軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

368話:はい!

次の日の昼。

一良はバレッタと一緒に、城下町の大通りを歩いていた。

バレッタはリーゼも誘ったのだが、「この間のお詫び」と2人きりにさせてくれたのだ。

もとより、王都の貴族たちの面会依頼にも応えなければいけない状態だったので、本日のリーゼの予定は終日面会である。

昨日と同じように、2人とも城で借りた服に着替えている。

「すごいですね! ずっとお祭りみたいです!」

バレッタがはしゃいだ声で言う。

道は人々で溢れかえり、あちこちに屋台が設置され、大道芸人や吟遊詩人の姿も見られる。

対バルベール戦勝利のお祝いは、まだしばらくの間続きそうだ。

「ですね。皆楽しそうだ」

「……あの、カズラさん。もしかして、つまらないですか?」

バレッタが不安そうな目を一良に向ける。

「え? そんなことないですよ? すごく楽しいです」

「でも、何か心ここにあらずって感じが……」

「そ、そんなことないですって」

バレッタの指摘どおり、一良はジルコニアにキスされたことで頭がいっぱいだった。

昨日はあれから、腹部に頭突きを食らったジルコニアは無事だったのだが、目が覚めてからというもの、妙なテンションになっていた。

不自然なレベルで明るく振る舞っていたかと思えば、一良と目が合うとそそくさとその場からいなくなったり、かと思えば一良が女性陣と話していると割り込んできたり、2人きりになりそうになるとまたいなくなったり。

