作品タイトル不明
353話:風呂あがり
風呂で酒を満喫し、一良、ナルソン、ラースの3人は一良の部屋でくつろいでいた。
エアコンからそよぐ冷気を浴びながら、ソファーに座ったラースが表情をとろけさせている。
ナルソンはイスに腰掛け、切子グラスで氷の入ったウイスキーをちびりちびりと飲んでいる。
「あー、涼しい。最高だぁ……こんな贅沢、あっていいのか……」
「すべてカズラ殿のおかげだ。感謝するのだぞ」
「カズラ様、ありがとうございまっす!」
すっかりメロメロになったラースが、一良ににこやかな笑みを向ける。
「いえいえ、これくらい。ナルソンさん、これを飲んでおいてください。二日酔いしないようにする薬です」
「おお、ありがとうございます」
一良からウコンドリンクの小さな缶を、ナルソンが受け取る。
冷蔵庫に入れてあったため、キンキンに冷えている。
「ラースさんもどうぞ。これからもっと、お酒飲むでしょ?」
「いやぁ、かたじけない! いただきます!」
「金ピカの缶とは、高級感がありますな」
ナルソンが缶のフタを捻って開ける。
ラースも見様見真似でフタを開け、口をつけた。
「うおっ、この薬、美味いっすね!」
「ですよねぇ。ちょっとクセがありますけど、美味しいですよね」
「最高っす! マジで美味いっすよ!」
すっかりご機嫌になったラースが、満面の笑みで答える。
一良もウコンドリンクを飲み、ナルソンの手元にあるウイスキーのボトルを掴んだ。
「んじゃ、酒盛りの続きといきますか。これ、けっこう強いお酒なんですけど、ラースさん大丈夫ですかね?」
「強いの大好きっす!」
「カズラ殿、チータラをいただけませんでしょうか? 遠征中、あれが食べたくて仕方がなくて」
「そこのダンボールに入ってますよ。そんなに好きだったんなら、言ってくれれば遠征先にも持っていったのに」
「いえ、さすがにそこまでわがままを言うわけには」
「水臭いなぁ。俺とナルソンさんの仲じゃないですか。食事前ですけど、おつまみもいくつか出しちゃいましょう」
チータラやアヒージョの缶詰などのおつまみを肴に、3人でウイスキーを楽しむ。
3人とも上機嫌で、戦争中の話題やこれからの互いの国の交流はどうすべきかなど、真面目な話もしながら酒をあおった。
そうしていると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「バレッタです」
「どうぞー」
一良が返事をしてすぐ、入浴を終えた女性陣が部屋に入ってきた。
「あー、涼しい! ……って、3人とも何を飲んでるの!?」
赤い顔でグラスを手にしている3人に、リーゼが駆け寄る。
「ウイスキーだよ。リーゼも飲むか?」
「飲むっ!」
リーゼが一良のグラスをひったくり、ぐびぐびと喉を鳴らして一気飲みした。
「うわ、それかなり強いぞ? 一気飲みはやめたほうが……」
「うんまー! もっとちょうだい!」
「お、おう」
一良にウイスキーを注がせているリーゼに、ティティスとフィレクシアが目を丸くした。
2人の視線は、彼女が持っている切子グラスに向いている。
「こ、これまたすさまじい品ですね……」
「すごい品ばかり見すぎて、感覚がおかしくなりそうなのですよ……」
「ふふ。ティティスさん、フィレクシアさん。髪の毛を乾かしちゃいましょう。こちらへ」
窓際にある鏡台へと向かうバレッタの後を、2人が追う。
バレッタは引き出しからドライヤーを取り出すと、壁の穴から飛び出ているコンセントに繋いでスイッチを入れた。
ゴオオ、と機械音を発するドライヤーに、ティティスとフィレクシアが驚いて肩を跳ねさせる。
「えっ、えっ? それは何なのですか?」
見たことのない道具に、フィレクシアが瞳を輝かせて駆け寄った。
「ドライヤーといって、暖かい風を発生させる道具です。ここに座ってください」
