軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

365話:古巣の仲間

数十分後。

ルグロの馴染みの大衆食堂で、一良たちは食事会という名の酒盛りをしていた。

ルグロの友人たちも駆け付けており、挨拶もそこそこに食べ始め、すぐさま大騒ぎとなった。

「皆、大きくなったなぁ! どんどんルティーナちゃんに似てきたな!」

「美人のお母さんに似てよかったな! ルグロに似なくてよかった!」

子供たちの頭をこねくり回す2人の友人に、ルグロが渋い顔を向ける。

「そんなことねえだろ。ロンなんて、俺にそっくりだろ?」

「どこがだよ! 顔付きも髪質も、ルティーナちゃんに生き写しじゃねえか!」

「いやぁ、眼つきがルグロみたいな邪悪なのにならなくて、本当によかった。俺、ずっと心配でさ」

「軍団長殿! お酌させてくらはいててて!?」

「うふふ。手の皮膚を千切られたいのかしら?」

酔っぱらって顔を真っ赤にした男が酒瓶を手にジルコニアの肩に手を回し、手の甲をつねられる。

その隣では、エイラが別の男に土下座されていた。

「エイラさん! 俺と付き合ってくだじゃい! にゃんでもしましゅから!」

「え、遠慮しておきます」

ゴンゴン、と床に頭を打ち付ける彼に、エイラが引きつった笑みで答える。

「しょこを何とか! 俺、美人で巨乳の侍女さんを彼女にするのが夢なんでしゅ! 侍女服姿で俺とデートしてやってくだしゃい!」

「うう、口説き文句が最悪ですよぅ」

「バレッタちゃんもリーゼちゃんも、マジでかわいいね! 美人ってレベルじゃないよね!? 2人とも俺と付き合おう!」

土下座されているエイラの隣では、バレッタ、リーゼ、ティティスが別の男たちにモーションをかけられている。

モーションというよりも、ウザ絡みといったほうが正しいかもしれないが。

「お断りします……」

「私と飲み比べして勝てたら、考えてあげてもいいけど?」

ドン引きしているバレッタとは違い、リーゼは「ふふん」と蠱惑的な目つきで男を挑発する。

「マジで!? 俺、けっこう強いよ!? 領主の娘さん、モノにしちゃうよ!?」

「じゃあ、もしあなたが先に潰れたら、今日のお酒代、全部あなたの奢りでもいい?」

「おう! 何でもこいってんだ!」

「おやじさーん! こっちにお酒、とりあえずボトルで10本持ってきてー! 強いやつから順に!」

「じゅ……え?」

「ティティスちゃん、一目惚れっす! 毎日俺と寝起きしてください!」

「胸をガン見しながら告白しないでください」

完全に酔っぱらった彼らは、ひたすら女性陣に絡み続けている。

身分については紹介済みなのだが、気にする様子は皆無だ。

アイザック、ハベル、マリーは、カウンターでこの店の夫婦と談笑している。

ティタニアもおり、ロンとリーネに纏わりつかれながら、山と盛られた料理を一心不乱に食べていた。

「おいおい、あいつら酔っぱらいすぎだろ」

ちびりちびりと酒を飲みながら、ラースが苦笑いする。

その隣では、フィレクシアが不満そうに皆を見ていた。

「うう、どうして私には誰も言い寄ってこないんでしょうか?」

「フィーちゃんはぺたんこだからなぁ」

「か、格差社会……」

騒がしい卓から少し離れた席では、一良が2人の女性と話し込んでいる。

女性は2人とも、20代半ばといったところに見える。

「なるほどねぇ。あいつ、真面目に指揮官やってたんだ」

「友達に忖度して安全な場所に、とかはやらなかったんだよね?」

「ええ。そういう話は一度もなかったですよ」

「そっか。まあ、ルグロらしいよね」

「なんだかんだで、あいつらも怪我一つしないで帰ってきたし。知り合いも家族も、皆が無事でよかったよ」

微笑む彼女たちに、一良はほっとした。

今騒いでいるルグロの友人たちは、貴族もいれば平民もいる。

男たちは全員、先の戦争に出征していたらしいのだが、彼らを含めて身近な者は全員無事なようだ。

何度か大規模な戦いがあったものの、ナルソンが戦果よりも損害を出さないことに重点を置いた戦いかたをしたおかげかもしれない。

「あの、カズラさん」

一良が談笑していると、疲れた顔のバレッタが傍に来た。

少しだけ酒を飲んでおり、顔が赤い。

「あ、バレッタさん。楽しんでます?」

「そ、それなりに。ちょっと酔っちゃって、風に当たってこようと思うんですけど、一緒にどうですか?」

「ええ、いいですよ」

「「いってらっしゃーい」」

席を立つ一良に、2人がにこやかに手を振る。

