん、次!」

「うん」

「これで最後ですね」

最後の線香花火をそれぞれが手に、ライターの火に近づける。

すぐに、パチパチ、と火花が散り始めた。

「あのね、お兄さん」

フィリアが火を見つめたまま、一良に話しかける。

「ん、何だい?」

「お姉ちゃんね、お兄さんのことが大好きなんだって」

「う、うん。知ってるよ」

一良が頷き、ジルコニアは「今それを言うのか」といった顔でフィリアに目を向ける。

「だからね、お兄さんがお姉ちゃんと――」

『そろそろ限界だ。ティタニアの体から離れてくれ』

オルマシオールの言葉に、フィリアが「うん」と頷く。

一良とジルコニアの線香花火が続けて落ち、数秒後にフィリアのそれが落ちた。

フィリアが座ったまま、ジルコニアの腕に抱き着く。

「私、2人の赤ちゃんになって産まれてくるから! またね!」

「「えっ!?」」

とんでもない台詞を吐いた直後、フィリアの体から力が抜けた。

ジルコニアが慌てて、体を支える。

「おおう……あ、危なかったです。あのまま死ぬかと思いました」

目を開いたフィリア、もとい、子供サイズのティタニアが、冷や汗を掻きながら姿勢を直す。

彼女の目の前に、くるくる、と光の玉が浮かんでいた。

そして、ふっとそれが消えた。

「あっ。天に送ってくれたんですか?」

一良が聞くと、ティタニアは疲れた顔で首を振った。

「いえ、カズラ様たちにも見える状態にしておくと、多少なりと私の寿命が削れてしまうので。力を解いただけです」

「ああ、なるほど。じゃあ、皆さんはまだ、ここにいるんですね」

「ええ」

ティタニアが微笑み、ジルコニアを見る。

「ジルコニアさん、楽しんで……と言ったら語弊があるかもしれませんが、楽しめましたか?」

「は、はい。フィリアとたくさん話しができて、嬉しかったです」

「うんうん。フィリアさんも、すごく楽しかったとおっしゃっていますよ」

「あの……赤ちゃんになって産まれてくるって、フィリアが……」

ジルコニアが聞くと、ティタニアは、「ですね」、と頷いた。

「順番を入れ替える、ということですね。魂は常に巡っているので、あなたが子を宿すなら、そこに入るということでしょう」

「そんなことができるものなんですか?」

「あの世からなら、できるかもしれませんね。私たちの力では、さすがに無理ですけど」

「……なるほど」

ジルコニアが、一良に目を向ける。

「えっと……お願い、できますか?」

「え、ええ……」

一良が表情を引きつらせると、ジルコニアは少し寂しそうに笑った。

「もう、そんな顔をしないでください。傷つくなぁ」

「え、あ、すみません……」

「嫌ですか?」

「嫌なんてことは……でも、さすがにそれは……」

「んー……じゃあ、もし気が変わったらというか、大丈夫ってなったら、ということで」

「ど、どういう状況ですか、それ」

『まあ、その辺りはお前たちで好きにやってくれ』

オルマシオールが苦笑しながら言い、ティタニアに目を向けた。

『さて。もうしばらくの間、このまま魂をこの場に留めておくこともできるが、どうする?』

「私としては天に送るべきかと。あちらからでも、こちらの様子は見ることができますからね」

『そうだな……うむ、皆もそう言っているしな』

オルマシオールが虚空を見つめて頷く。

彼には、魂たちの言葉が聞こえているようだ。

「では、やりますね。ジルコニアさん、皆さんにお別れの言葉を」

ここら辺にいますから、とティタニアが手で指し示す。

ジルコニアは頷き、立ち上がった。

「お父さん、お母さん、フィリア、それに、村の皆」

ジルコニアが優しく微笑む。

先ほど見せたような、つらい表情は欠片もない。

ティタニアたちの話で、皆が常に見守ってくれることが分かったからだ。

「最後に会えて、本当に嬉しかった。私、精一杯生きるから、見守っていてね」

ジルコニアがティタニアを見る。

ティタニアは微笑み、すっと目を閉じた。

ジルコニアの目の前に無数の光の玉が現れ、彼女の周りをくるくると回る。

そして、ふっと掻き消えた。