軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

375話:虫刺され

数十分後。

一良、バレッタ、リーゼ、カーネリアンは、一良の部屋で宮崎が作ったアプリをノートパソコンで見ていた。

今見ているのは中世の政治についての項目だ。

先ほど古代の項目を見終わり、その流れで続けて見ている状況である。

文章や動画の音声は一良が翻訳して話している。

たくさんの政治形態を見て、クレイラッツに合ったものを選ぶのはどうかと提案したのだ。

ティティスやジルコニアたちは、真面目な話よりも酒盛りがしたいとのことで、居間でバリンたちと酒を飲みながら人生ゲームのボードゲームで遊んでいる。

かなり盛り上がっているようで、先ほど「借金して買った一軒家が全焼って何だよ!?」とラースの悲鳴が聞こえてきた。

ケチって火災保険に入らなかったらしく、宿なしになってしまったようだ。

ちなみに、エイラは先ほど戻ってきたのだが、普段どおりの様子に戻っていた。

遅くなった理由は、村の屋内菜園でハーブを摘んでいた、と言っていた。

偶然とはいえ、一良の言い訳をなぞるかたちになり、一良は少し驚いた。

「ううむ……私たちのものよりも、だいぶ方向性が違う政治ですね」

教会が強く影響する政治形態に、カーネリアンが唸る。

「ですね。まあ、いろいろ見て考えるほかないと思います。その時の時世によっても変わりますし」

「先ほど見せていただいたものは、バルベールの政治形態にだいぶ似ていましたね。クレイラッツでも、元老院制を用いてみてはいかがですか?」

リーゼが言うと、カーネリアンは再び唸った。

「しかし、元老院制は権力の一極集中と汚職が心配です。長期にわたって、同じ者が政治の中枢にいるというのは……」

「任期制にしてしまえばいいのでは。1年だと短すぎるので、3年とかに区切って、同じ人の再選は禁止してはどうでしょう?」

「人選は今までどおりのくじ引きで、ですか?」

「いえ、それだと適任者が選出されるとは限りませんし――」

リーゼがあれこれと提案する。

カーネリアンとしては、一良に「こうすれば大丈夫」と完璧な政治形態を教えてもらえると思っていたので、まさか自分で選べと言われるとは考えてもいなかった。

現在のクレイラッツにはどんな政治が合っているのか、あちらを立てればこちらが立たずといったものばかりで、頭を抱えてしまう。

「やっぱり、いざ決めるとなると難しいですよね……」

バレッタが苦笑する。

王都にいる間に一良と書籍を見ながらあれこれ話したのだが、結局どの政治形態にすればいいのかの結論は出なかった。

カーネリアンは独裁状態になることを危惧していたので、帝政や王政といったもの以外がいいだろう、といった程度に留まったのだ。

「外交状況とか、人々の気質も関係してきますもんね。バレッタさんは、もし選ぶならどれがいいと思います?」

一良の問いに、バレッタが唸る。

「うーん……リーゼ様がおっしゃったような、任期制の議会制がいいのかなと思います。ただ、派閥ができてしまうと一党独裁みたいなことにもなりかねないから、それもどうなのかなって」

「確かに、前任者が懇意にしてる人を立候補させて当選させるために、人気取りが先行する政治を前任者が推し進めることにはなるでしょうね」

「はい。そうなると結局癒着は起こります。完全にクリーンな政治なんて、今のクレイラッツがやっているくじ引き制しか無理ですよ」

「でも、衆愚政治になりかねないんですよね」

「そうなんですよ。面倒なことは誰でもやりたくないですから、くじで選ばれた人が他人任せの態度になったり、自分の任期が終わるまで難しい案件は先延ばしにしたり」

「お二人のおっしゃるとおり、それも大きな問題でして……」

カーネリアンが困り顔で一良とバレッタに言う。

「あまりにも議論が進まないから、結局私が口を出すことになってしまうのです」

「で、『じゃあそれで』となってしまうわけですね」

「はい」

カーネリアンが一良に頷き、はあ、とため息をつく。

「でもまあ、クレイラッツは平等の権利を尊重してるわけですし、選挙制がいいんじゃないかなって思うんですけど、どうです?」

一良が言うと、カーネリアンはすぐに頷いた。

「ですね。やる気のある者に政治をやらせるほうがいいですし、任期制にして再選は不可にしてしまえば、汚職もある程度は抑えられそうです」

「住んでいる地区ごとに必ず1名を選出するという方式もいいかもです。ただ、任期が終わって退職した議員さんがもったいないですから、現職同士で対立が起こった際の仲裁と助言機関として、期限付きで何人か残ってもらうとか」

