軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

240話:第10軍団からの申し出

数時間後。

砦の宿舎の屋上で、一良たちは焚火を囲んでいた。

すでに日は落ちかけており、辺りはかなり薄暗い。

レンガを並べた即席のかまどの上では薪が赤々と燃えており、そこに皆で細長い鉄串に刺したマシュマロをかざしている。

隣には別の焚火に鍋がかけられており、ソーセージを茹でていた。

この場にいるのは、一良、バレッタ、リーゼ、マリー、エイラ、ハベル、そしてルティーナとその子供たちだ。

ルグロはナルソンやジルコニアたちと会議中である。

アイザックとシルベストリアも誘ったのだが、2人とも哨戒任務があるとのことでこの場にはいない。

「はふはふ……うう、美味しいよぉ。生きててよかったよぉ」

熱々の焼きマシュマロを齧ったリーゼが、とろけそうな顔で言う。

かなり気に入った様子で、先ほどまでの不機嫌さが嘘のようだ。

「そんなに気に入ったのか?」

「うん。私の中ではケーキの上をいくよ。熱々でふわふわなのが最高に美味しい」

「そうかそうか。そしたら、この戦いが終わったらチョコレートファウンテンでもやろうか」

「チョコレートファウンテン? なにそれ?」

「溶かしたチョコレートを噴水みたいにして流しながら、そこにパンとかマシュマロとか果物を漬けて食べるやつ。リーゼなら気に入るんじゃないかな?」

「えっ、なにそれすごい! やりたい!」

リーゼがキラキラした瞳を一良に向ける。

「よしよし。次に帰ったら機械を買ってくるよ。皆でやろうな」

「うん!」

「リーゼ様、ホットドッグもできましたよ」

バレッタがホットドッグをリーゼに差し出す。

刻みピクルスとザワークラウトがたっぷり挟まっており、ケチャップとマスタードがかけられている。

「わあ、ありがと! ちょうど塩気のあるものも食べたくなってきたところなんだよね!」

リーゼがご機嫌な様子で、ホットドッグにパクつく。

すっかり上機嫌な彼女に、一良とバレッタが顔を見合わせて「やれやれ」と苦笑した。

「熱々であまあまで美味しいです。カズラ様、お食事にお招きいただき、ありがとうございます」

「カズラ様、とっても美味しいです。ありがとうございます」

双子の姉妹のルルーナとロローナが、一良に笑顔で礼を言う。

相変わらず、礼儀正しい娘たちだ。

下の2人の子供たちも、わいわい騒ぎながらマシュマロを齧っている。

「いえいえ、どういたしまして。たくさんあるので、好きなだけ食べてください」

「「はい!」」

「カズラ様、私たちまで呼んでいただいて、本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけしてばかりで……」

