作品タイトル不明
377話:モテモテ
遠目に見えるお祭り会場に向けて、一良たちはのんびりと歩く。
ティタニアはいつの間にか獣の姿に戻っており、オルマシオールと何やら話している様子だ。
「あー、よかった。皆、すごく元気そうで」
ジルコニアが朗らかに言う。
「復讐のことも、全部報告できたんですか?」
「はい。皆、『そこまでやってくれたのか』って喜んでくれたみたいです。両親とフィリアには、危ない真似してって怒られましたけど」
「そっか……皆さんとまた話せて、よかったですね」
「オルマシオール様のおかげです。いくら感謝してもし足りませんよ」
『いやいや、感謝するのは私たちのほうだ』
オルマシオールの声が、2人の頭に響く。
ジルコニアは耐性が付いてきたのか、ふらつくでもなく大丈夫そうだ。
『また何か手伝えることがあれば、何でも言うがいい』
「ふふ、ありがとうございます」
『カズラ様、前々から疑問だったのですが』
ティタニアが一良に目を向ける。
『普通、人間の男というものは、快楽を得るために不特定多数の女とのまぐわいを求めると思っていたのですが、カズラ様は違うのですか?』
「い、いや、道徳的に、そういうのはちょっとダメだと思うんですけど」
『ふーん……ジルコニアさんも望んでいるんですし、別にいいのではと思うんですけどねぇ。他の人には、黙っていればバレないですし』
「あのですね、子供を作るってことなんですよ? どう考えても、そのうちバレるじゃないですか。バレなくてもダメだと思いますけど」
「あ、それなら、アイザックかハベルに口裏を合わさせればよくないですか? 表向きは、彼らのどっちかに父親になってもらえばいいですよ」
「ダメですって。とんでもないことを、さらりと言わないでくださいよ……」
「むー」
「むーじゃない」
「ぶー」
「ぶーでもない」
すると、遠目にバレッタとリーゼがこちらに駆けてくるのが見えた。
「ジルコニアさん、さっきの話は言っちゃダメですからね」
「はーい」
バレッタとリーゼがやってきて、気遣うような視線をジルコニアに向ける。
「お母様、その……どうでしたか?」
おずおずと聞くリーゼに、ジルコニアはにこりと微笑んだ。
「皆と話せたわ。全部報告して、妹とたくさん遊べたの。皆、安心してあの世に行ってくれたわ」
「よかった……オルマシオール様、ティタニア様、ありがとうございました」
リーゼが彼らに頭を下げる。
『好きでやったことだ。気にしなくていい』
「おっとと……はい、ありがとうございます!」
リーゼが少しだけふらつき、嬉しそうに微笑む。
リーゼも徐々に耐性が付いてきているようだ。
「カズラさん、皆が、カズラさんたちが戻って来てから花火をやりたいって言ってて。準備はできていますから、行きましょう」
「お、そうですか。急ぎましょう」
出店の並ぶ広場に戻ってくると、大勢の村人や老兵たちでにぎわっていた。
皆、焼きそばやフランクフルトを食べたり、酒を飲んだりしながら談笑している。
ラースの射的屋はまだ繁盛していて、たくさんの子供たちが群がっていた。
「ん? 子供たちの人数が足りないような……」
「あ、たぶん、スタンプラリーだと思います。ニィナたちの屋台にいるかもなので、行ってみましょうか」
バレッタに連れられ、一良たちは人ごみの中を進む。
皆、一良を見ると挨拶し、礼を言ってくれた。
「カズラ様! 俺、一番だったよ!」
すると、コルツがミュラを連れて駆けてきた。
その手にはオイルタイマー。
ミュラの手には、陶器製のオカリナが握られている。
どちらも、スタンプラリーの景品だ。
オイルタイマーとは、水と油の性質を利用した液体の砂時計のようなものだ。
コルツの持っているものは、透明の容器の中に水と青色の油が入っているもので、中央に歯車が付いている。
水の中を落ちる油が歯車を回す様子が、とても美しい逸品だ。
