軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

369話:さらば王都

6日後の昼前。

一良は談話室で、面会を行っていた。

一良に面会を求める者が大勢いたため、一良は朝から夕方まで面会業務を行っている。

しかし、皆が自分の死後の処遇が不安で仕方がないようで、同じ者が何度も面会を申し込んできてしまっていた。

さすがにきりがないので、「1人2回まで」と制限を付けた。

「いやはや、カズラ様から頂戴した洗髪剤を娘に与えたところ、ものすごい喜びようでして! ありがとうございます!」

本日最後の面会人の貴族の中年男が、一良にぺこぺこと頭を下げる。

先日、彼はかなりの物資を市民のためにと供出したため、一良から追加でご褒美を貰っていた。

彼の希望で、シャンプーとコンディショナーのセットを与えたのだが、とても喜んでもらえたようだ。

「よかったですね! でも、石材とかはまだしも、飼っていたラタをほとんど国に提供なんて、本当によかったんですか?」

「ラタについては悩みましたが、馬鍬(ラタに取り付ける開墾道具)を使いたいという農民が大勢いると聞きまして。これは手助けせねばと、決心いたしました」

今まで馬具は、鐙、ハーネス、木製サスペンション付きの新型馬車の製造に集中していたため、馬鍬は作っていなかった。

理由は、とにもかくにも軍の戦力を強化しなければならなかったからだ。

戦争終結で工房の生産枠に空きが出たので、晴れて内政用品の製造開発に着手したわけである。

「素晴らしいお考えですね! これからも、この調子で頑張ってください!」

「ははっ! 承知いたしました!」

彼は深々と頭を下げると、ウキウキした様子で部屋を出て行った。

今まで少々悪事を働いていたらしいのだが、詳細はすべてエルミアに書面で白状させてある。

それについての処分は、超法規的措置で保留ということになっており、その代わりに「地獄行きになりたくなかったら頑張れ」と言い付けられている。

一良に面会を求める者はそういった者たちばかりで、皆が文字通り必死になって善行を積み重ねているようだ。

動画の威力、恐るべしである。

「ああ、疲れた。やっと解放されるよ……」

貼り付けた笑顔を崩し、疲れ顔で一良が漏らす。

バレッタとフィレクシアは王都の技師たちとの技術交流。

リーゼはひたすら挨拶回り。

ジルコニアはイクシオスやミクレム、他の軍団長全員を集めて、動画を用いた戦術反省会。

ナルソンはカーネリアン、エルミア国王とバルベールにいるカイレンたちと常に連絡を取りながらの、北方異民族への対応。

ティタニアは庭で子供たちと駆け回り、美味しいものをたらふく食べる。

といった具合に、それぞれの役割をこなしながら王都での生活を楽しんだ。

とりあえず全員の仕事がひと段落したということで、本日の午後にはイステリアに帰ることになっている。

「カズラ様、お疲れ様でした」

男と入れ替わりに、エイラが入ってきて腰を折る。

「お食事の準備ができています。皆様、おそろいです」

「お、そうですか。行きましょう」

部屋を出て、エイラと一緒に食堂へと向かう。

「エイラさん、ご機嫌ですね?」

どこか嬉しそうにしているエイラに一良が言うと、エイラはすぐに頷いた。

「はい。やっとイステリアに帰れるので、嬉しくて」

「王都の生活は、窮屈でしたか?」

「あ、いえ。そういうわけじゃないですよ。皆さん、とてもよくしてくれますし」

エイラは侍女という立場ながら、一良の従者ということもあって、エルミアから直々に「失礼のないように」とおふれが出ていた。

初めは皆が腫れものを触るような感じで接してきていたのだが、暇を見つけては雑談して打ち解けるようにしたおかげで、今ではすっかり仲良しだ。

城の侍女たちは戦場の話やイステリアの話に興味津々で、エイラは話題の中心となっていた。

「でも、やっぱりお屋敷が恋しいです」