ルティーナが申し訳なさそうに一良に言う。

「迷惑だなんてことはないですって。皆で食べたほうが楽しいですし」

「すみません……ほら、ロンとリーネもお礼を言いなさい」

「「カズラ様、ありがとうございます!」」

「どういたしまして」

「はい、兄さん。焼けましたよ」

マリーが焼けたマシュマロをハベルに差し出す。

ハベルはハンディカムを片手に、皆の様子を撮影していた。

一良は何も指示していないのだが、よほどカメラが気に入ったようで、こうして暇さえあれば皆の姿を撮影しているのだ。

写真もちょくちょく撮っているようで、一良のパソコンにはそれらのデータが大量に保存されていた。

「ん、ありがとな。でも、マリーが先に食べていいぞ」

「え? で、でも……」

「いいから。ほら」

「は、はい」

ハベルに撮影されながら、マリーが恥ずかしそうに焼きマシュマロを齧る。

ハベルは数秒その姿を撮影したのち、今度はカメラを写真モードに切り替えてパシャパシャと撮り始めた。

まるで幼い我が子を撮りまくる父親のような表情になっている。

「ハベル様、本当にカメラが好きなんですね」

エイラがホットドッグを作りながら、ハベルに苦笑を向ける。

ハベルはマリーを撮り続けながら、笑みを浮かべた。

「ええ。どうやら、これが私の天職のようで。エイラさん、記念に一枚、写真を撮りませんか?」

「えっ? 写真ですか?」

「はい。カズラ様と並んで撮ってみましょうか。カズラ様、エイラさんの隣へどうぞ」

「はいはい」

ハベルに言われるがまま、一良がエイラの隣に立つ。

「ほら、お二人とも、もっと寄ってください。カズラ様、エイラさんの肩を抱いていただけます?」

「こんな感じ?」

一良がエイラの肩を抱く。

エイラは顔が真っ赤になっており、かなり恥ずかしそうだ。

「そうそう! いやぁ、美男美女で様になりますねぇ! エイラさん、照れた顔も素敵ですよ!」

「うう……は、恥ずかしい」

「あ、いいなぁ。ハベル様、2人が撮り終わったら私もカズラと撮ってください!」

「あ、あの、ハベルさん。私もお願いしたいです」

リーゼとバレッタが、ハベルに申し出る。

「はい。少々お待ちを……カズラ様、エイラさん、撮りますよー! 3、2、1、はい!」

皆でわいわい騒ぎながら夕食を楽しんでいると、階下からアイザックが駆け上がってきた。

「カズラ様! バレッタさん!」

「おお、アイザックさん。哨戒任務は終わったんですか?」

「はい、今戻ったところです。ナルソン様がお呼びですので、カズラ様とバレッタさんは会議室までお急ぎください」

「ん、そうですか。分かりました。バレッタさん、行きましょう」

「はい」

「カズラ、私も行っていい?」

食べかけのホットドッグをエイラに手渡し、リーゼが一良に申し出る。

「おう、いいぞ。アイザックさん、夕食はもう食べました?」

「いえ、これからですが」

「なら、ここで食べていったらどうです? どれも美味しいですよ!」

「あ、はい。ありがとうございます。いただきます」

「エイラさん、マリーさん、後はお願いしますね」

「「かしこまりました」」

そうして、その場をエイラたちに任せ、一良たちは会議室へと向かった。

一良たちが会議室へやってくると、ナルソン、ジルコニア、イクシオス、マクレガー、ルグロが待っていた。

5人とも、表情が険しい。

「カズラ殿、急にお呼びだてして申し訳ございません」

「いえ、大丈夫ですよ。何か問題でも起こりましたか?」

「はい。先ほど、バルベール軍の使者が砦を訪れまして、我々に第10軍団の軍団長と会談をするよう申し出てきました」

「会談? 何の話をするんです?」

「それが、次の戦いでの毒の煙の兵器の使用についての協議を行いたいとのことで」

「協議って、攻めて来ておいて何を協議するっていうんです?」

「それはまだ分かりません。そして、訪れた使者は『手土産』と言って、小さな壺を寄こしてきました」

「壺? 中身は?」

「使者が言うには、彼らが作った『毒の煙の兵器』とのことです」

「えっ!?」

一良が驚いた声をあげる。

バレッタとリーゼも、驚愕の眼差しでナルソンを見ている。

「火を点けると猛毒の煙が発生するので、くれぐれも注意するようにと言っておりました。カズラ殿とバレッタに、それが本物なのか急ぎ調べていただきたいのです」

「わ、分かりました。敵の軍団長との面会はどうするんです?」

「明日の朝、彼らが前回投石機を設置した場所に来るようにと指定されました。私とジルで行きますが、バレッタも同席させていただければと」

「俺も行かせてください。彼らには、いろいろと聞いてみたいことがあるので」

一良が言うと、ナルソンは困り顔になった。

「いや、それは……カズラ殿に万一のことがあっては、取り返しがつきませんので」

「それはナルソンさんだって同じじゃないですか。たとえ俺が無事でも、ナルソンさんが殺されでもしたら次の戦いは勝てませんよ」

「そうかもしれませんが、カズラ殿は我々にとって――」

「ナルソン、別にカズラさんも一緒に来てもいいんじゃないかしら」

窘めるナルソンの言葉を遮り、ジルコニアが口を挟む。

「もし相手がそのつもりだったとしても、会談の場に来るのは当人たちと護衛が数人でしょう? せいぜい10人程度だろうし、私1人で全員片づけてあげるわ。むしろ、来た奴ら全員、問答無用で始末してもいいけど?」

