軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

292話:倒すべき敵

「連絡役、ですか」

「ええ。ウリボウたちにムディアの伝令を仕留めてもらうにあたって、さらに広範囲を偵察してもらい、敵の増援がムディアに向かうような兆候が見られた場合には即座に知らせてもらわねばなりません」

朝食を食べながら、ナルソンと一良が話す。

クレイラッツ軍がバルベールのムディアの街を強襲するにあたって、連絡役が必要だということになったのだ。

クレイラッツ軍には作戦内容を伝えるため、昨夜のうちにアイザックが運転するバイクでカーネリアンが砦を発っている。

無線機も持たせているので、到着次第連絡がくるはずだ。

護衛としてジルコニアの子飼いの兵士(強化済み)も同行しており、計5台のバイクを出した。

マルケスの軍団要塞を襲撃した折、彼らはジルコニアから一良の持ってきた食べ物の効能については知らされているため、一良の判断でそのまま強化状態を維持している。

ジルコニア曰く、「彼らは他の兵士とは覚悟が違う」とのことで、秘密を漏らす心配はないとのことだ。

どちらにせよ食べ物のことは知られてしまっているので、使えるものは使う、という判断である。

もし秘密が漏れた場合、責任を取って自分も含めて全員で自害する、とジルコニアは彼らに伝えていた。

真顔で即座に頷く彼らの姿に、一良は背筋が寒くなったものだ。

「グリセア村の村人を何人かティタニア様たちに同行させたいのですが」

「それなら、ティタニアさんだけでもできると思いますよ? 彼女、周りに人がいなければ人間の姿になれますし。無線機も使えると思いますから」

「む、確かにそうですな。ティタニア様、お願いできませんでしょうか?」

ナルソンがティタニアに目を向ける。

オルマシオールとティタニアは、壁際でフレンチトースト(一良とバレッタのをあげた)を大切そうに少しずつ食べていた。

「ナルソン様、ティタニア様が『使いかたを教えていただければ』とおっしゃっています」

ルルーナがティタニアの言葉を通訳する。

「ありがとうございます。あとは、作戦決行のタイミングですな」

「クレイラッツ軍って、国境までどれくらいで着くんですかね?」

「国境に一番近い、『ベルタス』という都市に臨戦態勢の軍団が複数駐屯していると聞いています。天気が良ければ、4日で国境に到達できるでしょう」

「ふむ。伝令がベルタスに到着するまで、どれくらいかかります?」

「距離はかなりありますが、バイクの速度なら1日で着くでしょう」

「というと、出撃準備時間も考えると、クレイラッツ軍の攻撃が始まるまで最短で6、7日ってとこですか」

「はい。その間に、バルベール軍がどう動くかですが……」

この場に張り付いているバルベール軍は蛮族に対応するため、いくつかの軍団を間引いて北方に向かわせるだろうというのがナルソンたちの見解だ。

砦にいるアルカディア軍の動きかたとしては、2つの案が用意されている。

1つ目の案は、もしバルベール軍がここから東北東にあるムディアを経由して、北方に向かおうとした場合。

ムディアを経由させるとクレイラッツ軍と鉢合わせになってしまうので、それは阻止しなければならない。

そのため、損害覚悟で大規模な攻撃を仕掛け、この場にすべての敵軍を釘付けにする必要がある。

結果としてこちらに大きな被害を出したとしても、補給を絶つことができれば敵は直接北に後退せざるをえなくなる。

しかし、すべての物資を抱えたまま迅速に後退するのは、あの大軍では無理な話だ。

大半の物資を捨てて逃げるか、その場に踏みとどまるかの2択を迫られることになるだろう。

物資を捨てて大急ぎで逃げても、道中こちらの追撃を受けながらでは食料不足で落伍者が続出するだろうし、踏みとどまってもジリ貧になるというわけだ。

2つ目の案は、間引かれた軍団がムディアを経由せず、直接北方に向かおうとした場合。

