軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

358話:王都へ行こう

翌朝。

日の出と同時に身支度を整えた一良たちは、村の外にある守備隊陣地に集まっていた。

材木置き場の丸太に皆で座り、ナルソンたちを待ちながら雑談に興じている。

「はあ、息子さんたちを村に移住ですか」

「ええ。イステリアでの生活もいいものなのですが、今後はこの村を一大生産拠点にすると小耳に挟んだもので」

真っ白な頭髪の老兵が、村で採れたミントのお茶を飲みながら話す。

「我が家は小さな商家なのですが、店の場所がイマイチでして。今後のことを考えると、物流拠点になるここで宿屋を開ければ繁盛するかなと思うのです」

彼の話に、別の老兵が頷く。

「うむ。イステリアは競争が激しくてなぁ。私の家は小料理屋をやっているのですが、近所に大きな店ができてしまって大変で。ここで守備隊や輸送隊相手に商売したほうが、安定して稼げそうです」

「それなりに宿屋や飲食店があれば、グレゴルン領から来る商人も立ち寄ってくれそうだよな」

「ワシはここが心底気に入ったよ。村の子供らと遊びながら、のんびりと野菜を育てて余生を過ごしたい」

「こんなに楽しい軍の仕事は、なかなかないよなぁ。村の人らも優しいし、空気も綺麗だ。『兵隊さん兵隊さん』って、子供たちも寄って来てくれるしな」

他の老兵たちも、口々に語る。

慌ただしい都会暮らしとは違い、彼らにとってこの村での守備隊生活は実に充実したものだったのだ。

イステリアでは住居によっては汚物や鍛冶場の煙が漂ってくることもあるため、空気が綺麗というのもそのとおりである。

「へえ、そんなに気に入ってくれたんですか」

「はい。よろしければ、カズラ様からナルソン様に話していただけませんか?」

最初に移住の話をした老兵が、一良に頭を下げる。

「いいじゃない。この村はグレゴルン領との間にあるし、宿場町にしちゃってもいいかもしれないわね。リーゼはどう思う?」

ジルコニアがリーゼに話を振る。

「イステリアも人口過密気味でしたし、ちょうどいい話だと思います。新しく町を作るなら、しっかりと計画しないといけないと思いますが」

「決まりね。ナルソンには私から話しておくから。移住の件は任せておいて」

一良の代わりに許可を出したジルコニアに、老兵たちが「やった!」と大喜びする。

「ジルコニアさん、ナルソンさんに話す前にそんなこと言っていいんですか?」

一良が聞くと、ジルコニアはにこりと微笑んだ。

「大丈夫ですよ。私も、似たような提案をナルソンにしようと思っていたところですし」

「はあ、そうだったんですか」

一良がそう答えた時、遠くからエンジン音が響いてきた。

ナルソンとルグロが、護衛の兵士たちとともにバイクで一良たちの前にまでやって来る。

「カズラ殿、お待たせしました」

「よっ! お待たせ!」

アイザックとハベルのバイクのサイドカーに乗っている2人が、立ち上がろうとする。

「あ、乗ったままで。すぐに出発し……ん? あれは、イクシオスさんたちか」

遠くから砂埃を上げながら、バイクの集団が猛スピードでやって来た。

イクシオスをはじめ、ミクレムたち軍団長と、シルベストリア、セレットもいる。

「はあ、間に合ってよかった……うう、吐きそうだ」

イクシオスが青い顔で、口元を押さえる。

ミクレムのバイクのサイドカーにはカーネリアンが乗っており、手にした厚手の布袋に口を当ててえずいていた。

「はあ、はあ……カ、カズラ様。おはようございます」

ミクレムが青を越して白みがかった顔で、一良に笑顔を向ける。

「ど、どうしたんですか? 死にそうな顔してますけど」

「いえ、ちょっと……はは」

ミクレムたちの後に続いて、バリンやグリセア村の若者たちも走ってやって来た。

皆の下にたどり着くなり、その場にへたり込んで荒い息を吐く。

皆、顔色がかなり悪い。

「お父さん、どうしたの? 大丈夫?」

バレッタがバリンに駆け寄り、背中をさする。

「はあ、はあ……酒を飲みすぎた……うぇ」

「えっ? 酔っぱらった状態で走って来たの!?」

「い、いや、酒は抜けてると……うっぷ!」

「お、俺、ちょっと吐いてくるわ」

「ぎぼぢわるい……」

バリンと若者たちは小走りで皆から離れると、ゲエゲエと嘔吐し始めた。

バイクから降りたシルベストリアとセレットが、呆れ顔で彼らを見る。

「昨日の夜まで、ずっと宴会してたんだよ。宴会場で飲んで酔いつぶれてまた飲んでって、ずっとやってたの」

「ええ!? そ、そんな状態で走って来たんですか!?」

「うん。王都に行くんだからそろそろやめとけって言ったんだけど、大丈夫って言って聞かなくて。毎日、バカみたいに大騒ぎしててさ」

「イクシオス。いくらなんでも、ハメを外しすぎだぞ」

「おいおい、嬉しいのは分かるけど、ちったあ立場を考えろよ。アホか、お前らは」