「慣れた場所のほうが安心しますよね」

「はい。それに、やっとまた、カズラ様とお茶会ができますから」

城にいる間、夜になるとエルミアやルグロ、ミクレムたちが一良を尋ねて来て雑談することが何度かあった。

エイラとしては一良の部屋でお茶をしたかったのだが、邪魔しては悪いと遠慮していたのだ。

「これ、街で見つけたんです。今夜、試してみません?」

エイラがポケットから、小さな布袋を取り出した。

「あ、もしかして、茶葉ですか?」

「はい。南の島国産の、変わった香りのするお茶とのことで。私もまだ、飲んでいないんです」

「へえ、それは楽しみだ」

そんな話をしながら、食堂に到着した。

いつものメンバーが勢ぞろいしており、すでにテーブルには料理が並んでいる。

一良がちらりとジルコニアに目を向けると、彼女は一瞬ピクッ、と固まったが、すぐに表情をとりなして微笑んだ。

あれから、ジルコニアは一良を意識しまくりで、2人きりになるのを常に避けていた。

一良も特に気にしないように努めていたので、海での一件については何も話していない。

「お、来たか。お疲れさん」

ルグロがいつものように、明るい笑顔を一良に向ける。

「待たせちゃってごめんね。さあ、食べよう」

エイラは壁際に立っていたマリーの隣に控え、一良が席に着く。

ティタニアもテーブル脇におり、彼女専用の低いテーブルを用意されていて、肉料理が山盛り載っていた。

いただきます、と食事が始まった。

「しっかし、寂しくなるな。もっとここにいてもいいんだぜ?」

ルグロが料理を頬張りながら言う。

「いっそのこと、こっちに移住しちまえよ。ラース殿たちも、国籍をアルカディアに変えちまってさ」

「お気持ちは嬉しいけど、さすがに無理っすよ」

ラースが苦笑する。

この5日間、彼は特に仕事はなかったので、城の衛兵たちと訓練に没頭していた。

とんでもない強さを誇るラースに兵士たちは感服しきりで、元敵国の将軍ということも気にせず、バルベール式剣術を体験させてもらっていた。

城の兵士たちは戦場には出ていなかったので、それがよかったのだろう。

「またそのうち、遊びに来ますんで」

「んー、そっか。ラース殿が王都の将軍になってくれれば、心強いんだけどなぁ」

「ミクレム殿やサッコルト殿がいるじゃないっすか。あの人らのほうが、俺なんかよりよっぽど頼りになりますよ」

「そうだけどさ。あいつら、ちょっと頭が固いんだよ。面白い奴らなんだけどさ」

「本国でやらねばならないことがありますので。申し訳ございません」

ティティスが頭を下げる。

「あ、いやいや。無理にってわけじゃねえよ。またいつでも遊びに来てくれ」

ルグロがフィレクシアに目を向ける。

「フィレクシアさん、アルカディア人になるって話は、結局どうすることにしたんだ?」

「できればそうしたいのですが、バルベールに帰れないのは困るのですよ。カイレン様に会いたいのです」

「別に、いつでも帰ればいいだろ? なあ、カズラ」

ルグロが一良を見る。

「そうだね。ただし、技術流出にだけは気を付けてもらわないと」

「それは大丈夫です! 私、地獄行きにはなりたくありませんので!」

「あ、それもそうか。まあ、それならいいんじゃないかな? エルミアさん、どうでしょう?」

一良が話を振ると、エルミアはすぐに頷いた。

「カズラ様がそうおっしゃるのであれば、私としては異存ありません。いっそのこと、バルベールとの二重国籍にしてしまえばよいのでは?」

「あっ、それがいいのですよ! そうしてください!」

いいとこ取りの提案に、フィレクシアが飛びつく。

じゃあそれで、と話はまとまった。

動画の存在があるので、技術や内部情報流出の心配はないだろう。

今のところ、彼女に見られて困るようなものは見せていないのだが。

「まあ、とりあえずはフィレクシアさんも、一緒にイステリアに帰りましょう」

「はい。そうさせていただきたいのです」

こくこくと頷くフィレクシアに、ルグロも頷く。