その場合は砦のアルカディア軍が戦う敵の数は労せず減るので、放置することになっている。

それらの軍団が蛮族との戦闘で勝手に摩耗してくれれば、万々歳だ。

ムディアをクレイラッツ軍が制圧し、この地にいるバルベール軍の補給が途絶えたことに気付いたタイミングで、こちらでも攻撃を仕掛けることになっている。

その後は、1つ目の案と同じ末路をバルベール軍はたどることになるだろう。

「彼らの動きを監視するために、やはりロズルーとその弟子たちを使いたいのです。敵軍の後方に彼らを潜伏させ、無線機で常に連絡を取らせればと思うのですが」

「ロズルーさんたちですか」

「はい。隠密行動は、彼らが一番優れております。たとえ敵に発見されても、彼らなら逃げ切ることが可能でしょう」

「なるほど……」

一良が腕組みして考え込む。

ロズルーなら望遠鏡のような視力をしているし、ギリースーツを着て茂みに隠れていれば見つかる可能性も低いだろう。

携行食糧も日本から持ってきたものであれば量は少なくて済む。

水だけは大量に持たせてやらないといけないが、未開封のペットボトルを渡せば腐ることもない。

何より、すでに誰を危険な目に遭わせたくないなどと言っていられる状況ではない。

この戦争に打ち勝つため、各々がやれることをやらねばならないのだ。

「……分かりました。後で俺から、ロズルーさんにお願いしておきます」

「ありがとうございます。たとえ発見されても戦闘は避け、全力で逃げるように指示しますので、その点はご安心を」

「ナルソン様、オルマシオール様が、『私には何かできることはないか?』とおっしゃっていますよ」

ロローナがヨーグルトを食べる手を止め、一良とナルソンに言う。

ヨーグルトは粉末タイプのものにミャギのミルクを混ぜて砂糖を加えたものだ。

ロローナはこれで2杯目であり、気に入った様子だった。

「オルマシオールさんは、ティタニアさんと一緒には行かないんですか?」

「『その程度のことなら、ティタニアたちだけで十分だろう』とおっしゃっています」

「そ、そうですか」

すべての伝令を排除するという任務が「その程度」とは一良には思えないが、彼がそう言うのなら大丈夫なのだろう。

オルマシオールが砦に残ってくれているのなら、それはそれで心強くもある。

「カズラさん、オルマシオール様には、砦にいてもらったほうがいいと思います。北の様子を見張っているウリボウたちが状況を伝えに戻って来ても、私たちじゃ言葉が分かりませんし」

バレッタの意見に、皆が「それもそうだ」と頷く。

「ですね。オルマシオールさんは砦に待機ということで……引き続き、子供たちの遊び相手になってもらってもいいですか?」

「『承知した』とおっしゃっています」

慣れた様子で、ルルーナがオルマシオールの言葉を伝える。

オルマシオールの姿が見えたほうが、兵士たちの士気は上がるだろう。

神が味方に付いているという安心感は、兵士たちにとって何よりも代えがたいもののはずだ。

「ついにバルベールを打倒する時が来た、か」

黙って話を聞いていたジルコニアが、感慨深げにつぶやく。

「二度と奴らに好き勝手させないためにも、徹底的にやりましょう。あの国は、この世界に存在していてはいけません。死んでいった人々のためにも、必ず打ち倒さなければ」

「打ち倒すねぇ……」

ルグロがフォークでオムレツを突きながら、ぼそりと言う。

「……殿下、何かご不満でも?」

ジルコニアがルグロに鋭い視線を向ける。

「いや、昨日も言ったけどさ、その後が心配なんだよ。バルベールを倒せたとしても、その後は蛮族だろ? 蛮族連中も倒すってことか?」

「彼らが攻めてくるのなら、そうなりますね。ですが、神を味方に付け、多数の新兵器を持った私たちが負ける道理はありません。バルベールを打ち倒せばプロティアとエルタイルも同盟国側として参戦するでしょうし、利は我たちにあります」