ジルコニアがさらりと恐ろしいことをのたまう。

確かに、ジルコニアが一緒にいるのなら、何かあっても対処できるだろう。

一良はロズルーから、救出時の彼女の戦いぶりを聞いたことがあったのだが、ロズルーは「あの人、人間じゃないですよ」としみじみ語っていた。

剣の取り回しや立ち回りの速度が尋常ではなく、ロズルーから見ても桁外れの身体能力とのことだ。

もともとの身体能力が高いことに加え、常に最前線で剣を振るってきたことで培った身のこなしによるものだろう。

そこに身体能力強化が合わさって、とんでもない超人と化しているのだ。

「うむ……よし、分かった。カズラ殿も一緒に行きましょう。念のため、護衛としてアイザックとシルベストリアも同席させましょう」

「お願いします。彼らが一緒なら、なおのこと安心です」

アイザックはすでに身体能力を強化済みであり、シルベストリアも一良が持ってきた食べ物を継続して食べさせている。

そろそろ2週間が経過する頃なので、体に変化が表れているはずだ。

「お父様、私も同席させてください。ご迷惑はかけませんから」

リーゼがナルソンに懇願するような表情で訴える。

一良が行くと言った時点でナルソンもそれは予想していたので、ため息をつきながらも頷いた。

「うむ。結局皆で行くことになるのだな……殿下、留守の間、砦をよろしくお願いいたします」

「ああ、いいぜ。でも、少しでも怪しいと感じたら、すぐに戻ってこいよ。俺じゃナルソンさんの代わりなんて、とても無理だからな」

ルグロが一良に目を向ける。

「それとよ、そんなに心配なら、会談の時はお互いの護衛兵は離れた場所で待機っていうふうにしたらどうだ? そうすりゃ、その時になっていきなり修羅場ってのも、さすがにないだろ?」

「あ、それもそうだね。それがいいか」

「ああ。でも、カズラ。別にあれこれ詮索するつもりはねぇけどよ。無理だけはすんなよ。カズラが怪我したり死んだりするのかは知らねぇけどさ」

「うん、大丈夫だよ。ジルコニアさんたちが一緒にいてくれるし、危ないことなんてないって」

「そっか。あと、一応出かける前に、ちゃんとエイラに説明……あ、いや、後で話すわ。はは」

ルグロがバレッタとリーゼをちらりと見て、誤魔化し笑いをする。

一良たちは意味が分からず、きょとんとした顔になっている。

「え、えっと……話は変わるけどさ、さっきからカズラたちから甘い匂いがするんだが、何を食ってたんだ?」

「あ、そんなに匂う?」

「おう。甘ったるい匂いがプンプンするぞ」

「さっきまで、屋上でマシュマロっていうお菓子を焼いて食べてたんだ。ルティーナさんたちも一緒だから、ルグロも行ってきたら? ものすごく美味いよ」

「えっ、マシュマロって、焼いても食べられるんですか!?」

ルグロより先に、ジルコニアが身を乗り出して一良に聞く。

「ええ。普通に食べるよりも、香ばしくてとろとろで最高に美味しくなります。よかったら、今から皆で行ってみてください」

「それは楽しみです! 殿下、行きましょう!」

ジルコニアがうきうきした様子で、部屋を出ていく。

ナルソンとマクレガーは苦笑しているが、イクシオスは呆れ顔だ。

「やれやれ……イクシオス、マクレガー、カズラ殿を『手土産』のある部屋に案内してやってくれ。私は先に屋上へ行く」

「はい」

「かしこまりました」

そうして、その場は解散となったのだった。