作品タイトル不明
第62話
こんな危険な勝負が、なんで成立しちゃうのよ!?
「神代! その賭け、本気で言ってるの!? 冗談じゃ済まないんだよ! あなた……!」
青野が不安そうに神代の手をぎゅっと掴んだ。
「そろそろ決着をつける時だからね。それに……」
神代は意味ありげに私をちらりと見て、小声で囁く。
「私たちには紗和がいる」
「私を当てにしないでよ!? 私、ただのG級冒険者だよ!? 覚醒してまだ一週間も経ってないんだからね!」
急にそんな重圧を背負わせないでほしい。
プレッシャーが重すぎるんだけど!?
「SSSSSSSS級冒険者になるには、いろんな試練を乗り越えなきゃいけない。いろんな挑戦を乗り越えてこそ、伝説になれるんだよ!」
神代はぐっと親指を立てた。
……圧力で潰されて肉団子になりそう。
今から高位魔法の勉強を始めても間に合うかな……?
「ポチ、禁呪の詠唱を検索して」
【現実逃避を目的とした自殺行為は推奨できません。現在の魔力量では、禁呪を三語唱えた時点で炭になります。】
「よし!! その度胸、気に入ったわ!!」
金髪女が高らかに笑った。
その笑い方は、私の知っている悪役そのものだった。
完璧すぎる。
「でも、あなたたちまだ三人しかいないでしょう? あと三人必要よねぇ……こちらで用意してあげましょうか?」
金髪女は扇子で口元を隠しながら言った。
……うわぁ。
絵に描いたような悪役じゃん。
もう一発殴りたくなってきた。
「その必要はないわ……」
ちょうどその時だった。
ローブ姿の二人が慌てた様子で駆け寄ってくる。
あの若い警察官たちだ。
片方は以前、なぜかカピバラ絡みの件で反省文を書かされていた気がする。
何があったのかは知らないけど、鎧のおじさんも、この二人も、なんというか全体的に変だった。
「やっと見つけました! 顧問のお二人!」
「真司先輩が署まで来てほしいと! お二人に関係する案件で進展があったそうです!」
案件?
あっ。
たぶんアパート火災事件と即死薬剤事件だ。
私は二人を見て笑顔になった。
「急いでます?」
「いえ、そこまでではありませんが……」
「じゃあ、一回ダンジョン潜りません?」
「えええっ!?」
「お願い。ちょっと力を貸してほしいの」
本当は人に頼りたくない。
だけど――
今回は負けたくない。
絶対に。
何があっても負けられない。
あの金髪女が嫌いだから。
神代の件だけじゃない。
なんというか……
とにかく嫌いだ。
それに、この二人なら戦力としても悪くないはずだ。
「私たち、ダンジョン戦にはあまり慣れていませんし……レベルも20しかありませんよ?」
「大丈夫。ゲーム神の対決では参加者全員に制限がかかるから。Lv100だろうと、中ではLv10相当の力しか発揮できない」
神代が二人の肩をぽんと叩いた。
「……分かりました」
「では、よろしくお願いします」
「ようこそ」
これで警察のお二人も加わった。
五人。
残る枠はあと一人だ。
その時だった。
ドサッ――
一人の少年がダンジョンから転送され、そのまま地面へ倒れ込んだ。
全身ボロボロだった。
服も装備も破れ放題。
なのに、不思議なことに怪我だけはひとつもない。
「ようこそ、私たちのパーティへ」
私は少年に手を差し伸べた。
少年は呆然と目を見開く。
唇を噛みしめ、うつむきながら肩を震わせた。
「ぼ、僕を……本当に仲間に入れてくださるんですか……?」
「見ての通り、こっちもちょっと困っててね。それに、私たちも別にすごい冒険者じゃないから……強い仲間なんて簡単には見つからないの」
私は周囲へ目を向けた。
金髪女を恐れているのか。
戦いに巻き込まれたくないのか。
集会エリアの人たちはみんな遠巻きにこちらを見ている。
この状況でまともな治療役を探すのはかなり難しい。
だけど私は神代の自由を賭けている。
中途半端な妥協はしたくない。
この聖騎士さんは攻撃能力こそほぼゼロだけど……
ずっと殴られ続けてきたせいなのか、治癒術だけは異常なレベルだった。
自分自身を治療する能力だけなら、下手なC級冒険者より優秀なくらいだ。
全員の戦力がLv10以下に制限されるなら――
この少年は決して弱くない。
「ふふっ。本当に掃き溜めみたいなパーティねぇ。これでちょうどゴミが六人揃ったってわけ?」
金髪女が楽しそうに笑った。
「警察官への侮辱ですね。公務執行妨害で逮捕しましょうか?」
女性警官が手帳を提示する。
……よしっ!
ナイス!
金髪女は笑みを引っ込めた。
「ふん。なら、ゴールで会いましょうか」
扇子をぱちんと閉じる。
「神代、覚悟はできているわよね?」
その口元がゆっくりと吊り上がった。
「十年間――」
「あなたには私の下僕として仕えてもらうんだからねぇ……」