軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

356話:再来店

車を走らせ、前回薬を買った「葵薬局」へとやって来た。

「そこの薬局で、たくさん漢方薬を注文してあって。受け取りだけなんで、すぐ終わりますよ」

「お薬ですか。すぐそこに大きな漢方薬局がありましたけど、こっちを使ってるんですね」

「ええ。すごく親身になってくれるんで、気に入ってるんです」

小さな駐車場に車を停め、2人で店に入る。

「いらっしゃいま……あっ、志野さん!」

「あら、お兄さん!」

イスに腰掛けて話していた白衣の若い女性――葵――と老婆が、一良を見て表情を綻ばせる。

「お二人とも、おひさしぶりです。この前お願いした薬を取りに来たんですが、入ってますか?」

「はい。ご注文分、取り置きしてありますよ。今、出しますね」

葵が薬を取りに、奥に引っ込む。

「ねえ、そこの人って、もしかして志野さんの彼女?」

老婆が宮崎を見ながら言う。

「えっ!? い、いやぁ、そんな――」

「友達ですよ。ちょっと買い物に付き合ってもらってるんです」

一良が答えると、その後ろで宮崎が項垂れた。

「あら、そうなの? ふーん」

ニヤつく老婆に、一良が小首を傾げる。

葵が大きなダンボールを抱え、よたよたと奥から出てきた。

「よっと。これ、軟膏類が入ってます。他のもすぐにお持ちしますね」

「あ、俺も手伝いますよ。奥に入ってもいいですか?」

葵からダンボールを受け取りながら、一良が申し出る。

「あ、いえいえ! これくらい、大丈夫ですから。車まで運びますよ」

「けっこう重そうですし、腰を痛めたら大変ですよ。葵さんは、軽い物だけ運んでくれればいいんで」

「う……それじゃあ、お言葉に甘えて」

「わ、私も手伝いますから!」

そうして、若者3人で薬の運搬を行った。

すべてを車に積み終え、皆で店内へと戻る。

「あれから、お店の調子はどうですか?」

一良が聞くと、葵は嬉しそうに微笑んだ。

「すごく順調です。在宅医療サービスを始めたんですけど、けっこう需要があったみたいで、予約の電話がひっきりなしで」

「在宅医療? どんなことをするんです?」

「個人のクリニックと提携して、私が直接患者さんの家に行ってお薬の説明と受け渡しをするんです」

「へえ、お年寄りのウケがよさそうなサービスですね」

「ええ。患者さんのご家族にヒアリングもできますし、生活スタイルに合わせたお薬に変更の提案もできますから。定期訪問させていただいて、飲み残しや副作用の確認もしています」

「おー。すごいですね! 定期訪問なら、固定客になりますね!」

「ふふ、そうですね。でも、独居のかたで健康不安を感じているご老人がすごく多かったみたいで。定期訪問で安心できるようになったって、感謝していただけるのが一番嬉しいです」