「ん、分かった。まあ、俺たちは仲間だしさ。気楽にやっていこうや」

「カーネリアンさんは、すぐにクレイラッツに帰りますか?」

黙って食事を続けているカーネリアンに、一良が話を振る。

「そうですね。ただ、その前にカズラ様に政治の話をお聞かせいただきたいのですが」

「あ、そうだった。神の世界でちょっと準備してもらってるんで、後でグリセア村で話をしましょうか」

「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

そうして、和やかに食事は続いたのだった。

半日後。

盛大な見送りを受けた一良たちは、王都を発ってイステリアへと向かっていた。

出発する際、ナルソンが帰るということをエルミアが宣伝させたせいもあり、バイクやトラックを一目見ようと市民が北門に殺到していて大変な騒ぎになっていた。

王都へやって来た時と同様にナルソンコールが鳴り響き、市民たちが投げかける花びらを浴びながら大通りを行進するはめになってしまった。

おかげで出発に手間取ってしまい、かなり時間が押してしまっている。

「真っ暗になっちゃいましたね」

バイクを時速50キロほどの安全運転で走らせながら、バレッタが空を見る。

月は出ているが雲がかかっており、まるで墨汁をぶちまけたかのように周囲は真っ暗だ。

煌々と照らすバイクとトラックのライトが、その暗闇を切り裂いている。

「陛下が宣伝なんかするからだよ。こっそり送り出してくれればよかったのに」

「まあ、そう言うな。市民たちの手前、黙って私たちを帰すわけにもいかんのだよ」

不満そうに言うリーゼに、ナルソンが答える。

「最後のお勤めみたいなものだしな。これからしばらくは、ゆっくりできるぞ」

「はい。後ほど、一良たちとフライス領に旅行に行こうと思っています」

「む、そうなのか。後で無線で連絡しておかねばな」

「いえ、王城でお会いした時に許可はいただいています。いつでもおいで、とおっしゃってくださいました」

「はは、そうか。私は行けないが、皆で楽しんできなさい」

「はい!」

そうして一行は走り続け、イステリアに到着した。

すでに真夜中になっているので、爆音を響かせて街なかを走るのはまずいとのことで、荷馬車の迎えを来させてバイクを載せる。

トラックはそういうわけにもいかないので、なるべく音を立てないように、ゆっくりと通りを進んでナルソン邸へと向かった。

「あー、帰ってきたー!」

馬車から降りたリーゼが、ぐっと背伸びをする。

「何だかほっとするな……さて、風呂に入って寝るとするか」

一良が首をコキコキ鳴らしながら、ナルソン邸を見上げる。

何だか、ずいぶんとひさしぶりな気分だ。

「そうしよ。明日は、グリセア村に行くの?」

「午後あたりに行こうと思ってるよ。宮崎さんに頼んでおいた資料を受け取らないとだし」

「そっか。お父様、私も行っていいですか?」

「いいとも。後のことは任せなさい」

「ナルソン、私もいいかしら?」

ジルコニアが一良をちらりと見てから、ナルソンに聞く。

「ああ、いいぞ。ところで、婚姻の件だが、今この場をもって解消ということにしようと思う。いいか?」

突然の発言に、一良とジルコニア以外の皆が驚いてナルソンを見た。

「うん、それでいいわ。今まで、本当にお世話になりました」

ジルコニアが姿勢を正し、頭を下げる。

「えっ、そ、そんな。本当に、離婚してしまうのですか?」

リーゼが不安げな目でジルコニアを見る。

「ごめんね。そういう約束だから」

「で、でも……」

「リーゼ。許してやってくれ。今まで、ジルにはずっとつらい想いをさせてしまった。これからは、好きに生きてもらいたいのだ」

「……」

リーゼが泣きそうな顔でうつむく。

こんなにあっさりと離婚になってしまうとは、思っていなかった。

あまりにも話が急すぎて、動揺してしまったのだ。

「別に、もう会えなくなるなんてことはないんだから。というより、今までとほとんど変わらないわよ」