「はい!」
イスに座ったフィレクシアの後ろにバレッタは回り、濡れた髪を乾かし始めた。
「おー。暖かいです!」
「すぐに乾きますから、少しだけ我慢してくださいね」
「お前らも座れよ! 飲もうぜ!」
がはは、とラースが笑いながら誘う。
かなり酔っているようで、顔が真っ赤だ。
「ラースさん、顔が真っ赤じゃないですか。どれだけ飲んだのですか?」
「あらあら、ご機嫌ねぇ」
ティティスとジルコニアがラースの両隣に座る。
「カズラさん、ワインはあるかしら? あと、チョコも食べたいの」
「了解です。ワインは赤と白のどっちがいいですか? あと、ドンペリっていう、炭酸系のお酒もありますよ」
「んー、じゃあ、全部ください」
「私も手伝う!」
ダンボールに向かう一良に、リーゼが駆け寄る。
「いやぁ、本当にここは最高だぜ。酒は美味い、部屋は涼しい、おまけに綺麗どころもそろってるときたもんだ」
「ラースさん、酔いすぎですよ」
笑いながら酒をあおるラースを、ティティスが窘める。
「すみません、ラースさん、完全に酔っぱらってしまったようで」
「はは。楽しんでもらえてよかったですよ。ティティスさんたちも、あんまり気を遣わないでもらえると嬉しいです」
「そーですよ! せっかく招いてもらったんですし、楽しまないと逆に失礼ですよ!」
バレッタに髪を乾かしてもらいながら、フィレクシアが言う。
「フィーちゃんの言うとおりだ! っと、コップが足りないよな。カズラ様、そこの棚のを使ってもいいですかい?」
「あ、すみません。適当に使ってください」
「うっす!」
ラースが棚に向かい、4人分のグラスを手にソファーに戻る。
「ほれ、ジルコニア殿。ちょいと強い酒だが、飲めるかい?」
「貰うわ。ありがと」
ラースがテーブルに置かれている銀の器に入った氷をグラスにいくつか入れ、ジルコニアに渡す。
ジルコニアに酌をする彼を見て、ティティスは少し驚いた顔になった。
「ん? ティティス、どうした?」
「いえ……」
「ラースさん、ジルコニア様と仲直りしたのですね! よかったです!」
嬉しそうに言うフィレクシア。
ティティスは「ああ、もう」、と額を押さえる。
「あ? 仲直りって何だよ。喧嘩なんかしてねえぞ?」
「え? アーシャさんのことで、怒ってたんじゃないんですか?」
「そのことは決闘で決着つけた話なんだから、今さら突っかかる必要はねえだろ。終わった話じゃねえか」
何言ってるんだ、と言った顔で言うラースに、ジルコニアがきょとんとした顔になる。
「あら、もう決闘は挑んでこないわけ?」
「挑むってお前、どうあがいても勝てるわけねえし。それに、一度負けて決着はついてんだぞ。もう一度なんて、恥ずかしい真似できるかよ」
「……そっか。分かったわ」
ジルコニアが柔らかく微笑む。
どこか、ほっとした様子だ。
「まあ、お互い事情はあったし、譲れないところもあったけどさ。それの決着はあの時ついたんだ。今さらどうこう言うつもりはねえよ。だから、あの話はもうしないことにしようぜ」
「あはは。ラースさんらしいですねぇ」
フィレクシアがケラケラと笑う。
「ワインとドンペリ、置いておきますね。チーズもどうぞ」
一良が栓を開けたワインボトルとチーズの盛られた皿を、テーブルに置く。
「ありがとうございます」
「ジルコニアさん、よかったですね!」
「……うん」
にこっと笑う一良に、ジルコニアも笑顔で頷いた。
そうしていると、今度はルグロ一家が部屋に入って来た。
「うーっす! 風呂貰ってきたぜぇ! コーヒーミルク、めっちゃ美味かった! 涼しいな、ここ!」
「カズラ様、差し入れありがとうございました。美味しかったです」
ほこほこと湯気を立てているルグロとルティーナ。
皆、新しい衣服に着替えている。
「リーゼ、お子さんたちにジュースを出してやってくれ」
「うん。皆様、こちらへ」