前回訪れた時とは違い、葵の表情は生き生きとしている。

「それもこれも、志野さんのおかげです。たくさんお買い上げいただいて、まとまったお金が入ったおかげで余裕ができたからこそ、新規事業に手を出せたので」

「お役に立てて良かった。だからってわけじゃないんですけど、今回受け取ったのと同じ量の薬を、もう一度注文したいんですが、大丈夫ですか?」

「えっ!? そ、それは大丈夫ですが……」

驚く葵と、「おー」と嬉しそうな声を漏らす老婆。

「じゃあ、お願いします。お金は先払いしますから、次に取りに来るまで取り置きしておいてもらえると」

一良がバッグから分厚い封筒を取り出し、葵に差し出す。

葵は戸惑いながらも、封筒を受け取った。

「で、では、すぐにお会計を」

「あ、少し余分に入ってるんで、おつりはお茶代にでもしてください。といっても、端数の数千円ですけど」

「ええっ!? それはダメですよ!」

「長いこと取り置きしてもらっちゃってますし、保管料とでも思ってください。またお願いしちゃいましたし」

「うー……分かりました」

葵が封筒から札束を出し、レジを打つ。

かなりの長さのレシートが出てきた。

「領収書にしたほうがいいですよね?」

「いや、レシートで大丈夫です」

「そ、そうですか。あ、薬の試供品があるので、お持ちになってください」

葵が「試供品」と書かれた栄養ドリンクや錠剤の小袋を棚から大量に取り出し、紙袋に入れて一良に渡す。

「葵ちゃん、志野さんの電話番号聞いておいたら? これからもお世話になるんだし」

老婆がニヤつきながら、葵に言う。

「あっ、そうですね。志野さん、よろしいでしょうか?」

「そのほうがいいですね。訪問サービスで留守の時に来ちゃってもいけないですし」

そうして、葵と電話番号を教え合い、一良と宮崎は店を出た。

店の外で駐車場へ向かう2人を葵と見送りながら、老婆が葵の脇腹を肘で小突く。

「やったじゃない。彼、フリーみたいよ? 今度、食事にでも誘ったら?」

「で、ですから、そういうのはいいですから。どう考えても、ご迷惑じゃないですか」

「そうかしら? さっき一緒にいた女の子、彼を狙ってるみたいだし、ほっといたら取られちゃうわよ? 玉の輿よ?」

「あのですね、お客さんを食事に誘うなんて、できるわけないですって。それに、玉の輿だなんて、お金目てじゃないですか」

葵の言葉に、老婆が呆れ顔になる。

「財力だって、立派なステータスの1つよ。顔、性格、肩書、身長だってステータスでしょ? お金持ちだってことを魅力と捉えることの、どこがおかしいわけ?」

「う……」

もっともな指摘を受け、葵が言葉に詰まる。

「彼だって、それくらい理解してると思うけど。いいじゃない、お金目当てでも。それに彼、性格もよさそうだし、かわいい顔してるじゃない。今夜にでも、電話かけてみなさいよ」

「で、でも……って、さっきから何の話をしてるんですか! そういうの、私はいいですから!」

葵が顔を赤くして捲し立てる。

「さっきから、志野さんに失礼ですよ! もうやめてください!」

「あら、口出ししすぎたかしら」

悪びれもせず、老婆がケラケラと笑う。

「まあ、お金のことは置いておいても、優しそうでいい感じじゃない? とりあえずは、お友達になってもらえば?」

「ですから……はぁ」

葵が疲れたため息を漏らす。

そうしていると、一良が車を運転して葵たちの前にやって来た。

運転席の窓を開け、一良が葵に微笑む。

「ではまた! 葵さん、お店頑張ってくださいね! 応援してますから!」

「は、はい! ありがとうございます!」

葵が、深々と腰を折る。

一良は葵に手を振り、去って行った。

「狙い目だと思うんだけど。ねえ、葵ちゃん?」

車を見送りながら言う老婆に、葵は頭を下げたまま、顔を赤くして唸っていた。

薬局を後にし、一良たちはショッピングモール内にあるバイキングレストランにやって来た。

お互い好きな物を皿に取り、席に着く。

「それにしても、志野さん、本当にすごいですね。化粧品とかお薬とか、集落1つまるごと面倒を見てる感じなんですか?」

料理を頬張りながら、宮崎が聞く。

「まあ、そんな感じですね。俺もお世話になってるんで、お互い様って感じですけど」

「あの……もしよければ、その事業のお手伝い、私にもさせてもらえませんか?」

宮崎が意を決した様子で、一良に申し出る。

「アプリ開発だけじゃなくて、今日みたいな品物の手配とか、何でもやりますから! お願いします!」

「いや、お気持ちは嬉しいんですが……あ、そうだ」

1つ大切な仕事が残っていたことを一良は思い出した。

「政治の形式について、調べないといけなくなっちゃって。それをお願いできれば」

「政治ですか? どんなものです?」

「国家運営のシミュレーションみたいなのを趣味でやってるんですけど――」

現在のクレイラッツの状況を噛み砕いて、一良が説明する。

宮崎は頷きながらひととおり聞くと、やる気に満ちた顔になった。

「なるほど。政治的に行き詰った国の舵取りを、どうすれば上手くできるかですね」

「ええ。資本主義とか社会主義とか、名前は知ってるけど詳しくは分からなくて。それの解説資料を作ってもらえたらなって」

「分かりました! 任せてください!」

宮崎が、どん、と自身の胸を叩く。

「きっと、満足してもらえるものに仕上げます!」

「すみません、お願いします。納期なんですけど、取りに来れる日取りがちょっと分からなくて。でも、10日くらいで連絡はできると思います」

「はい! それまでに、動画付きの分かりやすいものを作っておきますね!」

「よろしくお願いします。資料の本とかたくさん必要でしょうし、この後本屋さんに行きましょっか。あと、報酬なんですが、えーと……」

「あ、報酬はいいですよ! 志野さんのお手伝いができるだけで、私は嬉しいので!」

とびきりの笑顔で言う宮崎に、一良が「いやいや」と苦笑する。

「そうはいきませんって。相応の対価は出させてください」

「いえ、本当にいらないですよ!」

「俺は宮崎さんを信頼しているからこそ、きちんと報酬は出したいんですよ。お仕事をお願いするからには、当然なことですから」

「う……はい」

そこまで言われては断れず、宮崎がしぶしぶ頷く。

そうして、あれこれと話しながら、2人は食事を続けたのだった。