「えっ?」

リーゼが顔を上げる。

「グリセア村に住もうとは思ってるけど、いつでも帰っては来れる距離だし。何なら、リーゼもグリセア村に住んじゃえばいいんじゃない?」

そう言いながら、ジルコニアがナルソンを見る。

それにつられて、リーゼも彼に目を向けた。

「その件についてなんだがな。守備隊の兵士たちから、グリセア村の前に宿場町を作りたいと陳情があったとカズラ殿から聞いてな」

ナルソンに目を向けられ、一良が頷く。

「宿場町を作るとなると、それ相応の規模になるだろう。となると、管理する者が必要になる。リーゼには、その宿場町の管理をしてもらいたい」

「え?」

「将来、私が引退した後に領主になる時のための練習みたいなものと考えてくれ。街の立ち上げから行うことになるから、いい経験になるはずだ」

「お父様……!」

「しばらくは、グリセア村で住み込みでの仕事になる。イステリアにも、時折戻って来てもらうことになるがな。どうだ?」

「っ、ありがとうございます! ぜひ、お願いします!」

リーゼが感激して、ナルソンに頭を下げる。

この話は、一良とジルコニアが宿場町の立ち上げをナルソンに提案した際に出たものだ。

宿場町の建設を一良が話した後、ナルソンとジルコニアが同時に「提案が」と言葉を発し、先にジルコニアが話したところ、ナルソンもまったく同じことを言おうとしていたことが分かった。

2人は思わず爆笑した後、一良に「いいでしょうか?」と尋ね、一良はもちろん了承した。

そして、このタイミングで話そう、と前から3人で申し合わせていたのである。

「リーゼ、よかったわね。これからもよろしくね」

「はい!」

「それじゃ、今日のところは解散としますか。あ、お風呂は女性からどうぞ。俺は後でいいんで」

「バレッタ、お母様、一緒に入りませんか?」

リーゼが2人を誘う。

「はい、いいですよ」

「まとめて入って、時短しなくちゃね」

「ティティスさんたちと、エイラたちも、一緒にどう? ニィナたちもさ!」

リーゼがさらに皆を誘う。

ニィナたちグリセア村組は、女性だけで5人もいる。

「では、ご一緒させていただきます。ね、マリーちゃん?」

「は、はい! でも、さすがに12人一緒は無理かと……」

エイラの言葉に頷きながらも、マリーは皆を見渡した。

こんな人数では、とてもではないが1つの風呂場には収まらない。

「では、私がリーゼ様たちと入ります! ティティスさんは、他の皆さんと入ってください!」

フィレクシアが言うと、ティティスが少し顔をしかめた。

「フィレクシアさん。そこは普通、リーゼ様たちは3人で入っていただくようにするのでは」

「私はバレッタさんとお話がしたいのですよ。バレッタさん、いいですよね?」

にぱっ、と笑みを向けられ、バレッタが苦笑しながらも頷く。

「はあ……では、私たちはどうしましょうか?」

ティティスがエイラやニィナたちを見る。

ニィナたちもティティスとは王都でよく雑談をしていたので、打ち解けている。

「なら、ティティスさん、エイラさんを分けて、4、4で入りましょう!」

はい、とマヤが手を挙げる。

「それは構いませんが、どうして私とエイラさんを?」

「おっぱいの大きい人を平等に分けてみました!」

「そ、そうですか」

話がまとまり、女性陣が屋敷へと入っていく。

「あー……ナルソンさん、ラースさん、カーネリアンさん。俺らも一緒に入りましょうか?」

ナルソン、ラース、カーネリアンが、「何言ってるんだこいつは」といった顔で一良を見る。

「で、ですが、彼女らが出た後なら、風呂は3つ空いておりますが」

「だってなんか、寂しいじゃないですか」

「ええ……」

子供のような発言をする一良に、ナルソンが呆れる。

「カズラ様、裸の付き合いが好きだなぁ。カーネリアン殿、酒でも飲みながら入ろうぜ」

「は、はあ」

そうして、一良たちもナルソン邸へと入るのだった。