ナルソンとルグロが、げんなりした顔でイクシオスたちを叱る。

彼らはそれどころではないようで、バイクにもたれかかって肩で息をしている。

「申し訳ございません……うっぷ」

「だらしないなぁ。私だったらいくら飲んでも、2時間もあれば完全に抜けるよ」

「リーゼの肝臓は奇跡の産物だよ。他の人と一緒にすんな」

呆れるリーゼに一良がツッコミを入れる。

「あはは! アルカディアの人たちは愉快でいいですね!」

フィレクシアが楽しそうにイクシオスに駆け寄り、ぽんぽん、と背中を叩く。

イクシオスは相手をするのもしんどいようで、されるがままだ。

「何というか、面白い人たちですね」

「俺らの軍団より気が抜けてる連中だな」

ティティスとラースは苦笑すると、彼らを介抱しに歩み寄るのだった。

その後、二日酔い集団に酔い覚ましのハーブティーを飲ませ、一良たちは王都へと向かっていた。

バリンや若者たちはグリセア村で留守番となり、二日酔い集団はトラックの荷台とサイドカーに乗せている。

時刻は17時を回っており、日が落ち始めていた。

「ルグロ、まだ着かないの? もうすぐ夜になっちゃうよ」

トラックを運転している一良が、隣を走るルグロに声をかける。

あれから休憩を挟みつつ、10時間近く走っている。

王都へと向けて一直線に進んでおり、途中にあった村や街には立ち寄っていない。

一良たちが王都に向かうことは周知されているようで、街道のあちこちを多数の騎兵が巡回していた。

「もうすぐだから、心配すんな。ロン、リーネ、疲れたか?」

サイドカーに乗っている子供たちに、ルグロが声をかける。

「大丈夫です!」

「すごく楽しいです!」

チョコがサンドされているビスケットを齧りながら、2人が笑顔を向ける。

かなり揺れているはずなのだが、2人とも寝たりお菓子を食べたりおもちゃ(知恵の輪)で遊んだりと、退屈していない様子だ。

「あっ、ルグロ! 見えてきたよ!」

背後でシルベストリアのバイクのサイドカーに乗っているルティーナが、前方を指差した。

かなり遠目だが、巨大な王都の街並みがうっすらと見えている。

そのなかに、一際目立つ巨大な建物の影が浮かんでいた。

「相変わらず、大きいわねぇ。よくあんな大きな城を作ったわよね」

イクシオスのスポーツバイクに跨ったジルコニアが、城の影を見つめる。

当の持ち主のイクシオスは、トラックの荷台でイビキをかいている。

「へえ、城ですか。ジルコニアさんは、行ったことがあるんですか?」

「何度か行きましたよ。それはもう大きくて、圧倒されちゃいました」

「確かに、かなりでかいですね……モルタルも使わないで、どうやって作ったんだろ」

「石を積み上げては、粘土で接合したらしいです。すごいですよね」

「粘土か……地震がきたら、一発で壊れそうだ」

「この地域では地震はありませんから、大丈夫ですよ。ねえ、ナルソン?」

ジルコニアが背後を走るナルソンに話を振る。

サイドカーには、爆睡しているマクレガーが乗っている。

「ああ。記録にも、大きな地震があったなどとは1つも残っていないからな。数百年前に微かに揺れたことがあって、大騒ぎにはなったようだが」

「あら、そうなの? 知らなかったわ」

「すごい騒ぎになったらしいぞ。天変地異の前触れだとか、地面から怪物が飛び出してくるだとか、変な噂が広まって大変だったそうだ。王家は神の怒りを鎮めようと、呪術師を集めて何日も祈りを捧げさせたらしい」

「すごい話ですね……って、ナルソンさんたちは、その揺れが地震だって知ってたんですか?」

一良が聞くと、ナルソンは少し恥ずかしそうに笑った。

「カズラ殿が留守中に映画を見たのですが、巨大円盤が現れた時に地面が揺れるシーンで、『地震だ!』と騒いでいるものがありまして。それで初めて、地震というものを知りました」

「あったわねぇ。エイラに百科事典で調べてもらったのよね」

「なるほど。まあ、何も知らなくていきなり地面が揺れたら、超常現象って考えてもおかしくないですよね」

「ええ、地面の中に断層というものがあるとは想像も……おっと。到着前に、無線で連絡をせねば。マクレガー、起きろ!」

ナルソンが手を伸ばし、マクレガーの頭を小突く。

「んがっ?」

「無線で王都に連絡してくれ。もうすぐ着くとな」

「無銭で嘔吐? 私は吐いておりませんが」

「何を言ってるんだお前は……」

そんなこんなで一行は進み続け、穀倉地帯を通って王都まであと数キロのところにやって来た。

イステリアよりも大きな防壁と防御塔を備えた、巨大な街並みが眼前に広がる。

迎えの到着まで離れた場所で待機してほしいとのことで、一良たちは停車した。

街から、馬車を伴った騎兵隊がこちらに駆けて来るのが見える。

「おっし、着いた! 皆、ご苦労さん!」

ルグロがバイクから降り、一良たちに振り向く。

「ようこそ王都へ! たっぷり楽しんでいってくれ!」

王都を背後に、ルグロは満面の笑みで両手を広げた。