作品タイトル不明
第63話
「この指名手配犯さんは、ひとまず皆さんに預けます。先ほど警察へ通報しましたので、まもなく身柄を引き取りに来るはずです」
私たちは指名手配犯のおじさんをダンジョン入口に残し、神代の元チームメンバーたちへ監視を任せた。
「神代隊長……俺たちなんかのために……そこまで危険を冒す価値なんて……」
「そうですよ、神代隊長……あなたが追放されたとき、俺たちは何もできなかったのに……」
数人の剣士たちは目を赤くしていた。
神代は微笑みながら、ぽんと相手の肩を叩く。
「相手はギルド会長の娘だったのよ。当時の状況じゃ、あなたたちが立ち上がったところで何も変わらなかった。それに……あなたたちも当時は騙されて、あんな悪質な契約にサインさせられていたでしょう? もし味方していたら、とんでもない違約金を請求されていたはずよ」
それ以上は何も言わず、神代はダンジョンへ向かって歩き出した。
「私たちの吉報を待っていて」
「吉報を待っててね、おじさん! あの女、絶対ボコボコにしてやるから!」
私もその後を追う。
転送魔法陣へ足を踏み入れ、私たちは再びダンジョンへと入った。
ただし――今回は、先ほどまでとは景色が大きく変わっていた。
空には二本の進行ゲージが浮かんでいる。
赤チームと青チーム、それぞれの攻略進行度を示しているようだ。
私たちは青チーム。
相手は赤チーム。
さらに、相手側の映像までもが空中に映し出されていた。
映像に実体はなく、直接攻撃することはできない。
けれど、相手が今どんな行動をしているのかは、はっきり見える。
『我がゲーム領域へようこそ!』
空からゲームの神の声が響いた。
その瞬間――
ダンジョンを囲んでいた壁が、まるで消え去ったかのように見えた。
周囲からは、競技場のような大歓声が響いてくる。
遠くを見れば、巨大すぎる円形観客席。
そして空には、途方もなく大きなスクリーンが浮かんでいた。
おまけに飛行船まで飛んでいる。
広告まで出てるんだけど!?
『勝利条件はシンプルだ――』
『君たちは今、まったく同じ構造のダンジョンへ配置されている!』
『モンスターも、君たち自身の強さも、すべてLv10に統一済み!』
『三つのステージを突破し、ダンジョンを攻略せよ!』
『そして最後のボスを先に撃破したチームが勝者だ!』
『さらに観客たちは、特殊アイテムをフィールドへ投げ込むことができる!』
『特殊アイテムを使えば、相手チームへ干渉可能だ!』
『その効果は……とても愉快なものばかり!』
『ただし――毎回アイテムを獲得できるのは、どちらか一方だけ!』
『~へっへっへ~』
『どうやって奪い取るかは、自分たちで考えるんだなぁ!』
空から聞こえてくる嫌な笑い声に、不安しか湧かない。
「これがゲームの神の決闘か……初めて見たな」
男性警察官が物珍しそうに周囲を見回した。
「私は魔法使いです」
女性警察官が自己紹介を始める。
「使えるのは初級火属性魔法だけです。覚醒スキルは『炎強化』なので」
「僕は聖騎士です。攻撃力も低いですし、防御力も低いです。でも自己治癒能力だけは高くて……
チームに入れていただいて、本当にありがとうございます!
覚醒スキルは『負傷変換』です。受けたダメージの一部を回復へ変換できます。ただし、その代償として防御力と攻撃力が下がります」
人の良さそうな聖騎士の少年が、大剣を握りしめた。
「私は錬金術師。回復薬はいっぱい持ってきた。ダンジョンで素材が落ちればその場で調合もできる。でも成功率は低いから……あんまり期待しないで」
青野が肩をすくめる。
「剣士。才能は『速度転化・鋭刃』。剣を振る速度が、そのまま切れ味になる」
神代が軽く剣を振る。
空気が裂けるような鋭い音が響いた。
「俺は狙撃手だ。照準距離に応じて弾丸の威力が上がる」
男性警察官の手首に刻まれた銃の紋章が光り、狙撃銃へと変化した。
そして最後は私。
「えっと……私は……たぶん魔法使い? 水属性と植物属性の魔法が使えます。能力は『毒反転』。毒のマイナス効果をプラス効果へ反転させます」
あと、体が妙に健康。
運動能力もかなり高い。
ダンジョン降臨前なら、オリンピックで金メダルを狙えるんじゃないかってレベルの身体能力だと思う。
「向こうも構成は同じだな。魔法使い二人、後衛支援一人、前衛盾役一人、剣士一人、射手一人。完全なミラーマッチだ。なら勝負を分けるのは戦略になる……この戦闘、私が指揮を執ってもいいかしら?」
神代が私たちを見渡した。
「異議なし!」
私は真っ先に手を挙げる。
神代と出会った日から分かっていた。
彼女は経験豊富なベテラン冒険者だ。
戦闘経験は私たち全員より遥かに上。
指揮官を任せるなら、間違いなく神代しかいない。
「私も賛成です」
「俺もです」
他のメンバーも次々と同意した。
「よし。それじゃあ、これから各自の役割を説明するわね……」
神代の視線が、ふいに私へ向けられた。
その口元に浮かんだ笑みを見た瞬間――
なんだろう。
すごく嫌な予感がする。
「水瀬さん。本日の飯テロ配信、開始してください」
「……は?」
「つまり――今からあなたは、食べる以外のことをしなくていいってことよ!」