「うーん……」

「思うことがあるのなら、おっしゃったらいかがです?」

「こ、こら、ジル! よさないか!」

不遜とも取れる態度のジルコニアを、ナルソンが諫める。

「あ、いいよ別に。下手に遠慮するより、はっきり言ってくれる奴のほうが俺は好きだぜ」

ルグロがにかっと笑う。

そして、その表情がすっと真面目なものになった。

「昨日からずっと考えてたんだけどさ、この状況、ちょっとおかしくねえか?」

「……というと?」

ナルソンが怪訝な顔で聞き返す。

「蛮族連中はどうしてそこまで、がむしゃらにバルベールを攻めてるんだ? 5年前までの戦争の時だって、結局手酷く負けて、あいつら相当死にまくったはずだろ? そこまでして、バルベールの領土が欲しい理由って何なんだ?」

ルグロの言葉に、ナルソンが真顔になった。

バルベールは超大国と言っても過言ではないほどの国力を持っており、多大な犠牲を覚悟してまで攻めるとなれば、それ相応の理由が必要だ。

しかも、蛮族は1つの国家というわけではなく、いくつもの部族の寄せ集めらしい。

普通に考えれば、主義主張の違う複数の部族が長年にわたり一致団結して戦いを継続するというのは、かなり難しいだろう。

他国に侵入して領地を奪い取ろうとするのなら、なおさら揉めるように思える。

「な? おかしいだろ? 前回の戦いで蛮族は押し負けてるんだから、連中にちゃんと脳みそがくっついてるなら、バルベールは手に負える相手じゃないって分かりそうなもんだしさ」

「蛮族のいる北方は、土地が痩せているうえに冬が長く、獣も少ないと聞いています。人口の増加に食料生産が追い付かなくなって、豊かな土地を得るために南下しているのでは?」

リーゼが話に加わる。

ルグロが「おっ」という顔になった。

「へえ、リーゼ殿はそう思うのか」

「はい……といっても、講師からの受け売りですが」

「……いや、それでは説明がつかないな」

ナルソンが険しい顔で言う。

「人口増加が理由なら、前回の戦争で出た犠牲で口減らしはできたはずだ。それにもかかわらず、犠牲を覚悟でバルベールを攻めるとなると……」

「バルベール以上の脅威から逃れるために、彼らの領土に生存圏を求めている、ですね」

バレッタの言葉に、ナルソンが頷く。

「ああ、その可能性は大きいだろう」

「蛮族は、バルベール以上の強敵に追い立てられてるってこと?」

ジルコニアが驚いた顔で言う。

バルベールよりも手強い相手などと言われても、まったく想像がつかない。

「かもしれない、という話だ。どのみち、我らとてバルベールを倒さねば未来はない。蛮族や彼らが戦っているかもしれない別の何かについて考えるのは、その後だな」

「なるほどねぇ……もしそうなら、バルベールを完全に叩きのめすっていうのも、ちょいと考えものかもしれねえな」

ルグロがフォークでオムレツをぐちゃぐちゃと潰す。

「一度潰しちまったらそれっきりだけど、ある程度形を残しておけば再利用はできるだろ? 怒りに任せて叩き潰したいってのも分かるけど、その前に考えてみたほうが――」

「お父様、そんなふうにしてしまっては、オムレツが可哀そうです……」

「スクランブルエッグになってしまいました……」

ルルーナとロローナが悲しそうな目で、潰れたオムレツを見る。

途端に、ルグロが慌てた顔になった。

「あっ、悪い悪い! ちゃんと食べるからさ、そんな顔すんなって!」

ルグロがパクパクと潰れたオムレツを頬張る。

一良がその様子を見ていると、ふと視線を感じてバレッタを見た。

バレッタと目が合い、互いに頷き合う。

以前、バレッタに渡した古代ローマ史の本の内容を、2人は思い浮かべていた。