理由はどう考えても岩場での一件なのだが、どうしたものかと一良は内心頭を抱えていた。

今のところ、バレッタたちに勘付かれている様子はない。

リーゼも特に気にしている様子がないのは、かなり意外だが。

「何か悩みごとですか?」

「いやいや、そんなんじゃないです。村に帰ったら、どうやって暮らそうかなって考えてただけですよ」

出まかせを言う一良に、バレッタは納得した様子で頷いた。

「あ、確かにそれは考えないとですね。お野菜を育てる環境を整えないとですし」

「ええ。でもまあ、何か足りないものが出ても、いつでも日本で調達できるから心配はいらないでしょうけどね」

「万が一のことは考えておいたほうがいいですよ。何の拍子で、通路が使えなくなるか分からないですし」

「もしそうなったら、俺は餓死しちゃいますからね……」

「そうならないためにも、早く栽培環境を確立しないと。お米だけじゃなくて、 粟(あわ) とかヒエの穀物も栽培したいですね」

「ああ、粟とかヒエって、栄養価がすごいんですっけ」

「ですです。それに、植物自体がすごく強いらしいですし、お米よりも育てるのは簡単だと思います」

そんな話をしながら、2人並んで歩き続ける。

目についた屋台で買い食いし、雑貨屋に入ってあれこれ見たり。

バレッタはとても楽しそうで、終始はしゃいでいた。

こんなに朗らかな彼女の表情を見るのは、ひさしぶりだ。

「あ、お昼みたいですね」

昼を知らせる鐘の音に、バレッタが足を止める。

「バレッタさんは、何か食べたいものはあります?」

「んー。お肉がいいです」

「肉か。まだ食べたことのない料理がある店を探してみましょうか」

「はい!」

歩きながら食堂を見て回り、数軒目で「ゴウゴウ焼き」と看板に大きく書かれた店を発見した。

カフク(子牛ほどの大きさのイノシシのような見た目の動物)の絵も描かれているので、おそらく肉料理だろう。

「ゴウゴウ焼き? 何だろ」

「聞いたことないですね」

じゃあここで、と2人で店に入る。

店内は8割方埋まっていたが、すぐに席に案内された。

注文を取りに来た店員に、「ゴウゴウ焼きセット」と香草茶を2人分注文する。

しばらく雑談しながら待っていると、料理が運ばれてきた。

スライスされた肉が8枚と、ふかし芋、丸パンが1個のワンプレートセットだ。

「普通のお肉に見えますね」

皿に載っている肉をバレッタが見つめる。

「ですね。まあ、食べてみましょうか」

いただきます、とフォークで肉を突き刺し、口に入れる。

「あ、これ、タンですね」

コリコリとした食感でどの部位か理解した一良が言う。

「タン? あっ、舌ですか!」

「うん。でも、何で『ゴウゴウ』なんだろ?」

「うーん……あ、分かりました! きっと、カフクの鳴き声が『ゴウゴウ』って聞こえるからですよ!」

「ああ、なるほど。そう言えば、前に野生のカフクの群れを見た時に、そんな感じで鳴いてたなぁ」

「懐かしいですねー」

思い出話に花を咲かせながら、ゴウゴウ焼きを楽しむ。

肉はほんのり塩味でさっぱりしており、なかなかに美味い。

半分ほど食べたところでテーブルに置かれていた陶器の小瓶の中身がお酢であることに気付き、味変して美味しくいただいた。

店を出て、再び大通りを歩く。

バレッタはとても楽しそうで、ひさしぶりのデートを満喫しているようだ。

「あっ、カズラさん! この服、カズラさんに似合うと思います!」

店先に掛けられていた服に、バレッタが駆け寄る。

服はシンプルなシャツなのだが、ボタン部分にこじゃれた刺繍が施されている。

あまりこちらの世界では見ないデザインで、どちらかというと日本の衣料品店で売られていそうなデザインだ。

「へえ、確かにいい感じですね」

「でしょう? これ、買っちゃいますね!」

バレッタは服を手に取ると、ぱたぱたと店内に入って行った。

一良もその後を追う。

「あ、待って! バレッタさんの服も、買いましょうよ」

「じゃあ、選んでもらえますか?」

「センスゼロですけど、それを覚悟できるなら」

「う……が、頑張ってください」

陳列されている服を見て回っていると、トルソー(頭と腕のない上半身だけのマネキン)に着せられている服が目に留まった。

麻のような質感のビスチェで、背中側でリボンの形になっている。

インナーは半袖のシャツだ。

「これ、かわいいですね! これにしましょう!」

「……よかった」

「え? 何がよかったんです?」

「あっちの、シースルーの服を選ばれたら、どうしようかと思ってました」

バレッタが見る先には、胸元の上3分の1から下部分以外の生地が透けているロングシャツが飾られていた。

外来品の新商品、と張り紙がされている。

「おお、あれもいいですね! 両方買いましょう!」

「ええ!? あ、あれはちょっと……」

「すみませーん!」

一良が店員を呼び寄せ、さっさと会計を済ませてしまう。

選んでもらうと言った手前断るわけにもいかず、バレッタは諦めて一良の服の会計をして店を出た。