「おっ、コルツ君。いいものを貰ったね!」
「すごく綺麗だったからさ、絶対にこれを貰うって決めてたんだ」
「ミュラちゃんはオカリナにしたんだね」
「えへへ。これ、ずっと欲しかったんです」
ミュラが嬉しそうに、オカリナを口に当てると、ピロピロと優しい音が響いた。
「あっ、もしかして、前に一緒にイステリアのお店に行った時からずっと欲しかったの?」
「はい。いいなって思ってて」
「そっか。気付いてあげられなくてごめんね」
「いえ、射的で取れて、すっごく嬉しかったので大丈夫です!」
ミュラが心底嬉しそうに微笑む。
見ると、他にも景品を手にしている子供が何人か、わいわいと騒ぎながらこちらに歩いて来ていた。
景品は同じ物はあえて用意しなかったのだが、どれも子供の興味を引きそうなものをチョイスしてある。
半透明のプラスチック製のリコーダー、水中ゴーグル、万華鏡などだ。
皆、自分だけの唯一無二の宝物になるだろう。
「あっ、カズラ様!」
一良がコルツたちと話していると、フィレクシアとティティスが駆けてきた。
「早く来てください! 準備万端なのですよ!」
「あの、爆発する兵器を使うと聞いているのですが、こんな場所で使って大丈夫なのですか?」
わくわくしているフィレクシアとは違い、ティティスはかなり心配そうだ。
「大丈夫ですよ。今回のは観賞用のものですから、危険はないです」
「そうでしたか。観賞用のものもあるのですね。カイレン様が、『とんでもない兵器』と言っていたので、同じ物を使うのかと思いました」
「ああ、同じやつもありますよ。最後に打ち上げますから」
「えっ!? 大丈夫なのですか!?」
「大丈夫、大丈夫」
皆でぞろぞろと、村の中心へと向かう。
そこにはたくさんの人々が集まっており、花火の開始を待ちわびていた。
ニィナもおり、スタンプラリーの景品渡しは終わったようだ。
「よし、始めるか。バレッタさん、皆にアナウンスをしてもらえます?」
「はい。ニィナ! 始めるよ!」
少し離れた場所で友達と話していたニィナに、バレッタが呼びかける。
ニィナは手に拡声器を持っていた。
彼女は頷き、拡声器を口元に当てた。
『間もなく、花火の打ち上げを始めます。皆さん、村の中央に集まってください』
「おっ、準備がいいですね。さすがバレッタさん」
「えへへ」
すぐにすべての村人や老兵たちが集まってきたので、一良、バレッタ、リーゼは設置してある花火に歩み寄った。
ニィナたちもライターを手に、設置済みの花火の下へと向かう。
「カズラさん、順番なんですけど、皆で手前にあるやつから順に点火しようかなって」
見ると、置かれている花火は同じ種類のものが一列に並んでいた。
その後ろには、また別の種類の花火というふうに、2メートルほどの間隔で設置されている。
「了解です。これは派手になりそうだ」
「はいはい! 私が発案したの!」
元気に手を上げるリーゼ。
一良の持ち込んだ花火はかなりの量があったので、あまり時間をかけすぎないように、なおかつ派手にやろうとリーゼが同時着火を提案したのだ。
「やるじゃないか。そのやりかた、『スターマイン』って手法でさ、花火大会じゃ定番のやりかたなんだよ」
「そうだったんだ。ふふ、私、花火大会のセンスあるのかも」
「次にやる時も、リーゼに段取りを頼もうかな。んじゃ、点火しよう」
せーの、と掛け声をかけ、皆で一斉に最初の花火の導火線に火を点けた。
シューッ、という音とともに導火線が火花を散らし、眩い光が花火本体から吹き上がった。
一番最初は、色とりどりの噴き出し花火だ。
見物していた人々から、大きな歓声が上がる。
「あわわ、すごい勢いですね!」
「ちょ、ちょっと怖いよこれ! 次の花火、近すぎたかも」
花火の勢いにリーゼとバレッタが驚きながらも、次の花火の前にしゃがみ込む。
「次! 続けて点火して!」