バレッタの意見に、一良とカーネリアンが「なるほど」と頷く。

「あとさ、最高責任者は必要じゃない? 権力の集中が気にはなるけどさ」

「はい。選出された議員たちで、任期の間に持ち回りがいいかもですね」

リーゼの意見にバレッタが答える。

「ふむ……では、とりあえずはその方向で動いてみましょう」

「えっ。あの、今のは私たちが思いつきで言ったものですし、すでに出来上がっている政治方式から選ぶというのもありだとは思いますが」

早々に結論を出してしまったカーネリアンに、バレッタが慌てて言う。

「それもいいとは思うのですが、どうも政治に正解といったものはないように思えます。残りの資料もすべて見させていただいて、バレッタさんとリーゼ様のおっしゃったものに肉付けしていこうかと。ダメそうだったら、またその時に方向修正すればよいでしょう」

「そうですか……なら、政治が安定するまで、カーネリアン様は権力の頂点にいていただいたほうがいいと思います」

「そ、それはさすがに……独裁になってしまうではないですか」

「でも、しばらくは舵取りをする人が必要です。カーネリアン様ほど、国のためを思って動こうっていう人はいません。不正だって、絶対に働けないですし」

バレッタが一良を見る。

「ね、カズラさん?」

「はは。そうですね。もし汚職を働いたら、リブラシオールが激怒しますよ、きっと」

「き、気を付けます」

以前、マリーがリブラシオールとして会議中に乱入してきた時のことをカーネリアンは思い出し、冷や汗を掻く。

彼女の物言いからして、一良ほど温厚ではないとカーネリアンは思っていた。

もし不正でも働こうものなら、即座に処断されてしまうだろう。

あの時のマリーのカイレンへの言動を思うに、誰がどこで何をしていても子細を把握する力があるようだ。

常に見張られていると考えて、これからは生きていったほうがよさそうだとカーネリアンは心に決めた。

「あれ? カズラさん、首が赤くなってますよ」

バレッタが一良の首を見る。

釣られてカーネリアンもそれを見て、「おや」と声を漏らした。

リーゼはニヤニヤしながら、一良を見つめる。

「そ、そうですか? 虫に刺されちゃったかな?」

「お薬持ってきますね。ちょっと待っててください」

バレッタが部屋を出る。

「んふふ。ずいぶん大きな虫だったみたいだねぇ?」

「ほんとだよ……はあ」

わざとらしく言うリーゼに、一良がため息をつく。

「あー……カズラ様。包帯を巻いておいたほうがよいかもしれませんね」

「そうします……」

そうしていると、バレッタが戻ってきた。

手に虫刺されの軟膏と、絆創膏を持っている。

「お待たせしました。あの、ジルコニア様が、オルマシオール様と一緒に、明日の朝から出掛けてくるそうです」

「了解です。どこに行くんです?」

「それが、ジルコニア様の故郷に行ってくるとのことで。オルマシオール様が、誘ってくださったそうです。お別れをしに行くとのことで」

「そっか……うん、分かりました」

「……やっと、全部終わったって報告できるんだね。よかった」

リーゼがほっとした顔で微笑む。

「オルマシオール様、ほんと優しいよね」

「だな。後で、うんと甘いものをご馳走してやらないとだ」

「ふふ、そうですね。カズラさん、首にお薬を塗りましょう」

そうして、一良はバレッタに薬を塗ってもらうのだった。

翌日の夕方。

村内にはたくさんの屋台が置かれ、大人も子供もお祭りを楽しんでいた。

守備隊の兵士たちもお祭りに参加しており、見張りは交代で行うとのことだ。

「はい、どうぞ!」

「わーい!」

大きなわたあめを一良から受け取り、男の子が大喜びで走り去って行く。

わたあめ機は業務用のもので、発電機に繋がっている。

他にも、チョコレートファウンテン、カキ氷、やきそば、フランクフルト、カレーライスなどが振る舞われている。

かなりの量が必要になると見越して、食べ物も機械もたくさん用意してある。

どれも盛況で、あちこちで行列ができていた。

「カズラ様、2つ欲しいです!」

「はいよー!」

コルツとやって来たミュラにわたあめを2つ作って差し出す。

「はい、コルツ。あーん」

「ちょ、自分で食べれるよ!」

「……私に食べさせられるの、嫌なの?」

「またそういうこと言う……」

コルツが顔を赤くしながら、仕方なくミュラにわたあめを食べさせてもらう。

この2人、例の「お嫁さん宣言」から四六時中一緒にいるようなのだが、仲良くやっているようだ。

完全にミュラが主導権を握っている様子ではあるのだが。

「あはは。2人とも、熱々だね!」

「はい!」

屈託のない笑みを浮かべるミュラに対し、コルツは顔を赤くしてわたあめを食べ続けている。

何か言うとまたミュラに何か言われてしまうのを学習したのだ。

何だかんだでコルツもまんざらではないようだ、とバレッタから聞いている。