「えへへ」

バレッタが服の入った布袋(これも買った)を手にニヤつく。

「ご機嫌ですねぇ」

「だって、カズラさんに買ってもらえたんですもん。宝物にします」

バレッタが心底嬉しそうに微笑む。

――……ああ、やっぱりそうだよな。ずっと前から分かってたけど。

「カズラさん?」

じっと見つめてくる一良に、バレッタが小首を傾げる。

「バレッタさんは、本当にかわいいですね」

「えっ!? あ、あ、ありがとうございます……」

突然そんなことを言われ、バレッタが顔を赤くする。

「あの……」

背後から声をかけられ、一良たちが振り返る。

貴族服の中年男が、従者とともにそこにいた。

「ああっ! やはりカズラ様でしたか!」

「え? あ……ああ! 先日はどうも!」

動画上映会にいた貴族の男だと思い出し、一良が会釈する。

「ぜひ、今から当家にお越しください! あれから私は、私財を戦死した者たちの遺族の支援金として――」

「そ、その話はまた今度で。今日は私用で遊びに来てるんで」

「そうおっしゃらず! どうか、お願いいたします! どうか!」

腰を90度に折る男に、行き交う人々や彼の従者がぎょっとした顔になる。

「あっ! カ、カズラ様ではないですか!」

すると、人ごみの中から、さらに別の貴族が駆け寄って来た。

「カズラ様! 今から少しだけ、お時間をいただけませんでしょうか!?」

「なっ、私が先にお声がけしたのだぞ!?」

先に声をかけてきた男が憤慨する。

「こちらは急を要するのだ! 貴君は後にしてもらいたい!」

「勝手なことを言うな! さあ、カズラ様! 当家に!」

「いえ、私を先に!」

「カ、カズラさん」

バレッタが不安そうな顔で、一良を見る。

「ああもう! 用があるなら、明日城に来てください! それじゃ!」

一良はそう言い放つと、バレッタの手を掴んで走り出した。

「ああっ!? そんな! カズラ様!」

「お待ちください!」

「バレッタさん、ダッシュです!」

「はい!」

男たちが慌てて追いかけてくる。

捕まってなるものかと、一良たちは人ごみを縫って全力で走った。

数分後、2人は路地裏に身をひそめていた。

バレッタが物陰からそっと顔を出し、通りを窺う。

「何とか撒いたみたいです」

「はあ、はあ……めちゃくちゃしつこかった……」

膝に手を置いて息を切らす一良。

バレッタはハンカチを取り出すと、彼の額の汗を拭った。

「ふふ、お疲れ様でした」

「まったくもう、せっかくデートしてるんだから、邪魔しないでほしいよ」

「でも、ちょっと面白かったです。いい思い出になりました」

「はは、そういう考えかたもできますね」

すると、じゃりっと靴音が2人の背後から響いた。

2人が振り返ると、ザ・チンピラ、な風体の男たちが3人、ニヤつきながらこちらを見ていた。

「ちょっとお時間いいですかぁ?」

「兄さん、かわいい子連れてるじゃん」

「その子、ちょっとだけ貸してくんね? ちょっとだけでいいからさ」

男たちが下品な笑みを浮かべる。

何だこのゲームのイベントみたいなタイミングは、と気の抜けた考えが一良の頭に浮かぶ。

そして、隣からヤバめの空気を感じて戦慄した。

「あ、あー……そ、そういうのは、やめたほうがいいですよ。悪いこと言わないから、家に帰ったほうが」

一良が冷や汗を掻きながら、男たちを諫める。

男たちにビビッているのではない。

隣で無表情になっているバレッタにビビっているのだ。

「ああ? 何だお前、バカにしてんの?」

「かっこいいねぇ! ヒョロヒョロじゃなきゃもっとかっこよかったのにな!」

「ったく。怪我しないうちに、金と女を置いてとっとと消えな」

男の1人がナイフを取り出した。

――あ、まずい。

と一良が思った瞬間、バレッタが猛烈な勢いで男たちに突進して身を落とし、3人まとめて足払いした。

ひと蹴りで、6本の足すべてが地面から離れる。

男たちは反応する間もなく転倒し、バレッタはナイフを持っている男の手を思いきり蹴飛ばした。

ゴッ、と鈍い音とともにナイフが吹き飛び、壁に深々と突き刺さる。

「ぶっ!?」

グシャッ、とバレッタはその男の顔面に正拳突きを叩きつけて昏倒させ、残りの2人に目を向けた。

「「「あ、あわわわ……」」」

残りの2人の男だけではなく一良まで声を震わせる。

「うつ伏せになって後ろで手を組みなさい。『はい』以外の言葉を吐いたらこの人みたいになりますよ」

いくつも歯が折れて鼻が潰れているうえに、手首があらぬ方向に曲がっている男を見て、残りの男たちは即座に「はい!」と答えてうつ伏せになった。

バレッタは気絶している男の服を引き千切り、男たちの両手足をきつく縛る。

そのうえで、ゴン、と後頭部を殴りつけて気絶させた。

「はあ……カズラさん、警備兵を探しに行きましょう」

「はい!」

その後、警備兵を連れてきて男たちの処理を任せ、2人はデートを続けたのだった。