わたわたしながらも、一良の指示に従って皆で次の花火に点火する。
数秒して、噴き出し花火を背景に、連発式の小規模な打ち上げ花火がいくつも空に舞い上がった。
わあっ、と見物人から歓声が上がる。
「おおーっ! ティティスさん、すっごく綺麗ですね!」
「本当……見惚れてしまいますね」
フィレクシアとティティスが、うっとりと花火を見つめている。
子供たちも「すごい!」「綺麗!」と口々に言いながら大興奮だ。
そうして次々に花火が上がり続け、スターマインが終わって最後の4号玉の順番が回ってきた。
全部で6発用意してあり、すでに設置済みだ。
「よし、最後の目玉だ。あとは俺が点火するんで、皆は離れていてください」
「あっ、カズラ様。私がやりますから、バレッタたちと見物していてください」
ニィナが気を利かせて、一良に申し出る。
「えっ? でも、せっかくですし、ニィナさんも最後くらいは見物したほうが」
「ニィナ、私たちで交代しながらやろうよ」
マヤの申し出に、ニィナが「そうしよっか」と微笑む。
「というわけなんで、任せてください!」
「ほらほら、危ないですから、下がってて!」
2人に急かされ、それならば、と一良たちは花火から離れた。
地べたに座って見物している、ジルコニアやエイラの下へと向かう。
「カズラさん、こっち、こっち」
「はいはい」
ジルコニアに手招きされ、一良は彼女の隣に腰掛けた。
バレッタが即座に、反対側の一良の隣に座る。
「あーっ! お母様、バレッタ、ずるい!」
出遅れたリーゼが憤慨する。
そんな彼女に、ジルコニアはにやりとした笑みを向けながら一良の腕に自身の腕を絡めた。
「早い者勝ちですよーだ」
「むー! バレッタ、替わって!」
「だ、ダメです! 早い者勝ちです!」
バレッタも一良の腕を抱き、頑として動かないつもりだ。
一良は「あわわわ」とキョドっている。
「おおう……カズラ様、モテモテですね……」
「で、ですね。でも、ジルコニア様まで――」
ティティスがフィレクシアに答えかけた時、ジルコニアの隣に座っていたエイラが、すっと立ち上がった。
そのまま一良の前にまで移動し、すとん、と彼の足の間に腰を下ろしてもたれかかった。
「「「「えっ!?」」」」
「は、早い者勝ちだそうなので……」
唖然とする皆に、エイラが顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声で答える。
ジルコニアとリーゼの「えっ!?」は、エイラがまさかここまで大胆な行動に出るとはとの驚きで出たものだ。
バレッタはエイラまで一良に好意を寄せているとは考えてもいなかったので、唖然としてしまっている。
「あー、もう! なら私はこれでいいや!」
リーゼは一良の後ろに回り込むと、彼に抱き着いた。
もはや全員が好意を隠す気がまったくない状態で、競うように一良にベタベタと引っ付いている。
一良はどうしていいのか分からず、かといって振りほどくのもはばかられ、されるがままだ。
「わ、わぁ……これ、どうなっちゃうんでしょうね!? ティティスさん、どう思いますか!?」
「う、うーん。あのままなし崩し的に、全員手籠めに……というより、全員に手籠めにされてしまいそうですね」
「うわー! うわー! 何だか私、わくわくしてきました!」
「どうなるのか、実に興味をそそられますね……」
フィレクシアもティティスも、顔を赤くしてこねくり回されている一良を見ている。
少し離れたところにいるラースとカーネリアンは、そろって苦笑していた。
「え、えっと。打ち上げちゃっていいですか?」
ニィナの問いかけに、一良は「どうぞ」、と気の抜けた声で答えた。
すぐにニィナが1つ目の4号玉に着火し、その場を離れる。
数秒置いて、ポン、と音を立てて光の玉が空へと舞い上がった。
シュルル、と独特な音とともに玉は飛び続け、ドン、という腹に響く音と同時に夜空に大輪の花を咲かせる。