「おーっと、ダメだったな! ほい、残念賞のうんまい棒だ」

「うう、あれ全然倒れないよ!」

コルク銃を手にした男の子が地団太を踏む。

一良の向かいでは、ラースが店主を務める射的屋に子供たちが群がっていた。

先ほどから皆が大きな猫の貯金箱を狙っているのだが、なかなかに重量があるようで倒れない様子だ。

皆が何発も当てているので、少しずつ後ろにズレてはいるのだが。

「まあ、特賞だからな。また挑戦してくれや」

「うー、俺の番まで落ちませんように!」

「おじさん、次は私だよ! 早くやらせて!」

「おうよ。ほれ、頑張れよ!」

順番待ちをしていた女の子に、ラースがコルク銃と弾を3発渡す。

そろそろ落ちるかな、と一良がわたあめを作りながらチラチラと見ていると、私服姿のマリーが駆けてきた。

マリーはカレーライスの屋台をエイラと一緒に担当していたはずだ。

「カズラ様」

「あ、マリーさん。もしかして、カレーが切れちゃいましたか?」

「いえ、まだまだ余裕があります。ジルコニア様が、カズラ様をお呼びになられてて」

「ジルコニアさんが? もう帰ってきてたんですね」

「はい。わたあめを2つ、村はずれの溜め池まで持ってきて欲しいそうです」

「分かりました。すぐに用意しますね」

そうして、一良はわたあめを2つ作り、店番をマリーに任せて溜め池へと向かった。

一良が溜め池に行くと、ジルコニアと10歳くらいの少女が地べたに座り、カレーライスを食べていた。

その隣にはオルマシオールもおり、一良を見て耳をピコピコさせている。

その周囲では、無数の小さな光の玉が宙を漂っていた。

「ジルコニアさん、お待たせしまし……ん? ティタニアさん?」

嬉しそうにカレーを頬張る少女なティタニアに、一良が小首を傾げる。

以前にも外見を子供の姿に変えていたことがあったので、また同じことをしたのだろう。

「ふふ。カズラさん、わたあめ、ありがとうございます。フィリア、お礼を言って」

「もぐもぐ……お兄さん、ありがとう!」

口の中のものを飲み込み、フィリアと呼ばれたティタニアが満面の笑みを一良に向ける。

「え? あの、フィリアって?」

「私の妹です。ティタニア様の体を使わせてもらってて」

「ええ!?」

驚く一良に、ジルコニアが嬉しそうに微笑む。

「今朝、故郷に戻って両親や村の仲間たちに今までのことを報告していたんですけど、ティタニア様が『もしかしたらできるかも』って試してくださって」

「ええと、魂を憑依させてみたらできちゃった、ということですか?」

「はい。おかげで、今までのことをゆっくり話すことができました。それで、フィリアが村を見てみたいって言うので、皆と一緒に連れてきたんです」

ジルコニアの周囲を、無数の光の玉がふよふよと動き回る。

この中に、彼女の両親もいるのだろう。

「はー。そんなことまでできるんですか……」

『とはいえ、もうしばらくしたらティタニアの体から出てもらわないといけないがな。あまり長く入っていると、魂が体に定着してティタニアが代わりに死ぬことになりそうだ』

オルマシオールの言葉に、一良が「へえ」と声を漏らす。

「ずっと入りっぱなしとはいかないんですね」

『うむ。それに、ティタニアの魂も疲弊してしまうからな。長く体を離れていると、寿命が削れてしまうようだ』

オルマシオールがそう言うと、周囲で浮かんでいた光の玉の1つが、一良の目の前にやってきてくるくると回った。

どうやらこれが、ティタニアの魂のようだ。

「あとどれくらい大丈夫なんですか?」

『まあ、まだ大丈夫だろう。そろそろだと感じたら、私が言うよ』

「そっか……よし、ちょっと待っててください。ジルコニアさん、これを」

一良はジルコニアにわたあめを渡し、バレッタの家に駆け戻って行った。

「バレッタさん!」

一良が家の前に戻って来ると、バレッタが発泡スチロールの箱を持って家から出てきたところだった。

彼女が担当している焼きそば屋台の具材が足りなくなったので、追加で取りに来たのだ。

「あ、カズラさん。どうしました?」

「実は――」

かくかくしかじかと、一良が説明する。

「――というわけでして」

「す、すごい話ですね。ティタニア様、そんなことまでできるなんて……」

「ですよね。それで、これから妹さんに花火をして遊んでもらおうと思って。人が集まってきちゃうと、ティタニアさんの変身が解けちゃうかもなんで、皆に近づかないように伝えてほしいんです」

「分かりました。皆に言っておきますね」

「お願いします」

「カズラさん」

一良が家に入ろうとすると、バレッタに呼び止められた。

振り向くと、彼女はとても優しげに微笑んでいた。

「思いっきり、楽しんできてくださいね!」

「ええ。花火はたくさん買ってきてあるんで、こっちでも勝手に始めちゃっていいですからね」

「はい!」

そうして、一良は家に入って行くのだった。