そして、男たちを振り返ると修羅の顔になった。

「こぉぅら! 自分の嫁がいる席で堂々と浮気しようとしてるんじゃねーぞ!」

「いつまで土下座してるんだよ! 侍女服なら、この間着てやっただろうが!」

それぞれ、ティティスとエイラに絡んでいる自分の夫を怒鳴り付ける。

男たちはまるで聞いていない様子で、ティティスとエイラに絡み続けている。

そんな彼らの頭を引っ叩く2人を横目で見つつ、一良とバレッタは店の外に出るのだった。

「いやぁ、すさまじいですね。皆さん、はっちゃけてるっていうか」

店の壁にもたれながら、一良が笑う。

バレッタもその隣で壁にもたれ、はあ、とため息をついた。

「酔っ払いすぎなんですよ。エイラさんに絡んでた人なんて、鳥の骨を齧りながら『この肉、硬くて噛み切れない』とか言ってましたもん」

「そ、それは確かに酔いすぎですね。飲み始めは、すごく礼儀正しかったんだけどなぁ」

「皆さん、強いお酒をがぶがぶ飲んでましたからね」

「バレッタさんも飲んだんですか?」

「少しだけ。体が熱いし、フラフラします……」

バレッタが夜空を見上げる。

うっすらと雲がかかっていて、月は滲むようなおぼろげな影を見せていた。

「カズラさん、リーゼ様とはどこに行ったんですか?」

「街のなかで買い物したのと、港であちこち見て回ったりです。バレッタさんたちを追いかけられなくて、すみませんでした……」

「……私もカズラさんと海を見たかったです」

「明日、また一緒に……あ、そうだ。リーゼが海で泳ぎたいって言ってたんですけど、海水浴しませんか?」

一良が言うと、バレッタの表情が、ぱっと明るくなった。

「はい! 行ってみたいです!」

「じゃあ、明日は海水浴ってことで。バレッタさんは泳げるんですか?」

「子供の頃は川で水遊びしてたんで、それなりに泳げますよ」

「ああ、村の傍の川、すごく綺麗ですもんね」

そう言ってから、一良はふと疑問が頭に浮かんだ。

「こっちの世界って、水着ってあるんですか?」

「んー、どうだろ。子供の時は裸で泳いでましたけど」

「……」

じっと見つめてくる一良に、バレッタが両手で自分の体を抱く。

「も、もう裸じゃ泳ぎませんよ!? シャツとか着て泳ぎますから!」

「そっか……」

「うう、残念そうに言わないでくださいよぅ」

「す、すみません」

「あと、海水浴の話は、お店の中ではしないでください。殿下のお友達まで来ちゃうと、また大変そうですから」

「ああ、確かに」

そんな話をしていると、一抱えほどの大きさの木箱を手にした若い男がやって来た。

「こんばんは! ご注文のタルトをお持ちしました!」

「タルト? あ、もしかして、前にルグロが言ってたお勧めのやつかな?」

一良が木箱を受け取る。

支払いはルグロ名義で王家にツケてあるとのことだ。

2人が店内に戻ると、むわっと酒の匂いが充満していた。

「うっわ、酒臭!」

「すごい臭いです……あ、リーゼ様、勝ったんですね」

リーゼの隣では、敗北した男が青い顔で口元を押さえている。

リーゼは余裕の表情で、ボトルの酒をラッパ飲みしていた。

空き瓶の数からして、リーゼが4、男が2のようだ。

「バレッタ、勝ったよー!」

そのボトルを飲み干したリーゼが、ひらひらと手を振る。

顔色はまったく変わっていない。

「おっ、カズラ。それ、タルトだろ?」

木箱を持っている一良に、ルグロが声をかける。

「うん。今、配達されてきたよ」

「デザートにいいタイミングだな! 前に話した、お勧め店のタルトだぞ!」

「やった!」

「ひさしぶりですね!」

ルルーナとロローナが、ぱっと表情を輝かせる。

「マジで美味いから、驚く準備しておけよ! って、おい、大丈夫か?」

「おっおっおっ」

不穏な声を漏らす男に、隣にいたリーゼが慌てて飛びのく。

「ちょ、ちょっと! こんなところで吐いちゃダメだからね!?」

「堪えろ! 吐くなよ!?」

駆け寄ったラースが男を抱え上げ、開いている窓に身を乗り出させる。

その途端に、彼はげえげえと吐き始めた。

「あーあ。リーゼに敵うわけないのに……」

「カズラさん、あれ……」

「ん? うわっ」

バレッタの視線を一良が追うと、頭にコブを作った男たちが、隅っこで正座させられて女性らに説教されていた。

「はあ、びっくりした。カズラ、タルト食べよ! 辛いお酒飲んだから、甘いもの食べたい!」

「お前は本当にタフだよな……」

そんなこんなで、食事会は楽しく進んでいったのだった。