そのあまりにも美しい光景に、すべての見物人が口を閉ざした。
パチパチ、と火花を散らせながら、花火が消える。
「次、いきまーす!」
続いてマヤが2つ目の4号玉に駆け寄り、着火した。
再び、空に光の花が広がる。
「カズラ、すごいね! 綺麗だね!」
リーゼが空を見上げながら、一良の耳元で興奮した声を上げる。
「うん。分かったから、胸をまさぐるのはやめてくれ……」
「リ、リーゼ様! 何やってるんですか!」
一良の声で気付き、バレッタが顔を赤くしてリーゼの腕を押さえる。
一良も引き剥がそうとしているのだが、リーゼの腕力の前には無駄な抵抗だ。
「バレッタもやればいいじゃん。触り心地いいよ?」
「なっ、そ、そういう問題じゃありません! ダメです! 破廉恥です!」
「ああもう、ジルコニアさんまで服の中に手を入れないでくださいよ!」
「あ、不公平ですよね。私のも触っていいですから」
「そういうことを言ってるんじゃないつうの!」
大騒ぎしている一良たちをよそに、次々に花火が上がっていく。
ジルコニアとリーゼはひたすら一良を触り続け、バレッタがそれを止め、エイラはあわあわしていた。
そうして、最後の打ち上げ花火が終わった。
一良がすぐさま立ち上がり、ぱん、と手を叩く。
「はい! これで今日のイベントは全部おしまいです! 皆さん、ご参加ありがとうございました! 片づけをお願いします!」
一良はさっさと後片付けに向かってしまい、その場には女性陣が残された。
バレッタが、頬を膨らませてジルコニアたちを睨む。
「もう! 皆、調子に乗りすぎです! カズラさん、怒っちゃったじゃないですか!」
「え、そう? 恥ずかしがってただけじゃない?」
「怒ってました!」
「そ、そうかな?」
憤慨するバレッタに、リーゼがたじろぐ。
「あはは……ちょっと、やりすぎでしたね」
「そうねぇ、後で謝っておきましょ。それにしても、エイラ、大胆になったじゃない。隠すのやめたの?」
ジルコニアの台詞に、皆がエイラを見る。
「う……」
エイラが顔を赤くしてうつむく。
「こ、今後は控えますので……その、申し訳ございませんでした」
「別に謝ることないじゃない。ねえ、リーゼ?」
「そうそう。人のことなんて気にしないで、好きにしたほうがいいよ。人生、一度きりなんだからさ。でも、やっぱりかぁ。あはは」
あっけらかんとした顔で笑うリーゼ。
バレッタはなんとも言えない表情で、口をつぐんでいる。
「結局さ、どうするのかを決めるのはカズラなんだし。どうなっても、恨みっこなしってことでいいんじゃないかな? ね、バレッタ?」
「えっ? あ……はい」
話を振られ、バレッタが頷く。
「さてと! 私たちも片付けを手伝わないと。私、スタンプラリーを片してくるね」
「わ、私はお鍋を洗いに行ってきます」
「私はカキ氷機を片してくるわね」
リーゼ、エイラ、ジルコニアが立ち上がり、方々へ散っていく。
ぽつんと残されたバレッタは、はあ、とため息をついて立ち上がった。
「バレッタ」
ニィナが駆け寄り、バレッタに苦笑を向ける。
「何か、大変だったね。お疲れ」
「うう。皆、急にカズラさんに迫り始めちゃったよ……」
「そうだねぇ。でもまあ、心配なさそうでよかったじゃん」
「え?」
言っている意味が分からない、といった顔のバレッタ。
ニィナは、きょとんとした顔をしている。
「どしたの?」
「心配なさそうって、どこが?」
「どこがって……カズラ様、バレッタをちらちら見て、すっごく気まずそうな顔してたじゃん」
「え……そ、そうだったの?」
「そうだよ。もー、あんな表情を見逃すなんて、もったいないなぁ。私、安心しちゃったもん」
「そ、そっか……えへへ」
「お嬢さん、この勝負、もらいましたな。うりうり」
ニィナがバレッタの脇腹を、肘で小突く。
そうして、2人は後片付けに向かったのだった。