子供たちがリーゼに駆け寄り、冷蔵庫を開いて飲みたい缶ジュースを選ぶ。
ルグロとルティーナは、空いているイスに腰掛けた。
「2人とも、お酒飲む?」
「俺はやめとくわ。麦茶もらえるか?」
「私も麦茶で」
「はいよ」
グラスに注がれた麦茶を受け取り、ルグロが一息つく。
「父上と話したんだけどよ。やっぱカズラたちに王都に来てほしいって言っててさ。観光がてら、行ってもらうことはできるか?」
「うん、いいよ。一度、王都は見てみたいと思ってたし」
一良が答えると、ルグロは嬉しそうな顔になった。
「そっかそっか! あっちに行ったら、俺が城下町を案内するからよ。あちこち食べ歩こうぜ」
「あ、でも、その前にいったんグリセア村には寄りたいな。調達してきたいものがあるからさ」
「なら、村に寄りがてら王都に向かうか。ナルソンさん、それでいいかな?」
「構いませんが、いつ頃こちらを発つと陛下には伝えておいでで?」
「明日って伝えたけど、いつ王都に到着するかまでは言ってないや。ま、無線で都度連絡すりゃいいんじゃね?」
「そ、そうですか。明日ですか……」
苦笑するナルソンに、一良が笑う。
「はは。でもまあ、物資の調達には1日くらいかかるんで、ナルソンさんたちは明後日に村に来てくれればいいですよ」
「分かりました。そうさせていただきます」
「はい! はい! 俺もカズラ様とグリセア村に先に行きたいっす!」
ラースが勢い良く手を上げる。
「神様発祥の地なんすよね? どんな場所なのか、じっくり見てみたいっす!」
「別にいいですけど、ごく普通の村ですよ?」
「それでも見てみたいっす!」
「なら、明日の朝、一緒に行きましょうか。ティティスさんたちはどうします?」
「一応、私はお目付け役なので。フィレクシアさんも一緒に、同行させていただければと」
「お父様、私もグリセア村を見てみたいです」
「私も見てみたいです」
ルルーナとロローナがルグロにせがむ。
「おう、いいぞ。ルティ、子供らと先に行っててくれ。俺はナルソンさんの手伝いをしていくからさ」
「うん」
そうして、風呂で火照った体を冷やしながら雑談していると、コンコン、と扉がノックされた。
失礼します、とエイラが入って来る。
「お食事の用意ができました」
「おっ、もうできましたか」
「カズラさん、皆さんの髪を乾かし終わってからのほうがいいと思うんですが」
フィレクシアの髪を乾かし終えたバレッタが言う。
「なら、交代で乾かしながらここで食べることにしましょうか。エイラさん、俺も手伝いますから、運んじゃいましょう」
「承知いたしました」
「カズラ様、俺も運ぶっす!」
「俺も手伝うわ」
ラースとルグロが立ち上がる。
「殿下、私たちでやりますから、休んでいてください」
それを見て、リーゼが慌てて駆け寄った。
いつの間にか、ジルコニアの前に置いたはずのドンペリのボトルを握っている。
「いいって。運ぶのは俺らに任せて、リーゼ殿たちは子供らと遊んでやっててくれ。ナルソンさんも、手伝い頼むわ」
「は、はい。あ、カズラ、ドンペリもっとない? 空っぽになっちゃったんだけど」
「え? もう全部飲んだのか!?」
「コップで一口お飲みになるなり、瓶に口をつけて一気飲みしておられました」
「あっという間の出来事でした」
驚く一良に、缶ジュースを飲んでいるルルーナとロローナが答える。
「あのなぁ、せめてジルコニアさんたちの分も残しておけよ。まだ何本かあるけどさ」
「美味しすぎてびっくりしちゃって、気が付いたら全部飲んじゃってた。ごめんね!」
えへ、とリーゼが可愛らしく笑う。
「まあ、酒はそこのダンボールにたくさんあるから、適当に飲んでていいよ。あと、ドライヤー係はバレッタさんと交代しながらやってくれ」
「はーい!」
そうして、一良たち男性陣はエイラに連れられ、食堂へと向かうのだった。